元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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四十一話 新しい旅路

 

 闘技場で二人の男女が見つめ合う。

 少年戦士、リオンと美少女剣士ローニャ・アルテリシアだ。

 

「さぁ遂に始まる決勝戦、勝者はどちらか! 魔竜殺しを打ち倒した今大会最年少の戦士、リオン選手対! 剣と盾を構えた堅実な戦い方で順調に勝ち進んできたローニャ・アルテリシア選手!」

 

 両者、戦いをするには少々問題のある状態となっている。

 リオンの剣は砕けたままであり、半分から先が無い。

 ローニャは体の傷は見かけ上治っているが失った血は戻ってない。多少の貧血状態になっている。

 勿論服は変えているので胸が露出している事はない。

 

「では……試合開始!」

 

 アンザの宣言と同時にリオンが駆け出す。

 速攻で終わらせる気なのか聖力を体から迸らせる。

 欠けた剣を聖術で補い剣の形を無理矢理取り繕う。

 

 正面からの振り落としにローニャは盾を構えて防ぐも──盾がすぱっと両断された。

 

「んなっ?!」

 

 まさかの事態にローニャは呆気にとられる。

 盾だって鋼鉄製で耐久力はある。それをローニャ自身の聖力で強化もしていたのだ。それが容易く斬られた事に呆気に取られても仕方がないだろう。

 リオンは呆けているローニャの腹に向かって蹴りを入れ吹き飛ばす。

 

 ローニャが綺麗にくの字に曲がって吹き飛び、闘技場の壁にぶつかる。

 闘技場の壁に蜘蛛の巣上のクレーターが出来た。

 

「くっ」

 

 ローニャは体勢を治そうとするがすぐさまリオンが追撃を入れる。

 首を狙った一撃だ。ローニャは咄嗟に剣を挟む事で防ぐことに成功する。

 金属同士がぶつかった硬質的な音が響く。防げたのはローニャの剣がミスリルの剣だったからだ。出なければ盾のように剣事斬られていただろう。

 

「はぁ!」

 

 ローニャは聖力を解放しリオンを吹き飛ばす。

 吹き飛ばしたリオンに急接近。剣を振るうも回避される。

 それどころかリオンが高速で移動しローニャの背後に回る。

 ローニャはその場で剣を構えて一回転。回転斬りを放つ。リオンは空に跳ぶことで回避する。

 ローニャは飛翔の術を使い空に逃げたリオンへ追撃する。リオンもまた空を飛び回避する。

 

「戦場が空へと移った! 三次元の戦いだ!」

 

 

 空中で二人は衝突し合う。ヴィルトとリオンの試合のようにぶつかっては離れてを繰り返す。

 だが、徐々に──いや明確にローニャが押されていく。

 素の身体能力ではローニャのが上だ。だが聖力量と肉体強化の聖術の練度ではリオンのが圧倒的に上である。

 徐々に負けるのも無理ない事だ。

 

「ぐわっ!」

 

 そしてついに、ローニャは空中から地面に向かって剣を振るわれ、墜落してしまう。

 高速で地面にたたきつけられ、ローニャは意識を失った。

 

 ゆっくりと、リオンは地上に降りていく。

 

「勝者、リオン選手! ローニャ選手を圧倒し勝利を掴みました!」

 

 

 かくして、大会は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 ■

 

「それでは、これにて大会を終了します、ありがとうございました!」

 

 アンザがそう宣言し、大会が終わる。

 優勝者であるリオンは五百万ルエを手にし、実に平和的に大会が終了した。

 ヴィルト達も一応は閉会式まで見て、優勝できなかったので特に呼ばれることも無くヴィルト達は宿に帰った。

 

「ぐわー! 悔しい!」

 

 部屋に戻って早々、ローニャがそう叫びながら部屋のソファにダイブした。

 

「まぁ、相手が悪かった。あれほどの実力者。我も本気を出さねばならぬ相手だったからな」

 

 ヴィルトがローニャを慰めるようにそう言う。

 

「うう……ヴィルトさんの優しさが染みます……」

 

「取り合えず大会は終わったけど、これからどうする?」

 

 リアがローニャがダイブしたのとは反対のソファに腰かけ、話を始める。

 アンタレスもリアの隣に座る。

 ヴィルトはローニャをずらし、ソファに座る。

 

「我々の目的は魔王城へ行く事。そろそろ目的を再開してはどうでしょうか?」

 

 アンタレスがそう提案する。

 

「そうね。じゃあこのままミセーズに行きましょ」

 

 リアはそう言いながらバックを漁り、地図を取り出す。

 

