元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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第42話

 

 なだらかな平原を一つの魔車が走る。

 平原には特に面白い物は何も無い。碌に整備されていない道に木がぽつぽつと生えているだけ。

 馬車によっては道がでこぼこしていて揺れるだろう道である。

 

 その道を、魔車が優雅に走っていく。

 

 魔車を牽引するのは恐ろしい魔物だ。

 全長十メートル以上はある巨体。

 蜥蜴の体を持っているが、前腕には被膜が付いており翼となっている。

 漆黒の鱗に覆われた体であり、艶のある光沢を放っている。

 頭部からは頭部からは黄金の角が二対飛び出ている。

 

 かつて魔王軍の四天王として君臨していた魔族、アンタレスの本来の姿である。

 

 アンタレスが牽引するのは豪華な馬車だ。

 漆黒の車体に金のスリットが入った絢爛豪華な物だ。

 非常に大きく、十人は中に入れそうな物である。

 四角い車体には窓が付いており、中から外が見えるようになっている。

 

 この魔車に御者は居ない。アンタレスが自分で繋げて動ける為に必要が無いのだ。

 

 魔車の中では、中に居る者達が遊びに興じている。

 

 

「むむ……これだ!」

 

 背の高い女が宣言と共に相手のカードを取った。

 美少女──いや美女と言える女だ。

 白い肌にはニキビやできものなど無く、綺麗な肌をしている。

 黒い髪に赤い瞳。ショートカットの髪型である。

 上下とも黒い服に緑色の靴を履いている女だ。

 身長は百七十センチ程。胸はDカップと大きめ。

 一万年前の古代の時代、魔王として君臨し世界に絶望と混沌を齎した破壊の主、魔王ヴィルト・シュヴァインだ。

 

「残念」

 

 ニヤリとそう返すのもまた美人だ。

 身長はヴィルトと同じく百七十センチ程。

 紅い髪と瞳を持つ活発そうな女である。肌もまた綺麗と言える。髪は肩口までと少し長めだ。

 スカートタイプの服を着ており、赤い服を纏っている。

 特徴的なのは胸だ。ヴィルトなどよりも余程大きい胸を持っている。

 名をリア。ヴィルトの最初の仲間である。

 

「うーん……どうすべきか……」

 

 三人目もまた美人の女である。

 金髪碧眼の整った容姿の女だ。左目の下に傷があるが、それが逆にチャームポイントとなり魅力を引き立てている。

 ウルフカットの髪型の女であり、流れる金髪は美しい。身長は百七十センチ程とリアと同程度。

 名をローニャ・アルテリシア。三番目の仲間である。

 

「こういう時は特に考えず動くものですよ」

 

 そう言葉を発するのもまた、美女である。

 肩口まで伸びた濡れ羽色の美しい黒い髪にこれまた黒い瞳。

 身長は百八十センチ程とこの中で一番背が高い。そして胸も大きいが、リアには及ばない。

 黒いドレスを着ている。正し優雅さを持ちながらも機動力のあるドレスだ。

 ノワール。ハンデル商会の元頭領にして魔王軍四天王の一人だった者。

 

 ヴィルト、リア、ローニャ、ノワールの四人は暇なのでトランプのカードゲーム、ジョーカーに興じていた。

 

 旅を再開して三日目。移動は主にアンタレスが引く馬車によって行われる。

 その間にする事も特にない為、四人は魔車の中でカードゲームに興じるぐらいしかやる事が無いのである。

 

「あ、あがりね」

 

 そうして遊んでいると、リアがカードを揃え上がった。

 中央のテーブルにカードを置き、ゲームから降りてしまう。

 

「ぐぬ……」

 

 今ゲームをしている者の中ではヴィルトが一番持ち手札が多い。それだけ苦戦している。

 

 そうして遊んでいる事十分。ゲームは終わった。

 上がった順はリア、ローニャ、ノワール、ヴィルトである。ヴィルトは負けた。

 そうしてカードを片付けているとリアが「そろそろお昼じゃない?」と昼食を提案する。

 ヴィルトは外のアンタレスに概念共有(コネクト)という遠距離通話の術で止まるよう指示を出し、魔車を止まらせる。

 ゆっくりと減速し、魔車が止まる。

 さぁ外に出ようとし、ノワールは吸血鬼である為日光に長時間当たると死にかねない為ヴィルトの影に潜入する。

 ドアを開けて全員が外に出るとヴィルトは伸びをする。数時間ぶりの外は開放感がある。

 

「食事の準備を致しますので少々お待ちください」

 

 そこには人型に戻ったアンタレスが居た。

 身長は百八十センチ。黒い執事服を着た黒髪黒目の男だ。

 左目にはモノクルを付けており、背中からは蝙蝠の翼が生えている。

 

「うむ。わかった」

 

