ようこそ幼馴染の教室へ   作:ひなぎ

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#14 手を取り合って

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――― 神崎隆二 ―――

 

「喧嘩騒動……ですか?」

 

「そうなの~、解決次第ポイントは振り込まれる予定だから安心してね!」

 

 そうやってかわいくウインクしながら説明する星之宮先生だが、ポイントの支給が遅れていることで俺たちには動揺が隠せない。

 

 先日、俺たちはBクラスは7月を迎えた。昨日発表されたクラスポイントは763、Aクラスが1004ポイントとまだ開きはあるけど、俺たちは113、Aクラスは64cpと、約50ポイント分縮めたことでクラス内の雰囲気は明るくなって、クラスがより深く団結する……と思っていた。そう、ポイントが振り込まれていれば。

 

 そして今日、今この段階で説明があって、どうやらCクラスとDクラスの間で騒動があった、ということらしい。

 

 この件についてCクラスはDクラスを訴えて審議中となってるらしく、その学校側の調査が終わるまではプライベートポイントが支給されないということだった。

 

 プライベートポイントが支給されないってことは、場合によってはクラスポイントが変動する、ということだろうか?帆波がこの前生徒会でCクラスの椿と見たと言っていた過去の審議の内容を思い出した。

 

 その時に決定された内容としては被害者のクラスに加害者クラスからクラスポイントやプライベートポイントの徴収が行われて、そのうえで停学や退学などの裁量が決められていたはずだ。

 

 「喧嘩を目撃した生徒や何かを知っている生徒がいれば情報提供をしてほしい」そう言い残して星之宮先生は教室を後にしていった。

 

 この騒動は俺たちBクラスにとってはまったく関係がない、というわけでもない。俺たちも中間テストの勉強をしているときやそのあとも、うっとうしくCクラスの連中に絡まれたりしていたので、十中八九それに巻き込まれただけ……と考えている。

 

 協力するメリットが見当たらないが、うちのクラスリーダーなら迷わず、見境なく助ける……と考えていたんだが、その表情には陰りが見えた。しばらく様子を見ていると、一之瀬はこっちの机に向って歩いてきて、俺に助けを求めてきた。

 

 この前グループ内では下の名前で呼び捨てしよう、ということに決まったが、そもそもの会話が苦手な俺や一之瀬のことが好きな柴田は恥ずかしく苗字呼びしている節がある。

 

「ねえ隆二くん、これはCクラスの冤罪だと思わないかな?」

 

「……確かにな、俺もそう思う、俺たちも巻き込まれたからな。」

 

「うん、だよね。できれば助けてあげたいんだけど……」

 

 やっぱり俺の見立て通り、Dクラスに協力したい、と言ってきた。だがやっぱりその表情はどこか曇っていて、まるで何かに迷っているようだった。

 

「一之瀬どうした?なんかあった……あ、」

 

「気づいちゃった?協力したいのはやまやまだけど、生徒会だから、立場的に私が対応できなさそうなんだよね……」

 

 なるほど、生徒会で中立の立場だからこそ、今回の件には介入できない。でも自分1人が介入すれば生徒会の立場を損なうことになりかねない。これを理由に不安げになってたわけだ。

 

「そこで出来れば俺に協力してほしい……ってことか?」

 

「うん、私たちもCクラスには苦しめられたでしょ?ちょっと一泡吹かせたいな、って思ってさ。」

 

「なるほどな……まあ協力するだけしてみるのはアリかもな、俺としてもきな臭いと思ってたんだ。」

 

「ありがとう!あとできればもう1人つけて、いつでもいいから2人で調査してほしいんだけど……」

 

「調査……ああ、事件が起こった特別棟か。」

 

「ごめんね、言葉足りなくて、もう1人は志朗くんがいいと思うんだけどどうかな?」

 

「いいと思うぞ、話は俺からしておく、一之瀬は他のクラスメイトに情報の協力を仰いでくれ。」

 

 「わかった、ありがとう!」そう一言断ってから笑顔でその場を後にする一之瀬。他クラスとは言え友達のため、それが一之瀬の美学なのだろうが、一歩引いた立場から見ているとそれはとても危なっかしいことのように思える。

 

 他の学校では優秀なのだろうが、この高校で生き残るかと言われると疑問が残ってしまうような気がする。優しさにつけこまれ、そのままずるずると下に堕ちていく、そんな妄想が頭をよぎるが、今考えるのは無駄なことだろうか。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 松下千秋 ―――

 

 7月2日、プライベートポイントの支給が遅れているという話が茶柱先生からあって、今日詳細が発表された。

 

 どうやらCクラスとDクラスで喧嘩が起きたらしい。一応加害者はうちのクラスの須藤くん……ということなんだけど、当の須藤君は苦い顔をして俯いている。

 

 意外だな、声を荒げて周りに怒鳴り散らかすと思ったんだけど、あと周りの綾小路くんや櫛田さんの反応だけ少し毛色が違うから、もしかして2人は昨日相談を受けたりしたのかな?

