ようこそ幼馴染の教室へ   作:ひなぎ

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「盲目的に盲動的に妄想的に生きて、
衝動的な焦燥的な消極的なままじゃ駄目だったんだ」

『言って』 ヨルシカ


#18 Look at me

―――――――――――――――――――――――

 

――― 綾小路清隆 ―――

 

「ストーカーされてる気がする?」

 

「う、うん。」

 

 7月9日放課後、時間は16時前といったところ、Cクラスの訴えも取り下げられDクラスの勝利となり祝福ムードのクラスと一転して、オレと千秋は佐倉に呼ばれ、オレの部屋で話を聞くことになった。

 

 本来ならCクラスとDクラスの審議があった今日の今頃、千秋が佐倉の話を聞いて首を傾げた。

 

「ストーカーか〜、誰がつけてるとか心当たりあるの?山内くんとか?」

 

「え!?あ、ち、ちがうよ!」

 

 千秋の発言に対して慌てて訂正する佐倉だが、オレ個人の思いとしては唐突な流れ弾を食らった山内に対して涙を禁じ得ない。だがストーカーしてないかと言われればうちのクラスの大半は首を傾げる気がするので納得できる人選である。

 

 この前のことで引き合いに出すといえば「佐倉に告白されたけど、ブスだから振ってやったぜ!」と山内が言っていたことか。その時に話を聞いていた千秋と恵が人を刺すような凍てつく視線を浴びせていたのは記憶に新しい。

 

「人目に敏感な佐倉が気がするってことは、十中八九被害にはあってるんじゃないか?オレとしては千秋だけじゃなくてオレにも話を聞いてもらいたいっていうのがちょっと引っかかったが。」

 

「えっと、松下さんは付きっきりで勉強を見てくれたし、綾小路くんも少し勉強を教えてくれたりしたので、あと、2人とも目が怖くなかったから……」

 

「目……?」

 

「あ!忘れてください!」

 

「?そう?まあ、話してくれたってことは私たちが信頼されてるってことだから、そういう意味では悪い気しないよね、清隆くん?」

 

「……そうだな、こうして佐倉が自分からオレたちに相談できたのも佐倉の成長だな。」

 

「……そう、なのかな?」

 

 「えへへ」と照れくさく頬を掻く佐倉に、千秋がじゃれあいのように軽く小突く。佐倉も5月の最初と比べれば人にだいぶ歩み寄れるようになり、笑顔を浮かべることが増えてきた。

 

「松下さんには言ったんだけどね、私、写真を撮るのが好きなんだ。」

 

「なるほど、写真というと、風景とかそういうやつか?」

 

 ふと写真と聞いて、この学校の風景を撮って面白みはあるのか、という疑念がオレの中で渦巻いていた。クラス間闘争のポイントゲームの中で鬼気迫る表情を撮る、そういう感じだろうか?

 

 佐倉にそんな趣味があったとは、意外と佐倉はジャンキーな精神をお持ちらしい。表向きは弱気だが裏ではFPSやバイオハザードなどに打ち込んでストレス発散するタイプと聞いてもオレは驚かない。

 

 普段弱気な佐倉が「ぶっ飛ばすぜべイベー!」とか言っていたらさすがに驚くが。自動車のハンドル持ったら性格変わるタイプだろうか?

 

「清隆くん、私は今清隆くんが考えてることはわからないけど、多分今清隆くんが考えてることは間違ってると思うよ?」

 

「え!?綾小路くん何を考えてたんですか?」

 

「……人間の二面性についてだ。」

 

 苦し紛れにとっさにでてきた言い訳だがどうしてなかなかいい言葉のチョイスだと自分でも思う。『チ。』をもじって言葉遊びでもしようか……あんま良いとは思えないな。櫛田みたいな皆に愛想を振りまいて善性な人間が実は裏で悪口を言いまくる腹黒タイプだったらもう少しタイトルの捻りようがあったのだが。

 

