元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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第八話 新しい仲間 アンタレス

 ルテンラの街の領主の館は堅牢だ。

 城壁とまでは行かないが高い壁を持ち、家自体の材質も防護力の高いモノで作られている。

 

 その屋敷の謁見の間に、ヴィルトとリアは居た。

 時刻は朝を少し過ぎた程度。人々が活発に動き出す時間帯だ。

 

 ヴィルトが好奇心旺盛に周囲を見渡そうとするのをリアは抑える。

 

 謁見の間、とは言うがそこまで大したものがある訳ではない。

 簡易的な玉座に赤いカーペットが敷かれただけの部屋であり、王が権威を示す様な部屋ではない。

 

 玉座には当然、この街の領主が座って居る。

 

 太っている男だ。贅肉の付いた男であり、だらしの無さそうな印象を受ける。

 この国の貴族特有の金髪碧眼。容姿は元は優れていたのだろうが身体に付いている肉のせいで台無しになっている。

 名をソレイナ・ゼルーグという。

 

「ヴィルト殿。リア殿。この度は偽竜を迎撃してくださり誠に感謝する」

 

 ソレイナは玉座から小さく頭を下げ、感謝を示す。

 

 それに対しヴィルトはさも当然とばかりに胸を張る。対しリアは貴族が頭を下げたという事に慌てる。

 

「これは心ばかりのお礼だ。受け取ってくれ」

 

 ソレイナがそう言うと従者が一人前に出る。

 執事服を着た男だ。男は袋をトレイの上にのせている。

 大きな袋だ。両の手では収まらない程に大きい。

 

「報酬の二百万ルエだ」

 

 リアが受け取るとそれは実に重い。

 不躾になるので袋の中身は確認出来ないが、それでも中身は金貨や大金貨ばかりなのだと思われる。

 流石に貴族が渡して来た物をその場で確認するなどという事は出来ない。

 

「報酬。真にありがとうございます」

 

 そう言うとリアは頭を深く下げる。

 ヴィルトは最初下げなかったがリアの視線に気づいて慌てて下げた。

 

「それでどうだろう。ヴィルト殿。リア殿。我が都市の騎士団に入団しないか? 冒険者よりも多く稼げるし、安定して暮らす事が出来るぞ」

 

 来たか、とリアは思う。

 騎士団への勧誘。想定されていた事だ。

 ヴィルトは当然、リアも受けるつもりはない。旅をするという目的があるのに一つの街に定住しなければならない騎士団に入る事など出来ない。

 どう断るかが問題だ。貴族相手の勧誘を断るとなればどう断っても角が立つ。

 出来得る限り穏便に済ませなければ、とリアは気合を入れる。

 

「非常にありがたい申し出です。ですが私たちにはある目的があるのです。それを果たすまで、騎士になる事は出来ません」

「ほう? その目的とは?」

「申し訳ないですが、いう事が出来ません。非常に……そう。非常に大切な事なのです」

 

 ここで目的である「実在するかもわからない魔王城を目指す」等と言った場合、相手は怒るだろう。

 そんなありもしない夢を追いかけるより、自身の部下になれ、と。貴族とはプライドを大事にする者だ。自らの勧誘を断った理由がそんなくだらない事だとわかれば怒りを抱くし、他の貴族からも笑われるだろう。

 故に言う事は出来ない。

 

「非常に気になるな。どうしても教えてはくれぬのか?」

 

 ソレイナはこれでは引かず、問いただそうとする。

 さてどうするか。リアが考える間にヴィルトが口を開いた。

 

「我らは魔王城を目指している。騎士に成る事は出来ん」

 

 ──ちょ?!

 

 急に何言ってんだこの魔王。リアはそう思いヴィルトを睨む。

 

 その目的を聞いたソレイナは目を丸くした。かと思えば一瞬後には笑い始めた。

 

「はは、そうか! 魔王城を目指すのか! ならば騎士に成る事は出来んな。諦めるとしよう」

 

 ソレイナが寛大にも許したことでリアは安堵の溜息を洩らした。

 

 

 

 

 ■

 

 

「緊張した……」

 

 屋敷の外で。リアはそう呟いた。

 

「そうか?」

 

 軽く返すのはヴィルトだ。何も変わらず気楽なままである。

 

「というか貴女ね、貴族相手にあの振る舞いは駄目よ。今回は相手が寛大だから許されたけど普通処刑されるわよ」

「そんなもの返り討ちにすればいいだろう」

「世の中暴力だけじゃ解決できない事もあるのよ」

「そういうものか?」

「そういうものよ」

 

 等と二人は話しながら、屋敷を離れて歩いて行く。

 貴族の屋敷の前で話し続けるなどという不敬な事は出来ない。

 

「それでだけど、今日は旅の支度をしようと思うわ」

「旅支度か。それをするなら我も呼びたい奴がいる」

「呼びたい奴? 知り合いでも出来たの?」

「いや、我の部下だ。我が魔法を行使する事で呼び出せる存在でな」

 

