ようこそ幼馴染の教室へ   作:ひなぎ

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#15 良心の呵責

―――――――――――――――――――――――

 

――― 綾小路清隆 ―――

 

「ほーん、うちのクラスにDクラスの櫛田さんが情報収集に来てたのはそういう理由だったわけね。」

 

「ああ、逆にそこまで詳細が伝わってなかったことが驚きなんだが。」

 

「うちのクラスというか、AクラスとBクラスではCクラスとDクラスの間で軽く喧嘩騒動があった、ぐらいで流されてるからな。」

 

 今日、7月2日。佐倉が明日茶柱先生に名乗り出にいくと松下と俺で聞き届けた後、俺たちは今日もまた3人で晩ごはんを囲んでいた。

 

 今日の晩ごはんの担当は志朗。メニューは煮込みうどんである。ちゃぶ台の上からほんのりとダシの匂いが漂っており、いつも通り3人で囲って「いただきます」と一言断ってから麺をすする。

 

「……美味いな。」

 

「お?そうか?今日は時間があったから麺つゆぶっかけただけじゃなくてダシからとったんだよ。」

 

「ほんとだ、いいにおいするね。」

 

 雪が頬を緩めて美味しそうに食べてるのを見て、俺もまた一口、一口と麺をすする。薬味のネギもほどよい辛さで麺に合っており、喉越しもツルンとしていておいしい。

 

 この前池や山内の部屋に行ったときに出てきた、冷凍麺を戻して麺つゆを適当にぶっかけただけの男料理との味の違いに驚きを隠せない。志朗が使っているのも同じ冷凍麺のはずなのだが、一体何がここまで違うというのだろうか。

 

入っている具材も一つ一つ全部ダシが染みていて美味しく、スープも透き通ってあっさりとしている。

 

 これだけ美味しいのに、俺の頭の中にはわしわしとした食感の麵でどろどろとした濃厚スープの濃厚無双ラーメン海苔トッピングの光景がフラッシュバックしている。

 

 スープも麺もすべてが対照的なんだがなあ……

 

 沁みる味だなあと思いながら、スープの中に入っている鶏もも肉とシイタケを口に運ぶ。あとで作り方でも教えてもらおうか、なんてことを考えていると、横で雪が不安げな表情を浮かべていた。

 

「雪?どうした?にんじんは入れてないぞ?」

 

「え?あ、うん。なんだっけ?たべる、たべるよ?」

 

 志朗が言葉をかけると慌てたように取り乱す雪。言葉を聞くに内容は聞いてなかったであろうことが伺え、当の雪はどこ吹く風といった感じでぼーっとしていた。

 

「まあ、Cクラスだからいろいろ引け目があるんじゃないか?」

 

「なるほどなあ、まあ雪は生徒会で中立だから、どこか介入できないもどかしさがあってもおかしくはないよな。」

 

「……うん、まあ、大体はそんな感じかな。何もできない無力感に苛まれる……って感じ。」

 

「無力感ねえ、一応Cクラスは被害者側なんだから気にすることはないと思うが。まあそこは追及しないでおく。」

 

「うん、そうしてくれると助かるかな、清隆たちは須藤くんの無実を信じてるんだっけ?」

 

「ああ、一応今グループで別れて情報収集してるところだ。」

 

 「なるほどねえ」と考え込む雪、傍から見れば天真爛漫ないつも通りの雪に見えるが、先の態度を見れば、その表情に陰りが見えてしまうのは気のせいだろうか。

 

「にしても、そんな事件があったと。なあ、それって結構大きな問題なんじゃないか? どちらかが嘘をついてる暴力事件ってことでしょ? 真相をはっきりさせないとまずいんじゃないか?」

 

「だから現場の特別棟に行ったんだがな、お生憎様何もなかったってやつだ。」

 

「にしても須藤くんが嘘をついてたらどうするんだ?」

 

「正直に申告させる。その嘘は後々必ず自分の首を絞める結果に繋がるからな。」

 

「ま、そうだよな。」

 

 そんなことを聞いても志朗には何のメリットがあるかわからないが、志朗からしてみたらオレたちの事件は単なるエンタメとして見ているんだろう。

 

 そういう意味では、本人は他愛もない世間話をいつも通りしている、という感じなのかもしれない。実際は当事者のクラスメイトが2人いるわけだが。

 

特別棟は殺人現場でもないし、露骨なヒントを得られるとは思っていなかったけど予想に反して収穫もあっただけに、それだけで今日は進歩したと言っていいだろう。

 