 クリオネ、天使を語る魔女、ダメだな。今日のワードセンスはいまいちだ。

 

「えっと、その風景じゃなくて、自分のことを撮ってるの。」

 

「自分のこと……自撮りってやつか?」

 

「そう……それで実はその撮った写真をインターネットに投稿してるんだけど。」

 

 なるほど、写真を撮って投稿するとなると、最初に思いつくのはInstagramだろうか?もしこれで佐倉がフォロワー10万超えのインフルエンサーでピアスや露出の多い服装をバチバチに決めて「今日はちあきっちとツーショット、きゃぴっ☆」「新作のフラペチーノまじ映え〜」とか上げていたらオレは無言で目をそらすことにしよう。

 

 どうしたものかと考え込んでいると、佐倉は持ってきたカバンから自前のノートパソコンを取りだし、しばらくしてカタカタとキーボードを打ち込み始めた。

 

 意外と打ち込むのが早い、これがギャップってやつかと感傷に浸っていると、千秋に「大丈夫?」と声をかけられる。聞いてみれば、どうやら今日のオレは特にぼけーっとしているらしい。

 

 そういえば志朗や雪の中学にはブラインドタッチではなく、人差し指だけでキーボードを物凄い勢いで打ち込む猛者がいたらしい。ちなみにその猛者のあだ名はケンシロウだそうだ。

 

 自然とストンと納得できたし外村と勝負させてみたいとも思ってしまった。とりあえず心配してくれている千秋に対して「大丈夫だ」と返したところで、佐倉がノートパソコンの画面をこちらに見せてくる。

 

 千秋と左右から覗き込むと、そこには水着やどこか際どい衣装を着てにっこり笑っている女子がいた。

 

「これは、佐倉か?」

 

「佐倉さん、話しても大丈夫だったの?」

 

「う、うん。いつかはバレると思ってたし、綾小路くんなら大丈夫かなって。」

 

「……そうか。」

 

 佐倉がみせてくれた写真は、主にブログに掲載されており、写真の佐倉は普段の眼鏡姿から一転して、明るい様子がうかがえた。

 

 アイドルとして活動する一方、学校では目立たない物静かな生徒。コインの表裏のようにまるで違う二面性を生み出した理由はなんだったのだろうか。

 

「……清隆くん?」

 

「……やっぱり、そのメガネは伊達だったんだな。」

 

「え!?気づいてたんですか?」

 

「レンズの向こうの歪みがないのに、伊達メガネをしているのは不自然だろ?オシャレのためって言われても佐倉がおしゃれするタイプとは思えないしな。」

 

「前から思ってたけど恵のことといい無意識に攻撃するタイプだよね清隆くんは。」

 

「あはは、松下さん大丈夫、実際その通りでもあるから……」

 

 「大丈夫だよ」と千秋を宥める佐倉を横目に、やはりオレの中では疑念が拭えない。佐倉がメガネをかけていた理由は素の自分を見せたくないから?

 

 いつも前屈みな姿勢。人と目を合わせない。ただ人が嫌いだとも思えない。視線恐怖症の類いだろうか?そんなことを考えている横で、佐倉が再び口を開いた。

 

「それで、実は私グラビアアイドルで、『雫』って名前で、このブログをはじめとして色々活動してたの。」

 

「グラビアアイドルか、サラッとすごいこと言ったけど大丈夫なのか?そりゃ言いふらす真似なんてしないが、」

 

「それはそうだけど、そこでストーカーの話につながってくるってかんじ……かな。」

 

「グラビアアイドルか……こういうのに縁がなくて、あまりわからないな。」

 

「清隆くんっていかにも寂しそうな人生送ってそうだもんね。」

 

「なんて言うことを言うんだ。さすがにそんなことは……ないはずだ。」

 

「あはは、ごめんね。少なくとも私は清隆くんとかかわっててたのしいから、そんなめげないで?」

 

 けらけらと千秋が笑う中でオレは思わずため息をついた。さすがにそんなことはないはずだ。ないよな?

