ようこそ幼馴染の教室へ   作:ひなぎ

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3人の尊い未来を探しています(存在しない)
3年生1巻で清隆くん思い出してくれた……!ってなりました。
志朗くん=アルミン・アルレルトばりの夢見がち男だと思っててくれれば、


入学編
#1 白昼夢


きっと近い将来、貴方は人が嫌いになって

僕は人を失っていく そうなら僕も笑って会えたのに

 

『始発とカフカ』 n-buna

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#1 白昼夢

 

自由になりたい、友達が欲しい、外の世界に出てみたい。ホワイトルームの中で、オレの隣の少年はそんなことを呟いた。

 

彼の考えはオレの自分がどこまで成長できるか、その限界を知りたいという知的好奇心に基づいた考えに大きく反するもので、当時のオレには自己を高める効率を落とすような真似をする彼がわからなかった。

 

どうしてそんなものを欲しがるのか、どうして自ら死にに行くような行動をとるのかわからなかった。いや、理解する理由もなく無意味に脳から切り捨てたといったほうが正しいのか。

 

ホワイトルームの脱落は形がどうあれ死だと考えていた。理解ができないまま、彼のそんな考え方、思いを尊重し、自害を見送った。

 

ここからの記憶は単調だ。本当の意味で一人になり、食事だけで終わる日もあればカリキュラムにまみれた日を送ることもあった。

 

限界に挑み続けることができる。カリキュラムをこなす度に湧く知的好奇心。ここにいることに不満はない。

 

だけどなぜか、オレの脳裏には、

 

バーチャルコンソールのカリキュラムなどではなく、いつか本当の外の世界で、好きなことをして生きて、友達を作って遊んでみたいと爛々に輝いた瞳で話す少年の姿と、事あるごとに話しかけてきた、特異な存在。ホワイトルームの中では1回しか見れなかった人の笑顔。ある少女の姿が、

 

そんな2人の顔が、脳に焼き付いて離れなかった。

―――――――――――――――――――――――

 

オレのホワイトルームでの生活が14年を大きく超えたころ、ホワイトルームの外に出る機会を得た。

 

バーチャルコンソールなどではなく、れっきとした外の世界であると肌身で感じることができ、違和感なく受け入れられている自分がいる。

 

これがカリキュラムによる影響なのか、そもそもそれ自体が俺の気質であるのかはわからない。

 

「お前に会いたいと言っている人間がいる。」

 

車の後部座席の窓を見つめながら、1つ間を置いた席に座っている父親が、興味なさげにこちらには一瞥も目もくれず言葉を投げてくる。

 

「誰」

 

「それが誰かどうか、お前に興味はあるのか?」

 

なぜこんな言葉を口に出したのかはわからないが、今は窓の外の、バーチャルより多少画質が良いだけの景色を見るより、この父親の話に耳を傾けた方が有意義だと感じたのかもしれない。

 

「なんとなくだ。」

 

淡々と、こちらも父親の目を見ず言葉を交わす。そこに会話以外の一切の雑音が入ることはない。

 

「椿家だ、東京にあるカウンセリングのクリニックでお前に会いたいと言っている少女がいるそうだ。」

 

「そうか」

 

会いたいと言っている少女と聞いて、ふと事あるごとにオレに話しかけてきていた、ずいぶんと昔に脱落したホワイトルーム生を思い出す。

 

無意識に記憶からは消去していたものの、あそこでの他者との記憶では多少の色がついていたものといえる。

 

わざわざ会いたいと言っている少女と聞いて、あてはまる記憶はそう多くない。彼女は今どうしているのか、ふとそんな興味が湧いた。

 

が、そんなオレの興味はすぐに霧散して消えた。本当の意味で死ではないが、オレにとってはホワイトルームの脱落者は死者だ。死者との会話に必要性は感じない。

 

「雪……か。」

 

「……ああ、正解だ。お前でも人の記憶は覚えているのか。」

 

「……あそこでは少し特殊な記憶だっただけだ。そこに意味もない。」

 

どうやら合っていたらしい。合っていたところで別に興味はないのだが。

興味……か。

 

