ヒーローの味方の科学者をやってるんだが、実験が楽しくてたまらない 作:刹那木ヤクモ
目の前に広がるのは、色とりどりの花畑。そしてそこに横たわるおびただしい数の人間。ここは世界の内界。俗に言う、天国ってやつだ。占士や天使によって昇華した生物はここにやってくる、そういう風に作ってある。
ここで約束されるのは永遠の平穏。地球が滅びるまで、いや、たとえこの宇宙が消滅しようとも永久に続く理想郷。
創真くんに殺された俺は、そこにやってきていた。
「……さて、ここに来るのは何度目だったかな」
そんな理想郷を気にせず振り返ると、そこにあるのは、無だった。人間の本能的な恐怖を呼び起こすような、無の空間。五感を封じ、思考を鈍化させ、理想郷へと押し戻す障壁としての役割を担っている。そこに、臆せず入る。
心臓の鼓動が跳ね上がる。過去の恐怖がよみがえる。胎内に帰れと、本能が告げる。しかしそれを跳ね除け何も感じないままに進むと、視界に入るのは見慣れた実験室。どうやら今回も問題なく帰ってこれたようだ。
死してまた、常世に戻る。これが父さんの産物、アルカナ零番《フール》の能力。フールのチェンジカードの残数は、3。22枚あったのにかなり使ってしまったな。
さて、創真くんはもう止まらない。チェンジカードが尽きるまで戦うだろう。尽きた後は、おそらく警察とともに再び戦場に戻る筈だ。俺の次の形態で渡せるよう工面し、戦場で使い切りでない完成されたチェンジカードを渡そう。
《デビル》と《タワー》は俺が使わなければならない。創真くんに渡すのは、《スター》。そしてその先の装備も開発しなければならない。仮住まいにはもう入れないが、ここで実験室を秘匿し続けたことが利となる。ここで研究を続け、最終的には計画もプロジェクトも成功へと導いてみせよう。
そうとなればさっさと開発に取り掛かろう。それと、薬品の解析もしなければな。警察勢力がどのようにして力を得たのか知る必要がある。
「……いいねぇ、やることに追われてる方が生きてる実感が湧くよ」
さて、何から取り掛かろうかな。
◆◆◆◆
『チャリオット・キック』
「終わりだ! 」
先生を殺してから、初めての天使狩りを行った。予想以上に成長している天使にかなり苦戦したが、数少ないチャリオットを切ってなんとか勝つことが出来た。
先生を殺した後、前とは違う警官たちと共に先生の拠点を調査したものの、俺の戦闘データの解析ログなどしかなく、有力な情報は得られなかった。あったのは精々空のカードくらい。
本当に、ほのかの言った通りなのか? そんな疑問が浮かぶ。俺を拾って育ててくれた、そして天使と戦う力を与えてくれた先生を殺して本当に良かったのか? 本当に先生は、俺たちを裏切っていたのか? だとしても、殺すのが正解だったのか? 最近、思考が殺意に呑まれつつあるのが嫌でも分かる。これが変身の悪影響だとしたら、これも先生の計算のうちだとしたら、俺は、何のために生まれてきたのだろうか。
そもそも──俺の家族が死んだのも、天使のせいなのか?
懐疑心。警察も、ほのかも、先生も信用できない。なら、俺が信じるべきは──