ようこそ幼馴染の教室へ   作:ひなぎ

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『ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編』12巻『星之宮知恵の独白』参考です。


#10 椿雪の独白

―――――――――――――――――――――――

 

 私にとって、清隆と志朗は大切な人だ。

 

 私にとって、清隆と志朗は親友だ。

 

 私にとって、清隆は好きな人だ。

 

 親愛と恋慕、一見すると矛盾した感情かもしれないけど、意外と成立はするものだと思う。

 

 それに、2つの感情が並行するなんて話は珍しいものでもない。幼馴染を好きになるなんて話はよく聞くものだしね。

 

 私たちの出会いはいつだっただろう、すべてが無機質な白い部屋で、自分の能力だけを求め続けられる、終わりなんてない。

 

 最初は何気ないものだった気がする。最初のカリキュラムでは下から数える方が早かった清隆が、1回、2回、3回と数を重ねるごとに順位を上げていく。筆記テストでは大体7回目ぐらいで首位が清隆になっていた。

 

 なんでそんなにカリキュラムをこなせるか知りたくて、ただただ柔道も、水泳も観察していた記憶がある。水泳もコツを教えたら2回目からは私の記録を抜いて首位に浮上した。

 

 それが悔しくて、清隆にコツを聞いてみる。言葉に感情のこもらない無機質で的確な意見。でも、段々と肌身に感じてくる。「ああ、清隆は努力の人なんだ」と。

 

 最初に負けた後は、負けた理由を即座に考えて、色々な人の動きを見て、真似て自分の行動に取り入れていく。2回目は観察に費やして、3回目は実践、4回目に観察、その繰り返し。適応力と学習能力の乗算だ。

 

 私はあの部屋では別の意味で異質だった。他の子たちとは異なる話し方で、段々と口数が増えていったし、それと同時に清隆に話しかける頻度も増えていったと思う。

 

 どうしてそんなに非効率なことをしてるのか、自分でもわからなかったけれど。

 

 そして私はついにカリキュラムについていけなくなった。脱落したときはただただ泣き叫んで、清隆に助けを求めたけど、それも叶わなかった。

 

 教官から脱落を告げられ、ホワイトルームから追い出される。何とか残ろうともがいてみたが、結局は大人に連れられて出ていかざるを得なくなった。

 

 ここからの記憶は単調だ。ただただ無機質に、病院で過ごす日々。誰かが話しかけてくれたような記憶もあるけど、私には届かなくて、ただただ1つのことを考えていた。

 

 『どうして清隆と話したときに笑顔が出来たんだろうって』

 

 ただただ毎日、それだけをひたすらに考える。そのことを考えるだけで、少し自分の心が軽くなる気がしたから。そして私はわかった。

 

 『好き─────私、清隆のことが好きだったんだ』

 

 私たちにとってもっとも遠い感情。命令されたことに従ってカリキュラムをこなす私たちには到底身につかない感情。もちろん笑顔になったときに好きになったわけじゃないけど、あのとき清隆に感じたことの無い感情を持った記憶を持ってる。

 

 ただ無機質にカリキュラムに打ち込む姿に、いつの間にか惹かれていたんだと思う。

 

 清隆の気を引くために、カリキュラム後の食事は清隆の前に座ってみたり、水泳のカリキュラムで何気なく話しかけてみたり、清隆と話す度、自分の心がほんのりと熱を持つのを感じてた。

 

 ホワイトルームから脱落して、5~6年程度たった、私が14歳の時、ホワイトルームの活動が停止して、清隆が私のところへ会いに来てくれた。

 

 そのときに志朗も一緒に居たけど、聞いたら私と会う条件に志朗の同席を理由にしたらしい。あの時より背も伸びて輪郭もしゅっとした清隆はかっこよかった。

 

 清隆が筆談をし始めて、清隆にもう会えないかもという話になったとき、私は心からこみあげてくるものがあることを感じた。

 

