追記:ノワールの能力説明文修正しました。
「見えて来たわ! あれが王都よ!」
「おお、アレが王都か!」
ローニャを仲間に加えて一週間が経った。
道中、仲間としての実力を見るや連携を知る為など理由を付けて数度魔物と戦ったりしたぐらいで、道中は平和そのものだった。
そもそも高位の魔族であるアンタレスに喧嘩を売ろうという魔物が居ないのと、アンタレスの速度に着いて行ける馬や魔物が早々いない為盗賊等の襲撃が出来ない等で道中は平和だ。
そしてリアとヴィルトは窓から顔を出し、王都の風貌を目にしていた。
「デカいな!」
まず目に付くのは巨大な城だ。
ヴィルトの見立てでは自らげ建築した魔王城程もあるのではないかと思える程に巨大な城だ。
何しろヴィルトの本来の姿よりも大きい。推測になるが五十メートル以上はあるだろう。城を囲うように七つの塔が建っている。
そして次はやはり城壁だ。高さはそれほどでも無いが、囲う範囲が非常に広い。
王都全域を覆う壁はそれだけで非常に大きい。
『速度を緩めて止まります』
「む、わかった」
アンタレスが
魔車はゆっくりと速度を落としていき、遂には止まる。
止まった馬車から三人が降りるとアンタレスは人の姿になり、影を伸ばして魔車を収納する。
「良し行くぞ!」
高揚を隠さぬまま、ヴィルトが先導し街道を歩き王都へと向かう。
道中、四人は談笑をしながら王都へと進む。この一週間で四人の仲は更に深まっただろう。
女三人寄れば姦しいというが、それはヴィルトにも当てはまるようでヴィルトも女子トークを繰り広げる。
一応元となったのが男である為男の自我を持つアンタレスはどことなく会話へ入り辛さを感じるも、主君の前である為に普通に会話に参加する。
そうして三十分程歩いていると城門前に辿り着く。
「人が多いな」
ヴィルトが言う様に城門の前には人の列が出来ていた。
ヴィルト達と同じように武装した者達から馬車に乗っている商人らしき者達までいる。
「他の街と違って王都は検問があるの。まぁ、犯罪者でないか確認されるだけだから大したことじゃないけどね」
この中で王都に何度か来たことのあるローニャがそう答える。
余談だが、リアも王都に来たことがある。とはいっても一度だけだが。
四人は列の最後尾に並び、列が進むのを待つ。
列は思ったよりは進み、四十分程でヴィルト達の番が来た。
開かれた城門の前には多数の兵士が居り、兵士の一人がヴィルト達に尋ねる。
「冒険者だな。王都には何の用だ?」
門番の兵士がぶっきらぼうにそう尋ねる。
「旅の途中で寄りました。王都には観光目的で来ました」
「そうか……ん?」
兵士はヴィルトを見つめる。
「? なんだ、どうかしたか?」
見つめられる理由が思いつかないヴィルトは兵士にそう尋ねる。
「あぁ、いや。何でも無い。通ってよし」
そう言われてヴィルト達は城門を潜り、王都の大通りへと進んで行った。
「おぉ……!」
王都の大通りは、広い。
馬車や魔車が六台は横並びになって通れる車道に充分な幅がある歩道に分けられている。
大通りの道にはガラスで出来たショーウィンドウの付いた店等も建ち並び、客寄せとなっている。
道には多数の人々が歩き、活気づいている。
「すごいな、ここは!」
ヴィルトは一人はしゃぐ。
「なぁ、先ずは何処にいく?」
高揚を隠せぬまま、ヴィルトはリアに尋ねる。
「そうね。まずは宿を探しましょう。皆もそれでいい?」
「構わないわよ」
「僕もそれで」
「じゃあ、行きましょう」
「宿の場所は分かっているのですか?」
「前に来た時に泊まった宿があるわ。あ、ローニャも来た事あるのよね? もしかしていい宿知ってるの?」
「いえ。僕は王都の別荘に泊ったので、宿については知りません」
「あら残念。じゃあ私が知ってる宿に行きましょ」
そう話しながらも足は止めず、一同は王都の奥へと進む。
時折ヴィルトがあれは何だと尋ねリアかローニャのどちらかが答えるのが繰り返される。
その様にリアとローニャの二人はまるで子連れのようだ、とヴィルトに対し少々失礼な事を感じてしまう。
実際、ヴィルトは子供に近い。
