元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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第十話 旅の途中

 

 ヴィルトとリア。アンタレスの二組に別れ買い物を済ませた三人は街の外に来ていた。

 街道の少し外れに魔車を置き、魔車の中で三人は地図を見る。

 

「ここがルテンラの街。でここが次の街パーグソルトよ」

 

 ルテンラの街の左上に次の街。パーグソルトはある。

 

「ここからどれくらいだ?」

 

「馬車で二週間、魔車だと十二日ってとこね。アンタレスさんの脚力だともっと早いかも」

「当然です。私の身体能力は人間の想像の域を超えているのですから」

 

 ふふん、とアンタレスは己の能力を誇る様に胸を張る。

 

「その他の諸々は移動しながら話ましょ」

 

 リアはそう言うとアンタレスに顔を向ける。

 

「という事で、お願いしてもよろしいですか?」

「人間の言う事を聞くのは癪ですが、まぁいいでしょう」

 

 アンタレスは魔車から降り、魔車の先端部分に移動する。

 アンタレスは魔力で太い縄を作り、自身と魔車を繋げる。

 

「では行きますよ」

 

 そう言うとアンタレスは走り始める。

 魔車と繋がっているというのにそれを感じさせない気楽さだ。人外の膂力をもって魔車が徐々に移動していく。

 

「は、速いわね」

 

 リアはその速度に圧巻され、ヴィルトはまぁこんなものかと涼し気な顔だ。

 

 そして街から離れたところでアンタレスの姿が変わる。

 

 全長十メートルはある巨体。漆黒の鱗に覆われた蜥蜴の姿。

 蜥蜴の腕の部分は被膜の付いた翼に変わっている。

 俗にいうワイバーンと呼ばれる魔物の姿だ。

 頭部からは黄金の角が二対飛び出ている。

 何処か気品さえ感じさせる姿を持つ最上位魔族。これこそがアンタレスの真の姿だ。

 

 アンタレスと魔車はアンタレスの魔法によって作り出した縄によって繋がっており、きちんと運搬が出来ている。

 

 アンタレスは走る──のではなく飛ぶ。その大きな翼をはためかせ飛んでいく。

 

「ちょっと! これ、飛んでない?!」

「飛んでるな」

「なに冷静になってるの?!」

 

 そして揺れを一切感じないことに気づいたリアは窓から地面を見るとそこは地上から離れている。車輪など一切回っていない。

 なるほどこれなら揺れるはずもないと謎の納得感を得る。

 

「え、これ大丈夫なの?」

「不安なら我がバリアでも張っておこうか?」

 

 ヴィルトの提案にリアは一瞬考えるも何があるかわからなくて怖いので頼むことにする。

 

「頼むわ」

「わかった」

 

 パチンとヴィルトが指を鳴らすと結界が張られる。

 ただの結界ではない。術者であるヴィルトを中心に移動可能な結界であり、物理的にも超常的にも防護力の高い結界だ。

 これならば例え森の中だろうと木々をへし折りながら突き進めるし、矢だろうが槍だろうが当たっても逆に弾き返し、聖術や魔法でも傷一つ付かない難攻不落と言える防護力を誇る。

 

 そして魔王が張った結界という事で多少安堵したリアは大人しく席に着く。

 

「そ、それでだけどパーグソルトで暫く凄そうかと思うの」

「ふむ? どれくらいだ?」

「そうね……最低でも一週間は泊まりたいわ。どうせなら観光とかもしたいし」

「ならもっとでっかく泊まろう。一ヵ月とかどうだ?」

「一ヵ月も見るものあるかしら?」

「ふむ。なら依頼の達成はどうだ? 依頼をしながら一ヵ月過ごすのだ」

「ん~、そうね。最低一週間で、依頼をしながら過ごしましょ。どうせなら宿代も稼ぎながら」

「決まりだな」

 

 等と二人は話していく。その会話にアンタレスは当然入れない。

 魔車を引いているというのもあるが基本アンタレスはヴィルトの全肯定マンだ。魔王ヴィルトの決定に異を唱えることは無い。

 

 その後も二人は雑談をしながら新しい街へと向かっていくのだった。

 

 

 ■

 

 

 三人がルテンラの街から出て半日。夕刻。

 太陽が沈み始めた頃、リアが提案する。

 

「そろそろ止まって野営の準備しましょうか」

「わかった、アンタレス。止まれ』

『畏まりました』

 

 アンタレスはワイバーンの姿だと声帯の関係上離せない為概念共有(コネクト)を使って意思疎通をする。

 概念共有(コネクト)で了解の意を示したアンタレスはゆっくりと速度を降ろしていく。

 ようやく魔車の車輪が地面と接触し、回転していく。そこから更に速度を落としていく。

 街道から少し横にそれた位置に魔車は止まった。

 

 魔車から降り、ヴィルトはアンタレスに声をかける。

 

「ご苦労」

『勿体無きお言葉』

 

 アンタレスはそう言うと人の姿に戻る。

 ぐにゅぐにゅと粘土細工の様に蠢き変わり、人の姿へと変わって行った。

 

「さて、野営とのことだが何をすればいい?」

「ん-、取り合えず魔車からテント持って来て」

「わかった」

 

 ヴィルトは言われた通り魔車の背部、荷物置きのスペースへ赴き扉を開ける。

 中にはリアが買ったテントが二つ。折りたたまれて置かれている。それ以外にもちょっとした折り畳み式の椅子等もある。

 そのうちの二つのテントをヴィルトは片方は素手で。もう一つは手が塞がったので念動力で浮かし運ぶ。

 