「今回の事件では傍観者だけど、立場を変えれば俺たちBクラスも現在進行形でいやがらせとか被害が出てるからな。こういう事件はいつ誰に起こるか分からないよな。」

 

「まあ、クラス対抗で競う以上、こういうことが起きるリスクは幾分か抱えているものだからな。」

 

「だな、もしDクラスが情報集めてるならBクラスも協力するけど、どうする?」

 

「願ったりかなったりだが、志朗は大丈夫なのか?」

 

「大丈夫だ、うちのクラスはみんなお人よしだからな。それに友達だろ?頼ってくれよ。」

 

「……そうか、ありがとう。なあ雪、どうしたんだ?さっきから元気ないように見えるが。」

 

 また横に視線をずらすと、どこか虚ろな目をした雪が居て、黙りこくっている。志朗が気にかけているが、まあいつもおしゃべりなだけに心配なんだろう。

 

「うん、そうだね、今日はちょっと元気ないかも。無力感もあるし、Cクラスはあえて須藤くんを狙ったんだろうなって罪悪感もある。」

 

「……そうか、」

 

「だからといって、私は多分須藤くんみたいに友達じゃない人が事件に巻き込まれてたら何も思わなかっただろうし……なんだろ、そういう私が気持ち悪くて、」

 

 自己嫌悪に陥る雪を横目に何かを考えこむ志朗。にしても、自分に関係ない人が巻き込まれなかったら……つまりは当事者意識の差か……。雪の考えていることは人間としては正しいことのように思える。

 

 そんなことを考えていると、志朗は何かを思いついたのか、口を開いて話し始めた。

 

「雪は悪くない、自分が気持ち悪い、そうやって自己嫌悪に陥ったらそもそも須藤くんと友達になったことが悪かったのか、生徒会に入ったから介入できなくなったことが悪いのか、ずっとネガティブになる。」

 

「長い道で、今は少し寄り道をしてると思えばいいんだ。余計なこともいつかどこかで役立つ。貧乏くじを運悪くひいちゃった、それぐらいの軽さで行こうぜ。」

 

「……うん。でも、なあ。」

 

「でもじゃない、そもそも目の前に俺たちがいるんだから頼ればいいだろ。友達だろ?ずっと1人で抱え込んでもいいことないぞ?」

 

「……ふふ、そうだね、そうすることにするよ。」

 

「それでいい、お前が悩み事なんか100年はええよ。」

 

「は?」

 

 駄々をこねる雪を志朗がたしなめて、雪がふにゃりと笑顔を見せたかと思えば、即座に志朗が挑発して雪がぷんすかと怒り始める。飴と鞭がどう見ても早すぎるだろ、一足早けりゃ死体撃ちだったぞ。

 

「だいたい今もぬいぐるみ抱えないと寝れないお子様なんだからいっちょ前に悩むなって話。」

 

「は?毎日風呂場で水鉄砲の練習して浴槽貫通できないかなとかくだらないこと考えてる志朗に言われたくないんですけど?」

 

 おっと、流れが変わったな。にしてもぬいぐるみと水鉄砲ってなんだよ。両方ともしょううもなさすぎないか。

 

「そりゃあの部屋で鍛えた能力試したくなるだろ!貫通出来たら絶対おもしろいじゃん!」

 

「本当に破壊されて修理費でクラスポイント天引きされてしまえばいいのに。」

 

 もしそれでBクラスがDクラスに落ちたらどうするんだろうか、ダーウィン賞と肩を並べるんじゃないだろうか。あとホワイトルームは変人育成施設ではない気がする。

 

「は?あ~えっとなんだっけ?お前がいつも抱えてるぬいぐるみの名前はき~~~~よた」

 

「わあ!わあ!ストップストップ!ライン越えライン越え!」

 

「おいてめえ口げんかで負けそうになったからって広辞苑で殴るんじゃねえよ!このゴリラが!」

 

「ギリギリ語彙で殴ってるから私の勝ちでしょうが!!!!」

 

「そんなわけあるかボケ!!!!」

 

 わーわーがやがやどんちゃん騒ぎしている2人を横目に「やっといつもの雰囲気に戻ってきたな」と対照的な考えを抱いてるオレがいて、

 

 友達……か、今の景色にこの関係がどこか心地よいオレが居るのも事実で、最近は今までのオレからして考えられないような思考を持つことも増えてきた。

 

 どこまで行っても他人は道具、そういう思考を持っていたオレが愛着を持ち始めているのかもしれない。

 

 道具に愛着を持つ。それは人間としてありふれた感覚。だがその感覚が行くところまで行ったのなら?