 ヴィルトは返事をすると魔法を行使して椅子を作る。

 アンタレスも魔法を行使し、簡易的なキッチンとコンロを魔法で作り出す。

 自身の影の中から食材を取り出し、調理を始める。

 まずは肉を取り出し包丁を作り出しミンチ上に刻む。上位者としての身体能力があればこの程度楽に出来る。

 人数分のパティに成形し、フライパンを作るとその上に肉を載せ、炎を生み出し焼く。

 その間にパンを人数分取り出し包丁で上下半分に斬り、これもフライパンで焼く。

 コンロで四つぐらいに別けて焼いている間に野菜を取り出し切っていく。

 レタスとトマトを切っていく。

 

 そうして調理を十分程すれば、昼食のハンバーガーが人数分完成する。

 

「出来ましたよ」

「お、もうできたのか」

 

 三人で談笑しているヴィルトたちにアンタレスが料理を運ぶ。

 ヴィルトは魔法で机を作り出し、ハンバーガーを机の上に置くよう促せる。

 

 そうして食事が始まる。四人での食事だ。

 ノワールは吸血鬼である為、普通の食事が出来ない。その為に食事に参加する事はない。

 談笑しながら食事が進む。

 

 食事が終わるとリアが立ち上がり「ちょっとトイレ行って来る」と立ち去る。

 ヴィルトたちから距離を取り歩いて行く。正し平原なので身を隠す物が何も無いが。

 充分に距離を取ったリアはしゃがみ込んでパンツをずらし、排せつをする。

 終わると浄化の聖術を使い体の表面に着いた穢れを打ち消す。これによって外で会っても清潔で居られる。

 

 リアはヴィルトたちの元に戻るとヴィルトが突如立ち上がる。

 

「どうしたの?」

「……何かが近づいてくるな」

 

 ヴィルトはそう返事を返す。

 言われてリアも感知を最大にすると、確かに何かが高速で移動してきているのを感じ取る。

 

「賊かしら」

「には思えんが……」

 

 ローニャも立ち上がり、剣を抜いて警戒をする。

 

「……見えてきました」

 

 アンタレスがそう言い、指で場所を伝える。

 指先には走って来る男が居た。

 背は百七十センチ程度。狼の耳と尻尾が生えている為、人間ではない。

 種族は獣人。灰色の髪に同じく灰色の尻尾と耳を持っている。

 

 獣人は何かから逃げるかのように全力で走っている。

 

「おーい、そこのお前! 何をそんなに急いでいる!」

 

 ヴィルトが獣人に向かって大声で話しかける。

 すると獣人は今気づいたのか目を点にして驚き、ヴィルト達の方に方向を転換して走り寄って来る。

 そうしてヴィルト達の前で止まると肩で息をする。

 

「あ、あんたら、騎士か何かだったりしないか?」

 

 獣人は息も絶え絶えの状態で話し出す。

 

「騎士ではない。冒険者だ」

 

 ヴィルトがそう言うと獣人はあからさまにがっかりとする。

 

「そ、そうか…………だが、そうだな……」

 

 男は何か悩む様なそぶりを見せた後、意を決したように口を開く。

 

「あんたら冒険者って言ったな。なら依頼を受けてくれないか!」

「依頼? まぁ、構わんが……」

 

 ヴィルトは別に構わないと依頼を受ける意思を見せる。

 その反応に男はあからさまに明るくなる。

 

「そうか、助かる! 実は俺が居た村に盗賊が襲撃してきてな、そいつらをどうにかして欲しいんだ!」

「盗賊退治か……まぁ楽勝だな。村まで案内してもらうぞ。我が先行するからリア達は後から付いてきてくれ」

 

 よし、とヴィルトは男を脇に抱え浮遊する。

 

「畏まりました。後で追いつきます」

 

 アンタレスが一礼と共にそう返事をすると、ヴィルトは男を抱え飛翔してこの場から消えた。

 

 

 ヴィルトは空を飛びながら脇に抱えた男に問いかける。

 

「で、お前の村は何処だ?」

「こ、こっちだ!」

 

 男は生まれて初めての空と美女に抱えられているという現実に驚愕と興奮をしながらどうにか案内をする。

 落とさないように抱えている為男の顔にヴィルトの胸が当たっているが、興奮するのは男だけでヴィルトは気にもしない。

 そうして飛ぶ事十分。村を見つける。

 よくある創りの村だ。石の壁に木の屋根で出来た家々が建ち並び、小麦畑がある。

 村を囲うように木で出来た柵があるが、入り口の門が壊されている。

 

 ヴィルトは村の中央に向かって下降──というよりは落下をする。

 落下すると砂塵が舞い村が煙に塗れる。

 

「なんだ?!」

「敵襲か?!」

 

 砂塵に包まれた村から困惑の声が上がる。どれも若い男の声だ。

 ヴィルトは煙を鬱陶しく思い、腕を軽く振るう事で煙を吹き飛ばす。

 

「ひーふーみー……多いな」

 

 ヴィルトは敵である盗賊を見て眉を潜める。

 

 村の中央には村人であろう獣人たちが集められている。人数は二十人程だろう。

 全員が縄で縛られている。それを囲うように薄汚い盗賊たちが立っている。盗賊達は二十人程だ。

 更には馬車もあり、馬車には既に何十人か村人が載せられている。

 

