元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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三十五話 終幕

 

「なんだあれは?」

 

 通路を歩いていたヴィルトは奥の空間に目をやって呟いた。

 

「どうやら広間のようですね」

「ふぅん」

 

 非常に広い空間だ。百人は入れる広間だろう。

 一本道で繋がっている空間だ。

 ダニエルの言葉を聞きながらヴィルトとダニエルは広間に入って行く。

 広い空間だ。部屋の中央には玉座があり、何者かが座って居る。

 

「これは……死体か?」

 

 玉座に座られている者は死体だった。

 顔は骸骨、頭髪は何故か付いている。体には肉がこそげ落ちたような形に内臓が露出している。

 衣服の類は纏っていない、死体が椅子に掛けられていた。

 

「ふむ。魔力を感じる。何かしらの魔法が使われたらしいな」

「そうですか──」

 

 ダニエルは剣を振り上げた。

 そして勢いよく、ヴィルトの首に向かって振り落とす。

 

「いてっ」

 

 ヴィルトは首に剣が当たり、痛いと声を漏らした。だが首には傷一つ付いていない。

 

「はっ?」

 

 現実離れした光景にダニエルが間抜けな声を漏らし、途端正気を取り戻し後ろにジャンプしてヴィルトから距離を取った。

 

「なんだ? どうかしたのか?」

 

 ヴィルトは斬られた事には気づいたが、何かあったのかと問いかける。

 ヴィルトにとって先の一撃は攻撃を受けたにも入らない些事なのだ。

 

「え、えぇっと」

 

 ダニエルはヘルムの下で苦悶の表情を浮かべながらどうする考える。

 

「はっ! 失敗したじゃねぇか!」

 

 すると奥から声が響いて来た。

 男の声だ。しかも年若い者の。

 

「魔族か」

 

 魔力の気配を感じ、ヴィルトは歩いてくる者の姿を見る。

 

 百九十五センチはあるだろう長身。

 質の良い執事服にも似た貴族の服。

 赤い髪に赤い瞳。顔の左半分は骨に似た仮面で覆われている。

 背中からは蝙蝠の翼が一対生え、頭部からは黄金の山羊の角が生えている。

 

「も、申し訳ありません!」

 

 ダニエルは歩いてくる魔族の男に謝罪する。

 

「ふむ……どういうことだ?」

 

 状況が分かっていないヴィルトは魔族の男に尋ねる。

 

「は、力はあっても頭は悪いらしいな。お前は騙されてたってことだよ」

 

「うん。急展開過ぎて着いて行けんな!」

 

 ヴィルトはくわっとそう叫びながら背中から戦斧ツォルンを抜き取る。

 

「まぁ要するに、貴様ら殺せばいいという話だろう? そして殺人鬼スニルの事件に関わっていたダニエルが我を攻撃したという事は殺人鬼スニルも貴様の事だと推測するが」

「……存外悪くないんじゃないか? まぁ、そう言うことだ。英雄様には死んでもらうぜ」

「はっ、こそこそと人を殺すしか出来ない臆病者が。ま──ー竜殺してである我に勝てるとでも思ったのか?」

「勝てるさ、俺は"最強"なんだぜ」

 

 ドン、と男は地面を蹴って疾走。ヴィルトの眼前まで即座に走り抜ける。

 男は魔法で剣を生成する。黒い片手剣だ。ヴィルトはツォルンを構える事で剣の突進を防ぐ。

 

「お──らぁ!」

 

 男は無理な体勢から翼を動かして浮遊。更にヴィルトに突撃を入れる。

 

「せい!」

 

 ヴィルトはツォルンを振り上げ剣を弾く。口を開いて魔力砲を放った。

 男はそれを左に避けることで回避。そのままヴィルトの背後に回る。

 ヴィルトはツォルンを持ったままぐるりと回転し攻撃。男は空に逃げ、遠くに着地する。

 

「うわ!」

 

