ヒーローの味方の科学者をやってるんだが、実験が楽しくてたまらない 作:刹那木ヤクモ
「《天使》……今日が、お前たちが好き勝手やれる最後の日だ」
『セットアップ シフター』
少年が端末を腰に当てると、その両端からベルトが伸び彼に巻き付く。そして、懐からカードを取り出すと、
「天使、滅ぼすべし! 」
『スキャン《ジャスティス》』
カードを端末のリーダーに滑らせるように通す。スキャンされたカードは粒子のようになり、代わりに背後に半透明の守護霊のようなものが浮かび上がる。それが両腕で少年を抱くと、少年の身体に変化が起こり、赤い装甲をまとったヒーロー姿に変身した。
「さあ、神を薙ぐ時だ! 」
白い衣をまとった人型の天使に向けて駆け出すヒーロー。天使は手に持った槍で向かってくるヒーローを突こうとするが、ヒーローは拳を正面からぶつけ、槍を粉砕。バックステップ、天使も徒手格闘に移行し両者競り合うが、ヒーローとは思えないほどのドス黒い圧力、殺気が感情のないはずの天使に恐怖を押し付け、ヒーロー優勢で戦いは進む。そして、拳や蹴りの応酬があった後、重い拳の一撃が天使の腹部をぶち抜くように当たり吹き飛ばされる。
「これで! 」
『リーサルバースト スタンバイ』
それを好機と見たのか端末のボタンに触れると、右足に黒い粒子の奔流が巻き起こり、無慈悲な余命宣告が行われる。
『《ジャスティス・キック》』
「ハァ──ッ!!」
正義の味方が飛び蹴りを放ち、命中。爆発が起きるのを髪を弄りながら見届ける。その傍ら、避難し遅れていた街の住民が、勝利を見て喝采を上げる。そう、今日この日、我々人類は反撃の狼煙を上げるのだ。正義の味方。変身ヒーロー《ジャスティス》誕生の時、って感じかな。
「第1フェーズは問題なく終了、と」
そしてその生みの親、俺はと言うと──
「……イイね、ゾクゾクしてきた」
自らの研究成果の、予想以上の成果に興奮を抑えきれなかった。
◆◆◆◆
研究所のボロ臭いドアが軋む音がする。彼が来たのだ。ゆっくりと階段を登ってきたのは、赤髪、黒眼の制服姿の男子。疲れ切った様子で、呼吸を短く繰り返している。
「おお、お帰り《創真》くん……いや、ジャスティスって呼んだほうが良いかな? 」
「《先生》! あなたの作ったアレのおかげで、俺、勝てました! ヤツらに、天使たちに! 」
「見てたよ。いいじゃん、流石は俺が見込んだ人材だね」
疲れを滲ませながら、それでも目を光らせて言う創真くんに労いの言葉をかける。
神薙 創真。彼を除いた家族全員を天使に殺害されており、彷徨っていたところを俺が拾った。以来、天使への復讐心に燃えており、天使を根絶やしにすることを望んでいる。そこで、俺のアイテムの出番ってわけ。
「ほら、《シフター》を見せて。今回の損耗具合見て出力を調整するから」
「はい! ……でも、下げると負ける可能性も出てきちゃうんじゃ」
「初期段階からリミッターをキツめに掛けてるんだ。それを段階的に外してくだけさ。むしろ出力を上げる方向での調整、って感じ」
「わかりました、お願いします! 」
そう言うと彼は懐からベルト型の端末を取り出す。《シフター》。俺が開発した、対天使用途もある戦士に変身するための道具。これに使い切りの《チェンジカード》をスキャンすることにより変身することができる。
……ふむ、予想以上に負荷が軽いな。適性があればあるほど燃費よく使えるのか? それとも──まあ、フェーズが進んでいくごとにそれは当てにならなくなる。それまではリミッターを外す方針でいいだろう。
「はい、終わり。リミッターを1段階外したよ。これでより動きやすくなるはずさ」
「ありがとうございます! じゃあ、もう一回見回りに行って──」
「おっと、それはNG。今日はもう家に帰って休みなさい。それと、見回りに行くときは俺に言ってからにすること! わかったね? 」
「……わかりました。また明日来ます」
少ししょんぼりしながら研究所を出ていく創真くん。再びドアが軋むのを確認してからパソコンを起動する。
今のところはスペックは十分。ただ、今後はどうなるか分からない。そこを補強するために武器を開発したいんだが、ノウハウが無い。天使の持つ武器を回収してもらえれば加工したりは出来そうだけども。
──神が社会の裏側で人類を脅かしてから十年。人類は静かに来る終末を待つことしかできていなかった。しかし、策はある。俺の作ったものたちが、人類を新たな夜明けに誘うだろう──それが、楽しみで仕方がない。