 

「それで、話を戻すが、ストーカーの証拠というか目星は着いてたりするのか?」

 

「えっと……これなんだけど……」

 

 そうして佐倉が手に取ったカバンの中には、手紙が入っていた。それは一通にとどまらず、何十……百にも届きそうなものだった。それに加え、盗撮されたであろう写真も大量にあり、千秋はこれらの証拠は初めて見たのか、顔を青ざめさせ、また同時に拳を握りしめて震えていた。

 

「ストーカーされてる気がするって言うか……クロじゃないか?」

 

「キモすぎ、マジできしょい、ほんと無理。」

 

 千秋は続けて佐倉がカバンから取りだしたブログについていたコメントのスクリーンショットを印刷した紙を見ながらぶつぶつとそんなことを呟いていた。

 

 『いつも君を近くに感じるよ。』『運命って言葉を信じる?僕は信じるよ。これからはずっと一緒だね。』ストーカーであろう人のコメントが多数紙に列挙され、並の女子なら恐怖に震えているだろう。

 

「ねえ、わ、私、どうしたらいいのかな……?」

 

 今にも泣きそうな様子でぷるぷると震えている佐倉を見て、千秋が佐倉の手をぎゅっと握る。すると震えていた手は若干落ち着いたようで、過呼吸も収まったようだ。

 

「嫌かもしれないが、警察が一番だろう。こういうのは1人で解決しようと思うほど最悪の方向に進む。」

 

「そうだね。清隆くんの言う通りだと思う。この学校はいじめ問題に敏感だって茶柱先生も言ってた。それなら同じようなストーカー問題も対応してくれると思う。」

 

「や、やっぱり学校に相談するのが一番いいよね……」

 

「万が一もあるし、私も一緒について行こっか。清隆くんもいく?」

 

「そうだな、万が一のことを考えて男手もあった方がいいだろう。」

 

「うん、やっぱり2人に相談してよかった。2人ともありがとう。」

 

 笑顔ではにかむ佐倉に千秋がたまらず抱きつく。外を見ればもう夕方、明日にでも茶柱に相談して警察を動かせば、佐倉も平和に学校生活を過ごせるようになるだろう。

 

 じゃれあって笑う2人を見て、今日の1日は終わっていった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 軽井沢恵 ―――

 

 7月9日19時頃、私は洋介くんと千秋と3人で清隆の家の前に来ていた。

 

 たまに清隆たちと一緒に晩御飯は食べるけど、今日の件名はいつもと違う。

 

 私がこの学校に入学して早3ヶ月、結局のところ何も変わることは無かった。いや、変わるつもりなんて最初からなかったのかもしれないけど。

 

 良い意味でも悪い意味でもあの時のまま、私の時計の秒針は、ずっとあの頃で止まっていて、

 

 でもそれを変えようとは思わない、苦痛と思わない、それを望んでしまう自分がいて、どうして私が、どうして、どうして?どうして?ずっと繰り返した言葉。

 

 次は失敗しない、そう思ってこの学校に入学して、平田洋介くんという優しくてかっこいいみんなからしたわれる男の子を寄生先にして、虚勢を張った。

 

 でも、風呂場の鏡で脇腹の古傷を見る度、おぞましい過去が顔をのぞかせて、あの時の惨めさ、受けた屈辱が、記憶が、何度も頭の中でフラッシュバックして、

 

 毎晩自己嫌悪の念で苦しむ。変わるつもりなんて最初からなかった、なんて言ったけど、心の底では変わりたいと思っている自分がいたのかもしれない。そう考えると皮肉な話。

 

 結局あの時と私は変わっていない。『あの時』と同じで、楽な方に逃げて、

 

 入学時から1番変わった須藤くんを見て、どこか疎外感を感じてた自分がいて、どこか、眩しかった。

 

 楽な方を選ばず、先を見て努力する。そんな姿勢がうかがえた。

 