 私と志朗がショックを受ける中、清隆が高度育成高等学校という場所へ行くという話になった。そこへ入学すれば、また清隆と3年間一緒に過ごせる。それがなによりうれしかった。

 

 清隆が私のことを求めてくれる、それだけで十分だった。志朗も同じ気持ちだったと思う。次はいつ会えるかわからないって言ってたけど、ちょくちょく3人で会ってくれたのは嬉しかったんだ。

 

 でもね、私は知ってる。あの日清隆が会いに来たのは私じゃなくて志朗なんだってこと。

 

 勉強と運動のリハビリで中学生活を過ごす中で、気づいた時はショックだったけど、同時に納得もした。ホワイトルームでも水泳や柔道も観察し終えれば何もなかったかのように興味をなくす。清隆はそういう人間だったなって。

 

 清隆の目には志朗しか映ってないんだって、嫌でも思った。

 

 私は知ってる。本当はあの日、私を突き放す予定だったってこと。

 

 感情がない、いや育たなかった清隆にとって私たちは観察対象のサンプル、モルモットでしかない。ほんとは脱落した私が今何をしてるのか確認したら、すぐに帰る予定だったってことぐらい今ならわかる。脱落したときに教官に私を残すべきだって口添えしてくれたのも、私というサンプルがいなくなるのを惜しんでただけ。清隆にとって私は、道端に転がる小石のようなものだっただろうから。気が向けば見るだけ、ただそれだけでしかない。

 

 それを少なくとも変えたのは志朗だ。それがたまらなく悔しくて、そして悟った。

 

 清隆の気まぐれで伸びた命、脱落してから、ずっと話しかけてくれていたであろう親や妹の言葉も聞こえるようになって、志朗や清隆と遊んで、普通の温もりに触れることもできた。

 

 けど、まだ足りない。

 

 ホワイトルームで失った学力も、運動能力も、取り戻してもそこで慢心してはいけない。それが私が悟ったこと。私は、常に昨日の私を超えていく。今はただのサンプルでしかないかもしれないけど、いつかまた、あの水泳の時のように彼の視界に私を入れてもらうために。

 

 彼に好きになってもらうためには、彼の前を走り抜けるしかないから。

 

 ねえ、そうでしょ?清隆。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 椿雪 ―――

 

 5月1日、クラスポイントやSシステムについて詳細な発表があった後の夜、私たちは3人で晩御飯を囲んでいた。

 

「にしても面白いこと考えるよね。ポイントゲームなんて。」

 

「普通の高校生活には程遠いけどな。」

 

「今更じゃない?胡散臭さなら4月から感じてたでしょ?」

 

「それはまあ、そうか。」

 

 「う~ん」と角テーブルで唸っている志朗を横目に、私は台所で肉じゃがを更によそう、うんうんよく煮えてる。ジャガイモが型崩れしなくてよかった。

 

「あ、清隆、ごはんよそってくれない?」

 

「わかった、おい志朗、雪のこと手伝わないのか?」

 

「それもそっか、雪なんかやることある?」

 

「じゃあそこの台に皿置いておくから、持って行って」

 

「了解。」

 

 米をよそう清隆に私の料理の配膳を手伝う志朗。こんな感じの光景が4月から日常になってきた。3日3当番制で回していて、今日は私の日なので、得意な肉じゃがを作っている。シャケが良い感じに焼けたので皿によそって志朗に持たせる。そして私が味噌汁を3人分よそって漬物をつければ今日の晩御飯は完成だ。

 

「じゃあ、今日もお疲れさまでした。」

 

「「「いただきます」」」

 

 掛け声とともにそれぞれ手を付けていく私たち、ここでどの皿に手を付けるかで性格が出るから面白いと思う。へとへとな志朗はまず肉じゃがから手を付けるし、清隆は大体こういう時サラダもの、今日は漬物から、私だったら味噌汁からだ。

 

「さてそれぞれのクラスの近況を聞こうぜ、清隆のDクラスはどうだった?驚愕の0ポイントスタートだったが。」

 