 

 未知の感覚に思いに興味を馳せて、ゆっくりと瞼を閉じていく、そうして今日が終わっていった。

 

 にしても口喧嘩になった時勝てなくなったら広辞苑で殴るのはどうなんだ?暴論過ぎるだろ。あとぬいぐるみの名前は何だったんだろうか。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 一之瀬帆波 ―――

 

「志朗ほんとに許さない。」

 

 7月3日水曜日、水曜日に志朗くんから今回の事件でDクラスに協力する旨をBクラスのみんなに伝えてくれた。とりあえず学校の裏掲示板で情報収集をして情報をくれた人に報酬を払う形にしたみたい。

 

報酬はクラス貯金から出す形で、一見すれば私が肩入れしていると思われかねないけど、もともとクラス貯金は神崎くんと半分に分割して所有している形なので問題ない。志朗くんは目立ちたがり屋のわりにあんま表に立ちたがらないけど、その分動いた時の影響力はものすごい。

 

志朗くんの方が運動も勉強もできるし、クラスリーダー向いてるんじゃないかって思ったけど、本人はあんまり興味がないみたいだ。

 

そんなこんなで私一之瀬帆波はある悩みを抱えつつ、それでもやもやとしたまま今日も今日とて生徒会室の横の資料室でお仕事にいそしむ……予定だったんだけど

 

「ど、どうしたの雪ちゃん?」

 

 私の隣では、雪ちゃんが禍々しいオーラを立てて「ふふふ」とあくどい笑みを浮かべている。椿雪ちゃん、今回の事件で被害者側になってるCクラスで、なんでAクラスに居ないんだろうかと思うぐらい凄い子だ。

 

 この子が居なかったら私は生徒会に入れなかったし、今でも門前払いを喰らっていたと思うし、中間テストであんなにクラスポイントを増やすことはできなかった。

 

 ものすごく恩義を感じていて、今回の事件で少なからず心を痛めてる優しい子……と思ったんだけど今日はご機嫌斜めなのかな?

 

「椿と一之瀬、今回の審議の立ち合いはお前ら2人も参加してもらう、ってなんだ椿?今日機嫌悪いのか?」

 

 そんな雪ちゃんを横目に、橘先輩に言われていた資料をまとめていると、ひょっこりと先輩が顔を出した。

 

南雲雅、2年Aクラスで生徒会の副会長。最初に生徒会に入るとき堀北先輩や橘先輩から南雲先輩の今までの所業を知らされたけど、BクラスからAクラスへの下剋上を果たしたことは凄いとは思う。

 

でも、退学者を意味もなくたくさんださせる、という南雲先輩が考える強い人はとことん上に、弱い人はとことん下に、といった真の実力至上主義の考えに私は賛成することはできない。

 

 そもそも現時点でも「赤点1回で退学」っていうのはやりすぎだと思うんだけど、これ以上厳しくなったらどうなっちゃうんだろうか?

 

「あ、南雲先輩お疲れ様です。ちょっと幼馴染とケンカしただけですよ。」

 

「あ?幼馴染って言うと前言ってたBクラスの綾雪とDクラスの綾小路か、堀北先輩が目を付けてるらしいが俺にはよくわからねえな。」

 

「ふふ、2人とも凄いのでそこは期待しといていいですよ。」

 

「ハッ、どうだかな、まあ頭の片隅にでも留めておくぜ。」

 

「そうしてください」

 

 スンといった感じで先ほどまでの悪辣な雰囲気はどこへやら、雪ちゃんは淡々と南雲先輩の質問に答えていた。オンオフの切り替えがすごいなあと思いつつ、まとめ終わった資料を机上へ置くと、それを確認したであろう南雲先輩が新しく資料を渡してくれた。

 

「南雲先輩、これはなんでしょう?」

 

「見たらわかると思うが、お前らが出てもらう審議の内容だ。堀北先輩が監督するらしいが、本当にそこまでの内容かどうかはわからねえ。」

 

「Cクラス、私のクラスとDクラスの間の暴力事件の内容ですね。審議までまだ時間がありますけど、こういうのって当日とかに配るものだと思ってました。」

 

