ようこそ幼馴染の教室へ   作:ひなぎ

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#17 おお、いしざきよ!しんでしまうとはなさけない!

―――――――――――――――――――――――

 

――― 椿雪 ―――

 

「やってくれたね」

 

「ククク、なんのことだ?」

 

 

 7月5日金曜日の放課後、翔くんや澪ちゃん、アルベルトくん、ひよりちゃんといった私たち5人はカラオケルームの一角で席を構えていた。

 

 4人ということで部屋も広く、翔くんは1番でかいソファに腰かけ足を組んでいる、ヤクザかなにかかな?

 

 ちなみに石崎くんたち3人がいないのは事件の当事者で翔くんと話をしていたら変な噂が立つことを危惧したから

 

 今日の朝の一件で気になったことがあったから、こうして集まれる子達を集めて話し合いの場を設けたわけなんだけど、前にいなかったひよりちゃんも気になる部分があるらしく参加している。

 

 そうして私は今日みんなを集めた本題を翔くんに向けて切り出す。

 

「Bクラスに干渉を止めさせたところかな、そもそも目的はDクラスの対処能力を知ることだったでしょ?そこまでやる必要はあった?」

 

「ハッ、オレがやった事はお前が言ったことと同じだ。今お前は矛盾したことを話してるんだぜ?」

 

「それともなんだ?巻き込まれたのが自分の知り合いだからって情が湧いたか?」

 

 矛盾しているという言葉を聞くとぐうの音も出ないし、少し前の私だったらそういう風に思い悩んでいたかもしれない。でもそれは割り切ったことだし、クラス間闘争において仕方の無いことだと思っている。でも私が気になっているのは別のこと。

 

「少し前の私だったらそうやってクヨクヨしたかもね。でもそれは須藤くんが引っかかったこと、Dクラスの団結力のなさが招いたことだし、間接的に中間テストで私が干渉したことでもある。私が気になってることは別のことだよ。」

 

「ククク、おもしれえ、話せ。」

 

「翔くんは自他共に認める自分至上主義者だと思ってた。だから私の意見を聞いて実行に移したことが、どうしても腑に落ちないんだよね。」

 

 翔くんは基本的に物事を自分で組み立てて考えてそれを私たちに命じるけど、基本的に重要なことは自分だけ知っておくに留めている。

 

 重要なことは隠して裏では自分1人で行動する、これが翔くんの基本行動だと私はこの3ヶ月で分析した。

 

 はずなんだけど、素直に私の意見を聞きいれて実行したことが、どうしても納得出来ないんだよね。

 

 そんなことを考えていると、翔くんはそんな私のことをさぞ愉快そうに、嘲笑うかのように、口を開いて話し始めた。

 

「クッハハ、たまたま興が乗っただけだ。」

 

「翔くんは意味の無い行動はしないよね?だから私なりに持論を立ててみたんだけど。」

 

「お前が自分からオレに降ったことといい、3ヶ月そこらでオレをそんな評価してることといいオレにとっちゃお前の方が理解できないがな、まあ聞いてやるよ、話せ。」

 愉快そうに話しつつも、見定めるような眼差しでそんなことを話す龍園くん、他の子達も眉をしかめて考え込んでいるわけで、私はその様子を眺めながらまた口を開いた。

 

「私が生徒会に入って翔くんに情報をあげた時、翔くんはある情報を見てる時間がずっと長かったよね。」

 

「は?ある情報?」

 

「……なるほど、そういう事ですか。」

 

 首を傾げる澪ちゃんとアルベルトくんとは対照的に、ひよりちゃんは目を逸らしてかわいい仕草をすると、どこか理解した様子を見せた。

 

 ひよりちゃんが思い至ったことに驚きつつも、どこか納得している自分がいる。それもまた面白いなと思うと自然と口角が上がった。

 

「この学校でプライベートポイントで買えないものは基本的にない、そして好きなクラスに移動する権利も当然買える」

 