 

「学校側は現在目撃者を探している。その過程でだが、どうだ、喧嘩を目撃したという生徒がいたなら挙手をしてもらえないだろうか。」

 

 茶柱先生が周りに呼び掛けて反応をうかがうけど、案の定そんな簡単に喧嘩を目撃した生徒はいないわけで、そのままホームルームは終了する、だけど先生が出て行ったあと先生と入れ替わるように須藤くんが教壇に立って口を開いた。

 

「まず、皆に言っておく、本当にすまん。」

 

「みんな俺のせいでポイントが減るだとか、色々思ってることはあると思う。これは俺の不甲斐なさが招いたことだ。言い訳できることはねえ。だけどオレは巻き込まれただけなんだ、それは信じてくれ!」

 

 数秒間、場が静寂に包まれたと思う、だってあの須藤くんが謝ったから。私もまずいたたまれなさで教室を飛び出していくと思った。だけど須藤くんは謝っている。4月と比べれば本人も少なからず成長したんだろう。

 

 綾小路くんや櫛田さんに根気強く問題の解き方を教えてもらう須藤くんを見てたから、よりそう強く感じれる。だけど須藤くん、そのやり方はうちのクラスじゃ2流、3流と言わざるを得ないよ、下手したら……

 

「問題の本質はそこではないでしょう須藤くん、私からしたら貴方の言動は都合がよすぎるわ。」

 

 急に須藤くんに向けて声を上げた堀北さんにみんなの視線が集まる。私が危惧していたこと、それは須藤くんのような強気な子が急に弱みを見せれば、それを周りの人は鬱憤晴らしに利用しかねない、ということ。

 

「都合がよすぎるのはわかってるんだ……だから巻き込まれただけってことでも信じてほしいんだ……」

 

「本質ってなによ?」

 

 前じゃ考えられない弱弱しい須藤くんの声に、軽井沢さんが堀北さんに対して話題の相槌を打つ。堀北さんは強いまなざしで須藤くんを見ながら、また口を開いた。

 

「はっきり言って私はあなたが本当に殴っていようが殴ってなかろうがどうでもいいのよ、そもそもあなたが人を殴る人間と思われている、そのイメージが問題なの。」

 

「そもそもあなたは入学直後の自分を覚えているのかしら?気に入らない相手には暴言を吐いて、胸ぐらをつかんで、そんな人を信じろという方が無理があると思わないかしら?」

 

「確かにな、須藤は中学時代喧嘩ばっかりしてたって言ってたし、相手の殴り方とか痛い箇所とかレクチャーしてたな。」

 

 堀北さんの言動に対して、同意を返す山内くん、須藤くんは黙って言葉を受け入れているが、教壇の上の拳はわなわなと震えていて、精いっぱい耐えているのが伺える。このまま堀北さんの攻勢が続くと、そう思ったんだけど。

 

「だけど、俺は信じたい。」

 

 山内くんの言葉に、篠原さんや森さんなど、山内くんに続いて須藤くんを責めると思っていた子たちの口が思わず止まる。そして周囲の目線は次第に山内くんに集まる。

 

「確かに須藤は5月までは俺たちと一緒にバカやってクラスポイントを減らしたりした。コンビニで列に割り込んだりそれで逆切れしてた須藤も見た。だけど、5月から変わったあいつも見てる。」

 

「山内……」

 

「そういう行動を止めるように、もしキレそうになっても目をつむってずっと我慢してたあいつも見てきた。そうやって努力してきたあいつを俺たちは見てるはずだ。」

 

「確かにな、過去問があったとはいえ、小テストのとき14点だったあいつが中間テストじゃ20位代後半だったもんな。逆に俺たちが信じなきゃ誰が信じるんだって話だぜ。」

 