 ヴィルトが魔王として持っている権能の一つに魔物の製造能力がある。

 下位の魔物はその場で乱造でき、上位の魔物──魔族ならば材料さえあれば作る事が出来る。

 一万年前の時代において魔物と魔族の違いは知性の有無で判断されていた。その魔族をヴィルトは量産できる。

 

「どんな人なの?」

「何をやっても優秀でな。軍の指揮から我の身の回りの世話までしてくれた。特に便利なのが影の能力だ。奴は自身の影の中に物資を仕舞う事が出来る。中に入れた物は時が止まるという便利機能付きだ」

「何それ凄い。旅の必需品レベルじゃん」

「だろう? だから呼び出そうと思う」

「呼んで呼んで! どうすれば呼べるの?」

「材料に罪人の死体が必要だ。それを探そうと思う」

「わかった。組合で何か依頼が無いか見ましょ」

 

 二人は話し込みながら冒険者組合へと足を進める。

 領主の屋敷から徒歩二十分程で冒険者組合に辿り着く。

 ウェスタンドアを開け、二人は組合の中に入っていく。

 中にはまばらに人がおり、各々酒を飲んだり軽食を食べている。

 そんな者達はリアとヴィルトを見つめ始める。

 偽竜を迎撃した英雄二人に興味を抱かない方が可笑しいのだ。そして領主に呼ばれたであろう二人が冒険者組合に居ることに疑問を抱く。

 

 ヴィルトはそんな視線を気にもせず。リアは少々びくつきながらクエストボードの前に着く。

 

 二人そろってクエストボードを見つめる。

 

「あ、これなんかいいんじゃない?」

 

 そう言ってリアは木札を一つ取る。

 

「内容は?」

「砦に住み着いた盗賊の討伐。報酬二万ルエだって」

「中々いいな。では受けようか」

 

 リアが木札を手に受付に進む。

 受付の男は二人が恐竜退治を受けた時と同じ、眼帯を付けた男だった。

 

 受付の机にリアが木札を置くと、受付の男は怪訝な眼で二人を見つめる。

 

「あんたら、まだ冒険者として活動するのか? 領主に騎士に誘われはしなかったのか?」

「騎士に成る気はないのでな。冒険者を続けた方が都合が良いのだ」

「ハハッ、冒険者の方が良いってか! 変わってんな、あんたら!」

 

 受付の男は豪快に笑い、依頼の受注処理を済ませる。

 

「偽竜を倒したあんたには不要だろうが、気を付けてな」

 

 

 ■

 

 ルテンラの街から馬で四時間の場所に其処はある。

 堅牢な砦である。城門もあり、石造りの四角い砦である。

 

「ちょっと休憩させて……」

「お、おう」

 

 そしてここまでヴィルトに担がれて来たリアは肩で息をし、ぜぇぜぇと息を漏らす。

 

 ヴィルトの走力は人知を超えている。本気で走れば時速五百キロにもなる。

 流石に本気で走るとリアの方が駄目になる為速度は落としたがそれでもこの世界の住人の常識を超えた速度だ。

 勿論ごく一部の強者ならばぎりぎり出せなくもない速度であったが、リアはそんな速度に慣れている訳ではない。

 

 ここまで約十分。時速にして約百四十キロをヴィルトは出していた。

 

「ふぅ……もう大丈夫よ」

 

 リアは調子を取り戻し、胸を張る。

 

 ヴィルトとリアが居るのは砦の正面。門から少し離れた場所である。

 当然そんな位置では砦側からも見られやすい場所でもある。

 

「よし、ではやろうか」

 

 ヴィルトが拳を握ろうとするのを、リアは止める。

 

「待って。ここは私に任せて頂戴」

「む。お前一人で出来るのか?」

「これでも私は女一人旅をここまでしてきたのよ? 盗賊程度ちゃちゃっと倒せるわよ」

「という割には最初に会った時盗賊相手に逃げてたが」

「あ、あの時は遺跡巡りで聖力尽きてたのよ。聖力さえあれば敵じゃなかったわ!」

 

 見てなさい、とリアは聖力を活性化させる。

 そしてそのまま垂直に上昇。空へと飛びあがる。

 

 この世界の住人にとって空というのはある程度の実力さえあれば飛べるものだ。

 だがそのある程度の実力というのが高く。空を飛べるか飛べないかで力というものが図れる。

 そんなのは知らないヴィルトはお前飛べたんだなという顔をする。

 

 リアは飛び上がり、砦の四方の塔のうちの一つに接近する。

 其処には盗賊が居た。人間の盗賊だ。弓を手にしている。

 

「て、敵襲?」

 

 盗賊は驚きながらも背負っている弓を取り出し構えようとする。

 だがそれよりもリアの動きの方が早い。

 

 手を振り下ろし。聖力で出来た剣を生成する。

 それを発射。高速で射出された剣は盗賊相手に回避も防御も許さない。

 盗賊の胸に堂々と刺さり、盗賊を絶命させる。

 