「は!?それってつまり、」

 

「2000万プライベートポイントを貯める、いや、もっと上でしょうか?」

 

 「チッ」と舌打ちする音が聞こえて見れば翔くんの悔しそうな顔が見れて澪ちゃんは内心愉快だろうな、ひよりちゃんが「もっと上」と言った時に翔くんの目が泳いだのが見えたことから、翔くんの考えていることは別のことだろう。

 

「確かに私の考えを受け入れたのは偶然の産物なんだろうね、本当にたまたま興が乗っただけなんでしょ?」

 

「この審議で勝って受け取れるのは精々数万〜数十万のプライベートポイント、あるいは50にもみたないクラスポイント。」

 

「受け取ったのが50クラスポイントと仮定して、5000プライベートポイント、でもそれを40人で仮定すると20万プライベートポイント、それを1年で考えると240万」

 

「塵も積もれば山となる、僅かな額でもクラス貯金をするとなれば意味は大きく変わってくる。」

 

「は?クラス貯金?私たちはそんなのしてないでしょ?」

 

「5月頭に表向きで穏便にクラスが纏まったとはいえ、そこでクラス貯金するなんてなればヘイトは高いでしょ?ヘイト管理と考えれば説明がつく。」

 

「なるほど、龍園くんはそう考えたわけですか。思えば雪さんが持ってきた資料の中に今の2年生が1年生の時のクラスポイントの増減がありましたね。そして大きく変動したのが8月」

 

「ひよりよく覚えてるわね、えっとつまり?夏休みにクラスポイントが増減するイベントがあるってこと?」

 

 飲み込みが早いひよりちゃんもそうだけど、澪ちゃんも十分頭の回転は早い。こうやって推理していくのは探偵みたいで、どうしてなかなか面白いし、わくわくするね。

 

「そのイベントで結果を出して、翔くんがクラス中に認められれば、クラス貯金が現実的になってくる。」

 

「結果的に着地点は、8億ポイント集めて全員でAクラスに移籍すること、どう?」

 

 私がニヤニヤと笑みを浮かべながら翔くんに問いかけると龍園くんは少し悔しそうに、でも面白そうと感じている顔をしていた。ひよりちゃんはマイペースに現実的かどうかを考えていて、澪ちゃんは額にまず驚きが隠せないみたいで、この2人が対照的でなんだかおかしくて笑っちゃった。

 

「ククク、興醒めだ、俺の楽しみを先取りしやがって。」

 

「龍園あんたバカなの?」

 

「伊吹、いいか。年間に動いているプライベートポイントは膨大だ。退学者を抜きにすれば、各学年160人。3年全部合わせれば480人。もし仮に1ヶ月10万ポイントを全員から搾取することが出来ればそれだけで4800万ポイント。月に20万ポイント以上なら1億にも届く。」

 

「現実的ではありませんが、それを8ヶ月続ければ約8億。目標額に届くことも夢じゃないと?」

 

 ひよりちゃんがそう問いかけると翔くんは「そうだ」と肯定するように首を縦に振った。にしても8ヶ月ねえ、ざっくり過ぎないかな?って思ったのは突っ込まないであげるよ。

 

「これで満足か雪?てめえの見たかったものが見れて。」

 

「そうだね、不可能なこと程燃えてくる、男臭くていいと思う。」

 

「バカにしてんのか?」

 

「逆だよ、最高のリーダーだって言ってるの」

 

「まあ8ヶ月じゃなくて少しずつ皆さんから集めるにしても、数人にはクラス移動のチケットを与えられるでしょうね。」

 

「そういうこった、はっ、その全てを見透かしたような目、どうなってやがる。並の生き方してねえぞ。」

 

「自覚してるよ、もし私を潰すなら卒業式をおすすめするよ。楽しみは最後に取っておくものでしょ?」

 