 山内くんの言葉に池くんも同意を返す。まさかこの2人が乗ってくるとは思わなかったな。この2人も須藤くんに感化されていい方向に向かっているんだろうか。そうだといいけど、ちなみに篠原さんや森さんの方を見ると「言わなくてよかった」って感じに表情に陰りが見えた。

 

「僕も信じたい、最近の須藤くんはDクラスの中で一番頑張っていたと言っても過言ではないと思うんだ。」

 

「私も信じたい!あと須藤くんは夏前に部活でレギュラーの打診がかかってたの、確かに須藤くんは殴っちゃったかもしれないけど、レギュラーが決まるかもしれない状況で自分から事件を起こすなんて、最近の須藤くんを見たら私は思えないよ。」

 

「確かにねー停学になっちゃったらレギュラーの話も白紙になるもんね。メリットないかも?そう考えたら須藤くんが巻き込まれたってのも現実味を帯びてくるかも。」

 

「まあ私も前だったら須藤くんのこと信じないって思ったかもだけど、中間テストで点数負けちゃったしなー、」

 

 平田くん、軽井沢さん、櫛田さんとうちのクラスのリーダー陣が同意を返すことでクラス内の雰囲気は須藤くんを擁護する雰囲気になる。そして佐藤さんの発言にクラスメイトはくすくすと笑う。一見脈絡もない発言だけど、カチカチに固まっていたクラスの雰囲気をほぐすためと考えれば納得できる。こういうところは佐藤さんの美点だよね。

 

「納得できないわね、そもそもCクラスの訴えを学校が受理したのも須藤くんが殴ってもおかしくない、そういうイメージを持たれていたからじゃないかしら?彼の努力が足りていないことが問題でしょう?私は助けることが正解だとは思えない。」

 

 堀北さんはなおも攻勢の手を緩めない。なんか堀北さん焦ってない?まるで、自分だけ置いてかれているのを自覚してて……それを認められないって感じの……考えすぎかな?

 

 須藤くんはわなわなと手を震わせつつも、目をつむってじっと耐えている。こめかみに青筋がピキピキと浮かんでいるのが目に見えてわかるけど、本当によく耐えていると思う。

 

「なあ堀北、ほんとにお前はそう思っているのか?」

 

「何かしら綾小路くん、どういうことかしら?」

 

 急に声を上げて立ち上がった綾小路くんに対してまたクラスメイトの視線が集まる。堀北さんはキッと綾小路くんを睨み付けているけど、それに物怖じしているような様子は見られない。いつも思ってるけど綾小路くんって表情筋生きてるのかな?

 

「お前は5月から、特に中間テスト間近からのあいつの頑張りを見ていなかったのか?確かに須藤の態度が悪かったのは事実だ。でもそれを改善しようとしていたのはあいつの勉強を見ていたオレと櫛田が一番知っている。櫛田もそうだろ?」

 

「え?あ、うん!須藤くんはスゴイ頑張ってたよ!私と綾小路くんに対してキレることもなかったし、一生懸命だなって感じがしたもん。」

 

 確かによくよく考えてみれば綾小路くんと櫛田さんは最近の須藤くんの頑張りを一番見ていると言ってもいいのかな?「勉強」という言葉を聞いた瞬間、堀北さんの表情には陰りが見えたけど、自分は勉強会を失敗して、2人は成功していたことに負い目でも感じていたのかな。

 

 考えても今のところ答えは出ないけど、ここで須藤くんが怒りを呑み込んだのか顔を上げて「みんな」と声をかけて、また口を開いた。

 

「本当にすまねえ、俺のせいでみんなに迷惑かけてる。堀北の言ってる問題も全部わかる。俺が招いた問題だ。ずっとクラスに迷惑かけまくって、ダサかったよな、俺。でも、都合良いかも知れねえけど、このまま泣き寝入りしたくねえ。でもみんなすぐには信じられねえよな。だから、胸張って俺がクラスにいることをみんなが自慢できるように頑張る。これからのお前らで俺の頑張りを判断してくれねえか。」

 

 初めの須藤くんから、誰がこんな言葉が出てくるかと想像したのだろうか。頭を深々と下げ、不甲斐なさに打たれている。そんな彼を責め立てるような人がいたら、その人こそ惨めに見えてしまうわけで。

 

「人の印象が変わるって時間がかかるもんね。だったら運が悪かったとしか言いようがないよ。問題を呑み込んで、次はやらない。そういう思考の繰り返し。それが大切だと思う。皆もそう思うでしょ?」

