元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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第十四話 変わるもの

 黒い月がらんらんと輝く夜。

 城塞都市の前に、異形の軍勢が居た。

 

 城塞都市は堅牢である。百メートルを超える城壁を持ち、壁は分厚く長い。

 攻城兵器を持ち出そうと容易くは打ち破れぬ防壁を持ち、聖力による防護の術で更に硬くされている。

 

 その城塞を破ろうとするのは異形達。

 

 奇妙な異形達だ。

 

 身長は二メートルから三メートル程度。

 黒に近い紫色の体をしているが、生物のそれではない。

 まるで幼子が描いた人の絵のように手足は歪に歪んでいる人型の怪物。

 頭部は異様で、眼球が縦に二つ並んでいる。口を大きく開け、涎をだらだらと流している。

 

 その数は数えるのも馬鹿らしく成るほどであり、地平線を埋め尽くす程に湧いている。

 

 その異形を踏み潰しながら、更なる異形がやって来る。

 

 二メートルを超す怪物よりも更に巨大。城壁には届かないまでも常人の域など余裕で越えている。

 

 全長三十メートルを超す巨体の人型。

 頭部は猪の髑髏。眼孔が赤く灯っている。

 腕は熊と人を融合させたような、毛皮に覆われた腕。

 足は蜥蜴の物であり、二本足で巨体を支えている。

 腹は特徴的だ。縦に割れた口が着いており、ぎちぎちと外に突き出た牙が蠢いている。

 背中──正確には腰の少し上からは被膜の付いた翼が生えた腕が一対生えており、その腕が肩を掴むことで翼を形成している。

 臀部からは蜥蜴と狐の尻尾を合わせた甲殻的な尻尾が三つ生えている。

 

 その背後に、仕えるように一人の女が歩いている。

 

 女としては長身だ。身長は百八十センチ程はある。

 夜を閉じ込めたかのような黒く靡く髪に、同じく黒い瞳。

 女性としては豊満な体付きであり、黒いドレスを纏っている。

 肌は病的なまでに白く、病弱そうな華奢な雰囲気を纏っている。

 

「魔王様」

 

 女が異形に──魔王ヴィルト・シュヴァインに話かける。

 

「うむ」

 

 巨体を揺らしながら魔王は一歩前に出る。

 女は控える従者のように魔王の斜め後ろから動かない。

 

『ー止まれ! 魔王とその配下共!』

 

 城塞から声が響いた。

 只の声では無い。聖力を纏った声であり。声量を上げると同時に魔に属する物に微量ながらダメージを与える声だ。

 声の主は四十代ほどの男だ。鎧を纏った男である。

 

 

『ここから先は我が王国の要! 守りの都市である! 貴様ら邪悪なる者どもに一歩も踏み入れさせはしない!』

 

 城壁の上には人が歩けるスペースがある。其処に続々と人が集まっていく。

 規則正しい動きで、決まった鎧を纏った者達だ。この日の為に訓練してきたのだとわかる。

 

「笑止! 我らを止める事も出来ぬ脆弱な人間風情が! 食い殺してくれる!」

 

 魔王は悠々と叫んだ。

 

『ならば死ねい! 魔王!』

 

 声の主が号令と共に腕を振り落とす。

 

 瞬間、多様な聖術による攻撃が始まる。

 

 聖力によって形成された白く輝く業火の波。白く輝く雷撃。球体状の聖力の波状攻撃。

 

「馬鹿が」

 

 魔王は嘲笑い、腹の口を大きく開ける。

 

 魔王とその配下に向かって放たれた聖術は全て魔王の腹に向かって収束する。

 魔王の腹の口に吸い寄せられ──全て腹の口に飲み込まれた。

 これこそが魔王が持つ能力の一つ。あらゆる遠距離攻撃を吸収する異能だ。

 それが聖力だろうが魔力だろうが純粋な物理的なものだろうが別種の何かだろうが遠距離からの攻撃に当てはまるならば全て吸収する魔王だから許される理不尽。

 

