元魔王さまのぶらり旅   作:Revak

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第九話 旅の支度

 

 三人で街道を歩き、街へと向かう。行きの様にヴィルトが担いで走る等という奇行はしない。

 

「えっと、アンタレスさんって何が出来るの?」

 

 リアは互いに知る為に、相互理解とコミュニケーションの一環で尋ねる。

 

「クフフ。人間相手に教える訳ないでしょう」

 

 対しアンタレスは人間等相手にする価値も無いとばかりにコミュニケーションを拒否する。

 

「アンタレス。話してやれ」

「……畏まりました」

 

 ヴィルトが命令をするとアンタレスは一転し会話を始める。

 

「私が出来るのは影の中に物資を仕舞う事と魔法による攻撃です。其処らの魔族よりは上ですよ」

 

 自らの力を自慢するかのようにアンタレスは答える。

 

「私も聖術がそこそこ使えるわ。自慢じゃないけど空だって飛べるのよ」

「空ぐらい飛べて当然では?」

「昔は知らないけど、今は飛べるのも一種のステータスなのよ!」

「そういうものですか。人類も随分と劣化したようですねぇ」

「昔は違ったの?」

「私が前線で戦っていた頃は人類はみな空を飛んでいましたよ。飛べないものなどそれこそ塵以下。敵にすらなりませんでした」

「……そう言うの聞くと貴方たちが古代の魔族ってのを思い知るわね」

 

 そうして三人で談笑する事二時間。流石に会話のネタも少なくなってきた頃にヴィルトが提案をする。

 

「仕方ない。走っていくか」

「待ってあれは嫌よ」

 

 リアは自らが米俵か何かの様に担がれ運ばれた時を思い出し顔をげっそりと青ざめる。

 

「むぅ……ならばゲートでも開くか」

「そっちにして頂戴」

 

 仕方が無いな、とヴィルトは手をかざす。

 空間に揺らぎが出来る程の膨大な魔力を集める。

 それをもって空間に穴を開け、長距離の空間移動を可能にする強大な術法こそがゲート術だ。

 単純な空間転移事態は魔力の保有者ならばある程度簡単に行える。無論聖力でも出来なくはないが魔力の方が容易という特性がある。

 その魔力を無限にも思える程に持つヴィルトからすればゲート術など簡易的な術に過ぎない。

 

 といってもそれはヴィルトが魔王だからであり、今も昔も人類にとってゲート術は非常に高度な術だ。

 使えるのは一部の高位聖職者ぐらいであり、そんな彼ら彼女らも特殊な聖具による補助があって初めて成立する。

 それを単独で片手間で使えるのはやはり魔王と言ったところだろう。

 

 ヴィルトの目の前に黒い渦が生じる。黒い霧が集まって出来た渦は人一人入れる程に大きい穴だ。

 

「出来たぞ」

 

 ヴィルトはそう言うと無造作に渦──ゲートに入りこむ。

 アンタレスも入り、臆したリアが一歩遅れてゲートに入る。

 ゲートの中は光の渦といった感じであり、魔力で形成された物ののはずなのに何処か神聖さを感じさせる。

 その渦は直ぐに消え、視界に街の城壁が見え始める。

 

「すご」

 

 ゲートを抜けた先はルテンラの街の門の前。門は既に解放されている。

 

「当然。我が主の御力に不可能は無いのです」

 

 等と、アンタレスはヴィルトを褒める言葉を発する。

 それと同時にゲートが閉じて無くなる。

 

「まぁとりあえず街に戻ろうか」

「街を滅ぼすのですか?」

 

 アンタレスはそんな物騒な事を口にする。

 

「しないわ。今の我の目的は人を知る事だ。人を無闇矢鱈に殺すのは禁じる。

「畏まりました。それが我が主の意志ならば」

 

 アンタレスは一応は納得し、頭を下げる。

 門に近づくとゲートから出て来た三人を凝視する門番が居るが、アンタレスとヴィルトは気づくことなく、リアは気づいたけどまぁいいかで済ました。

 

「それで思ったのだが、移動方法に馬車を買うのはどうだ?」

 

 街中に入るとヴィルトがそう提案する。

 

「馬車を?」

「あぁ。アンタレスに引かせれば馬などを買う必要は無い。大きくて動きやすいのを買いたい」

「え、アンタレスさんに引かせるの?」

 

 リアはアンタレスが馬車を引く姿を想像し何とも言え無い気分となる。

 