「今私たちがいるのがこの王都。国境の街はここになるわ」

 

 四人が姿勢を正しリアの話を聞く。

 

「国境の街、トレイルに行くまで二つ程街を経由する必要があるわ。まぁ、アンタレスさんの足なら無視できなくもないと思うけど……」

「急ぐ必要のある旅でもないんだ。通って行こう」

「わかったわ。じゃあ明日は旅用具の買い出しね」

「僕も盾が壊れたので新しいの買わないといけないですね……」

「じゃあそう言う事にしよう。一応聞くがノワール。何か言う事はあるか?」

 

 ヴィルトが自分の影に向かって話しかける。

 にゅっと器用にノワールが顔だけ出した。

 

「……ミセーズに行くならば、道中迷宮によって頂きたく存じます。迷宮内に魔王様の武器であるクリンゲが保管されています」

「何? ならばよるとしよう。皆も良いか?」

「いいわよ。魔王の武器ってのが気になるし」

「僕も賛成です。ダンジョン攻略……ワクワクします」

「私は魔王様の意のままに」

 

 全員が賛成し、予定が決まった。

 

「では今日はどうする?」

 

 ヴィルトが部屋の時計を見る。

 時刻はまだ十四時半。寝るにも早い。

 

「じゃあ今日は反省会としませんか? どうすれば勝てたかとか、自分ならどうした、とか」

 

 ローニャがそう提案する。

 

「いいな。ではまず我から──」

 

 

 女たちの会話は続き、四時半まで会話が続く。

 話題が二転三転しながら話が続く。途中でノワールも影から出て会話に参戦する。

 その会話でノワールもヴィルトに対し認識を改める。こいつ大分穏やかになってんな、と。

 そうして話しているとリアが不意に思い出す。

 

「そう言えばヴィルト、背計ってみない?」

「む。確か伸びている可能性があるんだったな……計ってみるか」

 

 二人が立ち上がり、ヴィルトが壁に背を付ける。

 リアが旅用のバックからメジャーを取り出し、ヴィルトの背を図る。

 

「えーと……百六十九センチね。大分伸びたわねー」

「そう言えば胸もきつくなってきた気がするな。胸も大きくなったのか?」

 

 ヴィルトは自身の胸を揉んでみる。

 

「ちょっと触らせて」

 

 リアはそう言うとヴィルトの胸を揉む。

 

「……やっぱ大きくなってるわね。成長期?」

「魔王様は既に完成された体をお持ちのはずでしたが……」

 

 ノワールがふむ、と考える。

 この時代に来てから何かあったのだろうか、と考えるが魔王という存在自体が特別な相手の異常など分かるはずもない。思考を放棄した。

 

「今日は遅いし、明日新しい下着とか服を買いましょ」

「でしたら私の商会で買いましょう。事業に衣服の販売もありますので」

 

 ノワールがそう提案し、明日の予定が決まった。

 

 

 ■

 

 翌日。

 朝食を宿でとった四人は宿の前で別れることにした。

 ローニャとアンタレス。リアとヴィルト、ノワールの二組である。

 

 ローニャとアンタレスはローニャの服と旅用具、食料品などの買い出し。ヴィルトとリア、ノワールはヴィルトの服の購入と騎士団に王都を出ることを知らせるために動く。

 

 ヴィルトはリアを連れて街中を歩く。

 概念共有(コネクト)で影の中のノワールと会話し道案内されながら進むとある店舗の前で止まる。

 

「デカいな」

 

 案内された先は三階建ての建物だった。

 横にも大きい建物である。

 

 ドアを開けるとベルが鳴り店員に客が入った事を知らせる。

 早速店員がヴィルト達を見つけ駆け寄る。

 

「お客様。何かお探しでしょうか?」

 

 にっこりといい笑顔で女店員がヴィルトに話しかける。

 ヴィルトの影が伸び、ぬるりとノワールが飛び出る。

 

「の、ノワール様?!」

 

 飛び出て来たノワールに店員は驚く。

 

「ここで買い物をしに来ました。最高級の服を買うので、案内してください」

 

 ノワールはにっこりといい笑顔で言い放つ。

 その言葉に店員は「畏まりました!」と襟を正してキビキビ動く。

 その後、店員が持ってきた服やらリアが持ってきた服等を着ていく。まるで着せ替え人形のようである。

 ヴィルトもまたノリノリで着替えていく。女性的な楽しみというものをヴィルトも学んできている。

 

「ふむ。似合っているか?」

「よく似合っているわよ」

 

