元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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三十三話 地下遺跡

 

 現場までは乗合馬車を使って移動する事になった。

 因みに移動費は経費落ち、騎士団負担である。その気になれば特別外遊団の地位で無理やり無料にすることも出来るが。

 

 ダニエルを加えた事で四人となった一行は二十分程で目的地にたどり着いた。

 

「ここが現場ですか」

 

 ローニャが現場である一軒家を前に呟いた。

 ごく普通の一軒家だ。二階建ての建物であり、小さな庭が付いている。

 煉瓦で作られた家だ。一見すると何処にでもある家にしか見えず、事実それは正しい。

 家の扉の前にはロープが張られており、入れないようになっている。

 

「取りあえず中に入って見るか」

 

 ヴィルトがそう言い、ダニエル先導の元家に進む。

 ロープを跨いで超えて家の扉に借り受けた鍵を差して開けて中に入る。

 

「暗いな」

「灯りを付けましょうか?」

「む……ローニャは灯りいるか?」

「僕は暗視能力ないので灯りいりますよ」

「そうか……」

 

 ヴィルトは指を鳴らし光球を出現させる。サッカーボール程度の大きさの光の玉は周囲を照らす。

 これは聖術であり、魔法ではない。

 

 一行は玄関で靴を脱いで部屋に上がり、リビングに入る。

 

「ふむ。ここで殺されたのか」

 

 リビングの机の向こう側には壁に大きく血が付いており、血の上には血で『スニル』と書かれている。

 流石に死体は置いていないが、今も漂う血の匂いがここが現場だと強く訴える。

 

「ふむ……」

 

 聖術で視力を強化し、ヴィルトは現場を強く見る。

 今のヴィルトの視界には通常人の目では見えない物が見えている。

 サーモグラフィーと化し部屋の温度が見え、エックス線となり透視能力も持つ。

 他にも小さい埃やゴミ等も見える。

 

 その視界と処理能力を持ってヴィルトは視界内の物を情報処理する。

 

(これが被害者の血と髪……こっちが犯人の毛髪だな)

 

 すぅ、とヴィルトは息を吸う。

 

 瞬間、魔力を解放する。

 

 ドーム状に広がった魔力は王都全域を包み込む。

 魔力の広がりを感じたダニエルとローニャは咄嗟に聖力を活性化させ肉体の強度を底上げする。

 

「……よし。見えた」

 

 雰囲気の変わったヴィルトにダニエルが恐る恐る口を開く。

 

「み、見えたとは? それに先程の魔力は?」

「犯人の痕跡から追跡魔法をかけた。これで相手が何処にいてもわかる」

「それは……凄まじいですね。その様な魔法があるとは……」

「まぁ高難易度の魔法だからな。使えるのは部下の中でも少ない方だ」

 

 いくぞ、とヴィルトが言いヴィルトに従い三人は歩いて行く。

 家から出て歩道を歩き、住宅街を進む。

 

(流石に痕跡は少ないな……半分予測で進むか)

 

 流石に一週間以上経てば外の痕跡は雨なり風なりで無くなってしまう。だがほんの微かに残るそれを魔法でどうにか追跡しながらヴィルトは歩く。

 

「……ここか?」

 

 そうして辿り着いたのは小さな物置小屋だった。

 木造の建物であり、一階建ての小さい建物だ。年月が相当経っておりボロボロであり、一部木が腐って露出している。

 

「……中に入りましょう」

 

 ヴィルトは中に入っていいものか悩んだが騎士であるダニエルがそう言う事で許可を得たとばかりに中に入る。

 扉に鍵は掛かっておらず、苦も無く扉は開く。

 

「暗いな」

 

 中に灯りの類は一切ない。聖具による灯りの類も無く、窓すらないので光が扉から漏れる光しかない。

 流石に暗いという事でヴィルトが聖術の光を産み出し照らし進む。

 

「……ここが奥だな。ここで反応は消えている」

 

 そうして奥に一行はたどり着いたが、其処には何も無い。

 

「……術で探ってみます?」

「そうしてみるか」

 

 ローニャの提案を受け入れヴィルトは探査(ソナー)を発動する。

 

「む、地下に空間があるな……せい!」

 

 ヴィルトは徐に地面に向かって殴りつける。

 突然の奇行にアンタレス以外驚くも、轟音と共に床が破壊される。

 破壊の後を見た全員が驚愕し、ダニエルが叫んだ。

 

「これは……地下への階段?!」

「ふむ。何かあるのは確定だな」

 

 見つかったのは地下への階段だ。石性の簡素な階段が隠されていた。

 

「どうする? 一旦撤退するか?」

 

 ヴィルトはそう提案する。

 殺人鬼に繋がりうるものをここまで見つける事が出来た時点で一旦帰っても良いとヴィルトは判断する。

 

「……いえ。中に入って見ましょう。何か見つかるかもしれません」

「わかった。降りるぞ」

 

 ヴィルトを先頭に一行は地下への階段を降りていく。

 靴と石がぶつかる音だけが響く。一行は道中沈黙のまま進む。

 深い階段を降りた先にあったのは通路だ。

 大人が六人は横並びに進んでも尚余るだけの広さを持つ通路である。

 通路の壁には穴があり、四角い物──棺が収監されている。

 

「これ死体か?」

 

 ヴィルトが徐に棺に触り開ける。

 誰かが咎める暇無い動きである。

 

「空か」

 

 だが棺の中は空であった。死体も何も入っていない。

 

「空? どういう事でしょうか……」

 

 あからさまな棺なのに中身が空という事にローニャが疑問を抱く。

 

