#13 愚か者
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――― 綾雪志朗 ―――
「星之宮先生ご機嫌だったな~、マジで帆波さまさまって感じ。」
「帆波ちゃんすごいよね、一緒に生徒会長に交渉してくれた雪ちゃんもだけど。」
紀仁と麻子が「やっと終わった~」といった感じで腕を伸ばして一息つく。
中間テストが終わって放課後になった。うちのクラスは無事に1位と大成功で終えることができた。まさかの1番優秀なAクラスが平均点で最下位に落ちるという結果に周りは驚きを隠せていない。ちなみに俺はもちろん500点、満点である。
さすがにみんな呑み込みが早く、1週間前から過去問を集中して覚えた甲斐があったと言える。同じ土俵で戦えばCクラスに学力面では負けない、というデータもとることができたしな。
雪も俺もそうだが、クラス内の「Aクラスを目指す、Aクラスで卒業する。」という雰囲気に乗せられて、この学校生活を楽しんでいる節がある。まあその裏には「上があるなら目指してみたい」って感じの目標があるだけだが。雪が過去問を配ったのもそんな感じなんだろう。
清隆も結局あれだけ勉強と運動で成績を取っておいて、周りから注目される兆しがない、というか洋介や恵とか居るグループのレベルが高いから基本的にあんまり気にしないんだろうな。
平均が高いからそこから頭が出ていても周りから「あ~あのグループなら納得」ってなるんだろう。結果的に周りに恵まれて事なかれ主義が大成功している気がする。
「志朗、この後麻子とか颯とかとケヤキモール行くんだけど一緒に行かね?」
「今日も遊ぶのか?颯に至ってはゲーセンで昨日ポイント溶かしまくってただろ。」
紀仁に遊びに誘われたが、連日続けて遊ぶというのもなんかなあ、懐事情がなあという感じがする。いや毎月6万ポイント入ってくる時点で財布がさみしいというわけじゃないんだが。なんなら来月から増えるし。
ちなみに昨日は帆波、千尋、麻子、隆二、紗代、紀仁、颯、俺の8人で遊んだ。千尋がゲーセン上手くてクレーンゲームで無双したり、紗代がクレーンゲームで景品がとれなさすぎてヤケクソで途中から他の人が何十回以上やって諦めたのを見計らってハイエナして取ったときは麻子と一緒に腹抱えて笑った。雑草魂がすごすぎる。
千尋に至っては取った景品全部「帆波ちゃんにあげる!」って言って渡してたけど、もしかして千尋ってそっち系だったりするのか?帆波の手持ちがパンパンになって隆二と2人で持ったっけ。
「志朗くん?結局どうするの?」
「うん?あーごめん。」
「ボーっとしてたね。何も聞いてなかった?」
「あ~まあそんな感じだけど大体は聞こえてるから大丈夫。」
「あは、何それ変なの」
麻子が顔をのぞかせてそんなことを聞くので、聞いてますよアピールをさりげなくしていく。ほとんど聞いてないのは事実だが、一番覚えなきゃいけないところは覚えているので問題ないはずだ。
「まあ、行くけど。この前みたいにCクラスに絡まれても無視しろよ?颯とか隆二は一回張り合っちゃってたが。」
「あはは、あれはさすがに言いたくなる気持ちはわかるかな、でも今日新作のフラペチーノ飲みたい……」
何かに思いを馳せるかのように達観したような目つきになる麻子、どうやら彼女にとってそんなのに比べればCクラスは興味ないらしい。
CクラスからBクラスへの妨害行為は5月、Sシステムが発表されたときから始まった。妨害と言っても軽いもので、ダル絡みや挑発するような発言、問題に発展するような行為もないが、こっちから手を出せばあっちの展開に持ち込まれるので、みんなドギマギして何も言えないでいる。
Cクラスも相手を選んでやっているようで、千尋やこずえなどの気の弱い子には体格がいいクラスメイトなど、相手に合わせてやっているのがまるわかりでなおのこと質が悪い。