 

 背中を押すように私が言葉をかけると、周りのクラスメイトもつられて、「そうだな」とか、「手伝う」だとか、「助ける」とか言葉が口々に上がる。

 

「堀北、これでもまだ須藤を信じられないか?」

 

「……本人が変わろうとしているのは認めるわ、できるかは置いといてね。」

 

 そう言って、堀北さんは教室を後にする。見下していた須藤くんがどんどん自分より成長していく、その雰囲気に耐えられなくなって彼女が教室を後にしたのか、それが彼女には恐ろしいことなのか、それはわからないけど。

 

 昔の人は『人のことを変えるのならまずは自分から変わるべき』って言っていたっけ。0ポイントでギャーギャー騒ぎ立てて、他責思考だったみんなが少なからず変わっていってる、それに遠からず影響を及ぼしてるのは須藤くんなんだろうな、そう考えると、

 

「眩しい……なあ。」

 

 そう思って、仕方がなかった私の思いは、クラスの雰囲気とは対照的に、霧散して消えていった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 綾小路清隆 ―――

 

「佐倉が証言者として名乗り出た?」

 

 そうして放課後、さっそくDクラスは行動を始めた。須藤の影響に感化されたのか、Dクラスは全面的に須藤に協力する姿勢を見せている。とりあえずBクラスに友達が多い櫛田グループにBクラス、そしてAクラスに平田グループと情報収集してもらっている。

 

 フェードアウトして適当に流す予定だったんだが、ずるずると流されて今に至る。とりあえずいつも話す軽井沢グループの松下と事件が起きた特別棟に向かって廊下を歩いていると、佐倉が証言者だという情報が松下の口から出た。

 

「うん、佐倉さんには特別棟で待ってもらってる。」

 

「特別棟?一緒に行けばよかったんじゃないか?」

 

「茶柱先生の日本史のプリント渡すの忘れててね、あと分からないところがあったから聞きに行ったの。時間がかかると思って先に行かせたんだよね。」

 

「なるほどな、だったら俺と佐倉が2人で先に行ってもよかった気がするが。」

 

 「それマジで言ってる?」と訝しげな目線で口を開いた松下。何かおかしいことを言っただろうか、効率的に考えて一番いいと思ったんだが。

 

「綾小路くん自分から話題振れないでしょ?佐倉さんと話したらお互い無言で終わっちゃうよ。」

 

「ああ、よく考えたらそれはそうか、松下は佐倉と1対1でずっと中間テスト勉強してたもんな。」

 

「講師が足りないって言って綾小路くんが無理やり飛ばしたくせによく言うよ、結局櫛田さんが入って1人で2人見れるようになってたから要らなかったと思うけど?」

 

「佐倉みたいなのは1対1の方が心を開くと思ったからな。松下ならそう言うの得意だろ?」

 

「私便利屋かなんかだと思われてたりする?」

 

「いや、思ってないぞ?」

 

「どうだかねえ、勉強会の時は佐倉さんにそういう配慮できたのに、今日はコミュ障の自分を考慮できない。なんか矛盾してるね。」

 

「いうほど矛盾してるのか?」

 

「自分で言っててもよくわからないや、でもまあそういうところが綾小路くんの魅力かもね、」

 

 そうくすくすと笑う松下に振り回されるオレ、どうしたものかと悩んでいるとやがて特別棟につく。「特別棟」だなんていうので他の部屋と何か違うところはあるのかと思って期待してみたが、生憎そんな様子は見られない。

 

 強いて言えば、家庭科室や視聴覚室など、一般で利用しない建物が見受けられるが、魅力を感じるかと言われればやはり疑問が残る。そうして事件が起こった場所の方へ足を運ぶと、待ち合わせをしていた佐倉が居た。

 

「佐倉さん!」

 

 姿を見つけた瞬間、笑顔で駆けていく松下。佐倉愛里、クラスでも非常におとなしく、地味だけど、ものすごく顔が整っていたような、あんまり顔を合わせていないのでイメージがわかない。

 

「あ、松下さん……」

 

「大丈夫?無理しなくてもいいんだよ、私の部屋でも良かったのに。」

 

「……ううん、須藤くんが変わったの見てね、「すごいな」って思って、私もいち早く協力出来たら……って思ったから。」

 