「一応堀北の意見が平田経由で伝わってたんだけどな、平田のことを嫌いな男子たちがほぼ減らしたみたいだ。」

 

「うわ~考えたくない、その男子たちの風当たりめちゃくちゃ強そう。」

 

「Bクラスは特に面白みもない。3万を手元に残してクラス貯金するって帆波と隆二が言ってたぐらいか。」

 

「一之瀬さんと神崎くんか。いい案だね。退学回避のポイント用?」

 

「そうみたいだな、40人で貯めるならできるはずって意見だ」

 

 志朗の目線がちょこっと清隆の方を向く、可哀想に。彼は0ポイントだ。

 

「大丈夫だよ清隆、こうやって3人で料理当番してるのは節約のためなんだから、ちなみに昨日の時点で何ポイント残ってたの?」

 

「食費が抑えられたから85000ポイント程度、か。月15000しか使ってないと考えると聞こえはいいと思うが。」

 

「俺は86000、雪は87000ぐらいじゃなかったか?」

 

「そうだね、そのぐらい。水泳の授業のボーナスが効いてるね。この際だし先生に聞いて3人で同じ口座にしてみる?」

 

「同じ口座にするかは置いといて3人で貯金するならありだと思うが。」

 

「じゃそういう方向でいこ、っていうか志朗クラスの事情話して大丈夫?」

 

 私が志朗に会話を投げかけると、志朗は味噌汁を少し音を出して飲みながらこっちをジーッと見た。これはあれだ、お前から始めたんだろって顔だ。

 

「ちなみにAクラスって興味ある?」

 

「「ない」」

 

「だよね」

 

 3人の意思が一致した。わかってはいたけど、やっぱりという感じだ。まあ仕方ないとは思う。だってクラスの恩恵で望んだ希望に行くよりも自分の実力で勝ち取ったほうが自分のためになると思うし。

 

「じゃあこの話はこれで終わりか。」

 

「残念そうだな、俺たち3人でゲームでもしたかった?」

 

「え?あ、うん、まあ。清隆は穏やかに過ごしたいみたいだからあれだけど。目指せるものがあったら目指してみたいじゃん?」

 

「まあ、な。それこそクラス対抗を俺たちでコントロールしたりな、やって面白そうなことなら割と思いつくけどな。」

 

「それいいね、クラスリーダーの成長を促すってのもよさそうだけどね。清隆?どうしたの?」

 

「いや、8億ポイント集めるとか面白いんじゃないか?って思ってな。」

 

「8億?まとめてAクラス移籍するってこと?確かにおもしろそうだけど……」

 

 「現実味がない、か」と清隆が嘆息をつく。清隆からそんな夢見がちな言葉が出るとは思わなかったけど、高校に入学して少しでも落ち着いて過ごせているのなら、嬉しい傾向だ。

 

「そういえば、小テストの結果について聞きたいんだけど、清隆あれはどういう風の吹き回し?」

 

「それは俺も気になってた。平穏な高校生活とは程遠くなると思うんだが。」

 

 私たち2人の言葉に何かを思案する清隆、そして考えがまとまったのか、また口を開いた。

 

「前志朗の言ってた、普通はその人が決めることだし、人によって違うってのが気になってな、それを少し考えてみただけだ。」

 

「普通……ね、まあ清隆が清隆らしく過ごせるのなら俺は何も言わない。」

 

「うん、この3年間は、清隆のやりたいことをやればいいと思う。」

 

 普通らしく、清隆らしく、清隆にとっては難しい問題かもしれないけど。多少なりとも、清隆が変わってきているのなら、それを嬉しく思うべきだろう。

 

「……そうか、ありがとう。」

 

「うん、ところで雪、シャケだけじゃ米のおかず足りないんだけど?ごはんですよとか納豆とかどこだ?」

 

「ごめん切らしてる、肉じゃがあるじゃん、それで我慢してよ。」

 