「返すぞ」

 

 そして魔王は腹の口を大きく開け──腹に飲まれた先の攻撃をそっくりそのまま返す。

 これもまた魔王の異能。呑み込んだあらゆる遠距離攻撃をそのまま放つことが出来る異能である。

 

 魔王の腹から聖力によって構成された炎の波が。光り輝く球体の波状攻撃が。白い雷が城壁に向かって放たれる。

 

 轟音と共に全てが城壁に着弾。だが当たった聖力による攻撃は城壁に煤を付けるだけに終わる。

 

「流石に硬いな──ではこうするか」

 

 魔王は拳を握りこむ。

 何をするのか悟った従者の女は跳躍し魔王から離れる。

 

 魔王は拳を硬く握り、正拳突きの構えを取る。

 

「せい!」

 

 そして虚空に向かって正拳突きを放った。

 

 それだけで衝撃波が生じる。

 魔王の身体能力は人知を超えている。人がただはたくだけで風を生むように、魔王の拳は暴風を生み出す。

 

 放たれた拳上の衝撃波が真っすぐと進み城壁へと当たり──そのまま城壁を破壊した。

 轟音と共に城壁の破片が舞い散る。人が築き上げた守りがガラガラと瓦礫と化していく。

 

「さぁゆけ。食い散らせ! 己が使命を全うしろ!」

 

 魔王は己の配下に命令を下し突撃させる。

 

 異形の魔物達が奇妙な叫び声を上げながら突撃する。

 

 魔物達が兵士たちに襲い掛かる。

 

 城壁をよじ登り、城壁の上に居る兵士に襲いかかる。

 勿論兵士達もただでやられる訳ではない。各々武器を手に戦う。

 

 そして魔物達の奮闘虚しく、倒されていく。

 魔物達の戦闘力はそこまで高くない。成人男性よりは上だが訓練した兵士には負ける。

 

 だが──数が数だ。いつの時代であろうと一定値までの数の暴力は脅威であり兵士を何人か倒していく。

 

「行くか」

 

 魔王は歩き出し、進軍を始める。

 

 その歩みを止める者は居ない。平原を歩き、城壁だったモノを踏み潰す。

 

 そこに、魔物と戦っている兵士を見つける。

 無造作に魔王は兵士をその巨椀で掴む。

 

「辞めろ! 離せ!」

 

 兵士はジタバタと暴れようとするが魔王の握力によって動きは出来ない。

 

 魔王は大きな口を開き、兵士を口に含み──顎の力で噛み潰した。

 

 

 

 

 其処で魔王──ヴィルト・シュヴァインは目を覚ました。

 がばりと布団を薪ながら上半身を起こす。

 そして周囲を見て、ポツリと呟く。

 

「ゆ、夢?」

 

 ヴィルトに睡眠等というものは不要だ。だが眠れない訳ではない。宿に泊まっている時はする事も無いので眠っている。

 その間に夢を見たのだと、ヴィルトは少しの時間で理解した。

 

「……? どうしたの?」

 

 隣のベッドで寝ていたリアが寝ぼけ眼でヴィルトを見ながら心配そうに話しかける。

 夜明けにはまだ遠い時間であり、眠くて仕方が無いのだろう。

 

「……いや、なんでもない」

 

 何でもないはずだと、ヴィルトは自分に言い聞かせる様に呟く。

 胸がバクバクと痛い程に動くのを無視して。

 

 

 

 ■

 

 朝。身支度を終えて一階の酒場に集まった三人──ヴィルト、リア。アンタレスの三人は朝食をとっていた。

 リアとアンタレスはパンとスープ。ヴィルトは朝から肉を頼んでいる。

 

「今日は依頼を受けるか?」

「そうね。まだ六日もあるんだから、依頼を受けましょ。宿代も稼がないといけないし」

「まぁ今日の分で稼げそうだがな」

 