生まれついてから勇者に倒されるまでその身に宿した破壊衝動にのみ突き動かされ暴れ続けて来たヴィルトは正しく子供だ。
何がいい事なのか悪い事なのか、善悪もわからぬ無知なる子供。それがヴィルトである。
そうして四十分程歩いていると、不意にヴィルトが止まる。
「どうしたの?」
「……魔族の気配がする」
「え?」
今の時代においては、魔族とは魔力によって変異した人間の事を差す。
吸血鬼や翼や角等の特徴を持つ人間の事だ。
だが、一万年前の時代においてはヴィルト・シュヴァインが作り出した眷属の事を差していた。
その為に、魔族の気配がするというのはまず有り得ない事だ。一万年の間生き続けた魔族が入る事になるのだから。
「こっちだ!」
「あ、ちょっと!」
走り出したヴィルトを慌てて残る三人が追う。
ヴィルトの素の身体能力は高い。魔力による強化なしでも時速五百キロにまで及ぶ。
無論街中なのでそんな速度は出さないが、それでも人にぶつかれば相手に致命傷が入るだけの速度をヴィルトは歩道で出す。
ヴィルトの身体能力と動体視力によって人を避ける事に成功しているが、それでも危険であることには変わりない。
残る三人はそれぞれ魔力や聖力で自己強化し何とかヴィルトに追いつく。
五分程ヴィルトが走ったのち、とある建物の前で止まる。
「ここは……」
「ハンデル商会?」
ハンデル商会とはこのゼーティ王国でも巨大な商会だ。
国の深くに根付く商会であり、何せ誕生が国の誕生と同じ六百年前になる。
扱っている者は多岐に渡る。武器や防具等の戦闘者向けの物から土地や新香料に食料品、輸送にも手掛けている。
もはやある種の土地を持たぬ領主貴族とも言える規模を誇る。
その商会の本部が王都にあり、ヴィルトがたどり着いた場所でもある。
非常に大きな建物だ。三階建ての建物であり、横にも大きい。
入口は両開きのガラスのドアで出来ている。
そのドアを開け、ヴィルトは中に入って行く。
「ちょっと!」
ハンデル商会に冒険者が押し入った。これだけで明日の新聞の一面になるだろう。この王都には新聞社もある為気を付けなくては成らない。
慌てて三人がガラスのドアを開け中に入る。
中は広い。
正面に受付が。左側にある程度寛げるスペースがあり、右側に階段が付いている。
「ヴィルト、どうしたの?」
入り口前で固まっているヴィルトにリアが話しかける。
「むぅ。さっきまで魔族の気配がしたんだが……露と消えた」
「気のせいだったんじゃない?」
「いや、そんなはずは……」
むぅ、とヴィルトは顔を顰める。
そこに階段を降りる音が響く。
カツ、カツ、と硬質的な音が二つ響く。
思わず全員階段の方を向いてしまう。
降りて来たのは美しい女性と、やつれた男性だ。
見眼麗しい女性だ。歳は二十代前半程だろう。
何よりも黒い髪に夜を圧縮したような黒だけで作られた瞳を持つ。
身長は約百八十センチ程だ。リア達より頭一つ分程大きい。
黒いドレスを着ている。正し優雅さを持ちながらも機動力のある形だ。
着ている者も美しいためより美しさが際立っている。
「ノワールじゃないか! 生きてたのか!」
そこにヴィルトが大声を上げながら女──ノワールと名を呼ぶ。
「………………………………まおうさま?」
そして長い沈黙ののち、ノワールは言葉を口にした。
そして、ヴィルトがノワールと呼び捨てにしたことで、場に剣呑な雰囲気が流れる。
雰囲気の正体は一階にいるヴィルト達以外の人間からだ。
そしてノワールはジャンプし、空中で一回転。土下座の姿勢を取るとヴィルトの前に着地した。
「これはお久しぶりです魔王様! この身この魂魔王様に捧げております!!!」
ノワールと呼ばれた女は声高高にそう叫んだ。
「良い良い顔を上げろ。しかし本当に驚いたぞ。あれから一万年経っているのに生きているとはな」
言われたノワールは立ち上がり、魔王を見つめる。
「それはその、
「あぁ。そうしてくれ。皆もすまないがそれでいいか?」
そのことに、ノワールと呼ばれた女は驚いた。
──昔の主ならば他の者等気にすることは無かったはず。何かあったのか?