「ごめん肉じゃががおかずはよくわからん、米と合わないだろ、おでんと同じだ。」

 

「は?志朗そんなけち臭いこと考えてたら彼女できないよ?人はみな家庭的な倹約家であるべきだよ。」

 

「俺もそうあるべきだと思うが肉じゃががおかずはよくわからん、清隆はどうだ?」

 

「……?おでんも肉じゃがも米に合うよな?」

 

「「……え?」」

 

 3年後に、また清隆が戻ってしまったとしても、この3年間は記憶に残るものにしてあげたい、そしてあわよくば、彼が何物にもなれなくなったとき、私たち2人が、私たち2人だけでも彼の居場所になってあげたい。

 

 そんなことを考えてしまうのは、傲慢、だろうか。

 

 少なくとも、今は彼が、この平穏を楽しく享受できていることを祈りたい。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 週は開けて5月4日月曜日、中間テストがじりじりと迫ってくるのを感じている。中間テストが近づくことで焦るのは赤点ギリギリ組だと思う。いや誰でも赤点を取れば一発退学って言われたら焦ると思うけど。

 

 勉強会を開いていいか、金田くんが翔くんに聞いたら勝手にしろと言っていたので金田くんとひよりちゃんが不安な人を少しずつ教えているようだ。

 

 個人的にまだ期間は2週間以上あるけど、早いに越したことはないと思うし。私は1週間前ぐらいから参加すると言っておいて、教室を後にした。

 

 とりあえず3人の方針はクラスリーダーに従って適度に楽しむって感じになった。適度と言いつつ志朗と私は結構乗り気だからバチバチにやりあうかもしれないけど、これぐらいゆるゆるの方が私たちにはあっている。必要があればまた擦り合わせて固めればいいからね。

 

 そして今私は、Bクラスの目の前に来ている。

 

「あ、椿さん、待ってたよ。」

 

「ごめんね一之瀬さん、少し遅れて。」

 

「にゃはは、大丈夫だよ。にしても椿さんも生徒会に用事なの?」

 

 にゃははと口を緩ませて笑うのはBクラスのリーダーの一之瀬さん。昨日志朗に中間テストについて話したところ、一緒に連れて行ってほしいと言っていたので、それぐらいならいいかと思った次第だ。個人的にちょこちょこ一緒に遊びに行ったりもしてたりするし。

 

「う~ん、ちょっとね、入りたいってわけじゃないんだけど。一之瀬さんは入部希望だよね?」

 

「うん!部活動説明会の時は断られちゃったけど、今なら大丈夫なんじゃないかって思って。」

 

「Sシステムについてもう説明されたもんね、うん、一之瀬さんなら大丈夫だと思う、勉強もできてかわいいし。」

 

 私がそんな感じに一之瀬さんを褒めてみると、満更でもなざげにだけど謙遜した感じで一之瀬さんはかしこまる。この一連の動作だけでも彼女が好かれる理由がわかるから、生粋の善人ってすごいって思ってしまった。

 

 そして一之瀬さんと何気ない言葉のキャッチボールを交わしながら、1年生フロアから階段を上って4階につくと、生徒会室の前につく。一之瀬さんと顔を見合わせてお互いコクリと頷いて3回ノックする。

 

「どうぞ。」

 

 予想とは裏腹に、落ち着いた女性の声が聞こえる。「失礼します」と緊張が表に出ないように表情を引き締めて中に入れば、先ほどの声の人かな?お団子ヘアがとてもキュートな女性の先輩と、いかにもな風貌の黒髪メガネの生徒会長様が席に座っていた。

 

「1年Cクラス 椿雪です。」

 

「1年Bクラス 一之瀬帆波です。」

 

「用件を聞こう。」

 

 カリスマとはこういうことを言うんだろうか、漏れ出る圧がすごいというかなんというか、怖くはないけど、早く要件を終わらせて帰りたい、不躾だけどそんなことを思ってしまった。

 

