元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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二十二話 王都観光

 

「ここ高級宿よね……」

「はい。皆さまを最大限もてなす様に言われていますから」

 

 ヴィルト達が連れられたのは王都の奥地、セレブ向けの建物が並ぶ場所だ。

 其処にヴィルト達は連れられ、その中でも外見から一目でわかる高級宿に来ていた。

 

 受付の作りはハンデル商会と同じで入って目の前に受付があり、左手にラウンジスペースがある。右奥に階段があり、二階が泊まる場所になっている。

 

 入り口でノワールが出した女──金髪碧眼のスーツを着た女が宿の受付と話す。

 

「部屋はどうされますか?」

「えっと、二人部屋を二つお願いしたいんですが……」

「わかりました」

 

 そういうと受付の男は二つのカギを取り出し、ヴィルト達に渡す。

 

「こちらが鍵に成ります。部屋まで案内しましょう」

 

 受付の男はそう言うと受付の場所から出てくる。

 

「では皆さま、私はこれで。何かあればまたハンデル商会まで来てください。最大限もてなさせて頂きます」

 

 では、と女は頭を下げて宿を出て行ってしまう。

 

「では皆さま。私に付いてきてください」

 

 受付の男の案内の元、四人は二階へと上がっていく。

 

 二階の奥の部屋にヴィルト達は案内される。

 

 受付の男が部屋をあけ、中に全員が入る。

 

「おお、広いな!」

 

 ヴィルトの第一声はそれだった。

 

 部屋は非常に広い。

 数値にして十二畳以上はあるだろう。

 大きな机にソファ。右奥には扉があり、扉の上には寝室と書かれている。

 

「ヴィルト達はこっちの部屋ね」

「わかりました」

 

 アンタレスが同意し、部屋の奥へと靴を脱いで踏み入れる。

 入り口には靴置場がきちんと置かれている。

 ヴィルトも靴を脱いで部屋へと入り、リアとローニャは受付の男に案内され部屋から出て行った。

 

「いやしかし、ノワールの奴と再開できるとはな!」

「えぇ。アレが生きていた事に驚きを禁じ得ません」

 

 ヴィルトもアンタレスの二人は、ノワールが裏切っていた事を一切合切知らない。寧ろ彼らの頭に裏切るという概念が一切ない。

 その為にノワールの考えは全くの杞憂でもあった。

 

「そうだな。明日はノワールに頼んで王都の観光でもさせるか?」

「魔王様。ノワールは吸血鬼……昼間に動くことは出来ませぬ」

「ああ、そうだったな。むぅ、仕方がない。ローニャに頼むか」

 

 二人は雑談を交わす。

 

「しかし魔王様。魔族の気配を感じたとのことでしたか、その気配は?」

「あぁ。どういう訳か全く感じ取れん。何かしらの手段で潜伏しているのかもしれん」

「なるほど……心当たりならあります。恐らくはヘルシャーの奴でしょう。あ奴ならば魔王様の感知を逃れても不思議ではありません」

「あぁ、あいつか。だが、何故そんなことをしているのかという疑問が生まれるな……」

 

 ヘルシャーとは魔族の一体だ。

 実体を持たぬ魔族であり、精神生命体型の魔族である。

 他の精神を持つ生物に寄生する事で活動する魔族であり、他者が居なければ活動できぬ寄生虫みたいな魔族でもある。

 その役目はノワール指揮の元の情報収集だ。

 他者の精神──それも貴族や将軍等の地位の高い者の精神に憑りつき、その心の内側に潜む。

 そして心の内からその人間の記憶を読み取り、身体から情報を取り出し、ノワールの元へ帰還し情報を提供するというものだ。

 こうしてみると戦闘力が無いように見えるが、実際の所戦闘力は高い。

 

 ある程度は肉体に左右されるものの、魔法行使能力や魔力量は変わらない為、アンタレスに若干劣る程度の戦闘力はある。

 いや、憑依する肉体が武芸者の者であればその肉体が持つ聖力も行使出来る様になるため肉体次第では上回るとも言えるだろう。

 魔王以外では数少ない魔力と聖力の両方の行使が出来る貴重な魔族だ。

 

 因みにやりたがらないだけで同じ魔族に憑依する事も出来る。

 