 リアはそのまま砦の中央まで飛び、ゆっくりと下降を始める。

 

「敵襲だ!」

「おい、女が来たぞ!」

「英雄気取りが、死にな!」

 

 リアの接近に気づいた盗賊達が続々と集まる。

 

雷光鞭(らいこうべん)

 

 簡単な詠唱をリアが行うとリアの手に長く、白い鞭が生成される。

 非常に長い鞭だ。十数メートルはあるだろう。

 

 それを無造作にリアは振るう。

 

「ぎゃあああ!」

「いてえええ!」

 

 盗賊達は絶叫し、悲鳴を上げながら絶命する。

 人には害を与えるが、砦──物質には何の影響も与えない。生物だけに害を与える聖術である。

 

探査(ソナー)

 

 リアがそう呟くと球体状に聖力を放出する。

 ぶわっと広がった聖力の反応から探知する聖術だ。魔法にも同じ術がある。

 

「残り一人。楽勝ね」

 

 どうやら砦の外に居たのが大半らしい、とリアは砦のドアに向かって歩く。

 聖力で肉体を強化しておき、ドアを無造作に開ける。これで並大抵の罠は耐えることが出来る。

 リアはドアを開ける。だが罠の類は無く、問題は無かった。

 

「な、何だお前は」

 

 ドアを開けた先はちょっとした大部屋だ。

 特に何かがある訳ではない部屋であり、強いて言えば部屋の左奥に木製の机と椅子があるだけである。

 その椅子には大剣を背負った男が一人居る。

 

「名乗る気はないわ。さようなら」

 

 男が椅子から立ち上がると同時に聖術をリアは放つ。

 単純な聖力による砲撃。盗賊の胸を撃ち抜き、風穴を開けた。

 

 どさり、と盗賊が倒れる。

 

「これで依頼達成ね」

 

 取り合えず証拠として一人ぐらい首を持ち帰るか、とリアは盗賊の死体に近づき、聖術で刃を形成し首に振り落とす。

 盗賊の首が出来、それを聖具のバッグに仕舞っておく。

 

 これでやる事は終わったのでリアは部屋の扉を開け、外に出る。

 

「何してるの?」

 

 部屋を出た先、砦の広間には死体の山を築いているヴィルトが居た。

 

 魔力による念力をもって死体を動かし、盗賊の死体を一纏めにしている。

 

「部下を呼び出そうと思ってな」

「ああ、例の」

 

 リアがヴィルトに近づくと扉が再度開き、盗賊の死体が浮遊して死体の山に近づく。

 そのまま盗賊の死体は死体の山の一つとなる。

 

「よし。始めるぞ」

 

 ヴィルトがそう言うとヴィルトの目が赤く光る。

 

 死体の山を囲うように魔力による魔法陣が生まれ、ぐるぐると回転しだす。

 死体の山がカタカタと動き出し、一つになろうと蠢きだす。

 

 ぐじゅぐじゅと気色の悪い音を立てながら死体の山が蠢き──死体の山が黒く光る。

 余りに強力な光にリアは目を開いてられなくなり、眼を閉じる。

 

「クフフフフフ……」

 

 リアが次に目を開けると、死体の山は消え代わりに男が立っていた。

 

 長身の男だ。身長は百八十センチ程。

 黒い執事服を着た男だ。妙に様になっている。

 黒髪黒目の男であり、左目にはモノクルを付けている。背中からは蝙蝠の翼が生えている。

 顔つきはイケメンという分類であり、優男という雰囲気だ。

 

「あぁ。主よ。貴方の帰還を待ち望んでいました」

 

 男はヴィルトの前に膝を付くとヴィルトの手を取り、手の甲にキスをする。

 

「漸くお前を蘇らせれた。遅くなってすまなんだ」

 

 キスをしている光景にリアが驚いているがそれを無視してヴィルトと男の会話は続く。

 

「謝罪など不必要でございます。我ら魔族は魔王様の手足。己の四肢に謝罪する必要は皆無です」

「そうか……ならばよい」

 

 ところで、と男はリアを睨んだ。

 

「何故魔王様の前に人間が?」

 

 男は立ち上がり、その指を向けようとする。

 それより前に、ヴィルトが声をかける。

 

「辞めろ。リア──其処の女は今の我にとって必要なものだ。害を与えることは許さん」

 

 ヴィルトの言葉に男は一瞬驚愕し顔色を変えるが、直ぐに元に戻す。

 

「畏まりました。貴方がそういうのなら」

 

 アンタレスは小さく頭を下げた。

 

「さてリア。紹介しよう。私の忠臣であるアンタレスだ」

「……アンタレスと言います。人間。よろしくお願いしますね」

 

「……リアよ。よ、よろしく」

 

 リアは男──アンタレスを前に驚きながらも名乗りをあげた。

 

「では街に戻るか」

 

 

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