「……そっか、佐倉さんはすごいね。」

 

「す、凄くないよ。だって私教室で……手挙げられなかったから。」

 

「ううん、そんな卑屈になっちゃだめだよ。結果的に変わろうとして行動を起こしてることが大事だと思う。こうやって私たちに話そうとしてくれた時点で、佐倉さんなりに変わろうとしてた、違うかな?」

 

「そう……なのかな。」

 

「そうだよ、それに佐倉さんが目立つのが嫌いな性格だってことは知ってるしね。私と1対1で勉強をしたのも、そうするべきだって綾小路くんが言ってくれたからだよ。」

 

「え……そうなの?」

 

 きょとんと首をかしげる佐倉に、オレはゆっくりと頷いて返す。さっきの話を考えてみると、やっぱり松下は精神的に凄く成熟しているように見える。

 

だからこそ軽井沢たちのようなグループにいるのは疑問が残るし、先の勉強会でのわざとらしいケアレスミスの跡が気になるわけだが……

 

「さて、本題に移ろうか。」

 

 そう口を開いて、特別棟の階段に腰かける松下、オレも普通に立ちっぱなしというのも骨が折れるので座ると、佐倉も続いて松下の横に座った。

 

 松下はひざに肘を立てて碇ゲンドウスタイルで話を聞こうとしたが、状況的に横に佐倉がいて逆に話が聞きづらいのを理解すると、ひざに頬杖をついて足をプラプラさせている。

 

「あ、あのね。私、特別棟というか……あの日ここにいたの。」

 

「なるほどな、ところで今更だが、男のオレが居ても大丈夫だったのか?女子はそういうのを気にすると思ってたんだが……」

 

「だ、大丈夫……綾小路くんはその……怖くないから。」

 

 「怖くない?」そう聞いてオレと松下は顔を合わせて首をかしげるが、答えが出ることはない。そして佐倉はまた話を続ける。

 

「わ、私、どうしたらいいと思う?」

 

「う~ん、見たとはいえ、証拠があるならそれだけ提出して逃げちゃうのもアリだよね。」

 

「しょ、証拠、ある!」

 

 空耳でどこかの小さくてかわいい奴とボーちゃんの声が聞こえてきた気がする。だが佐倉はちゃんと人間だし5歳児でもない。なんなら「わ、わあ……」とも言わないので最近疲れているんだろうと頬を叩いて気を締めることにした。

 

 佐倉は少しガサガサと物音を立てて懐を漁ると、懐からデジタルカメラが出てきた。現場の写真を撮っていたということだろう。とりあえず見ようと思ったが、先に見た松下に「待て」と言われたのでおとなしく待つことにする。

 

 しばらくデジカメ特有のカチカチ音の連続を聞く。何気なく「もういいか?」と聞いてみると「まーだだよー」と返された。「かくれんぼしてないぞ」というと、何が面白かったのかわからないが佐倉がくすくすと笑った。

 

「あ……ごめんなさい。」

 

「いいよいいよ、綾小路くんも女子の気を引けて満更でもないんじゃない?」

 

「そうだな、それに佐倉の緊張もほぐれたんじゃないか?」

 

「あ……」

 

 笑ったことに焦って取り乱す佐倉に、松下が茶々を入れてオレを弄る。とりあえず佐倉をカバーする感じで返すと、本人も納得できる節があったのか、それを黙って受け入れていた。

 

「佐倉さん、ありがとうだよ。ごめんなさいよりありがとうの方が、聞き手は嬉しいよ?」

 

「う、うん。そうだね。ありがとうございます。」

 

「どういたしまして、でいいのか?」

 

「あはは、綾小路くん堅苦しいね笑笑」

 

「ふふ、」

 

 けらけらと笑う松下と対照的にくすくすと笑う佐倉、オレがもう1回「もういいか?」というと「お手」と言われて右手を出された。返すように手のひらに手を乗っけると松下はそれがおかしいのか知らないがまたけらけらとお腹を抱えて笑い転げている。

 

「あはは、綾小路くん犬みたい笑笑」

 

「はあ、オレだったらこんなにかわいげのない犬は嫌なんだが。」

 

「ふふ、私はかわいいと思うよ。大型犬みたいで。」

 

「大型犬……そういえば幼馴染にお前はポンコツ大型犬だって言われたな。」

 

「ポンコツ大型犬……言いえて妙だね、」

 