 私もわかっていたはずなのに、『あの時』と同じ思考を繰り返している。

 

 なんて愚かで、惨めで、滑稽な話。

 

 この高校に入学してから、あたしが『私』として話せると思った人。雪、清隆、志朗。

 

 虚勢を張って気丈に振舞っているあたしは、いつのまにか3人に絆されていて、

 

 人を見定めているような、どこか無機質な、下心も一際の思いもない、黒く濁った瞳。どこか闇を孕んでいて、どこかフラッと惹かれてしまうような。

 

 そんな3人だから、洋介くんや千秋、麻耶とももっと対等に話したい、聞いて欲しい、そんな思いを持ったのかもしれない。

 

 怖い、またあの時に戻るかも、やだ、捨てないで、そんな思いを押し殺して、あたし、私はインターホンを鳴らした。

 

 「はーい」とココ最近で随分と耳に馴染んだ、聞きなれた声が聞こえたと思えば、ドアが開いて声の主の志朗くんと雪ちゃんが出迎えてくれる。

 

 清隆はどこだろう?と思って雪に聞いてみたら今日は清隆が料理当番らしくて、キムチ鍋を作るそうだ。楽しみだなと思いつつ部屋に入れば3人の趣味がよく混ざった空間が現れる。

 

「なにか手伝うことはある?」

 

「いいや、いいよ。今日はお悩み相談みたいな感じで来たんだろ?座ってていい。」

 

「そっか、ありがとね。」

 

 なにか手伝うことがあるかと聞けば、座ってていいという志朗くん、お言葉に甘えてクッションに腰かけて座ると、続けて千秋や洋介くんも座った。

 

「白菜って茹でてる時にいっつも思うんだが、柔らかくなった時やっとくたばったかこいつって感じがしないか?」

 

「わかる、って待って!?清隆私のハーゲンダッツ食べた!?」

 

「あれ?名前書いてなかったから別にいいやと思ったんだが、つーか人の家に自分のものを置いてくのはどうなんだ?」

 

「死罪だよ清隆!ギルティギルティ!あと私のものは私のもの、清隆のものは私のものだから、これテストに出るよ覚えといて。」

 

「出ないと思うがな。なんだそのジャイアニズムは。」

 

 台所の様子を伺えば、いつものように3人が談笑している。雪や志朗くんがふざけて、そこに清隆が突っ込んで、彼らにとっては、何気ない日常の一コマで、

 

「清隆くん意外と喋るね、椿さんや綾雪くんと幼なじみって言ってただけあって。」

 

「あはは、あの3人はいつもあんな感じだよ。3人とも自然体というか、ギャップがあるよね。」

 

「……そうだね。」

 

 ふらっと、どこか羨ましいと、そんな思いが頭をよぎった。千秋や洋介くんとしばらく談笑していると、ふわっと生姜やニンニクの香りが、油や豚肉と絡まって惹かれる匂いが漂ってくる。

 

 あい匂いだな、そう思ってしばし、鍋が運ばれてくる。

 

 「わ〜」と千秋や洋介くんと3人で目を輝かせる。鍋の中にはネギやエノキ茸、木綿豆腐やタラの切り身など色とりどりの具材が添えられていて、終わりに彩るように炒めたニラと半量のキムチが際立っている。

 

 雪によそう用のお皿を貰ってとりあえずと思ってえのきやネギ、木綿豆腐からよそっていく。6人で「いただきます」と言い合ってから口に運ぶと、酸味とネギの甘み、エノキのシャキシャキ感が相まって頬が緩む。

 

「これおいしいんだけど、清隆くん料理できたんだ?」

 

「酷くないか?たまに食べてる弁当のうちオレが作ってるやつは見た事があるはずなんだが?」

 

「思い返せばそんな記憶もあるかも?だし巻き玉子がめっちゃ美味しかった記憶あるけど。」

 

「清隆卵料理得意だよね。最初に作った時は焦がしてたけど。」

 