「こいつの真の姿はワイバーンだ。その姿なら馬車を引かせても問題あるまい」

「ああ、なるほど。それなら問題ないわね」

 

 そう言われてリアは納得する。

 アンタレスは古代の時を生きた大魔族だ。真の姿を持っていていも不思議ではない。

 

「今の時代、魔車(ましゃ)っていうのもあるから、それを見に行きましょ」

 

 リアはそう提案すると二人は断る理由もないため受け入れる。

 

「ところで魔車とはなんだ?」

「魔物に引かせる馬車の事よ。車体の方も魔物の力に耐えれる用強固な物が使われているの」

「ほう。それは面白そうだな」

 

 等と話しながら三人は魔車を売っている店に向かうのだった。

 

 ■

 

「いらっしゃいませ。本日は何をお探しでしょうか」

 

 三人が来たのは格式の高そうな店だ。

 店のサイズ事態はそこまででも無いが、魔車を置く為の庭が広い。

 庭部分には多種多様な車体が置かれている。

 

 リアとアンタレスは特に気にもしてないがヴィルトだけは自分は場違いではないかと戦々恐々としている。

 

「魔車を買いに来ました。取り合えずお金に糸目は着けないので一番いいのを見せてください」

「畏まりました」

 

 店員が了承すると一同は庭に出る。

 

 庭部分には多種多様な車体が置かれている。

 一同はその奥へ行き、車体を見に行く。

 

「これなんかどうでしょう。うちで一番の人気商品です」

 

 店員が紹介するのは大きな車体だ。

 黒く塗られた斜体であり、横にも大きい。

 黒の車体に金の入れ込みが入った高級感溢れる車体である。

 

「車輪をご覧ください。これは最新の技術をもって作られたゴムの車輪です。またサスペンション機能もついており、悪路でさえも揺れを少なく進むことが出来るのです」

 

 ほほぉ、とヴィルトは感心し、リアとアンタレスはふむふむと観察する。

 

 店員はドアを開くと、どうぞ中に入りくださいと促す。

 

 それに従いヴィルトとリアが中に入っていく。

 

「広いな」

 

 中は大分広い。ちょっとした小部屋程度はあり、机も付いている。

 コの字型に椅子──質の良いソファが打ち付けられている。

 

「おお。質の良いソファだな」

 

 ヴィルトはソファに手を入れ、その良さを実感する。

 

「そうでしょう。此方はコカトリスの羽毛を使っております」

 

「良いな。これにしよう」

 

 ヴィルトはキラキラと輝いた目でリアにそう告げる。

 

「うーん。ちょっと実際に座ってみてもいいかしら」

 

 リアは店員にそう提案する。

 

「どうぞ。是非乗って確かめてください」

 

 許可も下りたことでヴィルトとリアは椅子に座ってみる。

 

「いいわね。これ」

 

 ふかふかの椅子ではあるが身体が沈む程ではなく、程よい弾力がある。

 これならば長時間座って居ても腰を痛めることは無さそうである。

 

「こちら、収納面も優れております」

 

 どうぞご確認くださいと店員が提案し、二人は一度降りる。

 車体の後ろ側に一同が行くと店員がドアを開ける。

 

「こちらは収納スペースになっています。旅の必需品等を持っていく事が出来ます」

「結構広いわね」

 

 中は人が六人は入れそうな程に大きい。ただ最大で六人までは入れるというだけで六人も入ったらぎゅうぎゅう詰めになって身動きできなくなるが。

 

「武器とか置けるな」

「貴女武器使うの?」

 

 ヴィルトが武器を置こうと提案するがヴィルトは素手で充分強い。

 一応魔王時代に武器──魔具を使っていた事はあるが、それは魔王形態で使っていた武器だ。人の姿で使える武器ではない。

 因みにそう言った武器の運搬もアンタレスの役割であった。もう一人武具の持ち運びに便利な者が居るが。

 

「もうこれでいいんじゃないか?」

 

 ヴィルトはそう提案するも、リアは断る。

 

「いいえ。他の馬車も見ましょ。他に良いのもあるかもだし」

 

 

 ──そうして三人は三時間程馬車を見て回る事になった。

 

 

 ■

 

「うん。やっぱ最初に見たこれが良いわね」

 

 そうして色々見て回っていった挙句、リアは最初のがいいと判断を下した。

 それに着いて行ったヴィルトの顔は疲れており、もう何でもいいという表情が出ている。対しアンタレスは疲れなど一切見せていない。流石は従者といったところだろう。

 