「単刀直入に申し上げます。1学期中間テストの過去問をください、そして可能であれば先輩が1年から受けたテストすべての問題が欲しいです。」

 

 私の言葉に面食らう一之瀬さん。まさかそんなことのために生徒会長を訪ねると思わなかったか、はたまた逆か。生徒会長とお団子ヘア先輩は、少し目を見開いたが、概ね想定通り、といったところか、あまり取り乱した様子は見せていなかった。

 

「ふむ、橘、悪いがお茶を用意してくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

「立ち話もなんだ、ここに2人とも座れ。」

 

「「はい」」

 

 そして言われるがまま、なされるがまま席に腰かける私、生徒会長の眼光がすごすぎて少しひるんでいる。早く帰りたいよお、助けて一之瀬さん……

 

「さて、椿、一之瀬、一之瀬はこの前も話したが、椿の話も俺は耳にしている。」

 

「えっと、ありがとうございます?」

 

「入試では全教科満点、面接試験も問題なし、文句なしの首席合格、一之瀬も少し遅れて次席だが、2人とも優秀だと言える。」

 

 おお、志朗が茶柱先生から聞いたって言ってたけど私は満点だったらしい、やったね。一之瀬さんはまた驚いたのか、目を見開いてぱちぱちさせている。表情筋が豊かでかわいい。どこかの無表情小路くんに分けてあげたいぞ。

 

「椿、お前はBクラスの綾雪、Dクラスの綾小路と幼馴染だったと聞いている。」

 

「はい」

 

「椿ら3人は入学式、設置された監視カメラのいたるところでメモを取っている姿が見られている。このことからSシステムについて初日で理解していたと把握しているが、それをクラス内に広めなかったのはなぜだ?」

 

 なんだろう、この高校は情報セキュリティが機能してるのか?生徒会長が生徒の個人情報を喋りまくっている。

 

 理由として面倒ごとに巻き込まれたくなかった……ていうのはありかな?だめ?一之瀬さんまた驚いてるよ、今日ほんとに何回驚くんだろうね。人生楽しそう。

 

「私たち3人はクラス内の本来の実力をみて、自分から動ける人間を把握しておきたかったから、ですかね。」

 

 翔くんの言葉を借りよう、人の言葉を借りて喋ることほど便利なことはないと思う。

 

「ほう、面白い。普通の人間なら話す方を選択すると思うが、お前らは逆の選択を取ったというわけか。」

 

「仮に話してポイントを大量に保持したとして、それは本当にそのクラスの実力でしょうか?それらのリスクの天秤を取ったまでです。」

 

「なるほど、要約すれば1人に引っ張られるワンマンクラスではお里が知れると言いたいわけか、だが俺には面倒ごとに関わりたくないという別の魂胆が見えるが。」

 

 え?この人エスパー?なんでわかるんですか?そこまで言ってないんだけどこわい、たすけて、あ、橘先輩、お茶ありがとうございます。おいしいです。あ、会長に渡すときの2人の光景絵になりますありがとうございます。

 

「ふ、まあいい。本題は飲み込んで提案なんだが、」

 

「はい?」

 

「椿、生徒会に入らないか?」

 

「「ええ!?」」

 

 この驚いた声は一之瀬さんと橘先輩だ。一之瀬さんお茶飲んでなくてよかったね。飲んでたら多分吹き出してたんじゃないかな?

 

「ちょうど書記の席が一つ空いている。別に悪い提案でもないだろう?」

 

「会長、本気ですか?」

 

「橘、不服か?」

 

「い、いえ。」

 

 生徒会長直々のスカウト、だけど面倒ごとに巻き込まれるのは確定、清隆と志朗と過ごす時間は確実に減る。うん、デメリットの方が多いね?会長が直接誘ってくれてるのはありがたいけど……

 

 いや、アリか?