父親と無機質な会話をしながら窓の外の景色を眺める。外で生い茂る木々、会話する人々、行きかう車、そこにいる人達がどんな思考を持っているのかは、興味がある。

 

だが、それを父親に悟らせてはいけない。外の世界に興味は持っていない、そう思わせることで、すべてのコントロールがうまくいっているものと父親に思わせる。

 

今はその方が、楽で有益で都合がいいだろうから。

 

外の世界のものには興味を助長させてくれそうなものが溢れている。そういう意味では、彼の言っていることも一理あるのかもしれない。

 

あの時には理解ができなかった、必要性を感じなかった、雪の脱落を羨ましがってさえいた彼の、外の世界に対する好奇心にあふれた瞳がどうしても脳にこびりついて離れない。

 

死者との会話に意味はない。が、彼だけは、志朗は今、何をしているのか興味が湧いた。

 

雪のことを会話に出して、志朗に会いたいと言えばそれも叶うだろうか、

 

彼の言っていた友達や遊びなどは出来ているのか、彼は死者の生活に何の意味を見出したのか。それに興味が湧いた。ただ、それだけのことだ。

 

「会話など意味はない。なぜ無視しなかったんだ?」

 

「椿家はあそこの出資者だ。無視する訳にはいかないものだ。」

 

「……そうか、」

 

「なあ。」

 

「どうした」

 

彼は今、どういう生活をしていて、どういう考えを持っているのか、それを知るには今、この父親を説き伏せるほかないだろう。

 

「会うのはいつだ?」

 

「明日だ」

 

「……会ってもいいが、1つだけ条件を付けてくれないか。」

 

「珍しいことを言うものだ、1つぐらいは別にいいだろう。」

 

「あそこで最後に脱落した、志朗の同席を条件にしてくれ。」

 

「……この短時間で2回目か、珍しいこともあるものだな。」

 

父親は少し考えた後、今日初めて俺の方へ目を向け、

 

「まあ、別にいいだろう、わかった、志朗の同席を認める。」

 

淡々と顎髭を右手でこまね、らしくない言葉をそう言い放つのだった。

―――――――――――――――――――――――

 

翌日、車から降りてあの男に言われたカウンセリングクリニックの中へ入る。石田研究員の指示に従い、空き室で待機していると、ほどなくして室内の扉が開かれる。

 

「よっ」

 

年頃はオレと同じぐらいだろうか、ミルキーブロンドの髪をした短髪の少年が扉からひょっこりと顔を覗かせた。

 

まず目を引かれたのは、記憶にある無表情とは似ても似つかない、快活な笑顔。その穏やかな顔立ちはまるでホワイトルームの脱落者とは思えなかった。

 

初めて目で見たあそこでの死者。だが目の前の少年はホワイトルームでの鬱屈な雰囲気は感じられない。

 

「ずいぶん驚いてるな、まあ無理もないか。」

 

少し驚いたオレに彼はやがて、自分が脱落した後、何をしていたのか話し始めた。学業に専念していて、友達がたくさんできたこと、運動も学力も自分に及ぶ存在は現れなかったが、多種多様な人間がどんな感情を覗かせるか、それらは数年そこらじゃ飽きず、どれも興味深かったこと。

 

彼の話は目を見張るものが多く、興味をひかれた。だが何よりもオレの知的好奇心を駆り立てたのは、やはり彼の目。

 

その目はあの日と同じように、輝きを失わないまま爛々と輝いていて、ただただ眩しいと感じた。

 

脱落したことを死だと考えていたが、その考えは違うものなのかもしれない。

 

敗者復活。負けたところから大きくスタートを切るものもいるということ。負けたといった表現も正しいかはわからない。わかるのは、志朗はホワイトルームでの脱落を死とも考えていないし、負けたとも考えていないということだろう。

 

「すごいな、オレには無駄な行為だとしか思えなかった。」

 

「さらっと酷いこと言うな、無駄なことを楽しんでこそ人生だろ?人生楽するより遠回りするほうが楽しいだろ、清隆だって、ただカリキュラムをこなすより何通りかの方法を試して、最適な方法を突き詰めていく方が面白いと感じるだろ?」