「じゃあこれにします」

「わかりました。支払いはどうしましょう。ローンも組めますよ。その場合保証人を立てて貰う事になりますが──」

「いえ、現金一括払いで!」

 

 リアはそう言うと聖具のバッグから金貨の入った袋を取り出す。

 店員は一瞬訝し気な眼をするも直ぐに表情を戻す。

 

「……わかりました。こちら現金一括払いで百二十万ルエになります」

 

「たっか」

 

 その値段の高さにヴィルトが思わず口を滑らす。

 報酬の半分以上の値段の馬車である。高いにも程がある。

 

「……えぇい! 女に二言はない! 払います! 二人ともそれでいいよね!」

 

「我は別に構わんが」

「質の良い装備には幾ら資金をかけても構いません。資金を腐らせる意味はありません。使ってこそです」

 

 二人の同意を得たのでリアは支払おうとする。

 

「ここではなんですので、店内で清算しましょう」

 

 店員に言われ三人は店内に戻り、リアが支払う事になった。

 

 そうして支払いが終わり、三人は魔車に戻る。

 

「魔車はどうしましょうか。此方で預かっておきましょうか?」

「いえ。大丈夫です」

 

 アンタレスはそう言うと自らの影を伸ばす。

 売買契約を済ませ、既に自分たちの物になっている魔車に向かって影が伸びる。

 影は広がり、魔車全体を覆う。すると魔車は影に沈んでいく。

 

「え? え?」

 

 その光景に店員は混乱する。

 確かに聖具や魔具等で通常よりも容量が大きい収納物というのはある。だがそれでも馬車一つ入る代物など無い。

 そもそも影に沈むという光景自体が現実的ではない。

 

 直ぐに魔車はアンタレスの影の中に仕舞われた。

 

「ではこれにて。非常に良い買い物でした」

 

 ■

 

 魔車を買うのに時間を取られた三人は残りの買い物は明日にしよう、と宿に向かっていた。

 初日に泊っていた安宿ではない。そこそこの格式ある高い宿だ。

 

 その宿に入り、三人は宿の店員と部屋を取ろうと会話する。

 

「え~と、アンタレスさんって男よね。じゃあ部屋二つ借りる?」

「私に性別など有りませんよ。無性です」

「いやけど見た目完全に男じゃん。男性と一緒はちょっと……」

「我は気にせんぞ」

「私が気にするの」

 

 という事で部屋を二つ借りる事になった。

 部屋は二つ。ヴィルトとリアの二人部屋とアンタレス用の一人部屋である。

 

「そんな殺生な! 私を魔王様と同じ部屋に!」

「別によかろう。今生の別れでもないのにそんな泣きそうな顔をするな」

 

 アンタレスはヴィルトが言う様に今生の別れとでもいうのか泣き顔を晒している。

 普段の優男といった面が完全に崩れ、駄目になっている。

 その後もアンタレスはごねにごねたが、ヴィルトとリア二人相手に口論で勝てず、結局最初に決めたとおりになってしまった。

 

「また明日な」

「………………………………畏まりました。我が主よ」

 

 ■

 

「という訳で買い物に行きます。ここは効率よく二手に別れましょ」

 

 翌朝。宿で朝食をとりつつリアがそう提案する。

 宿の一階部分は食事処になっており、宿泊客向けの朝食がある。

 宿泊代に朝食代も入っている為追加で支払う必要は無い。

 

 三人は四人用のテーブル席に座り、会話をする。

 ヴィルトの隣にはアンタレスが座っており、リアとヴィルトは向かい合っている。

 

「そうか? 全部アンタレスの影に仕舞うんだから一緒の方が良くないか?」

「私も聖具のバッグ持ってるんだから仕舞えるわよ。食料品はアンタレスさんに買ってもらって、私が旅の必需品を買うわ。服とかね」

「また買うのか?」

「寝間着も必要でしょ? さぁ、行きましょ」

「待ってください。私は一人で買い物に行けと?」

「え、そうだけど何か問題が?」

「嫌です。我が主と離れたくありません」

 

 アンタレスは決め顔でそんな情けないことを口にする。

 

「命令だ。食料品を買ってこい」

「……ご命令とあらば」

 

 悔しそうな顔をしながらアンタレスは了承した。

 

「さぁ、行くわよ」

 

 リアは楽しそうにそう言うのだった。

 

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