 最終的にヴィルトが選んだのは前と余り変わらない服だった。

 上下黒で統一された服装。緑色の靴。不審者と思われても不思議ではない恰好である。

 だが、着る者が美人である為妙に似合っている。

 因みに胸も計ったら成長しておりサイズはDになっていた。その為ブラジャーも買い直した。

 尚支払いは元長のノワールが居る為無料である。持つべきものはコネであった。

 

 

 ■

 

 

「そう言えば、こうして二人で出歩くのって初めてじゃないですか?」

「確かにそうですね……何か話します?」

 

 ローニャとアンタレスが二人街中を歩く。

 両者とも美人である為に周囲から視線を集める。

 美男美女が並んで歩けばすわカップルか、と思われなくもない。

 更にはローニャは先日の大会で決勝にまで進んだ猛者であり、注目の的だ。見られない方が可笑しい。

 

「しかし目的地は決まっているので? 王都ともなれば相当の数武具屋があると思われますが」

 

 アンタレスがそう切り出す。

 

「ふふん。実は目的地は既に決まってるんですよ。実を言うとデヴィットさんにいい店を聞いていましてね」

「デヴィット……ああ。騎士団の副団長ですか」

 

 なるほど、副団長ともなればいい店ぐらい知っているだろうとアンタレスは納得する。

 二人は談笑しながら街を歩く。

 割と二人の仲は悪くない。アンタレスとしては実力のある相手というのもあって悪感情を抱くことはないし、ローニャも魔王の配下という事もあって仲良くしたいものだからだ。

 大通りから外れて歩く事十分。目的の鍛冶屋に辿り着く。

 

 外見も整っている店だ。こじんまりとはしておらず、大きな店であるとわかる。

 店の外からはガラスのショーウィンドウがあり、幾つか作品を見ることが出来る。

 アンタレスが興味深そうに武器を見ているのを見てローニャは声をかける。

 

「貴方から見てここの武器はどうですか?」

「質が良いと断言できますね。作り手もかなりの者でしょう」

「副団長さんからの紹介ですからね……早速中に入りましょう」

 

 二人はドアを開けて中に入る。ちりんと鈴が鳴った。

 

 仲は広い。幾つか石性のテーブルがあり、テーブルの上には武器が置かれている。

 壁側にはマネキンが置いてあり、鎧を付けている。

 

「いろいろありますね……これとか良さそうですね」

 

 ローニャは適当にその辺にあった剣を手に取る。

 単なる鋼鉄製の剣だが、質はよい。鋭い刃だ。

 

「私も何かいいのがあったら買いましょうかね」

 

 アンタレスも適当に武具を見ながらそう呟く。

 

「アンタレスさんも武器使うんですか?」

 

 ローニャが疑問を口にする。

 

「一応昔は剣を使っていましたね。破壊されたので無くしましたが」

 

 アンタレスが使っていたのは適当に拾った──というよりは貴族が使っていた剣を殺して奪った物だ。

 長い年月アンタレスという上位魔族が使った事で魔具化したものであり、魔王の武器には及ばないがそれでも強力な代物だった。

 だがアンタレスが倒される事になった戦いで破壊され消失した物である。

 そう話す二人に近づく人物が一人。

 

「いらっしゃい。最高とは言えないが最良の武器を取り揃えている。何かいいのはあったか?」

 

 そう話しかけてきたのは洞窟小人(ドワーフ)だ。

 人間の腰程度、百三十センチ程度の身長に長く白い髭を持つ種族だ。

 寿命は三百年程であり、人間よりは長寿である。

 煤で汚れたエプロンと手袋をしている事から何かしら炎を使う仕事をした後だとわかる。

 

「僕は盾を見に来たんですが、何かいいのありますか?」

 

 ローニャがそう問いかける。

 

「盾か。いいのがあるぞ」

 

 こっちにこい、と洞窟小人(ドワーフ)は店の中を案内する。

 壁側に案内され、とある盾の前で止まる。

 銀灰色に輝く盾だ。装飾の類は無く、シンプルな作りの盾である。

 

「これは……ミスリルですか?」

 

 銀灰色に輝く盾を前にローニャは感心する。

 ミスリルは貴重な鉱石だ。使用されるのは主に武器である。

 加工のしにくさもあり、剣や斧等にされることが多い。

 全身鎧等は貴重性もありまず作れない。作ろうとすれば下手な城が建てれるレベルの資産が必要だろう。だからこそ武器にしか使われない。

 因みに最も多いのは槍への加工である。槍なら先端部分だけで済むからだ。

 

「ああ。これは全部ミスリル性だ。値段は六百万ルエだ」

「高いですね」

 