「何処に置けばいい?」

「取り合えずここに置いといて」

 

 二つのテントをそこそこの距離感でヴィルトは置く。

 

「さぁ気合入れるわよ。ヴィルト、手伝って」

「わかった」

 

 ヴィルトはリアの指示に従いテントを設営していく。

 アンタレスは一人寂しそうにテントを張る。女二人と男一人では男は寂しい物である。

 

 

 リアはヴィルトと出会う前から女一人で旅をしてきた。その為に野営も手慣れたものである。

 一時間半程の時間をかけ、ヴィルトとリアはテントを設営し、キャンプ用の火も置くことが出来た。

 アンタレスは野営など初めてだが、ヴィルトとリアの動きを見て学習し同じ時間で終わらせた。こういう所が優秀な理由である。

 

「ちょっと早いけどご飯にしましょ」

「飯か!」

 

 ワクワクとヴィルトは興奮し始める。

 

「食事の用意ならお任せください」

「任せた」

「頼みます」

 

 二人ともアンタレスに頼み、見物に回る。

 

 アンタレスは影から食材を取り出し、魔法を行使し調理用のキッチンを作り出す。

 ヴィルトが武具を製造した様に魔力を使えば無機物の製造も容易である。そして大魔族であるアンタレスもある程度同程度の事は出来る。

 

 アンタレスはテキパキと調理を進めていく。

 魔法は無機物の創造すら可能にする。といってもそれは魔法を解除すれば消える偽りの物質だが、魔法効果があるうちは本物として機能する。

 その魔法で水を作り出し野菜を洗い魔法の包丁で食材を斬っていく。

 

 火もまた魔法によるものだ。ここまで便利なのは魔力だからこそであり、聖力では無機物の製造などは容易くは出来ない。

 出来るとしたらそれは教皇などの一生を聖力の行使に費やした者が行う術法であり、やはり魔力程容易には熟せない。

 

 二十分程で肉入りのシチューが完成する。

 

「さぁどうぞ召し上がってください」

 

 アンタレスは器に盛りつけ。二人に渡す。

 

「今日を生きれた事を神に感謝します」

 

 リアは神への小さな祈りを上げた後に食事を始める。ヴィルトとアンタレスは神に祈る側ではなく挑む側なのでそんなことはしない。

 

「美味しい!」

「アンタレスの料理の腕も高いからな」

 

 何処か誇らしげにしながらヴィルトは言う。

 

「ほんと凄いわね。アンタレスさんは」

「そのさんづけ、別にしなくてよいですよ。魔王様を呼び捨てにしているのに私だけさん付けというのも可笑しいでしょう?」

「そう? ならこれからはきやすくアンタレスって呼ぶわね」

 

 夜は更けていく。三人の楽しい旅は始まったばかりだ。

 

『魔王様。後で話したいことがございます』

 

 

 

 ■

 

 

 夜。二つの月が顔を出した頃。

 この世界には太陽は一つ。月は二つある。大きく黒い月と蒼く輝く小さい月だ。

 

 その月明かりの中で、アンタレスとヴィルトは話をしていた。

 

 夜の見張り番は最初三人で交代するという話だったがヴィルトとアンタレスはそもそも睡眠など要らない怪物である。

 更には暗視能力を持つし、そもそもヴィルトが結界を張れば他者は侵入など出来ない、等の理由やアンタレスが自身に任せてほしいという事で夜の見張りは念のためアンタレスだけが行うという事になった。

 それに最初リアは難色を示していたがアンタレスの説得によってリアは渋々納得した。

 

 ヴィルトとアンタレスは二人向かい合うように椅子に座る。

 この椅子は買ってきた物であり、折り畳み式の椅子である。

 

「それでなんだ? 話とは」

 

 ヴィルトは食事中に送って来た概念共有(コネクト)について尋ねる。

 

 概念共有(コネクト)は口に出さずとも相手との意思疎通が可能になる術だ。

 術者の技量にもよるが遠くの相手とも言葉を出さずに会話が可能になる術であり、戦場などでも重宝する術である。

 それを使って話しかけたアンタレスにヴィルトは疑問を抱いていた。

 

「魔王様。何故、人間等と行動を共にしているのでしょうか?」

 

 それは過去の魔王を知る者からすれば当然の疑問だ。

 

 過去の魔王ヴィルト・シュヴァインは暴虐の化身だった。

 

 村を見つければ破壊し、村人を腹の口と上の口で食い殺す。翼の腕で人を掴み腹に放り投げ粗食するのも日常茶飯事だ。

 魔王にとって人間とは捕食する餌に過ぎない。だがその餌と行動を共にしている。そのことがアンタレスには疑問にしかならない。

 

「お前、人間が何か知ってるか?」

「? 何か、とは?」

「どういう存在かだ。答えて見ろ」

「……脆弱なる存在。百年も生きれぬ劣等種。唾棄すべき塵芥かと」

「その塵芥に負けた我はそれ以下の存在か?」

「そのような事は決して!」

 

 アンタレスは立ち上がり否定する。

 

「我は人について何も知らん。我はただ、この身にある破壊衝動に身を任せてきた。だがその衝動がこの時代に来てから一切ない。

 我が身を蝕む衝動が無くなった今だからこそ、人について知りたいと、そう思ったのだ」

 

「……魔王様がそう思いのならば、私は臣下としてそれを支えます」

「助かる。アンタレス。この旅が終わったら他の者も蘇らせ、国を取り戻すのもいいかもな」

 

 等と、ヴィルトは叶わぬ夢を見るのだった。

 

 

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