「昔からあれは人に対して興味を抱いていましたからね……何かしているとしても不思議ではないでしょう」

「そうなのか? 我は余りあ奴と話をしてなかったからな……」

 

 というより、魔王は昔は部下と会話というものを殆どしていない。

 精々が『あそこを攻めに行く』とか『着いてこい』などの会話ではなく命令ばかりしてきた。会話をしたのはこの時代に来てからと言っても過言では無いだろう。

 一応都市に攻め入る時などは格好つけて命令を下したりもしたが、そのぐらいである。

 

「それに奴も一万年も生きている、という事になります。まぁ隠密ならばあ奴以上に優れた者はいないので隠れ潜んできたのでしょうが」

「まぁ、通常手段で見つけるのは不可能だからな」

 

 ヘルシャーを見つける方法はあるにはある。

 その一つが神々が世界に遺したとされる神器の一つ、真実の鑑を使う方法だ。

 真実の鑑の前には如何なる隠蔽も意味を成さない。それを使えば簡単に憑依されているとバレてしまうだろう。

 

「ま、今日はノワールに会えただけで充分だ」

「ですが魔王様、ノワールは昼間動けませんよ? ノワールは吸血鬼。太陽光を長時間受ければ灰になって死にます」

「……そういえばそうだったな。まぁ、ノワールの部下なら我の部下だろう。そこら辺に案内させるか、ローニャに頼めばいい」

 

 二人は談笑しながら、明日について思いをはせるのだった。

 

 

 ■

 

 翌朝、一階で一同は朝食をとっていた。

 食事はバイキング形式だ。好きな物を好きなだけ取っていいスタイルである。

 高級宿である為に窃盗や大量に取ろうとする客層が居ないからこそ出来るスタイルである。

 

 ヴィルトは贅沢にオムレツを三つ、ウィンナーを大量に取って席に座る。

 

「ちゃんと食べきるのよ」

「食べれるから心配するな」

 

 大量に取って来たヴィルトにリアが食べきれるのか少し心配するが、ヴィルトは問題ないと返す。

 ヴィルトは魔王だ。食事量も当然常人の域を超えている。

 それこそ自分の体重以上に食事をする事も不可能ではない。そもそも食事が要らない存在なのに何故食事が出来る能力があるのかという疑問が沸いてくるが。

 

 四人が食事をしていると、一人の女がバイキング部屋に入って来る。

 

 入って来た女は一言で言うならば敏腕秘書、という雰囲気を醸し出している。

 黒いスーツを纏った金髪赤目の女だ。鋭い目つきをしている。

 

 女はきょろきょろと周囲を見、ヴィルト達を見つけると歩み寄って来る。

 

 ヴィルト達の席の前まで来ると、影がにゅっと伸びた。

 影から一人の女が飛び出てくる。

 身長は百八十センチ。黒髪黒目の黒い容姿に病人の様に白い肌を持つ。

 黒いドレスを着た様は優雅にも見える。胸は大きく、腰はきゅっと細い。尻は大きいと女性的な肉体を持つ女。ノワールだ。

 これもノワールが持つ能力の一つ。ノワールは他者の体内や影の中に潜むことが出来る。これもまた通常の手段では判別出来ない隠密能力だ。

 

 

「ノワールか」

「はい。魔王様。君命に従い参りました。この一日で引継ぎを終えましたので、これからは共に行動をすることが可能となります」

「おお、それはよかった。じゃあ早速だが今日は王都の観光でもしようと思っているんだ。案内が出来る人間を紹介してくれないか?」

「畏まりました。でしたらこの者はどうでしょう? 私の片腕として動いてきたものです。王都にも詳しいでしょう」

「始めまして、魔王ヴィルト・シュヴァイン様。私はリサと申します。よろしくお願いします」

「ああ。よろしく頼む」

 

 リサはノワールの秘書をしていた女だ。

 戦闘能力の類は一切ないが、変わりに事務能力がずば抜けて高い。書類処理能力が高いのだ。

 その為に片腕として動き続けて来た実績を持つ者である。

 

 食事を終えた一同はさぁ観光だ、と街へと繰り出そうとする。

 

「私は魔王様の影に入らせて頂きます」

「そうすると良い」

 

 ノワールは一人長時間日光に触れると死ぬので、ヴィルトの影に入ってしまった。

 

 

 ■

 

 宿の外に出た一同は先ずは何処に行くか、という相談をする。

 