「ちげえねえ、俺はショートケーキのイチゴは最後に残すタイプだ、てめえが自分のことを高く評価してるのは気に入らねえがな。」

 

「言っとくけどそっちがチャレンジャーだから」

 

「生意気な口だ。」

 

「龍園がショートケーキとか言ってるの笑えるわね。」

 

「Yes,so very cute」

 

「伊吹とアルベルトてめえら覚悟しとけ、殺すぞ」

 

 「ハハハ」と笑う龍園くん以外の私たち4人、翔くんが人の意見を聞き入れられる想像以上に柔軟な頭をしてることも把握出来たし、私の知りたかったことは大方知ることが出来た。

 

 だけどまあ、私は今回の事件は穏便に終わらせたいと思ってるんだよね。これが成功するとCクラスのためにならないしね。あとせっかく須藤くんが頑張ってたのにそれに水差す真似は嫌だから。

 

 あの部屋での清隆だったらまず真っ先に須藤くんは見捨ててるし、バスケ部を退部になり追い込んで罪をできるだけ重くして、精神的に破壊する作戦を取ってたと思う。

 

 その後に甘い言葉をかけて自分なりにメイクすれば忠実な駒の出来上がり、清隆はそういうやり方を好む。

 

 でも今のDクラスでそれをやるとせっかく団結し始めたDクラスはまた崩壊の一途を辿る。だから清隆は協力する姿勢を取ったのだと思う。

 

 できれば、そういう損得じゃなくて本人にとっては嬉しい変化が起きてるといいんだけどな。

 

 だけどこの借りは高くつくよ?可哀想だし清隆と志朗の計画に乗ってあげるよ。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 7月8日月曜日、今日は清隆の弁当の日だ、いつも通りひよりちゃんや澪ちゃんと食べ終わった後、時間を見計らって大地くんに話しかける。

 

「大地くん、ちょっといいかな?」

 

「雪?どうしたんだ?」

 

「実はある女の子から伝言を預かっててね、13時に2階の空き教室に来て欲しいんだって。」

 

「え?女子か?」

 

「うん、伝言は分からないんだけどとりあえず来て欲しいんだって、もしかしたら告白かもよ?」

 

「へへへ、そうか、雪ありがとな!時間なったら行ってくるわ!」

 

 私が乗ろうと思った計画は、着替え中の女子に大地くんないし小宮くん、近藤くんを鉢合わせるというもの。

 

 小宮くんと近藤くんはバスケ部で気が立ってそうで警戒心も強そうだったから石崎くんをターゲットにしたわけだけど、こうして大地くんの無邪気な顔を見ると結構心にくるかもしれない。

 

 これで他の2人だったらどこのクラス所属か聞くとか警戒心があったかもしれないけど、私というか同じクラスの子がこういうと警戒心がまるでない。この子いつか詐欺に引っかかりそうだね?

 

 伝言役は櫛田さん、今日は昼の後にたまたまDクラスの体育の授業があって良かった。櫛田さんにはもしもの事を考えて休みにしてもらっている。

 

 こうすることで、「ごめん!その子今日休みだったみたい!」で誤魔化すことが出来る。目には目を歯には歯を作戦だ。ちなみにその後は別のもので話題を逸らして記憶を無くしとけばOK、雑かもしれないけどそれぐらいでいいと思う。

 

 被害者予定は恵ちゃんと松下さんだけど、上手くいくといいな。死んだ顔で戻ってくるであろう大地くんは今度飲み物かアイスでも奢ってあげよう。

 

 プライベートポイントで監視カメラを買っても良かったんだけど、表向きBクラスで協力できない志朗とCクラスの私がプライベートポイントを貸し出すと足がつく可能性があるからやめようという話になった。

 

 リスクと確実性を天秤にかけた結果と言った感じかな。同じ女子としては松下さんと恵ちゃんに苦しさを覚えるけどね。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 軽井沢恵 ―――

 

 週は開けて7月8日、あたしは千秋と空き教室に入って準備をする。バスタオルで私たちの体を隠して、空き教室の後ろの棚で端末で動画を回して準備バッチリって感じ?