 

「まあ……な。」

 

人との触れ合いは最小限、ある程度必要なものだと理解はしていたが、志朗の話を聞くと興味深い話題が多い。

 

「理想と現実のギャップに苦しめられなかったのか?」

 

「まあ、感じなかったかって言えば嘘になるけど、それ以上に新しい発見を見つけられたからな。」

 

「新しい発見?」

 

「ギャップに苦しめられるより、日々の日常で感じる発見の方が面白いからな、結果としてそれの方が面白いってだけだ。人生の途中で寄り道をしまくって楽しむんだ。」

 

「清隆は多分、いつでも対処できると考えて物事を先送りにしがちな部分があると思うんだ。だから、無駄を楽しむってのもまたいいと思う。」

 

「……善処する。」

 

ふとそんなことを聞くと、彼のここ数年で形成させられた価値観の一片を伺うことができた。理解はできたが、全体的に共感できるかといわれるとノーコメント、といったところだろうか。

 

だが、知識として無駄を楽しむというものを覚えておくには越したことはないだろう。

 

ホワイトルームでの話も混ぜつつ、話を続けているとやがて、雪の父親を名乗る男から声をかけられる。サクラの花の花瓶を持った、優しい目をした40代前後の装いの男性。

 

知識と映像として記憶していたが、実際に見るとやはり目を引かれるものがあった。

彼が花瓶の水を変えているところを2人で眺めていると、再び室内の扉が開かれた。

 

「清隆……!」

 

扉から覗かせる顔は、あの時の幼さを残した顔を強く感じる、あの場所での色のついた記憶を思い出させた。

 

「会いたかった……ずっと、会いたかった!」

 

「……雪。」

 

「覚えててくれたんだ、嬉しいな。」

 

目元に涙を浮かべ、あの、初めて笑った時と同じような顔で雪はふにゃりと笑った。

 

「どうして雪はここに?」

 

「雪はホワ……君と同じ場所から出たあと弱ってしまったんだ。それからはずっと自宅か病院に居る。でもね、いくら塞ぎ込んでいても君のことだけをずっと心配していたんだ」

 

「本当にひさしぶり……だね、清隆はずっと、あの場所にいたの?」

 

「うん、14年間ずっとね、昨日初めて外に出た。」

 

過去を思い出し怯えた表情を見せる雪と対照的に志朗はこちらをじっくりと観察するような目で見ていた。

 

父親との話を見るに、あそこでの話を出すのは難しいだろう。それほど、心に傷を負ったということ。

 

「清隆はやっぱりすごいんだね……ほかの子たちは?皆も外に出たの?」

 

「さあ?少なくとも志朗はそこにいるけど。」

 

「……え?あ、」

 

「よ、ひさしぶり。」

 

オレが志朗に話題を向けると、志朗はやっと気づいたという感じで溜息をついて雪の方に目を向けていた。

 

志朗は会話を切り出し、自分が脱落した後何をしていたかを話し始めた。雪は、あそこに関する話題に触れるたび、何かに刺激されたかのように震えだす。

 

クリニックに通っているのはホワイトルームでのトラウマを取り除くため。そしてその方法の一つが俺の方法の接触……ということか。

 

脱落した人間は惨めな末路を迎えていた、惨めなものだと考えていた。目の前にいる雪も漏れずそうだし、現に今そんな考えに陥っている。そう考えると志朗は特殊なのだろうか。

 

状況の把握も済んだし、これ以上この場所に用はない。

雪を強引に引きはがして、この場を去ろう。そう、考えていると、

 

『人生の途中で寄り道をしまくって楽しむんだ。』

 

『無駄を楽しむってのもまたいいと思う。』

 

先ほどの志朗の話があの時と同じように、脳に焼き付いて離れない、敗者復活、負けてからもう1回空高く羽ばたく人間もいるということ。目の前にそのサンプルがいる以上、オレの知的好奇心が駆り立てられる。

 