「懐かし、でも2回目からはほぼ完璧みたいなもんだったけどな。」

 

 千秋、雪、志朗、清隆が談笑している光景を眺めて、ふと横に目線をやると洋介くんがタラの切り身を何回も何回も「フゥー」「フゥー」と吹きかけて冷ましていて、その光景がなんだかおかしくて笑っちゃった。

 

 それを見て気づいた洋介くんが私と顔を見合わせてふにゃりと頬を緩めて笑う。「いちゃつくなー!」って雪と千秋が茶化して、それもまたおかしくて、みんなで顔を見合せて笑いあった。

 

 というより千秋の打ち解ける速さ異常じゃない?雪と志朗くんとそんなに話してた記憶は無いけど、もう笑いあってご飯を食べている。

 

 仲良くするのに越したことはないか、と思って私の中に考えを押し込むことにして、ご飯を食べ進めていくと、楽しい時間はあっという間にすぎるもので、

 

 気づけば、締めのうどんまで食べ終わっていて、色々片付けたあと、再び机にみんなが集まる。途端に私の中で恐怖という感情が押し寄せる。

 

「みんなに、聞いて欲しいことがあるの。」

 

 震えて上擦った、あたしの声が場の空気を包み込む。この中で事情を知っている洋介くんは不安げに私の顔を心配そうにのぞきこむ。それにつられて、千秋も雪も志朗くんも清隆も、黙って、息を呑み込んで、私の口から出る言葉を待っている。

 

「あたし、中学でずっと虐められてたの、その、上履きに画鋲とか、机の中に動物のアレが入ってたり、トイレに入ったら汚水をかけられたり、髪を引っ張られて殴られたり、蹴られたり、そんな、虐められっぱなしで、格好悪いやつがあたし。」

 

 こわい、こわい、怖い、助けて、たすけて、とめどない思いがあたしを襲ってくるけど、ぐっと歯を噛み締めてグッとこらえる。そして、あたしは次の言葉を、ゆっくり紡いでいく。

 

「須藤くんを見て、気弱だった佐倉さんがクラスメイトの前で証言者だって言ったのを見て、あたしはなんか憚られる気持ちになった。あたしは変わってないのに、周りが変わって言って、あたしだけ置いてかれるような気がして、」

 

「周りの子に嫌われても、気丈に振る舞うあたしを色眼鏡なしで見てくれる洋介くん達には、知って欲しかった。どこか、ここにいる時は、あたしはどこか穏やかな気持ちになれたから。」

 

「あはは……あたし何言ってるんだろ……都合いいだけじゃん……。」

 

 あたしの目頭から涙がぽた、ぽたとまたひとつ垂れていく。そんな様子を見て、最初に口を開いたのは、まさかの清隆だった。

 

「オレが入学してから見てきた恵という人間は、生きるために、周囲を強引に味方につけて、その座を守り続けてる。それがオレの恵に対するクラスの印象だった。」

 

「いったい、なにがお前を変えた?オレにはまだ一番言いたいことが言えてないように見えた。」

 

 ああ……やっぱりどうして、この人はこんなに鋭いんだろうか。目の奥、脳、心の奥に響くように、あたしの中に、清隆は、雪は、志朗くんはガシガシと入ってくる。

 

 瞳の中にある闇があたしの闇と重なって、混じりあって、溶けて消える。それは、あたしの根深いところに深く根付いて。

 

「みんなと……本当の友達に……なりたかった……!」

 

 あたしの、内に含んだ思いを吐き出す、自分でも何言ってんだろって思う。ほら、洋介くんとか千秋とか鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてる。

 

 そして辺りがしばらく、静寂に包まれると、雪と志朗と千秋は、やがてお腹を抱えて笑い出した。

 

「あはは、あははははっはははは笑笑」

 

「えっ!?ちょっ!?なんで!?」

 

 あたしが思わず素っ頓狂な声を出せば、またそれがおかしくて雪や志朗くんは笑い出す。やがて笑い疲れたのか、千秋は瞼を擦って口を開いた。

 