 ダニエルは一連の流れを見て壁の方まで走って逃げた。

 

「ふむ。そこそこ強いようだが……」

 

 さてどうするか、とヴィルトは考える。

 本来戦い等成立しない相手だ。魔王の支配権限を使えばすぐに終わる戦いだ。相手は魔族なのだから。

 だがそれではつまらないと考え、戦う事を決意した。それに下手にダニエルに支配能力を見せたくないというのもあった。

 

「今度はこちらから行くぞ!」

 

 ヴィルトはツォルンを持ったまま疾走。男に急接近する。

 男は剣を構え迎撃の構え。ヴィルトと男が衝突した。

 

(軽い!)

 

 戦斧にも関わらず軽い一撃に男は疑問を持ち男は視力を魔法で強化する。

 すぐさまヴィルトはツォルンを構えなおし、柄の上部分を持つ事で取り回しをしやすくする。

 そして連撃。ツォルンを振り回し攻撃する。

 

「そう言う事か!」

 

 男はどうにか剣を挟むことで連撃を防ぐ。

 硬い金属音が鳴り響く。

 

 剣と斧のぶつかり合いは一分もの間続く。

 

 最終的に勝ったのはヴィルトだ。ツォルンの攻撃に剣が耐えきれず、ぽきりと折れてしまった。

 

「しまっ──」

「せぇい!」

 

 ヴィルトは勢いよくツォルンを振り落とし、男の右肩から左わき腹まで斬り裂いた。

 

「どっせい!」

 

 続いて蹴りを打ち込み、男を壁まで飛ばしぶつけた。

 

「……これで死ぬような雑魚では無いだろう?」

 

 ヴィルトはツォルンを構えなおしながらそう問いかける。

 

「くく……中々やるじゃないか」

 

 男はむくりと立ち上がりながら斬られた体を再生していく。

 

(再生能力……ノワールには及ばんが高度な再生だな。面倒だな)

 

 再生持ちに対する対策は二つだ。

 再生には魔力なり聖力なりエネルギーを消費する。その為再生に消費するエネルギーが尽きるまで攻撃を続けるか。

 もしくは頭部や心臓などの破壊されれば即座に絶命する箇所を攻撃するか、だ。

 因みにヴィルトは後者の方法でまず死ぬことは無い。頭と心臓が破壊されても普通に再生する。

 

「よし、やるか」

 

 ヴィルトは相手の魔力が尽きるまで攻撃する事を選んだ。

 生かしたまま情報を得るために、ヴィルトはツォルンを片手に突撃した。

 

 

 ■

 

「妙だな……奇妙な程に何も無い」

 

 騎士団副団長、デヴィット・ルキデはそう呟いた。

 中央の道を進んで以来、騎士団は何も遭遇しなかった。

 これまでちまちまと来ていたアンデッド一体着ていない。

 

「……全員止まれ。一度探知の聖術を試す」

 

 デヴィットは騎士団の返事を聞いてから探査(ソナー)を発動する。

 だが結果は変わらず、波長がぐちゃぐちゃに成って碌な結果が帰って来ない。

 

「ふむ……行軍を再開──いやまて」

 

 デヴィットはそういうと自身の探知能力を研ぎ澄まさせる。

 

「……こちらだ。着いてこい」

 

 

 そうして十分程歩く。

 着いた先はこれまでと何の変わりも無い通路だ。

 デヴィットは剣を徐に抜刀し、壁に向かって聖力を込めて振り落とした。

 

 バキン、というガラスが割れる音にも似た音が響いた。

 

「これは……隠し通路?!」

 

 騎士団の一人がそう呟いた。

 

「あぁ。どうやら魔法で隠していたらしい。全員これまで以上に気を付けて進むように」

 

 騎士団の「はいっ!」という返事を聞いてからデヴィットを先頭に騎士団は進んでいく。

 そうして歩いていると扉を発見した。

 デヴィットは顎をしゃくり、騎士団の一人に開ける様指示を出す。

 残る騎士団員は離れ、抜刀し構える。何があっても即座に対応できるよう聖力も高めておく。

 