 

 この学校には文化祭とか、修学旅行とかそういうのがない。入ったらそういうのを作れるんじゃないかな?清隆と志朗に楽しんでほしいと考えると、ありな提案な気がしてきた。

 

 そして今思ったが、ここで一之瀬さんも加入させられれば、私は恩を売ることができる。これは大きなメリットだ、となると。

 

「謹んでお受けします、と言いたいところですが、1つ条件を付け足してもよろしいでしょうか?」

 

「あ、あなた何をいって」

 

「橘かまわん、言え。」

 

「こちらの一之瀬さんの生徒会加入を認めてくれたなら、私も生徒会に入ります。」

 

「え!?椿さん!?」

 

「ほう、生徒会の枠は残り1つしかないというのにか?」

 

 この会長、意地悪だなあ。わかってるのに悪い笑みを浮かべてる。まるで見定めるみたいだ。いやみたいじゃなくて実際にそうなんだろうけど。

 

「論点をずらすのって便利ですよね。生徒会副会長なら枠がもう1つあるでしょう?今いる人の役職を上げれば、理論的には可能かと。」

 

「ふ、面白い、だがその条件はやすやすと認めるわけにはいかないな。」

 

「私からすれば腑に落ちないことが1つあるのですが、よろしいでしょうか。」

 

「なんだ、言ってみろ。」

 

「4月の部活動説明会、私も一通り最後まで見ましたが、ほとんどの部活が加入を認められた中で、生徒会だけが跳ね返されたと、そう聞いています。」

 

「その通りだ。」

 

 眼鏡をすちゃっと指で上げる会長、なにそれかっこいい。私もやりたいです。

 

「ほとんどの部活が加入を認められた中で、生徒会だけは認められなかった。いくらこの学校の生徒会が特殊とはいえ、会長の意向だけで跳ね返されるのはおかしいとは思いませんか。」

 

 橘先輩も思うところがあるのかじっくりと私を見定めるかのような目つきだ。そんな目をしないでほしい。もともと過去問もらいに来ただけなのに。

 

「そこで私は仮説を立てました。」

 

「仮説だと……?」

 

「派閥争いが起きていて、相手方に巻き込まれるリスクを見て跳ね返しているんじゃないか、と。」

 

「ほう、見事だ。大方当たっている、事実俺は次の生徒会長である南雲の方針をよしとしていない。」

 

「南雲副会長の方針……ですか?」

 

 訝しげな目つきの一之瀬さんに橘先輩は「はあ」とため息をついて答える。

 

「実力のある人はとことん上に、その逆はとことん下に、ということです。」

 

「つまり?」

 

「前代未聞の退学者数になるかもしれない、ということですか。」

 

 一之瀬さんがピンと人差し指を立てて意見を出す。感心したかのように橘先輩と会長が息を呑んでいる。

 

「なるほど、でも私も一之瀬さんも取り込まれないと約束します。退学者をわざと増やすなんて方針は納得できませんから。」

 

「わ、私もです。そんな方針は納得できません。」

 

「ふ、そうか。じゃあお前ら2人の生徒会加入を認めるとしよう。」

 

 ご満悦の会長だが、私と一之瀬さんはくたくただ。橘先輩は慣れているのだろうか。すごいね。「過去問をもらいにいっただけなのに」、今日の晩御飯のネタにできるね。清隆と志朗の反応が楽しみだ。ちなみに過去問の請求費は貧乏なCクラスに配慮して5万プライベートポイントだった。一之瀬さんが折半してくれたのはびっくりした。ほんとこんないい子どこから生まれてくるんだろう?そう思って生徒会に入った1日でした。

 




入試だけ坂柳に勝っている女の子、一之瀬さん。ほぼ点差なかったのでしょうか?そこにまた僅差で堀北さんが並ぶというのもあれですね。雪ちゃんの洞察力はもう2年生編の桜子見てればお姉ちゃんならこれぐらいやってくれると信じて。というより、一之瀬が生徒会加入した影響でイレギュラーが発生する事実があります。

清雪の絡みもっとあった方がいいですか?

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