元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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三十二話 殺人鬼スニル

 

「引っ越し?」

「はい。貴女方が王都での活動をする際の拠点を用意させて頂きました」

 

 三日程経った日の午後、ヴィルトは自室で騎士団団長ヴォルフからそんなことを言われた。

 これまでの間もヴィルトは勧誘などを受け続けていた。そしてその全てを断っている。

 流石に一週間近く断り続けていれば貴族達も諦めモードに入り勧誘の頻度は減るが、それでも諦めない者は居る。

 

 そんなある日、ヴォルフが王都での活動拠点を用意したと言い出したのだ。

 

「まぁ、このまま王城暮らしも悪いか」

 

 如何に国賓見たいな扱いをされているとしても本来ヴィルトは住所不定職業不定の冒険者だ。いつまでも王城に住ませるわけにはいかないのだろう。

 

「わかった。じゃあ早速引っ越しといこうか……まぁ荷物は全部影の中にあるんだが」

 

 という事で、ヴィルト達は王城を出ることになった。

 

 

 

 

「家の家賃とかはどうなるんですか?」

「勿論国負担ですよ。特別外遊団という地位はそれだけ重いのです。あ、家事手伝いのメイド等も国が雇います」

「メイドも居るんですか……すごい優遇っぷりですね」

 

 六日間で多少は仲良くなったヴォルフとリアが話し合いながら目的地へと歩く。

 

 王城を出て二十分程歩いた先に目的地はある。

 貴族街の一角であり、治安も良い方の立地だ。

 

「大きいな」

 

 目的地についたヴィルトは館の大きさに感銘を受けた。

 非常に大きい館だ。ケイブの屋敷よりも大きい。

 五人で暮らす事を考えれば余るほどには大きいが、使用人を考えれば納得できる程度の大きさだ。

 庭付きの豪華な邸宅であり、三階建てである。

 

「では入りましょうか」

 

 屋敷の門を開けヴォルフが入り、続いて残る五人も入って行く。

 庭も広いなとヴィルトが感心しながら奥へと進み、屋敷の扉に辿り着く。

 

 ヴォルフが扉を開け、続いて残る五人も入る。

 

「お帰りなさいませ、ご主人様」

 

 其処にはメイドが六人待ち構えていた。

 玄関ホールもまた広い作りだ。三階建ての建物であり高さも相当ある。

 メイド達も当然貴族階級の身分のしっかりとした者達だ。中には黒髪もいるが、恐らくは妾の子などだろう。

 

 メイドを代表して一人ヴィルトに近づく。

 

「この屋敷のメイド長を務めさせていただくミシェルです。どうぞお見知りおきを」

 

 とミシェルは優雅な礼をする。

 

「そうか、よろしく頼む。取り合えず部屋に行くか」

 

 持ってきた荷物は殆ど無いが、それでもマジックバックに多少は入っている。荷解きぐらいはしたい。

 

「かしこまりました」

 

「では私はこれで。また明日、こちらに来てもよろしいでしょうか? 私も模擬戦がしたいのです」

 

 ヴォルフの提案にヴィルトは「いいぞ」と返す。

 

「貴様との模擬戦は我にとってもいい刺激になる。毎日しても良い」

「ありがとうございます。では、さようなら」

 

 という事で、ヴォルフは屋敷を出て行った。

 

「では皆さま、案内させて頂きます」

 

 メイドの案内の元、一行はそれぞれ自分の部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 ■

 

 

 それから更に三日が経った。

 各々屋敷での暮らしに慣れて来た頃。ヴィルトは不意に暇だと感じた。

 朝のヴォルフとローニャとの模擬戦が終わり、やる事も無いので屋敷に戻って誰かとゲームでもするか、と思った時これではいけないと思ったのだ。

 自分は冒険者。ならば冒険者として依頼を受けるべきでは? 

 そんな考えが不意によぎったのだ。

 これはいい考えだ、とヴィルトは自画自賛した。ゲームをするのも飽きて来た頃なのでいいだろうと思ったのだ。

 

「と、いう事で我は何か依頼を受けてくる!」

 

 ヴィルトは屋敷の広間で堂々と宣言した。

 広間にはリアとローニャ、アンタレスの三人が居る。ノワールは所用で外に出ている。

 

「そうなの? じゃあ私たちはどうしましょうか」

 

 リアはうーん、と悩む。

 大金が入った以上危険な依頼を態々する必要は無い、というのがリアの考えだ。

 

「僕は着いて行っていいですか? 何気に依頼を受けた事無いので」

 

 と、冒険者として登録したはいいが魔竜絡みで碌に依頼を受けられなかったローニャが主張する。

 

「いいじゃない。じゃあ二人で依頼でも受ければ? 私は図書館にでも行ってこようかしら」

「いいぞ、ローニャ。依頼といこうか!」

「魔王様が依頼を受けるというのなら私も同行させて頂きます」

 

 という事でヴィルトとローニャ、アンタレスの三人は依頼を。リアは図書館に行く事になったのだった。

 