「隠し事のひとつやふたつぐらい誰にでもあるでしょ、もしかしてそれ言っただけで私が友達やめると思ったの?ならそれはそれで私ショックなんだけどなー?」

 

「ちょっ!?千秋そんなこと言わなくていいじゃん!あたしめっちゃ勇気出したのに!」

 

「いやー見た目に反してクソ真面目ってやつ?恵ちゃん可愛いねーうりうりー!」

 

「わっ!くすぐったい、あはは、くすぐったいってばー!」

 

「洋介は知ってるって感じだったな。彼氏の契約もちかける時に言われたか?」

 

「え?志朗くん気づいてたのかい?」

 

「そりゃ不自然な点が多かったからな。なあ清隆?」

 

「ああそうだな、わかりやすいとこといえば、付き合ってから最初の1ヶ月位は苗字呼びだったことか。」

 

「あはは、こりゃまいったな……でも、今なら良かったかもね。」

 

「……お前も話したくなったら話すんだぞ。」

 

「うん、その言葉が聞けただけ、僕は救われてるよ。」

 あーあ、間抜け。あたしってば本当、馬鹿だなあ。結局空回りしちゃった。みんなはあたしのことそんな目で見ないって、あたしはわかってたはずなのに、

 

 洋介くんに守ってもらう、みんなに守ってもらう。ほんとあたしって独りじゃ何も出来ない女よね。

 

 でも、そんなあたしが今は、なんだか心地良い。それはそれで、なんとなくあたし、格好いいじゃない?1人がダメなら2人で、2人がダメなら3人で。

 

 どこか、今が誇らしかった。もっと昔から、みんなと囲うご飯が、みんなと遊ぶ時間が暖かいものだって、身に染みて気づけてたら、もっと違う未来もあったのかな、なんて思わないことは無いけど。でも、あの時のあたしも紛れなく私だった。

 

 さようなら、偽りだらけのあたし。

 

 さようなら、無機質な昔のあたし。

 

 こんにちは、まだ見ぬわたし。

 

―――――――――――――――――――――――

 

――― 椿雪 ―――

 

 洋介くんと千秋ちゃん、恵ちゃんはしばらくして帰って、志朗も、今日はやることがあるって言って、今日は2人っきり。

 

 恵ちゃんは千秋ちゃんはもっと勉強できるって知って、驚いてたり、志朗がDクラスの事件を受けてボイスレコーダーをみんなに渡したり、まあ今日は色々あった。

 

 久しぶりに2人きりだなと思いながら、私はお風呂から上がって、ドライヤーで髪を乾かす。

 

 部屋に戻ると、勉強机に本を置いて、じっくりと清隆が読み込んでいる姿が目に見える。どこかやる気なさげな、気だるげな目、つんつんした茶髪。それら全部どこか、愛おしくて。

 

「コーヒーと麦茶、どっち飲む?」

 

「コーヒーで頼む。」

 

「わかった。」

 

 清隆はコーヒーが好きだ。器具をお湯でくぐらせて温めて、フィルターをセットして、袋を開けるだけでふわりと香るそれを入れて、お湯を注いで、そんな一連の動作を、清隆はいつも、熱の篭った視線で見ている。

 

 自分で煎れるのも好きな清隆だけど、私や志朗がいれるのもよく見てるから、それは相当なんだろうね。

 

 一連の動作を繰り返したところで、ドリッパーを外してコップに注いで、お盆に2つ分乗せて持っていく。

 

「……美味いな。豆……じゃないな。単純にいれ方か?」

 

「よくわかったね。志朗はこっちの方が好みだよ。清隆もそっちの方が好きかな?」

 

「……ああ。」

 

 褒められて満更でもない私を見て、読書に舌鼓を打つ清隆。最初はそれほど上手く入れられなかったんだけどな。清隆のを何回も見て、やっとのこと覚えたっけ。

 