「特に行きたい場所が無いのなら私が適当に案内させて頂きますが」

「うーむ。我はよくわからんからそれでよいが……皆は?」

 

「私は何でも良いかと」

 アンタレス。

 

「私も案内があるならその人に従いたいわ」とリア。

「僕も王都に詳しくないので……住んでる人に案内してもらえるならそれに越したことはありません」とローニャ。

 

「ではそう言う事で」

 

 リサは懐から小さな旗を取り出す。

 旗には『魔王様御一考観光ツアー』と書かれている。

 

 あれ、一夜で用意したのだろうか、と全員が要らぬ疑問を抱き、観光が始まった。

 

 

「先ずはこちら、王城でございます」

 

「おぉ~」

 

 ヴィルトが感嘆の声を漏らした。

 

 連れて来られたのは王都の中心にある城、国の象徴であるシュロス城だ。

 城は一番大きい居館があり、居館を囲むように四つの塔が建っている。居館にも三つ塔が生えており、美を飾っている。

 

「この城の二階までは一般的に解放されており、誰でも中に入る事が出来ます」

 

 その王城の前、城門前でリサは無表情な顔でそう告げる。

 

 ヴィルト達一行がいるのは王城の城門前だ。城門は解放されており、内部を窺い知れる。

 

「では早速中に入って見ましょう」

 

 一行はリサの案内の元王城へと入って行く。

 

「おおー」

 

 そして中に入ってまた、ヴィルトが感嘆の声を漏らす。

 

 部屋の作りは吹き抜けだ。二階部分はある程度の通路があるだけであり、左程広くない。

 一階は非常に広い。百人どころか千人も入れるのではないか、と思えてしまう程には広い。

 壁には風景画や肖像画が飾られており、所々には壺も置かれている。

 

「これ幾らするんだろうな」

「辞めなさい」

 

 ツンツンとヴィルトが壺をつつき、リアが辞めろと諫める。

 

 一階には多数の観光客なのであろう人達と、鎧を纏った騎士達が居る。

 騎士は全身鋼鉄の鎧を纏った者達だ。胸にこのゼーティ王国の紋章であるヒッポグリフの絵が掘られている。

 腰に剣を差し、左手には盾が付けられている。

 

(ふむ。聖力量もそこそこと言ったところだな)

 

 戦闘者としてヴィルトは騎士を見る。

 ヴィルトの判断では騎士達も弱くはない。並大抵の者には勝てるだろう。無論自分の敵には成り得ないが。

 

 一行は観光を楽しみ、王城を後にした。

 

 ■

 

「続いてはこちら、王都一の時計塔でございます」

「でっけぇ……」

 

 続いて案内されたのは巨大な時計塔だ。

 王城よりも高くそびえるのではないかと思える程に非常に高い塔だ。

 横にも縦にも大きい塔だ。

 

「こちら、最上階以外は一般開放されております」

「よし、入ってみよう」

 

 高揚を隠さぬままヴィルトが時計塔の中に入って行く。

 中もまた広い。こちらもまた吹き抜けになっている。

 螺旋階段があり、何回か階層が設置されている。階層には窓もあり、外を見ることが出来る。

 

「こちら、吹き抜けとなっており空を飛べる者は上の階までひとっ飛びできます……しますか?」

「する!」

 

 ヴィルトはふわりと飛び上がり、空へと飛ぶ。

 時計塔の中をヴィルトは飛んでいく。

 遅れてアンタレスが翼をはためかせ飛び。リアも飛んでローニャがリサを抱えて飛んでいく。

 リサは聖術の使えぬ一般人だ。空など飛べるわけがない。

 

 ヴィルトに遅れて上階に辿り着いた一行は他の階と違いドアがあるのに気付く。

 ヴィルトがドアを開け、外に出る。

 

「おお、すごいなこれは!」

 

 それは絶景だった。

 シュロス王城が遠くに見え、地上の人々が豆粒のように見える。無論ヴィルトの視力ならば直ぐ近くにいるかのように見ることも出来るが、今回はそれをしない。

 

「絶景ね……前に来た時も見ればよかった」

 

 隣のリアがそう微笑む。

 

「なんだ。前は来なかったのか?」

「えぇ、前に来た時はあんまり観光とかする時間無かったからね」

 