A、Bクラスには純粋な学力ではどう足掻いても敵わない。なら、盤外戦術だということなのだろうが、やることがちゃっちい気がしなくもない。
こちらが勉強できないのであれば、向こうにも勉強をさせなければいい。どれほど効果があるかはわからないが、公に行われる勉強会などは妨害することが可能だ。
おそらく、それ以外にも意図があるだろうが。どこまでしても学校からのお咎めはないのか。まだ、俺たちはこの学校にに入ったばかりでわかっている情報が少なすぎる。今回の策は情報収集の面が大きい。
Cクラスがどう思っているかわからないが、傍から見ることで学校の客観的立場や基準を見ることができると考えれば、Cクラスはいいサンプルと言っていいかもしれない。
最初の一発は他人に打たせるべき、そう考えている俺にとっては逆に好都合ともいえる。これを雪が理解してないとも思えないのだが……
「よっしゃ~志朗も行くって決まったところで、あれ?これ昨日のメンバーと変わらなくね?」
「今日はこずえちゃんとか誘ってみたら?あの子今日のテスト結果が出るまでびくついてて遊べなかったみたいだから。」
「いいんじゃないか、ユキは行くか?」
「……あー、ごめん、ちょっと今日は無理。」
「……そっか、わかった。また今度な。」
「うん、ありがとう。」
麻子や紀仁はこずえを誘うつもりらしいので隣のユキを誘ってみたが、あんま乗り気じゃないようだ。まあ、テスト結果が出て遊びに行く子たちは多いだろうが、ユキみたいに疲れ果ててるような子もいるだろう。無理しないで休ませることにしよう。
そんなこんなで、昨日はゲーセンということで今日はカラオケでみんなと遊んだ。歌いすぎて喉がガラガラで明日声が出るか心配だが、気合で何とかするとしよう。
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――― 伊吹澪 ―――
「並行してDクラスに仕掛ける?」
「ああ、まだ内容は秘密だし実行犯以外に言うつもりもねえが。」
中間テスト結果発表が終わって少し、私、龍園、雪、石崎、アルベルトといった5人はカラオケルームに来ていた。これが他クラスなら楽しく談笑って感じだったんだろうけど、あいにくうちのクラスはそんな雰囲気じゃない。本当なら金田とひよりも来る予定だったんだけど、2人とも部活で忙しいみたい。
「BクラスとDクラスに喧嘩売るってことじゃん、今うちにそんな2クラスを相手にする体力はないと思うけど。」
「は、俺がそんなことを気にするとでも思ったのか。」
2クラスを相手にするのかについて質問するけど、龍園はその質問を聞いた後、どんとこいといった感じで笑みを深めた。どうやら楽しんでいるらしい。
「まあ別にいいけどね、ポイントの増減の詳細を大体把握できたならもうやる意味を感じないけど。クラスポイントが奪えるか試す気?」
「俺の考えてることを当てやがって、別にそれだけじゃないがな、つくづく面白え。」
雪の言葉に対して、ご満悦といった感じの龍園、こいつ自分の考え当てられたときほんとにいいおもちゃを見つけたって感じの笑い方するわよね。バトルジャンキーなの?いや石崎とかボコってた時点でお察しか。私も雪が守ってくれなかったらどうなってたかわかんないし。
「別に何やるのもいいけど、退学に追い込むのだけはやめてよ?」
「は、他クラスに気を遣うなんて優しいこった。ほかのクラスのやつらが退学してもお前には関係ないだろ?」
「……うん、でも、やっぱり仲いい子が退学とか停学になったら悲しいよ。もう会えなくなるのかなって思うと。」
声のトーンが下がって、いつもの雪の声より落ち着いた、どこか達観したような声色だった。雪のこんな表情は初めて見たかもしれない。
まるで、本当に体験したかのような……そんな風に思ってしまったのは私の考えすぎだろうか。