 だが警戒に反し、何の問題も無く扉は開いた。

 デヴィットは剣を構えたまま部屋に突撃する。

 そこは小部屋だ。三人も入れば身動き出来なく成りそうな小さな部屋。

 部屋の左の壁には本棚があり、中央には机と椅子が置いてある。机の上には本が一冊置かれている。

 

「これは……日記か?」

 

 デヴィットは日記帳と思わしきものを取り、ぱらぱらと捲り読んでみる。

 

 日記の内容を纏めるならこうだ。

 どうやっても恋人が作れない。自分は最高の存在のはずなのに。

 そうだ、作れないなら創れば良い。その為の材料ならば腐るほどある。

 

 要するにこれは、邪悪な儀式をするまでに至った男の過程を記した日記帳。

 男は狂い果て、最愛の人を一から構築しようとしているのだ。

 

「とんだ馬鹿が居た者だな……! 命など作れるはずが無いというのに……!」

 

 デヴィットはそう吐き捨てる。

 実際はヴィルトが魔王としての権能を使い生命(魔物)を生み出す事に成功しているが、この中にそれを知る者は居なかった。

 

「どうやら日記によると儀式の場があるらしい。急いで探すぞ!」

 

 

 

 ■

 

 ヴィルトと魔族の男の戦いに決着がつきかけていた。

 

「ば、化け物が……!」

 

 男はそう吐き捨てる。

 

「酷いことを言うな。我はどう見ても超絶美少女だろう?」

 

 ヴィルトは片手でツォルンを振り回しながらニヤリと笑う。

 

 男の体はボロボロだった。

 

 服は裂け地肌が見え、左腕と右足は斬り落とされ、角は砕かれ翼は折られた。

 全身血まみれの無事な所が一つも無い状態である。

 

 恐る恐る、ダニエルが逃げようと忍び足で動く。

 

 ヴィルトはダニエルの足元に向かって魔力弾を放つ。綺麗に地面に命中し、地面を砕いた。

 ダニエルは小さな悲鳴を上げながら腰を抜かし倒れる。

 

「逃げるなよ。逃げたら殺す」

 

 ヴィルトはそうダニエルを睨みつける。

 人化しているとはいえ魔王の睨み。効果が無い訳がなく、ダニエルは失神した。

 

「さて、邪魔者も気絶した訳だし、貴様が何故襲ってきたか教えてもらうとしようか」

「ふん……答えると思っているのか?」

 

 男はボロボロの体で尚強がる。

 その姿にヴィルトは一発逆転の切り札でも隠しているのかと警戒する。

 

「まぁいい。"我に従え"」

「誰が──"わかりました"──なんだ、体が勝手に?!」

 

 男はボロボロの体で片膝を付いた、服従の意を示す格好を取る。

 

「よし。まずお前の名は?」

「"俺の名はグレン"──クソ! 体が勝手に!」

「まぁ、そういうものだからな。諦めろ。じゃあここで何を企んでいたか全て放せ」

 

 そしてヴィルトはグレンから話を聞いた。

 恋人を作る為に殺人を犯し続けていたという余りにもあんまりな話を。

 

「えぇ……まぁいいか。お前は拘束して騎士団に連行しよう。バインド」

 

 ヴィルトは魔法を行使する。

 鋼鉄よりも硬い魔法性の鎖が生み出され、つなぎ目一つ無くグレンの体を覆い拘束する。

 

『──デヴィットか? 殺人事件の犯人を捕まえた。場所はさっき我が通った通路の先だ』

『シュヴァイン殿?! もう捕まえたというのですか! 流石は英雄殿、直ぐ私達も向かいます!』

『ああ、そうしてくれ』

 

 かくして、王都を騒がせた殺人事件はこれにて幕を閉じたのだった。

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