 

 他の女子を巻き込むのは抵抗あるって思ったから更衣室に来る時間もずらしてもらっている。ちょうどターゲットが来る時間の少しあとに来るはず、そこを挟み撃ちだ。

 

 普段のあたしなら絶対助けようなんて思わないんだけど、洋介くんも千秋も清隆も志朗くんも雪ちゃんもやる気だから負けちゃった。

 

 清隆が最初言っていたプライベートポイントで監視カメラを買って騙す作戦の方があたしたち女子にとっては良かったんだろうけど、櫛田さんとあたし、千秋、洋介くん、清隆、5人合わせてプライベートポイントが2万届かないのは流石に笑っちゃった。

 

 雪ちゃんと志朗くんも履歴が残るからリスク的にプライベートポイントを貸せないみたいで、あたしもやっと腹を括った。

 

 いじめの跡のお腹の傷は予め上を着ておいて隠した。

 

 須藤くん助けてくれるためにみんなが動いた。これは治そうと思って須藤くんが努力を積み重ねてきた結果、それは分かっているんだけど、

 

 どこか羨ましいなと思っている自分がいて、

 

 いつか、あたしじゃなくて「私」として、千秋や雪、洋介くんや清隆と関わりたい。そんな儚い願いが、叶って欲しいなんて強欲かな。

 

「恵?大丈夫?」

 

「え!?あ、うん。大丈夫だよ千秋。」

 

「そっか、悩んでることがあったら言ってね?」

 

「うん、わかった。ありがとね。」

 

 時刻は1時前、須藤くんの無実はあたしたちの手にかかってる。ちゃんとやらないとと思って気を引き締める。

 

 手筈通りに事が進んでいれば、もうすぐターゲットがやってくるはず。そして程なくして空き教室の扉が開いた。

 

 もしかしたら告白かも、デートの誘いかも、そんな期待や夢を膨らませたであろう顔をしていた石崎くん?だっけの希望は即座に打ち砕かれることになる。

 

「なんの用だ……え?」

 

「キャー!!!!」

 

 顔面蒼白、そんな言葉が似合うと思う。すかさず石崎くんに対して千秋が甲高い叫び声をあげた。

 

「松下さん大丈夫!?」

 

 叫び声につられてちょうどいいタイミングで前園さんと篠原さん、佐藤さんが到着。まだまだ来るはずだけど、状況証拠としては確実。

 

 これで女子更衣室を覗いたCクラスの男子生徒という構図が出来上がる。

 

「ち、ちがこれは!オレは女子が呼んでるって聞いて!」

 

「これは?理由はどうあれアタシたちの着替えを覗いたのには変わりないと思うんだけど?」

 

「そ……それは」

 

「松下さん大丈夫!?え!?ちょっと泣かせるなんてさいてーなんですけど?」

 

 え!?泣かせる!?聞いてないわよあたし!そう思って千秋の方見たら目薬で泣いてる振りしてたわ、策士ね。石崎くんに見えない位置で顔を逸らしたと思ったら私だけ見える角度に向かってかわいくウインクしてきた。

 

 ……ノリノリじゃん。ちょっと引くんですけど。

 

「あんたどこの誰よ?絶対訴えるから」

 

「し、Cクラス、石崎大地。」

 

 オロオロとする石崎くんに対して元々気の強い前園さんがグイグイ詰め寄る。若干声が上ずってる気がする。前園さんもちゃっかり楽しんでない?