「まあ退学にはなんねえさ、実験のつもりだからな。お前ならどうやってDクラスに仕掛ける?実行犯は石崎、小宮、近藤のつもりだが。」
「え?自分至上主義の翔くんが私に意見聞くなんて珍しいね。明日は雪かな?」
「寝言は寝て言え減らず口が。大体運動でも学力でも俺より上なお前が俺の下についてる時点で納得してねえんだよ。」
まあそれは私も思うわ、ってか龍園にもそんな考えがあったのね。私からしたら今からでも雪がリーダーになってほしいんだけど、まあその時は「龍園くんはいちはやくSシステムに気付いた」だとか「龍園くんの方がクラスがまとまる」とかなあなあで済まされたんだけど。
「翔くんの性格からしたら、自分より強い人のことをそんな風に気負わずに話せるとは思わなかったんだけど?」
「はっ、……まぁ、俺だって負けず嫌いの自覚はある。だが俺でも金田やひよりみたいな奴に勉強で負けても、小宮や近藤みたいなやつにバスケで負けても、相手の得意分野で努力してるんだ、それは仕方ないことだと受け入れる器量はある。」
最悪だ。私と同じ考えをしている。まあでも明らかに私より頑張っているヤツに負けるのを受け入れられないのは筋が通んないしかっこ悪いわよね。ある意味では見直したというか、ってか石崎とアルベルト全然喋んないわね、石崎……は「さすが龍園さんです……!!!!」ってなってる。え?あんたBotかなんかだったりするわけ?アルベルトは仁王立ちかあ……
「別に裏切るつもりもないよ、ここのグループは楽しいし居心地がいいもん。私はリーダーなんて器じゃない。ひよりちゃんや悟くんみたいに裏で知恵を回してかき回す参謀の方が向いてるよ。なにも能力の優秀さとリーダーの素質は比例しないもの」
「まあ今はそれで納得してやるよ、くっくく。」
「それで私だったらどうするかだっけ?BクラスとDクラスに並行して仕掛けてる時点で1つの問題が出るから、まずはそこを潰すかな、澪ちゃんはこの問題がなんだと思う?」
「え……?」
友達の会話を聞いてる側に回ってたら急に自分に話題が回ることあるわよね、今その感じ。いきなり横から思いボディフック喰らった気分。え?BクラスとDクラスに仕掛けるうえでの問題点……?えっと……
うん、こういう時は単純に考えよう。多分「並行して」がポイントよね。意味がないなら普通に「仕掛ける」だけでいいもの。そもそも雪も私も他クラスに仕掛けるのはあまり気乗りしないんだけど……。うーん、並行して、つまり私たちが共通の敵になる……
「あ、BクラスとDクラスで同盟が組まれる?」
「正解、私たちという共通の敵ができる。はっきり言って目障りでしかないから、これは取り除かなきゃいけないリスク。でもBクラスには帆波ちゃんがいる。あの子は多分自分のクラスに今みたいに被害が出なくても助けちゃうと思うけど。」
「は?一之瀬ってそんな馬鹿なの?」
「バカというかお人よしなんだよ、天性の善人。眩しいぐらい。」
「どういうことよ……」
「だからBクラスがDクラスに協力できない環境を作って、わたしならDクラスを徹底的に追い詰める。例えばCクラスの悪評を掲示板に流して、他クラスにCクラスに関わるなっていうイメージを作る。」
「私あんまり自分のクラスの悪評流されるのは嫌なんだけど……ってかそれこそ逆に団結されない?」
「あのクラスは良くも悪くも帆波ちゃん中心、その帆波ちゃんも確固たる自我がない。取り巻きのクラスメイトにうちのクラスのイメージを植え付けることができれば、帆波ちゃんは優しさの上に同調圧力で屈する。クラスの性質を逆にとるわけ、Aクラスも下位層のクラスの争いごとには介入したくないだろうし、静観を決めるだろうね。」
にやにやと少女みたいにかわいい笑みを浮かべる雪、いやかわいいだけで考えてることは全然かわいくないんだけど。龍園と言いうちのクラスのやつらはなんでこうも物騒なことしか考えられないんだろうか?