 だが、手が出せない金額ではない。

 ヴィルトが受け取った魔竜ジャガーノートの報酬五千万ルエは五人で別けられた。

 一人当たり千万ルエに別けられ、ローニャもそれだけの大金を持っている。その為に買おうと思えば買えるのである。

 

「手に取ってみていいですか?」

「いいぞ」

 

 ローニャは盾を手に取る。

 軽い。前まで使っていた鋼鉄の盾よりも余程軽い。羽のよう、というのは正にこのことである。

 

「うわ……これ取り回しやすい……うーん。これ以外にいい盾ってあります?」

「ないな。現状それがうち一番の盾だ」

「そうですか……」

 

 うーん、とローニャは悩む。

 防具に金をかけるべきだとはわかっているが、それでも六百万は高い。

 だが、手が出せない金額でもないというのがローニャを悩ませる。

 

「悩むくらいならば買えばいいのでは? 質も良いですし」

 

 アンタレスがそう助言をする。

 

「うーん……買います!」

「そうか。保証人を立ててくれればローンが組めるぞ。何回払いがいい?」

「あ、現金一括で!」

「なに? あんた、金持ちなのか……まぁいいが」

 

 ローニャは店主らしき洞窟小人(ドワーフ)と共に盾を持ってレジへと進む。

 アンタレスは何かいい武器が無いか、と他の武器を探そうとする。

 その時、ちりんと鈴が鳴って店内に新しい客が入って来る。

 入って来たのは魔族だ。黄金の山羊の角が生え、黒髪赤目の容姿の男だ。背中からは蝙蝠の翼が生えている。紳士服を纏った長身の男である。

 その姿に見覚えがあるアンタレスはぽつりとつぶやいた。

 

「確かローニャに負けた魔族……」

 

 その言葉を魔族──カイは聞き逃さなかった。

 くわっ! と目力を強め、カイはアンタレスに詰め寄る。

 

「君! 今ローニャさんの事を呼び捨てにしたがローニャさんとどういう関係かね?!」

 

 その言葉にアンタレスはめんどくさいな、とため息を吐きつつ答える。

 

「どういう関係も何も、単なる仲間ですよ。それが何か?」

「君が仲間……?! 君のような魔族がローニャさんに何をするつもりだ!」

「いやあなたも魔族でしょう」

 

 何を言っているんだこいつは、という目でアンタレスはカイを見る。

 そこに盾を購入しマジックバッグに仕舞ったローニャがやって来る。

 

「アンタレスさんどうしたんですか……うわ」

 

 ローニャはカイの姿を見ると露骨に顔を顰めた。

 逆にカイはぱぁっと顔が明るくなる。

 

「ああ、ローニャさん! ここで会えるとは正しく運命に愛されている! どうでしょう、俺と仲間になるというのは!」

「結構です。僕には充分な仲間がいますから」

「くっ……ですが俺は諦めませんよ!」

 

 きぃ、とカイは歯を鳴らす。

 

「なんですこいつ。どういう関係で?」

 

 訳が分からないとばかりにアンタレスがローニャに問いかける。

 答えたのはカイだ。

 

「俺はローニャさんの騎士にして恋人候補! 名をカイだ!」

「勝手に言ってるだけ何であまり信じないでくださいね」

「……要するに奇人変人の類という訳ですか」

 

 なるほど、とアンタレスは納得した。

 

「なんだ兄ちゃんたち。知り合いなのか?」

 

 奥から店長の洞窟小人(ドワーフ)が歩いてくる。

 

「あ、店主。頼んだ武器は出来ているかね?」

「ああ。出来とるよ。奥にある。取って来るよ」

「俺もついて行こう。直ぐにでも見たい」

 

 そう話すや否や二人は奥へと進んでいった。

 

「今の時代の魔族というのは変わっているんですねぇ……」

 

 アンタレスは感心したようにそう呟いた。

 

 

 ■

 

 

「そういえば旅に出ることをヴォルフさんに伝えた方がいいんじゃない? 結構お世話になったんだし」

 

 服屋を出た途端、リアがそうヴィルトに話す。

 ヴィルトもそうだな、と返す。

 

「確かに世話になったからな。騎士団の詰め所にでもよるか」

「そうしましょ」

 

 二人は足の向く先を変え、騎士団の詰め所へと向かう。

 道中面倒なので乗り換え馬車を拾い乗っていき、詰め所に辿り着く。

 詰め所の中に入ると全身鎧を纏った騎士が出迎える。

 

「これはシュヴァイン殿。騎士団に何か御用でしょうか?」

「団長のヴォルフに話したい事があってな。今いるか?」

「でしたら団長は二階にいます。案内しましょう」

 