 リアが前王都に来たのは学者の資格を得る為だ。

 その為勉強時間が必須だったし、観光に繰り出す様な気分でも無かった。故にリアは一度王都に来たことがある身だが、王都には余り詳しくはない。

 

「僕は前にも来ましたけど、やっぱりここからの眺めはいいですね」

 

 対しローニャは前にも来たことがあると言い、景色を眺める。

 数分、景色を眺めていた一同はそろそろ降りるか、と時計塔を降りるのだった。

 

 

 

 ■

 

「ここがローランド騎士公園です」

「広いな!」

 

 続いてヴィルト達一行が連れられたのは公園だ。

 只の公演ではない。この国最大の広さを持つ公園だ。

 分かりやすく例えるなら学校のグラウンドの四倍の広さを持つ公園だ。橋の方には滑り台やブランコなどの遊具がある。

 あたりを見渡せば草の上を走る若人や寝っ転がって空を眺める者、絵を描く者等いる。

 

「この公園はかつて存在したという騎士、ローランドを元にした公園です。余談ですがローランドは一人の奴隷と一人の修道女を嫁にしたと伝えられています」

 

 このゼーティ王国においては奴隷制は無い。建国時から奴隷は存在しないようになっている。

 だが隣国のミセーズ等ではいまだ奴隷制は存在し、奴隷狩りが行われる事もあるという。

 そのことからゼーティ王国ではミセーズ王国を野蛮な国家と見なす者も多い。

 

「お、屋台もあるぞ」

 

 そして公園だというのに屋台があり、ヴィルトが目ざとく見つける。

 

「丁度いいし、昼食は屋台で済ませましょうか」

「賛成!」

 

 リアが提案し、ローニャが受け入れる。

 

 一行やそれぞれ好きに屋台に行き、商品を買う。

 

 ヴィルトは大きな肉が挟んであるサンドウィッチを四つも買い、一つを頬張る。

 ヴィルトの最近の趣味は食道楽に成りつつある。魔王時代食っていたのは人間だったが、人間なんぞより何倍も人間が作った物の方が美味いと気づいたのだ。

 

「お前も食うか?」

 

 ヴィルトは影に向かって話しかける。

 

『いえ。私は普通の食べ物が食べれないので結構です……』

「ああ、そうだったな」

 

 影の中からノワールが概念共有(コネクト)で返答をし、そう言えばそうだったなとヴィルトは思い出した。

 ノワールは原初の吸血鬼だ。吸血鬼らしく食せるのは人の血だけだ。

 普通の食事もとれなくはないが、栄養にはならないし味を一切感じ取れない為普通の食事よりも吸血の方がマシ、という具合である。

 

 ヴィルト達は公園にある木の机に集まり食事をするのだった。

 

 

 ■

 

 

食事を終えた一行はまたしても大きな建物に集まっていた。

円形上の建物であり、外からでも中の歓声が聞こえてくる。

 

「ここはなんだ?」

「この国一番の見世物である闘技場でございます。因みに参加費千ルエです」

「とうぎじょう?それは何をする場所なんだ?」

 

闘技場という概念自体を知らないヴィルトがきょとんとした顔で問いかける。

 

「うーん。闘技場って言うのは人同士が戦う場所よ。それを観客が見て楽しむ場所でもあるわ」

「成るほど。戦うのが好きな奴向けという訳か」

「まぁ、大体そんな感じね」

 

ざっくりとした説明を受け、ヴィルトは納得する。

 

「因みに今日から丁度一月後に今度この国最大の大会である剣闘技大会が開かれます」

「ああ!聞いてるぞ、大会があるとな」

 

ヴィルトが大会と聞いてワクワクとする。

 

「あぁ。あの。パーグソルトで聞いた大会ね。いいじゃない、参加してみましょうよ!」

 

私は参加しないけど、とリアは最後に付け足す。

 

「いいですね、剣闘技大会!僕も参加します!」

 

そこにローニャも参加表明をする。

 

「いいですね。大会は一月後です。それまで力を鍛えると良いでしょう」

 




雑強さ序列
本来の姿魔王>高い壁>勇者>人状態ヴィルト>横並びで四天王>勇者の仲間>
ぐらいで考えてます。
仲間順だと
ヴィルト>アンタレス>ノワール>ローニャ>リア
です。最弱はリア
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