「まあ、徹底的にやるならこれぐらいにしてDクラスを孤立させるけど、龍園くんの目的はさっき半分正解って言ったところを見るに別のところでしょ?」
「は?クラスポイント奪う以外に何があるのよ、」
「ほう、おもしれえ、言ってみろ。」
「Dクラスがどれだけ対処能力があるか知りたいんでしょ?クラスポイントを奪うという点で考えたら、私が生徒会から審議の内容を持ってきて内容を見せたらもうやる価値はないはずだもの。」
「くっはは、最高だ、100点をやるよ。」
「うわまったく嬉しくないけどありがとう。」
愉快そうに笑う龍園に嫌々とした表情を浮かべる雪、でもまあ確かに、龍園は意味のない行動はしないわよね、納得できるかは置いといて。確かに冷静に考えてみれば雪が生徒会に入って過去の審議でどれだけの処分が下って、どれだけプライベートポイントやクラスポイントが回収できるかわかればやる意味はないわね。
「は、雪、伊吹、山田は解散していいぞ。石崎はまだ話がある。」
こんなに長々と考えるのも億劫だわ、早く解散したい。そう考えていたら龍園から解散の合図がかかった。石崎は「なんで俺だけ!?」って顔してたけどあんたさっきの話山田と一緒で微塵も聞いてなかったみたいなものなんだからおとなしく捕まっときなさいよ。
「澪ちゃん、アルベルトくん、部屋変えて歌わない?ほら、テスト結果わかった記念ってことでさ!」
「え?あ……うん。」
とっさに雪にカラオケのやり直し提案されてオッケーしちゃったけどまあ雪だからいいかも……?アルベルトがよしなにサムズアップしてるのがちょっとツボるけど。
まあ、こういうのも青春っぽくていいわよね。
だが、雪が自分の発言を、7月に入ってから後悔する姿を見るのを、まだ私は知らない。
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――― 綾小路清隆 ―――
「助けてくれ綾小路!」
中間テストが終了してはや1月たったころ、いつもなら雪や志朗と晩御飯を食べる時間。今日は2人ともクラスメイトと用事があるようで、どうしたものかと悩んでいると須藤が扉を開けてずかずかと入ってきた。
あれ?須藤たちと遊んだことはないはずだし、合鍵でも渡したか?と思ったが、雪や志朗が入ってくる前提で扉を開けたままにしているのを忘れていた。慣れとは恐ろしい。ちなみに後ろに櫛田もいて、扉が開いてることに驚きながらきょろきょろして入ってきた。
「まじやべえんだって!助けてくれよ!」
騒ぐ須藤を宥め、とりあえず落ち着いてくれと指示をする。数分ぐらいたってやっと落ち着いた須藤は、フローリングへ腰を下ろすと、聞いてもいないのに話をし始めた。
「その、さ。俺が今日担任に呼び出されたのは知ってるだろ? それで、その……実はよ、俺、もしかしたら停学になるかも知れねぇんだ」
「停学?何があった?」
今日は7月1日。月のはじめということで端末を見ると、相も変わらずポイントは振り込まれていなかった。
雪や志朗に聞いてみても、どうやら2人も同じように支給されていないらしく、どうやらDクラスだけの問題というわけではないようで、クラスメイトが混乱していたが、もしかして須藤が問題だったのか?