 

 ■

 

 

 冒険者組合に入った三人に視線が突き刺さる。

 

「おい、あれ……」

「なんでここに居るんだ?」

「何か依頼でも出しに来たのか?」

 

 ひそひそと、小さな声で組合に居る冒険者達はヴィルト達一行を見て囁き合う。

 ヴィルトは一躍有名人だ。演説しかり魔竜殺しとして顔が広く知られている。それは平民の間でもだ。

 

 ヴィルトとアンタレスは気にせず、ローニャは何か言われてるなぁ、とちょっと嫌な気分になりながら二階のクエストボードに向かう。

 階段を上がり、さぁどの依頼を受けようかと三人がクエストボードを見た瞬間、声がかかる。

 

「やっほー! シュヴァインさん、組合に何の用かなー!」

 

 声を上げるのはソフィラだ。何時もと変わらぬ陰部だけ隠せばいいだろ見たいなほぼ布の服を着ている。

 

「ソフィラか。何、何か依頼を受けようと思ってな」

「……何で? お金ならあると思うけど」

「いや、冒険者なんだから依頼を受けた方がいいだろう」

 

 その言葉にえぇ、とヴィルトに向かって何か信じられないモノを見たような目線をソフィラは向ける。

 冒険者とは社会の底辺だ。その依頼を上の立場の者が態々受けるなど、まず有り得ない。

 そのあり得ない事をしようとしているのがヴィルト達だ。

 

「別に依頼を受けちゃ駄目とか無いですよね?」

 

 そう尋ねるのはローニャだ。ローニャものほほんと微笑む顔を浮かべながらも視線は力強い。

 

「……まぁいいけど、実力あるからって一気に大量の依頼を受けるとかそう言うのは辞めてね、他の人の迷惑になるから」

「その手があったか」

 

 ヴィルトはキランと目を輝かせる。自らの発想には無かった事だ。

 そのことにソフィラは余計な事を言ったと後悔した。

 

「取り合えず依頼を見ましょうよ」

 

 ローニャがそう提案し、三人は再度クエストボードを見る。

 

 クエストボードには多数の依頼が貼られている。

 だがその殆どが魔物退治である。中には魔法や聖術の実験体になってくれという変わった依頼もあるが。

 

「あ、これなんか面白いんじゃないか?」

 

 ヴィルトはそう一つの依頼書を手に取って見せる。

 

「これは……殺人鬼の捜索と捕縛?」

 

 ローニャが依頼の内容を読み上げる。

 依頼の内容はこうだ。

 王都内に居る殺人鬼スニルの捜索と捕縛、または殺害。報酬は五万ルエ。

 

「いいじゃないですか、これぞ冒険者って感じの依頼です。受けましょう!」

 

 ローニャは既にこの依頼を受ける気満々のようである。

 

「よし、ならこの依頼を受けるか」

 

 依頼書を手にヴィルト達は受付に進む。

 

「受付、この依頼を受けたい」

「畏まりました……殺人鬼スニルの依頼ですね…………受注処理、終わりました」

「よし、まずはどうする?」

 

 ヴィルトはこの手の依頼が初めてでありどうするかわからない為二人に相談しようと振り向く。

 其処に受付嬢が声をかける。

 

「まずはこの依頼を受けた事を王都の騎士団に教えてください。そこで主な情報のやり取りが出来ます」

「む、わかった」

 

 という事で三人はまずは騎士団の宿舎に向かう事にした。

 

 ソフィラに軽く挨拶をしてから階段を降り、冒険者組合を出る。

 時刻はまだ十二時半程度。太陽が輝いている中三人は談笑しながら歩いて行く。

 

 そして十分程歩いた時、ある問題にローニャが気づいた。

 

「……騎士団の詰所って何処でしょう?」

 

 盲点だった。確かに場所を聞いていなかったのだ。

 

「……聞きに戻りますか?」

 

 アンタレスがそう提案する。

 

「いや、どうせならそこらの人に聞こう。誰か知ってるだろ」

 

 ヴィルトがそう言い、取り合えず誰かに聞こうという事になった。

 

「というか巡回中の騎士に聞けば良いのでは?」

 

 そして今度はローニャがそう発言する。

 確かに。とヴィルトとアンタレスは納得した。

 

 そうして歩いていると巡回中の騎士を見かけた三人は騎士に問いかけ、詰所の場所を知る。

 宿舎は王城から程近い位置にあるとの事。三人は詰所に向かう。

 

 道中歩くのが面倒になったので王都限定の乗り合い馬車──バスのようなモノ──を使い三人は詰所に辿り着く。

 

 詰所もまた大きい建物だ。

 二階建てのそこそこの大きさの建物が一つと四階建ての宿舎が隣に建っている。

 詰所の方のドアを開け、三人は中に入る。

 

 中の作りは市役所に近い。

 受付があり、座って待つ場所が幾つかある。

 

 取り合えず誰かに話そうか、と思った時逆に三人は話しかけられる。

 