「自分の体躯を知らないでじゃれつくのと常識を知らないからピッタリだって言われたんだ、よくわからない。」

 

「常識を知らない、ねえ。あはは、確かにね。言えてるかも笑笑」

 

「さっきから笑いすぎじゃないか?というか写真を見せてくれないか?」

 

「ああ、ごめんごめん、佐倉さんも大丈夫?」

 

「う、うん。」

 

 そう言って松下が佐倉のカメラをオレに見せてくる。そうして覗き込むと、特別棟で自撮りをしている佐倉と、その陰で言い争う須藤とCクラスの面々が見える写真が出て来た。

 

スライドすると、次にはアップになって、石崎が須藤に殴り掛かるシーンや、須藤が帰ろうとしているシーンが撮られている。

 

「確かに、これは証拠に使えるね。先に仕掛けたのがどっちとか確証を裏付けることもできそう。」

 

「だけど私……審議とかで目の前に立つの苦手で……」

 

「さっき松下が言ったように証拠だけ提出するのもありだが、やっぱり本人がいるのといないとじゃ違いは出てくるだろうな。それにあんまり仲が良くない男子生徒のために発言するというのもあれじゃないか?」

 

「……わ、私どうしても勇気が出なくて……」

 

 半泣きになって委縮する佐倉、横に目線を向けると「ちょっと語気が強くない?いいすぎじゃない?」といった感じの目で見てくる松下がいる。

 

 意趣返しのつもりで松下から目をそらすと、松下は溜息をついて、やがて口を開いた。

 

「須藤くんすごいよね。ちゃんと変わってる。私と大違い。」

 

「……え?」

 

「私はね、昔から勉強もスポーツもそれなりに平均以上はできたんだ、親にも恵まれたし、それなりに裕福な家庭に生まれたつもり。」

 

 松下の口から出たのは、唐突な自分語り。そう最初は思ってしまったが、単なる自分語りではないのは松下の、情けなさを孕んだ淡い瞳が証明していた。

 

「私はね、クラスの輪を乱したくないの、女子同士の嫉妬とかが面倒くさいから。それに、頼られすぎても自分を擦り減らすだけだしね。」

 

「本気を出したら軽井沢さんや佐藤さんには裏切られたかもしれない、そう思われるかもしれない。これからも仲良くしたいのに、何かを隠さなきゃいけないもどかしさを感じてる。」

 

「そんな臆病者が私。今日の須藤くんを見て、佐倉さんは変わろうとした。そう考えただけでも凄い進歩なんだよ?私は、変わるのが怖くてずっとその場で足踏みしてる。そう考えると佐倉さんはすごいの、」

 

「勉強会でもずっと頑張ってたよね。つきっきりで教えてたからわかる。佐倉さんの頑張りは私が見てる。」

 

「1人がだめなら2人で、私と一緒に頑張ってみない?」

 

 そう淡々と、佐倉の目を据えて話す松下の瞳にはいろいろな念が渦巻いている。今までの行動からしてそう驚くことではないが、松下の事実に佐倉は驚きを隠せないでいる。

 

 こういう風にクラスを変えたのは須藤なんだろうか。松下は褒める。認めることで自信を持たせる。そこから、弱い自分と決別させていく。1人がだめなら2人で、そういう思いが見て取れた。

 

 佐倉は松下の言葉を呑み込み、ゆっくりと思考する。そして、

 

「うん、私、頑張ってみる。」

 

 その瞳には、「もう逃げない」といったような、強い決心が見て取れた。クラスが1人が変わることによって、また1人1人へと伝播していく。クラスは団結の方向へ向かっていると言っていいだろう。

 

 友情、親愛、友愛、どれもホワイトルームで学べなかったものだ。

 

『好き』『愛してる』そういう感情がよくわからない。概念と知識として理解はしていても、感じることはない。

 

脳裏によぎるのは、毎日のように食卓をあの2人と囲む光景、今目の前の光景と相まって、あの部屋では終ぞ体験することはなかった。

 

 しがらみもなく、手を取り合う光景。『弱みを見せて、慣れあっている』、そう邪推してしまうのはオレの悪い癖だろうか、そう、自己嫌悪に陥るのは、想像に難くなかった。

 




堀北さん枠に松下さんがスライドしています。
松下さん1年生編11.5巻見てたら結構心の中でズバズバ言っててるの面白いですよね。

清雪の絡みもっとあった方がいいですか?

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