須藤は入学当初と比べれば驚くほど落ち着いて、相当生活態度も改善されていた。授業中の居眠りや私語もほとんどなく、部活も順調だったはずだ。
この前の危惧されていた中間テストでも、雪と電話しているのをよく見ていたし、範囲変更で焦って雪に付きっ切りで勉強に付き合ってもらっていたのも知っていた。
見てもらったおかげかわからないが、中間テストは全て60以上、教科によっては80を超えたぐらいだ。過去問のおかげということもあるかもしれないが、本人は自分でもこれだけできるのかと感動していた。
だとしたら、なぜ?
「実は俺……先週Cクラスの連中を殴っちまってよ……それで停学するかもしれねえって言われて、今は処分待ちなんだ。」
思わぬ報告に驚いて目を見開くが、オレも一瞬事態を吞み込むことができなかった。懸念していたことが的中してしまったか。
「最初に言っとくが、俺は何もしてねえ、冤罪なんだ。」
「須藤くん、とりあえず落ち着かないと、綾小路くんもなにがなんだか分かんないよ?」
櫛田が俺がやったように須藤を宥め、また須藤を深呼吸させる。須藤はやっと落ち着いたようで、また口を開いた。
「昨日、Cクラスの小宮と近藤に呼び出されてよ。実は俺、顧問の先生から、夏の大会でレギュラーとして迎え入れるかもしれないって話をされてさ。絶対レギュラー取ってやるって思ったんだけどよ。Dクラスの俺がレギュラーに選ばれるのが我慢ならないって言って、連中、俺を特別棟に呼び出したんだ」
「特別棟か……監視カメラがなかったはずだ。明らかに罠だったな。」
「無視しても良かったんだ。バスケ部の二人とは部活中にも度々言い合ってたからいい加減ケリつけてやろうと思ってよ。」
「ああ。それで?」
「そしたら、石崎って奴がそこで待ってやがってよ。痛い目見たくなきゃバスケ部を辞めろって脅してきやがったんだ。そんでそれを断ったら殴りかかってきやがってよ。それでやられる前にやり返してやるって思って、ついカッとなって……」
「……Cクラスが起こした問題ならお前は悪くない、だが殴ったなら別だ。」
事がそう単純なはずはない。須藤は今オレに話した事実をそのまま学校に話した。だが学校は保留にしている。つまり明確な証拠がないということだ。
「ああ……今ならやらなけりゃよかったって思ってる。雪にもすぐカッとなるなって言われてたのによ……」
「学校側は何て言ってるの?」
「来週の火曜日まで時間をやるから、向こうが仕掛けてきたことを証明しろとさ。無理なら、俺が悪いって事で夏休みまで停学。その上、クラス全体のポイントもマイナスだってよ」
本人もやってしまったことを悔いているようで、顔に陰りが見える。どうやら須藤にとって雪は相当大切な友人、存在になっているらしい。まあ本人の見境のなさもあるだろうが、ひねくれた自分に正面から向き合ってくれる存在は本人にとってもありがたかったんだろうな。
「状況はわかった、にしてもなんで真っ先に相談する相手が櫛田と俺だったんだ?櫛田は知らんが俺より雪の方がお前は仲が良いだろ。」
「色々助けてもらってる雪にこれ以上頼るのもあれじゃねえか、それに注意してくれてたのにそれをやっちまったんだ。頼るなんてダサすぎるだろうが。それで考えたときに、勉強会で俺とか池とか山内を根気よく見てくれた綾小路と櫛田なら頼れるって思ったんだ。」
なるほど、本人なりのプライドってわけか。だがまあ確かにこれ以上頼るというのも本人の尾を引くだろうな。
「ねえ綾小路くん、須藤くんを助けてあげられないかな?」
「……助けるって言ってもな、まず須藤、お前は処分を避けられないと思うぞ。」
「はあ!?なんでだよ!……って言いたいけど、まあ考えてみれば仕方ねえよな。」
「ねえ、なんで須藤くんは処分を避けられないの?」
須藤が意外と冷静だ。入学時だったら今俺の机の上にあるボールペンを折っていると思ったが、頭では冷静なようだ。櫛田が疑問を投げてきたので、オレもそれに返すように言葉を紡ぐ。