 ヴィルトは宿代と自分の稼ぎを計算し残りの額を考える。

 宿代が三人で四万九千ルエ。昨日稼いだ額が三万ルエ。後一万九千ルエで終わる。

 

 肉にかぶりつきながら、ヴィルトは見た夢について考える。

 

 魔王時代もやる事が無い時に眠るというのはあった。だがその時に夢を見た事は無い。夢を見るというのは初めてだった。

 だが、その夢の内容がわからない。数えるのも馬鹿らしい程に都市を攻め滅ぼして来た為、その滅ぼして来た都市の一つなのだとわかる。

 人を食い殺そうとした瞬間の目覚めに、心臓が痛い程に動いた理由もまたわからない。そもそもヴィルトは心臓が無くても生きていられるので心臓の動きについて本気でわからない。

 

「……? どうしたの?」

 

 肉に噛みついてから動かないヴィルトを見てリアは問いかける。

 

 慌ててヴィルトは肉を噛み千切り、咀嚼して飲み込む。

 

「いや。何でもない」

「そう? ならいいけど」

 

 ヴィルトは胸のもやもやが晴れぬまま、食事を再開する。

 三人で談笑しながら食事をし終えると三人は席を立ち冒険者組合に向かうのだった。

 

 

 

 

 ■

 

「これを探索するのか……骨が折れそうだな」

 

 ヴィルトは塩鉱山を見上げながらそう呟いた。

 

 ヴィルトが今居るのは塩鉱山の前。坑道の入口前でヴィルトは一人立っている。

 朝食を食べたのち、三人で冒険者組合に向かいそれぞれまた別の依頼を受けた。

 

 ヴィルトは受けた依頼である『鉱山周辺の探索と魔物退治』の依頼の為山を見上げているのだった。

 

「行くか」

 

 ふわりとヴィルトは浮かび上がり、空を飛ぶ。

 そのまま鉱山の上まで飛び上がり、鉱山の頂上に辿り着く。

 

「絶景かな」

 

 山の上から見える景色は地上が霞んで見える程。

 

「さて……やるか」

 

 ヴィルトは一人そう呟き、行動に移る。

 

 受けた依頼は鉱山周辺の探索と魔物退治。更には魔物を倒さねば報酬は無いタイプの依頼だ。

 頑張らねば、とヴィルトは意気揚々と飛び始めるのだった。

 

 

 ■

 

「リア。魔王様と何時から行動を共にしているのですか?」

「急にどうしたの?」

 

 パーグソルトの街の表通りから外れた裏通りの路地で。アンタレスがリアに話しかける。

 

「今の魔王様は変わっておられる。以前の魔王様とはまるで別人なのです」

「……そりゃ、人について知りたいとかいう出すから性格とか変わっているだろうと思ったけど」

 

 二人は路地裏を何かを探すようにじっくりと嘗め回すように見ながら歩いて行く。

 

「人を知りたい……? 何故魔の王である魔王様がその様な考えに……理由は知らないのですか?」

 

「……私が行動を始めたのはここ最近、一ヵ月も経ってないうちよ。それにヴィルトはこの時代に来てから日が浅いように感じる。人を知ろうと思った理由は知らないわ」

「そうですか……」

 

 二人が歩いていると、道の脇にバッグを見つける。

 アンタレスがそれを取り、中身を確認する。

 聖具や魔具のバッグではなく、普通のバッグだ。

 中には宝石の着いた鍵が入っている。実用性よりも鑑賞性を求めたような作りの鍵だ。

 

「聞いていた依頼の品と合致しますね」

 

 二人が受けた依頼は鍵探しの依頼だ。宝石付きの鍵を無くしたので探して欲しいというものだ。

 

「じゃあこれにて依頼達成ね」

「まだ依頼主に渡してませんよ。物を渡すまでが依頼です」

 

 

 

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