 

「言っとくけどカメラ回してるから、逃げなかったのは評価してあげる。」

 

「そ、そんな、どうすれば……」

 

「退学は無いとしても停学は避けられないかもね。しかもこの映像を提出すれば一生覗き魔ってあだ名がついて3年間生きていくことになるよ」

 

 あたしがそういう風に論理立てて説明すれば石崎くんは「どうしようどうしよう」と呪文のように唱えて頭を悩ませている。

 

 錯乱状態の子に要求を通せば大体は通る、あたしがそうだった。

 

 ここらが潮時かな?って思って追い打ちをかけていくことにした。

 

「今回の事件、須藤くんを訴えたことを取り下げてほしいんだよね。」

 

「は!?なんでだよ!俺たちは嘘を言ってない。被害者なんだよ俺たちはっ。ここに呼び出されて須藤に殴られた。それが事実だ」

 

「ふーん、じゃあこの映像提出しちゃおっかな」

 

 そう言ってあたしは録画を回していた端末を石崎くんに見せつけて動画を流す。動画にはバッチリあたし達が着替え中に入ってくる石崎くんが映っており、それを見た石崎くんはあからさまに狼狽えていた。

 

「今回の事件、君たちが嘘をついたこと。最初に暴力を振るったこと、全部お見通しなんだよね。それを明るみにされたくなかったら今すぐ訴えを取り下げてくんない?」

 

「う、い、1本電話をかけさせてくれ」

 

「だめに決まってんじゃん、あんたが今訴えを生徒会室に取り下げに行かなきゃあたし達は代わりに映像を提出するから。」

 

「そ、それは、わかった、わかったよ!取り下げるから!それだけはやめてくれ!!!!」

 

「交渉成立ね、」

 

 焦らせることで思考の時間を削いで、逃げ道を1つずつ、確実に封じ込めていく。

 

 尋常じゃないほど多量の汗をかきながら、石崎くんは半ば頭を抱えるようにしてふらついていて、汗を拭う制服の袖口はびっしょりと濡れていた。

 

 今の石崎くんはあれね、「おお!いしざきよ!しんでしまうとはなさけない!」うん、この言葉が似合うわね。

 

 あたしたちの勝利だ、そう思いながら、あたしは千秋を心配するように膝をついて目を覆っている手に対して拳を握りしめて突き出す。

 

 それに対して千秋はニヤリと笑って、あたし達は「コンッ」と拳を鳴らした。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 椿雪 ―――

 

「ほんとに迷惑かけた、すまねえ!」

 

 そうして審議が取り下げられ、放課後、私は学校の玄関を出たベンチの前で須藤くんに頭を下げられていた。

 

「え?なんで私?松下さんとか恵ちゃんとか清隆とか洋介くんにお礼言った?」

 

「あたぼうよ!でも軽井沢から雪も協力してくれたって聞いたからよ!」

 

「はあ〜恵ちゃん余計なこと言ってくれたなあ」

 

 まあその無駄にお節介なところが恵ちゃんの魅力かもね、本人がベロを出して可愛くウインクしてる姿が想像出来る。

 

 そんなことを考えつつ私はため息をついて須藤くんに問いかけた。

 

「今回の事件は、須藤くんの日頃の行いが招いたことだよ。事件の真実や嘘なんて些細なことで、大切なのは事件そのものを起こさせないこと。須藤くんだって本当は分かっているでしょ?」

 

「う……」

 

 私は須藤くんに大して厳しい言葉を投げかける。須藤くんはしかめっ面で「うう」と唸っているけど、それに遠慮しちゃいけない。

 

 飴と鞭の使い分け。彼のためを思うなら、だ。

 

「でも君のことは近くでよく見てきた。だから今回足りなかったものといえば、印象を変える時間なんだろうね。」

 

「雪……」

 

「私が協力したいと思ったのは君の頑張る姿に惹かれたから。自分の非を認めて、変える努力をしている。だからクラスメイトにも助けたいって思われた。それは須藤くんが2ヶ月で積み重ねてきた成果なんだよ。」

 

「分かってんよ……。そもそも俺がしっかりしてれば、俺が相手を殴りさえしなきゃ、こんな大ごとになることはなかった。どっかではわかってたんだ」

 