「女だ」

「命知らずの馬鹿が。性奴隷にでもしてやるか」

 

 盗賊達は下品な笑みを浮かべる。

 

「ふん。やれるものならやってみろ」

 

 ヴィルトは脇に抱えていた男を放り投げると影から戦斧ツォルンを取り出す。

 黒い両刃の戦斧だ。柄だけで一メートル以上はある。

 禍々しい斧であり、刃部分は赤く脈動している。

 

「かかってこい盗賊共。皆殺しにしてくれようぞ」

 

 そう言うとヴィルトは目の前の盗賊に急接近。

 正面からツォルンを振り落とし盗賊を両断する。

 

 驚愕し止まる隣の盗賊に横向きにツォルンを振るい上半身と下半身に別けて両断する。

 

「どんどんいこう!」

 

 ヴィルトは叫びながら続いて盗賊に襲い掛かる。

 盗賊たちも各々武器を抜き取り迎撃の構えを取る。

 

「やろうぶっ殺してやる!」

「てめぇの穴という穴使い潰してやらぁ!」

 

 下品な言葉と共にヴィルトに襲い掛かるも、ヴィルトが軽くツォルンを振るうだけで容易く両断され、盗賊たちは死んでいく。

 そうしてヴィルトが殺した盗賊が二桁に届きかけた頃、戦況が動く。

 

「おい、これまずいぞ!」

「逃げよう! 逃げるが勝ちだこれ!」

 

 盗賊の一部が武器を仕舞い、逃走してしまう。

 拘束された村人を放置し、馬車から降りて逃げ出す。

 

「あ、待て!」

 

 ヴィルトは追撃の遠距離攻撃の魔法を行使する。

 魔力の弾丸を作り出し射出する簡単な魔法だ。属性攻撃でない分純粋なダメージ量が高い。

 漆黒の弾丸が何十と生み出される。一つ一つが人間の頭部程の大きさがある弾丸だ。それが高速で放たれる。

 何発かは外れるものの、殆どは逃げ出した盗賊に命中し腹を吹き飛ばし手足を吹き飛ばし頭を弾け飛ばさせる。

 

 だが射程距離外に逃げ出した盗賊が一人村の外に出ようとし──

 ──空から降って来た糸の槍で頭部から貫かれた。

 

「遅れて申し訳ありません。ヴィルト様」

 

 空からゆっくりと脇にリアを抱えながらアンタレスが降りて来た。

 遅れて空からローニャも飛んでくる。

 

「いや。実に良いタイミングだ。アンタレス」

 

 ヴィルトはニヤリと笑い、アンタレスが来たことを歓迎する。

 

「やってくれたな、女ぁ!」

 

 すると村の奥から大男が一人歩いてくる。

 巨漢だ。身長は二百センチは超えている。そして肥えており、肥満体系の男だ。

 鋼の戦鎚を背負っている男は鬼の形相でヴィルトを睨む。

 

「なんだ、貴様が賊の頭か?」

「そうだ! よくも俺の可愛い子分共を皆殺しにしてくれたな。てめぇを犯して孕ませて盗賊の子を産ませてやる!」

 

 盗賊の頭の台詞にリアとローニャがドン引きする。

 だがヴィルトは気にもしない。というか犯すとか孕ませるとかの言葉の意味をよく分かっていない。ヴィルトは性的に無知に近いのだ。

 

「そうか。まぁ、やれるものならやってみろ!」

 

 ヴィルトはそう叫ぶと突進。ツォルンを正面から振るう。

 盗賊の頭──名をダグラスは戦鎚の柄でツォルンを受け止める。

 

「むっ!」

 

 本来鋼鉄程度ならばツォルンで斬り裂ける。それが出来ないという事は聖力という超常の力を籠める事で強化したという事。

 しかもただの強化ではない。魔王の一撃を防げる程の強化だ。並大抵の者の力ならばヴィルトは多少強化されていても斬り裂ける。

 ぎゃりぎゃりと金属同士がぶつかった硬質的な音が響く。

 ダグラスが足蹴りを放ち、ヴィルトが蹴り飛ばされる。

 直ぐに体勢を直し、ヴィルトは一度軽くツォルンを振るう。

 

「……面倒だな。本気でいこう」

「はっ。てめぇ如きが本気を出した所で俺には及ばねぇよ!」

「それはどうかな?」

 

 ヴィルトは自らが持つ闇の力である魔力を解放し、放出する。

 膨大な──無限にも思える程に莫大な量の魔力だ。それだけで大気は震え、村人たちは恐怖する。

 ダグラスもまた膨大な魔力を前に圧倒され、後ずさりする。

 ヴィルトは魔力を使って自身の身体能力を強化し、超高速──音速を超えた速度で移動しダグラスに向かってツォルンを振り落とした。

 今度は余りにも呆気なく、ダグラスは防御も回避もする事出来ず真っ二つに両断され、死亡した。

 

「これで終いだな」

 

 ヴィルトはツォルンを振るうと付いた血を振り払い、影の中に収納した。

 

 

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