「やれることは先にやっておく、これ鉄則だろ?あ、当たり前だが椿、自分のクラスに肩入れすることは避けることだ。」

 

「わかってますよ。」

 

 資料について疑問を述べる私に、先の喧嘩内容のものだと南雲先輩が教えてくれたので資料に目を通す。内容を見た感じだと、前雪ちゃんとみた過去の議事録に載っているようなものと似たようなものだった。

 

「今のままだと、Cクラスが審議に勝ちそうですけど、過去の事例から見て南雲先輩はどういう感じになると思います?」

 

「大した証拠もないが、過去の例でみるとDクラス側の停学とプライベートポイントの没収は避けられないかもな、場合によってはCクラス側に停学が出る可能性もある、ま、痛み分けってやつになる方が可能性が高いな。」

 

「なるほど、南雲先輩から見て大体割合は6:4か7:3で見てるんですね。」

 

「そんなところだ。帆波も中学の生徒会で軽い事件ぐらいなら扱ったことがあるんじゃないか?大体そういうやつでも9:1や10:0の事例はないだろ?」

 

「ああ、確かにそうですね。自動車事故とかがわかりやすいですけどあれでも取れて8:2ぐらいだと聞いたことがあります。」

 

 雪ちゃんが南雲先輩に質問すると、南雲先輩は過去の事例を引き合いに出して解説してくれる。結構ちゃらちゃらとした見た目だけど、意外とこういうところは真摯だと思う。

 

 そしてクラス間での被害の内訳についても教えてくれた。やっぱり痛み分けは避けられないみたい。まだDクラスに情報がいきわたっていないのもあるかもだけど、やっぱり状況は絶望的と言っていいと思う。

 

「というか、その須藤が殴ったっていうCクラスの連中はクラスでどういうやつなんだ?」

 

「石崎くんと小宮くん、近藤くんのことですね。基本的にあんまり勉強はできないのでうちのクラスの女子から3バカって言われたりしますが、石崎くんは結構いい子ですし、残りの2人もなかなか憎めない性格してますよ」

 

 南雲先輩が雪ちゃんに事件の当事者であるCクラスの子たちについて質問する。やっぱりクラスメイトなだけあって肯定的な意見が出てくる。

 

 小宮くんと近藤くんはバスケ部ってだけで顔は見たことないけど、石崎くんに関しては雪ちゃんが勉強を一生懸命教えてるのを見たことがあったっけ。

 

 自分なりに食らいついてる我武者羅な姿が結構印象に残ってるなあ。

 

「なるほどな、まあいい。とりあえず今日はもうやることもないからな。上がっていいぞ。」

 

「あ、ほんとですか?じゃあ橘先輩に資料を渡し終わったら私はお邪魔します。」

 

「あ、帆波ちゃん私も行くよ。すぐ横だし私も堀北会長に用事があったから。」

 

「そうか、じゃあ俺は先に上がるとするぜ、おつかれさん。」

 

「「おつかれさまでーす」」

 

 そう言って資料室を後にする南雲先輩。必然的に雪ちゃんと2人きりになるわけで、私は話そうと思っていた話題を切り出す。

 

「ねえ、雪ちゃん、ちょっといいかな?」

 

「ん?どうしたの?」

 

 紙の束を机で「とん、とん」と整え、資料室の隅の棚へ置きながら、私は雪ちゃんに質問を投げかける。

 

 雪ちゃんは書類のチェックをしていたボールペンを机上へと置いて顔を上げるときょとんと首をかしげた。

 

「ちょっと相談したいところがあって」

 

「お?珍しいね。なんだなんだ、なんでも聞いてよ。」

 

「えっと、雪ちゃんって告白されたことある?」

 

「……ふぇ?」

 

 「相談」と聞いた瞬間、ニヤニヤと笑みを浮かべる雪ちゃんに私は内心安堵する。だいじょうぶ、雪ちゃんになら話せる。そう思って悩みの話題を切り出すと、私の反応と違って雪ちゃんは頬を赤らめて目を丸めて驚いていた。

 

 あれれ?おかしいぞ~?なんか予想してたのと違う。

 

 私の中では、雪ちゃんにもし相談があったとき、反応は二通りだと考えていた。1つ目は、先に見た雪ちゃんのにやにやとした笑みで優しく尋問されるパターン、2つ目はクールに、真摯に丁寧に淡々と話を聞いてくれるパターン、この2つだと思ったんだけど……

 

 まさかの私の前に広がっている光景は3つ目だ。頬を赤らめてどぎまぎとした雪ちゃんがきょろきょろとあたりを見渡している。

 

 朗らかで親しみやすいけど、基本的に外から見てるイメージはクールだから、こうして頬を赤らめているのは新鮮で……かわいいね?