「状況が状況だからだな。正当防衛は一発貰ってはじめて成立する。須藤の場合は相手だけ怪我をしている。それにいくら今の須藤がまじめだからといって入学当初のイメージがこの時期で完全に覆るわけはない。あっちが3人がかりで攻めていたとしても、幾ばくかの配慮を受けるのが精いっぱいってところか。」
「くっそ……どうすれば、目撃者っぽいのがいた気がすんだけどよ……」
「その目撃者を探すか、Cクラスの男の子たちの訴えを取り下げるしか須藤くんの処罰を軽くする方法はない……ってこと?」
「目撃者って言うのは望みが薄いだろうな、訴えを取り下げるっていうのもだ。」
オレの言葉を聞いて深く思案する2人、その表情には陰りが見えるが、まあ内容が内容なだけに仕方がないか。
「図々しいようだけどよ、今回の件……誰にも言わないで貰えねーか?」
「え、誰にもって?」
「噂が広がるとバスケ部の耳にも入っちまう。それは避けたいんだよ」
「残念だが須藤。こうなった以上、学校側からバスケ部に話が行くのは時間の問題だろう。お前の望みを叶えるには無罪を勝ち取る以外にはない。そして須藤、お前を守るためにもお前はこの件にはかかわるな。」
「くっそ……どうすれば……」
「それに、明日以降Cクラスの連中が噂を広めるかもしれない。そうなれば、オレたちがいくら黙っていても意味が無くなる」
「悔いても仕方ないよ須藤くん、今できることを探さないと。」
「俺が動かないってことは、お前らに全部押し付けちまう……それじゃ。」
「押しつけなんて思ってないよ、友達のことを助けるのは当然でしょ?私たちに任せてよ。」
バスケ部に話が行くと断言したからか、須藤が何とも言えない顔をしている。だが嘘をついた所で意味がない。明日になればすぐに分かる話だ。
「……わかった、すまねえけどお前らにこの件を全部任せる。ほんとにすまねえ。」
自分がかかわることでより厄介になる。自分が起こした事件に自分がかかわることができないことにモヤモヤするのは仕方ないだろうが、本人が介入してしまうことで厄介ごとが膨らんでしまうのは目に見えている。それは入学前から変わった須藤ならわかることだろう。
頭を下げる須藤に明日から活動をすることを伝えると、櫛田と他クラスから聞き込みをするところから始める、というところから始まって、その場は解散した。
「こういう面倒ごとには介入しないで、波風立てないで過ごす予定だったんだけどな」
一人きりになった部屋で、ポツンとそんなことを呟くオレ、今のオレは自分から面倒ごとに頭を突っ込もうとしている。
『友達のことを助けるのは当然でしょ?私たちに任せてよ。』
『この3年間は、清隆のやりたいことをやればいいと思う。』
『清隆が清隆らしく過ごせるのなら俺は何も言わない。』
いつかのころのように、先の櫛田、そしていつか言っていた雪、志朗の言葉が頭を反芻する。自分らしさ……オレらしさ……か。
『普通っていう価値観は人によって違う。』
どこか窮屈さを感じるオレとは対照的に、ほとんどの人は今の雪や志朗の方が自由だと、客観的にはそう考えるんだろうか。
平穏な高校生活、最初はそれだけでいいと考えていた。だが、心の奥底がひどく乾く、そんな心地がしている。
『力を持っていながらそれを使わないのは愚か者のすることだ』
あの男の言葉が、深く心の奥に溶け込んでいる。オレの中にある問いの答えはいまだなく。
「愚か者……なんだろうな、オレは。」
そう零した声は、オレ以外居ない、暗い部屋の空気に溶け込んで消えていった。
清雪の絡みもっとあった方がいいですか?
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もっとほしい
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別に