「しかし結構広そうですね。もう一度探査(ソナー)を使いますか?」

 

 アンタレスが奥を見ながらそう言う。軽く見ただけでは結構広い。遠くの壁が見えない程には広いのだ。

 

「そうだな……ふん!」

 

 ヴィルトが再び魔力の探査(ソナー)を発動する。

 

「む、なんだこれは」

 

 だが術は失敗した。

 術自体は成功しているが、反応が可笑しいのだ。

 探査(ソナー)の原理は蝙蝠等が発する超音波による探査に近い。

 魔力や聖力による波を発生させ、それが反射で帰って来るまでの時間を持って地形などを把握する術だ。

 術の原理上地下空間や建物内等の方が術の精度が上がる術である。

 だが帰って来た反応は出鱈目な物だ。波があらぬ方向に反射しまくっている。

 これでは碌に探知出来ない。

 

「反応が可笑しいな」

 

 今度は聖力で探査(ソナー)を発動するも、反応は変わらない。

 

「駄目だな。どうやらここでは探査(ソナー)は使えないらしい」

 

「となると人力での捜索しか無いですね……少しだけ奥に進んでみましょう。深いようなら撤退します」

「了解した」

 

 一行は奥へと進む。順番はローニャ、ヴィルト、アンタレス、ダニエルである。

 灯りは一つとローニャとダニエルは頼りなさを感じつつ進む。ヴィルトとアンタレスは暗視能力を持つので灯りなどそもそも要らない。

 

「……何か音がしませんか?」

 

 ローニャがそう発言する。

 一行は止まると当然足音も無くなるはず。だが、かつ、かつという音が響く。

 

「……なんだ? 奥から何か来るぞ」

 

 ヴィルトがそう言い、光を前に向ける。

 

 其処に居たのは、骨だった。

 まごうと事なき骨だ。死して肉が無くなれば人はこうなるという最終形態。

 

「アンデッド!」

 

 ダニエルがそう叫んだ。

 

「アンデッド?」

 

 聞いたこと無い言葉にヴィルトが疑問符を浮かべる。

 アンデッド、スケルトンは骨の手で先頭であるローニャに襲い掛かる。

 ローニャは腰から剣を抜刀。一閃でスケルトンを両断した。

 

「何でここにアンデッドが……?」

 

 ローニャは倒したアンデッドが崩れ落ちるのを見ながらそう呟いた。

 

「すまん。アンデッドってなんだ?」

 

 ヴィルトがそう問いかけた。

 

「ああ、ヴィルトさんは知らないんですね」

 

 ヴィルトが過去の魔王である事を知っているローニャはヴィルトの無知に余り驚かない。

 

「アンデッドとは死体が魔力によって変異した魔物の事を差します。死して尚動く者、でアンデッドです」

「成るほど。ようは魔物の一種か」

 

 理解した、とヴィルトは納得する。

 

「で、どうする? このまま奥に進むか?」

 

 ヴィルトはそうダニエルに問いかける。

 

「……いえ。撤退しましょう。中にアンデッドが存在し、更に奥深いとなれば自分たちだけでは手に余る可能性が高いです。騎士団を率いてくるべき場所でしょう」

「そうおか。了解した。攻略するときはちゃんと我も呼べよ」

「それはこちらからお願いしたいことです。魔竜殺しの英雄殿が協力してくださればこちら安心出来ますから」

 

 という事で、一行は一旦探索を辞める事にした。

 そのまま全員が振り返り、先程とは逆の順で来た道を戻っていく。

 

 そして全員が階段を登って地下から出るとダニエルが聖術を行使する。

 結界の術だ。これにて侵入する事は容易ではなく成り、出る事も難しくなる。

 これは他にアンデッドが地下から這い上がるのを阻止するための術だ。

 

「皆さんはこのまま私と共に騎士団の詰め所に来てください。そこで副団長に報告をお願いします」

「わかった」

 

 一行は物置から出て、住宅街に出て外を歩く。

 乗合馬車も利用し詰所に戻ると時刻は既に夕刻、空がオレンジ色になりかけていた。

 

 詰所の中に入ると夕刻であっても人は多い。

 

 騒がしい中、階段から一人の男が降りてくる。

 金髪赤目の男、騎士団の副団長であるデヴィット・ルキデである。

 

「副団長! 報告したいことが!」

「む、ダニエルか。わかった。二階で聞こう。上がってくれ」

「畏まりました。代表としてシュヴァインさんも付いてきてください。残りの方は申し訳ないですが待機で」

「わかった。着いて行こう」

 

 ヴィルトとダニエルは階段を登って二階に上がる。

 通路を歩き、ダニエルが居た部屋、対殺人鬼スニル用の対策班の部屋に入る。

 

「それで、報告とは?」

「はい。シュヴァインさんの魔法で殺人鬼スニルと思われる者の痕跡を追跡したのですが──」

 

 ダニエルは嘘偽りなく報告する。

 

「ふむ……シュヴァイン殿はそう言った魔法も行使できるのか」

「ああ。我はま……んん! まぁ、優れた魔法使いだからな。大抵の術は行使できる」

 

 魔王というのは出来れば隠した方が良いと言われているヴィルトは魔王と言う言葉を飲み込む。

 

「なるほど。では明日にでも探索班を作り向かうとしよう。シュヴァイン殿には明日の昼……十二時半には詰所に来てほしい」

「わかった。時刻は守ろう」

「ありがたい。では明日、よろしく頼みます」

「了解した。ではな」

 

 話の流れ的に帰る事になったのでヴィルトは大人しく部屋を出ていく。

 

「さて、どうなるかな」

 

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