 

「え、えっと告白?」

 

 やっと我に返ったであろう雪ちゃんが私の問いに対して相槌を打つ。私が予想外の質問をしたと思ったから動揺したと思ったんだけど、あの反応を見ると自分でも思い当たるところがあったりするのかな?

 

 そう考えると雪ちゃんの恋バナを聞くのも悪くないよね、真剣に思い悩んでいたのに雪ちゃんを見ていたら別の考えが出てきちゃった、良くない良くない。

 

「うん、私ね、金曜日に体育館裏で告白されるみたいなの。だけど私、恋愛には疎くって……。どう接したら相手を傷つけずに済むのか。仲の良い友達でいられるのかが分からないから……。それで助けて欲しかったの」

 

「な、あ、そうなんだ……」

 

「ネットで調べたら誰かに彼氏役を頼む……っていうのがあったんだけど、どうかなって思って。」

 

 ゆっくりと、私が詳細を話していくと、頬を赤らめていた雪ちゃんはやっと私の言葉を呑み込むことができたのか、いつも通りの朗らかな表情へと戻っていく。

 

 ギャップがすごすぎて内心びっくりだけど、今はそういうこと言っちゃいけないよね。雪ちゃんは私の言葉の意味を一つ一つくみ取って、腕を組んで考え込んでいる。

 

 やがて考えが固まったかと思うと、雪ちゃんはゆっくりと口を開いて話し始めた。

 

「うーんとね、私も告白されたこともないし、したこともないからよくわからないけど、まず誰かに彼氏の振りをしてもらうのは私的には論外かな。」

 

「そ、それはすぐに別れたことにするとか。私がフラれたことにすれば……」

 

「相手を傷つけたくない気持ちはわかるけど、後でバレる嘘は信頼を裏切ることにも繋がるよ。気持ちを受け止めようとしないで、傷つけない方法だけを必死に考えて逃げようなんて卑怯だよ。」

 

「そう……だよね。」

 

「誰かに告白するってそんな生易しいものじゃないの。毎日のように悶々とした時間を過ごして何度も何度も頭の中でシミュレートして。それでも告白できなくて。いざ告白するって思ったときでも、喉元まで出かかった『好き』の言葉は中々出てこない。その必死の想いに、告白される側は答えなきゃいけないんだよ。」

 

「うん……そうだね、雪ちゃんの言う通りだよね。」

 

 いつもの雪ちゃんらしからぬ、何か熱がこもったまなざしに私は思わず気圧される。まるで、本当に体験、いや誰かのことを考えて話しているような……そんな違和感。

 

 でも、雪ちゃんの言う通りだよね。私はまだ、誰かを本気で好きになったことがない。 だからどうしていいかわからず、何が正しく何が間違いなのかが分からなかった。

 

 相手を傷つけたくないその気持ちが空回りして、それだけしか考えてなかった。誰かを思う気持ちが、めぐりめぐって結果的に自己保身になってしまう。

 

 そんなこと、それは、なんて皮肉なことだろうか。

 

 そうだよね、私の考えていたことは逃げでしかない。私は決意を固めると、雪ちゃんへ向けて再び口を開く。

 

「お互いが傷つかないなんて楽な逃げ道ばっか探してた。私がやるべきことはそうじゃないよね。ありがとう雪ちゃん、私は相手の気持ちに全力でぶつかる。」

 

「うん、結局それが一番良くて、お互いのためになるはずだよ。」

 

「……うらやましいなあ。」

 

 そう言って、ふにゃりと頬を緩めて笑う雪ちゃんの笑顔が、夕陽に照らされて輝く。今日は夕日がきれいな空だ。昔の人は綺麗な夕焼けに感動して、それなら夜は澄んだ月が見えるはずって歌を詠んだんだっけ。

 

 告白に向き合って、その結果を見つめる。そうすることで、私はまた先に進める、明日がもっといい日になる、そんな気がした今日だった。

 




ちょっとお家を引っ越すので5月上旬まで投稿頻度が落ちると思います。自分なりに丁寧に書いていますが、色々端折っているのも事実で、折り合いが難しいなあと最近感じています。

清雪の絡みもっとあった方がいいですか?

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