(ていうか、よく見たらアンタレスの奴いるし)
うぇ、と顔を顰めたくなるのをノワールは堪えた。
「私は構わないわ」
「僕も平気です! え、嘘! 夜の支配者様!」
「久しぶりですねぇ、ノワール。随分と偉くなったようで……」
三者三葉の返しをするが、全員が同意したと見なしヴィルトはノワールに案内するように話す。
「こほん……皆に伝えますが。この者達は私にとって非常に──非常に大切な方達です! 全ての従業員にそう伝えなさい!」
ノワールはそう叫び、従業員達に告げる。
「か、畏まりました!」
従業員達はそう返事し、慌てる様に動き出す。
「では、行きましょうか」
■
ノワールは今の時代において四天王と称される者の一人だ。
一万年前の時代から生き続けた数少ない時代の生き証人である。
魔力によって変異した原初の人間であり、始まりの吸血鬼でもある。
そんな彼女だが、精力的に動き出したのはここ最近の話だ。
ここ最近と言っても六百年前からだが、一万年も生きる者にとってはたかが数百年程度誤差である。
これまでは何をする気も起きず、適当にぶらぶら生きていた。悪事をなす気はなく、かといって善行を成す気も無い。適当に国々を旅してまわっていた。
だがその生活にも一万年も繰り返せば飽きて、いい加減永住の地でも作るか、と作り出したのがハンデル商会だ。
ノワールはアンタレスと同じく影の能力を持つ。
影の中に物質を無限に仕舞える上、アンタレスと同様影の中に仕舞ったモノは時間が流れない。更に無機物有機物関係なく仕舞えるというアンタレスの上位互換の能力を持つ。
その能力を使って運び屋から始め、徐々に徐々に部下を作り商会とし勢力を付けて行った。
そんな彼女だが、正体は魔王軍の裏切り者である。
元々が人間であり、心も人間で居たかった彼女は魔王軍に強制的に入れられたが、当然心の内では反発した。
だが魔王の権能によって心の内ではどう思うが逆らう事は出来ない──はずだった。
しかし魔王の支配にもある程度の緩みはある。それこそ"二十四時間休まず人間を殺せ"とでも命令されていればどうしようもなかったが、そうでは無かった。命令に行動の隙間があったのだ。
それを彼女は利用し、魔王率いるただの魔物の群れを軍としたのだ。これには人間側にもメリットがあった。相手が軍勢力となった事で人間勢力が結束しやすくなり、行動も読みやすいようにしたのだ。
更に彼女直々に各方面に動き、魔王軍の情報をこれでもかと流しまくった。情報を流しまくる最悪のスパイである。
これが魔王軍にバレないのか? と疑問を持つだろうが、誰も気づかない。
そもそものトップであろう魔王が勝手にどっか行って勝手に暴れる馬鹿なうえ、それに従う奴らも勝手にどっか行って勝手に暴れる奴ばかりである。
そもそもノワールが何かしなければ軍勢力となる事無かった連中だ。彼らに対しスパイだとか裏切りだとかいう概念自体が無かった。
結果、ノワールは八面六臂の活躍をした。彼女が居たからこそ魔王と勇者一行が戦えたと言っても過言ではない。
つまり彼女さえいなければ、魔王は今の時代も脅威として君臨していたか──遂には人類を滅ぼしていたのだ。
だからこそ、ノワールは人知れず冷や汗を流す。今の時代に何故復活したのか知らないが、自分の裏切りがバレていたらどうするか……彼女にはどうしようもないから。
「どうぞ、好きにおかけになってください」
ノワールがヴィルト達を通したのは、豪華な談話室だ。
一目見てわかるほどに部屋にあるソファや机は豪華なものであり、茶請けも高価な物である。
壁にはよくわからないが高いのであろう絵が飾ってあり、部屋を彩っている。
言われるがままヴィルトとアンタレスはソファに腰かけ、リアとローニャは部屋の高級感に押されながらおずおずとソファに座る。
リアとローニャはソファの柔らかさに感激するも、ヴィルトとアンタレスは何も思わない。
「それで魔王様、どうしてこの時代におられるのですか?」
「あぁ。勇者の奴にこの時代に送られてな。我はこの一万年後の時代に復活したという訳だ」
「なるほど……今は何をなさっているので? また、人類殲滅の為に動かれるのですか?」
「まさか! そんなことはもうする気はない。人類に対し敵対する気はもうない」
どうせ嘘だろ、という目をノワールは一瞬仕掛けるが気合で抑えた。
「今の我は人類を知る為に動いている。そうだ、どうせならお前もついてこないか?」
「……喜んで着いて行きたいと思います。ですが私は商会を運営する身。引継ぎをしなければなりません」
「そうか、わかった。ならば引継ぎを済ませた後、此方に合流すると言い」
(直ぐに来いと命令しない?! まさか偽物?!)
一瞬、ノワールはそう考えてしまう。だが死した同僚であるはずのアンタレスが共にいる以上偽物である訳が無いが。
ノワールは魔王の手によって作られた存在ではない。だからこそ魔王との繋がりというものが無く、魔王が魔王であるという判断が外見しかない。
「では、我々は宿を探すとしようか」
詣でようか、とヴィルトが立ち上がろうとしたのをノワールは抑える。
「お待ち下さい。宿ならば此方で手配しましょう。魔王様の手を煩わせる訳にはいきません」
「おお! そうか、悪いな」
こうして魔王一行に新たなる仲間が加わった。
パーティメンバー残り一人です。いや残り一人と一体?になります。
追加時期は未定