「そうだね、わかってるならそれでいいと思う。でも卑屈にはならないで」

 

「大切なのは次にどうするか、須藤くんは2ヶ月でクラスメイトからの心象を変えられた。高校生活の3年間の中で、たった2ヶ月でだよ?」

 

「君の努力を見てる人は近くに大勢いる。それを忘れないで、もうひとりじゃないよ。」

 

「そうか……そうだよな、バスケも喧嘩も、自分が満足するためだけに突っ走ってきた。けど、今はもうそれだけじゃないんだな……俺はDクラスの生徒で、俺一人の行動がクラス全体に影響を与える。それを身をもって体験したぜ……ありがとよ。」

 

「どういたしまして、そういえば最近通話かけてこなかったけど負い目があったからかな?」

 

「あ?ああ、そうだ。火のないところに煙は立たねえからな」

 

「それ使い所あってる?笑じゃあ今日久しぶりにする?」

 

「おう!じゃあまたな!」

 

「またね〜」

 

 そう言って私は須藤くんに手を振る、振り返して走っていく須藤くんを見送って、見えなくなった後、ホッとため息をついた。

 

「……そろそろ出てきたら?翔くん。」

 

「気づいてたのかコウモリ野郎。」

 

「そりゃね、気づくよ。」

 

 ホッと胸をなでおろしたように私はベンチに腰かける。そしてそれを見て翔くんは隣ではなく、ポケットに手を突っ込んで下目に私のことを見た。

 

「Dクラスは相手になりそう?」

 

「ククク、最初の潰しがいにはちょうどいい、お前が協力したのは頂けねえが」

 

「そう、良かった、石崎くんは?」

 

「表向きは締めた、だがあんまり目に余る行動はするんじゃねえ。」

 

「この騒動がCクラスの勝ちに終わったらCクラスの為にならない、クラスの地力に頼らないでギリギリを攻める戦法はいずれ限界が来る。」

 

「どうだかな、最後に立ってるのはオレだ。」

 

「そのタフさが続けばいいけどね、怖くないの?」

 

「恐怖なんて俺にはないのさ。一度も感じたことがない」

 

「っぶな」

 

 翔くんはまっすぐ左足を踏み込み、同時に距離が近づき私は咄嗟に左手で顔をガードする。そして突き出してくる右手を横にそらして流した。

 

「ククク、不意打ちでも躱すとかどうなってやがる。」

 

「恐怖……か。」

 

 想い人に突き放されそうになった恐怖、痛みによる恐怖。どれも私の根底に根付くもの。

 

 私はそれがどれだけ愚かで、敗北者が惨めで恐ろしいことかを知っている。

 

 目の前で、何度も何度も崩れ落ちていく存在を見てきて、それに恐怖してカリキュラムに打ち込み続ける。

 

 今考えれば、そんな私の姿は清隆や志朗にとって滑稽だったかな。

 

「その全てを見透かしたような冷めた目、何度見ても気味がわりい。」

 

「昔からこういう目なの、仕方ないでしょ?」

 

「ハッ、今はそれでいい。お望み通り潰すのは最後に取っといてやるよ。」

 

「そう、ショートケーキのイチゴにドラゴンファイヤーして待っとくね。」

 

「殺すぞ」

 

「おーこわいこわい」

 

 そうやって気の立った翔くんは「チッ」と舌打ちして去っていく。私はその後ろ姿を見て、

 

「私たちがAクラスに上がるために必要なピースは、同時に邪魔なピースでもある」

 

「どうしたものかな」

 

 そうして零れた私の疑念は、梅雨終わりの湿った空に溶けて消えた。




巻きで行きましたが、これにて暴力事件編終了になります、と言いたいところですが、佐倉のストーカーのパートを挟んで無人島編へ行きたいと思います。

清雪の絡みもっとあった方がいいですか?

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