 ということで、二人は騎士の案内の元二階の奥へと案内される。

 二階の奥の部屋に騎士がノックをすると中から「どうぞ」と返事が返って来る。

 

「失礼します、団長。シュヴァイン殿とリア殿が来ました」

 

 そう言いながら騎士はドアを開け、続いてヴィルトとリアも中に入る。

 部屋は簡素な作りだ。奥に執務机が一つ。左側の壁に本棚が一つあるだけの部屋である。

 奥の椅子にはヴォルフが座っている。鎧は着用しておらず、紺色の服を着ている。

 

「む。ヴィルト殿か。どうかしたのか?」

 

 机の上にある書類から目を放し、ヴォルフはヴィルトに目を向ける。

 

「ああ。明日にでも王都を離れる事になったのでそれを伝えに来たんだ」

 

 その言葉にヴォルフは眼を点にする。

 

「随分と急だな。しかしそうか、旅に出るのか……」

 

 さてどうするか、とヴォルフは悩む。

 ここで下手に引き留めて印象を悪くするわけにはいかないが、国の騎士として引き留めない訳にもいかない。

 

「ふむ。良ければ何処に行くのか教えては貰えないか?」

 

 ヴォルフは既に国が集めた情報としてリアとヴィルトが魔王城を目指して旅をしていると知っている。だが話の為にわざと聞く。

 

「取り合えず今のところは隣国のミセーズに向かおうと思っています。その後はまだ考えてませんが」

 

 リアもまたここで魔王城なんていう絵空事を探している等と言える訳もないので、無難な回答をする。

 

「そうか……君たちの旅路に幸多からんことを。また何かあったら頼ってくれよ」

 

 

 ■

 

 翌日の朝。王都、城壁前。

 

「よし。荷物はこんなものだな」

 

 魔車の荷台に荷物を置いたヴィルトは呟く。

 荷台部屋から降り、外で待つ仲間たち──リア、ローニャ、アンタレスの元に戻る。

 ノワールは影の中に居る。

 

「纏め終わったぞー」

「そう? じゃあ、出発しましょうか」

 

 外で何か話し合っていた三人はそう言うとアンタレスを置いて馬車の中に入ろうとし──こちらに寄ってくる馬車を前に止まった。

 走って来たのは豪華な馬車だ。更には馬もただの馬ではなく、スレイプニルだ。

 金色の文字通りに金が使われているであろう馬車がヴィルト達の前まで来て止まる。

 御者も騎士だ。これだけでこの場者が国の馬車だとわかる。

 

 全員がなんだ、と困惑していると馬車が開き、中から一人の老人が降りてくる。

 降りて来たのはグヴィン・ヴェル・ゼーティ。この国の王である。

 

「こ、国王陛下?!」

 

 慌ててリアとローニャが背筋を正すと片膝をついてこうべを垂れる。

 ヴィルトとアンタレスは最初動かなかったがリアが慌ててヴィルトの頭をひっぱたく事でヴィルトも渋々と片膝をつき、アンタレスも主に倣った。

 

「気楽にしてよい。直ぐに立ち去るでな……ヴィルト・シュヴァイン」

 

 国王がそう言うとヴィルトは現地を取ったとばかりに立ち上がる。

 

「なんの用だ──ですか?」

 

 ヴィルトは疑問を口にする。

 

「この度旅立つと聞いてな。急遽来たのだ……其方らの旅路に祝福を。どうかまた我が国に訪れた際は王都に立ち寄ってくれ」

 

 グヴィンはそう言うと右腕を差し出す。

 握手と悟ったヴィルトも右手を差し出し、握手をする。

 

「では。これにて。さらばだ、特別外遊団としての活動を祈っている」

 

 グヴィンはそう言うと馬車へと戻り、扉を閉めてしまう。

 直ぐに御者の騎士がスレイプニルを使い馬車は立ち去って行った。

 

「……なんだったんだ?」

 

 ヴィルトは本当にわからない、という顔をして疑問を口にした。

 

「私にもわからないわ……まぁとりあえず、次の街、テレスタに向かいましょ」

「ま、それもそうだな」

 

 ヴィルト達は魔車の中へと乗り込んだ。

 

 外でアンタレスが本来の姿に戻り、魔法で糸を作り自身と魔車を繋げる。

 

「では新しい街に向かって出発だ!」

 

 ヴィルトが魔車の窓から顔を出し、テンションを上げてそう叫ぶとアンタレスが駆け出し、次の街への旅が始まった。

 

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