 それでも、清隆の味にはまだ勝てないわけだけど。

 

 コーヒーを飲みながら読書をする姿はどこか様になっていて、私は思わず、ツンとしながらも、ふわりとした、そんな矛盾した清隆の髪の毛を撫でる。

 

「……なんだ?」

 

「んーん、犬みたいだなって。」

 

 目を細めて、喉をゴロゴロと鳴らす清隆。犬みたいって言ったけど、やっぱ猫かもね。髪から視線を落として、もちもちとした頬の肌へなぞっていく。

 

 そんな私の挙動を、清隆は鬱陶しそうながらも、突き放すことはなくて、それがどこか、嬉しくてたまらなかった。

 

「そんなに撫でて暇なのか?」

 

「そうかもね、この前書店で買った新刊は読み終わっちゃったからね。」

 

「だからオレをくすぐるのか、性格悪くないか?」

 

「あれ?余計なことを言うのはこの口かな?あんま生意気言ってたら塞いじゃうぞ?」

 

「あー、わかったわかった、すまん、降参だ。」

 

「ふふふ、それでいいのです。」

 

 わざとらしく、大手を振って降参と宣言する清隆に、私はむっすーと鼻を鳴らして満足気に頷く。

 

「仕方ないな、降参した清隆くんに免じて、私が明日のお弁当を作ってあげよう。」

 

「……元から雪じゃなかったか?」

 

「こういうのは頷いとくもんだよ?女の子にモテないよ?」

 

「……善処する。」

 

「……私だけ……だから。」

 

 そうして小声でボソッと呟いた声は、私たち2人の雰囲気に解けて消えて、終ぞ聞こえることは無かった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

「ん、ふぁーあ。」

 

 口から漏れ出る眠気を抑えながら、台所で3人分の弁当をまとめる。昨日余らせていたひじきの煮物を入れて、3つ冷蔵庫に入れて、とりあえず作業は終わり。

 

 手を洗い終えて、また清隆をからかいにでも行こうか、なんて考えて清隆の方に向かえば、すやすやと寝息が聞こえてきて。

 

「……すぅ……すぅ……zzz」

 

「……疲れてたのかな?」

 

 そんな言葉が漏れて、なんかおかしくて、クスッと笑ってしまった。こうして見ると、ほんとに、綺麗な顔だなあ。

 

「風邪ひいちゃうよ。」

 

 そう一言入れて、清隆のベッドから毛布を持ってきて、清隆にかける。もし起きてたらゲームでもしようかな?って思ったんだけど、今の清隆を起こすのはどこか忍びない感じがする。

 

 でも、ちょっとだけイタズラをしてみたいという好奇心には勝てなくてもちもちとしたほっぺを少しだけ触ってみる。

 

「ん……」

 

 かわいい、ふとそんなことを思ってしまう。清隆は今、心から楽しいって思えているだろうか、どちらにせよ、私と志朗は、清隆のやりたいことに手を添える、サポートするから。

 

 Dクラスはまとまりを見せている。1人1人が、当事者意識を持って、変わり始めている。クラスポイントではなく、純粋にその姿勢は脅威と言える。

 

 そんな変わり始めたクラスに、清隆が影響されていれば嬉しい、なんて。

 

「妬けちゃうなあ……」

 

 そんなことを思いながら、Dクラスから目を離せていない彼に、私はどこか邪な思いを抱いていて、

 

「……っ」

 

 「チュッ」と、周りにリップ音が響いて、清隆と私のシャンプーの匂いが漂う。

 

「いつか、私も見てね」

 

 だから今はチークで、いつかあなたから、私の口にして欲しい。

 

 そんな儚げな思いを抱えて、私は清隆の部屋を後にした。




清隆の恋愛フラグを尽く折っていくストロングスタイル。
初期の軽井沢ってだいぶ無理してる感ありますよね。
次から無人島試験です。

清雪の絡みもっとあった方がいいですか?

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