―この敗者は、この先俺にどんな発見をもたらしてくれるのだろうか、ということ。―

 

志朗の言ったように、せっかく外に出たのだから、少し寄り道をするというのもありだろう。

そんな考えがふと、頭の中によぎってはじけ、俺は卓上のサインペンを取り出し、メモ帳に文字を記した。

 

『オレも会えてうれしいが、次はいつ会えるかわからない。』

 

「え……」

 

この世の終わりのような表情を浮かべる雪、志朗もそんな雪を見て苦悶の表情を浮かべていた。

 

『会話がオレの父親に聞かれている可能性がある。筆談で話したい。』 

 

そんなことを記すと、2人とも納得したのか、同じようにペンで文字を記し始めた。

 

『次はいつ会えるかもわからない、けど、オレは父親の目を盗んである場所へ行くつもりだ。』

 

『ある場所?』

 

『執事の手引きで、高度育成高等学校という場所へ入学することになっている。2人さえよければ、ここに来ないか。あの学校では三年間、外部からの接触が出来なくなる。オレをあの場所に引き戻すことも出来なくなるだろう』

 

『清隆と一緒に学校に通えるってこと?』

 

『有体に言えばそうなる。』

 

『清隆が行くなら俺も行こうかな。』

 

『わかった、だが雪、お前には少し頑張ってもらわなきゃいけない。』

 

『頑張る?』

 

『この学校は進学校だ。つまり、お前はこの数年で失った能力を少なからず、いやそれ以上に取り戻さなきゃいけない。』

 

俺の言葉に思わず息を呑む雪、だがすぐに何かに考え至ったのか。

 

『わ、わたし、今度こそ、今度こそ頑張るから……すてないで。』

 

場所を示唆するような、いや雰囲気で彼女を刺激してしまったあたり、かなりの重症だろうか。いや、志朗と話していた言葉を借りるなら、今度こそオレと離れるのが怖い、といったところか。

 

『じゃあ俺も頑張らないとなー』

 

どこ吹く風といった感じな志朗。オレの人生に新しい知見をもたらしてくれるこの2人は大事なサンプルだ。この2人が、どんな姿に成長していくのか、その3年間でどんなものをもたらしてくれるのか、どこか楽しみにしている自分がいた。

 

『……?』

 

雪が怪訝な顔を浮かべ、俺の顔を覗き込む、志朗は驚いたように目を見開いていた。

 

『おまえ、いま、いや、なんでもない。』

 

志朗が信じられないという顔で文体を記す。その文体には、相当驚いていたのか、ホワイトルーム生特有の筆跡が少し崩れ、書きなぐりのようになっていた。

 

思わず、自分の顎を押さえて考えるが、理由については思いつかない。だが、これでわかったのは、この2人は間違いなく俺に新しい発見をもたらしてくれる、ということだ。

 

もはや問題は何もない。オレが帰った後、雪も志朗も、人が変わったように動き出すだろう。

 

雪の父親も精神が回復した娘の行為を潰すなんてことはないだろうし、志朗に関してもうまくやるだろう、

 

2人と時間いっぱい話した後、病室を後にする。

そこからは何も悟られないように無表情だ。

 

待機していた車の助手席の窓から顔を出した鴨川という男の顔を一瞥するが、別に興味もない。

 

後部座席に乗り込み、再び窓から見える外の景色を眺める。

 

「初めて見る外の世界はどうだ」

 

「何も」

 

昨日と同じような、無機質な言葉のキャッチボールを繰り返す。

 

「何も、か」

 

父親はそんなオレの言葉に興味をなくし、オレから目をそらした。

 

今はこれでいい、全てはオレのために、今は我慢しているときだ。

何かがあっても、既にホワイトルームで会得した能力があれば、何も支障はない。

 

この1年後、3人は高度育成高等学校の門をくぐることになる。




書いてて思った、清隆くん若干人の心持っちゃってるし篤臣さんそんなこと言わないってのが節々。
後雪ちゃんの苗字ほぼ椿で確定っぽいすよね。

清雪の絡みもっとあった方がいいですか?

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