「これは、シュヴァイン殿! 騎士団に何か御用でしょうか!」

「ん、デヴィットか」

 

 話しかけてきたのは優男、といった雰囲気の男だ。

 全身鎧を纏っているが頭部だけは露出しており、顔は見えている。

 金髪赤目の男だ。名はデヴィット・ルキデ。貴族の三男である。

 貴族の次男や三男が家業の手伝いではなく騎士団などに就職するのも珍しい話では無い。この世界では戦闘力を求められるので望んでも成れない者も多いが。

 ヴィルト達は多少騎士団長ヴォルフ経由で話したことがある程度の仲の存在だ。

 

「何、殺人鬼スニルの捜索依頼を受けてな。そのことについて騎士団に確認に来たんだ」

 

 殺人鬼スニル。その名にデヴィットは顔を顰める。

 

「……例の殺人鬼、ですか。成るほど。では担当の者まで案内しましょう」

「ありがとう、助かる」

 

 三人はデヴィットの案内の元、二階に上る。

 二階のちょっとした会議室に四人は入る。

 

「失礼、依頼を受けた冒険者を連れて来た」

「これは……副団長! ありがとうございま……す」

 

 部屋に居た男の騎士が部屋に入って来たデヴィットを見て顔を綻ばせ、次にヴィルト達を見て顔を強張らせた。

 部屋に居るのは全身鎧を纏っている者の頭部だけは露出している男だ。黒髪黒目の疲れた顔をしている。

 

「……この方たちが依頼を受けた冒険者だ……まぁ、うん……共に頑張ってくれ」

 

 では俺はこれで、とデヴィットは部屋を出て行ってしまった。

 

「……取りあえず、自己紹介を。私はこの国の騎士団の一員であるダニエルです。よろしくお願いします」

「我は冒険者……今は特別外遊団とかいう称号を持っているヴィルト・シュヴァインだ」

「ローニャ・アルテリシアです。冒険者です」

「アンタレスです。同じく冒険者です」

 

 三人は取り合えず自己紹介をする。

 

「では、皆さまは殺人鬼スニルについて何処まで知っていますか?」

「何も知らん」

「僕も知らないです」

「私も知りません」

 

 三連知らぬという回答にダニエルは微妙な表情を浮かべるが、直ぐに元に戻す。

 

「……では説明を。事の始まりは夏火の月(五月)の六日です」

 

 ダニエルは淡々と語り始める。

 

 

 夏火の月の六日。ある殺人事件が起こった。

 一人暮らしの婦女が家で殺されたのだ。

 壁には婦女の血と思われるもので大きく『スニル』と書かれていた。

 スニルは誰も重い当たりのある名前では無かった。勿論殺された婦女の名前でも無いし関係がある名前でも無い。

 このことからこの殺人犯の仮称をスニルとし、捜査が始まった。

 だが捜査虚しく次々と被害者が出てしまう。

 これまでに殺された被害者は三名。そのどれもが女性だ。しかも妙齢の。

 ただし平民の、が頭に着く。つまり被害者は平民だけだ。と言ってもこれは特別珍しい訳では無いと思われる。貴族が住まう貴族街には夜であっても騎士が巡回しているのだ。流石に平民が暮らす地域は広すぎる故に騎士も巡回はあまりしない。

 

「ふむ。殺された女性に性的暴行が成された形跡は?」

 

 アンタレスは渡された資料を読みながらダニエルに問いかける。

 

「性的暴行の形跡はないが……どいういう訳か、内蔵の一部が取られているのは分かっている」

「内蔵の一部?」

「えぇ。子宮、心臓、肝臓等殺された遺体から一部だけ抜き取られているんです」

「何のためにその様な事を?」

 

 ローニャが当然の疑問を口にする。

 

「それは分かっていません。犯人に猟奇的な志向があるモノとこちらでは判断していますが……」

「魔法の触媒にでもするのか?」

 

 ヴィルトがポツリと呟く。

 

「魔法の触媒?」

 

 ローニャが聞いたことの無い事に対し問いかける。

 

「あぁ。一部の魔法は何かしらを触媒にする事で効果を強める事が出来る。動物……今でいう魔物か。魔物の内臓だとか牙だとかを魔法の触媒にして武器を作る等があるな」

「その様な事が……!」

 

 ダニエルはヴィルトの言葉に驚きながらも理解する。

 

「となると犯人は人の内臓を使って何かを成そうとしている?」

「流石に何の魔法かまでは我にはわからんがな」

「いえ、魔法に使えるというだけで値千金の情報です。これで殺人犯が愉快犯ではなく何かしらの目的を持って動いているとわかりましたから」

「そうか……」

 

 ふぅむ、とヴィルトは悩む。

 

(我の探査能力……何があったか。探査(ソナー)眷属(魔物)との視界共有。相手の一部の体を使った追跡……これぐらいか)

 

「取りあえず現場を見てみよう。魔法的観点から何かわかるかもしれん」

 

 ヴィルトはそう提案すると全員が頷き、外に出ることになったのだった。

 

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