BanG Dream! Ave Mujica 9話 if 作:a0o
照らされた世界 チカチカまぶしくて
広すぎる青の その絶対にみつからない
どこかで咲いているはずなのに
でも、ぐるぐるまるまって
見ようとしなかったのは
ノートに書かれた燈の歌詞--初華の脳裏には陽光に照らされた町と公園が浮かぶ。
それは暖かくて眩しくて愛おしい--初華には描くことの出来なかった世界。先の愛音から見せて貰った祥子の笑顔の意味を否応なく理解させられる。
その瞬間、初華の目の光が消えた--言い表せない絶望に胸が締め付けられ血の気が引いていく。
これ以上はもう何も聞きたくない。しかし、
「祥も同じだった。燈の歌詞に出会って祥はCRYCHICを作ったから」
追い打ちをかける様な睦の言葉--胸が更にエグられる思いを顔に出さずに初華は顔を向ける。
「CRYCHICが祥の大事なバンドになって、ずっと忘れられなくて……でも忘れたかったから、Mujicaが出来た」
「!?」
衝撃の事実――『全部、忘れさせて』……祥子の消え入るような絞り出す声が甦る。
「じゃあ、あれは……」
死んだ母親の事だと思っていた--しかし祥子が本当に忘れたかったのは、かつてのバンドの思い出。
自分は愛しい人の事を何も知らなかった。何も理解していなかった--想い人への真実を突きつけられ…………受けいれることなど出来ない。
「この歌は違うね」
意識的か無意識的か、ノートを持つ手に力が入る――そしてそのまま突き返す。
「CRYCHICじゃない、今の燈ちゃんのMyGOの歌だよ」
「そっか」
短いひと言--しかし何かが燈の中でストンと落ちた。
「初華黙ってて!」
間髪入れずに睦が割って入り遮る--
睦は構わず燈の肩を掴み訴える。
「燈、CRYCHICやろう。祥もその方が幸せだから」
その台詞は初華の全てを否定されるもの--非情な現実を再度突きつけられたことで頭に血が昇り、目が、顔が怒り一色に染まる。
祥子が苦しい時、助けを求められ、迷うことなくその手を取った。Ave Mujicaと言う運命共同体--自分の全てを祥子に捧げることが出来ることに迷う余地などある訳もない。
それでも祥子は幸せじゃなかった--なる事などありえない。
「だから、もう一度」
CRYCHICを--その訴えに初華の怒りが限界を超えた。
「私から祥ちゃん取らないで!!」
睦の胸ぐらを乱暴に掴み突き飛ばす--睦は余りの出来事に反応できず階段を転げ落ちていく。
……光景が初華の脳裏に浮かんだ。
それは時間にして一瞬。直ぐに正気に戻り、燈と睦に誤魔化そうとするも、二人は気に留めてもない--燈に関しては意を決した顔で口を開き、
「睦ちゃん、ごめん」
「!?」
明確な拒絶--ショックに陥りそうになるも
祥子が幸せなら、笑ってくれるなら、また嬉しくて涙するなら何でもする覚悟はとっくに出来ている。
だから絶対に諦めない--もう一度、CRYCHICを。
「CRYCHICじゃ、もう歌えない……今初華ちゃん言われて分かった」
「「!!?」」
燈の出した結論に衝撃を受ける--初華は予期せぬ驚きに、睦は悲しみと怒りに無意識的に初華をキッと睨みつけた。
そんな二人を見てるのか、見てないのか粛々と続ける燈。
「祥ちゃん……他のみんなも同じだと思う」
CRYCHICの最後の演奏で流した涙--心がひとつになった実感は今もはっきりと胸にある。
あれをもう一度と言う気持ちは燈もよく解る、だからこそ――
「だから今度はAve Mujicaでなって欲しい!」
「無理だよ……Ave Mujicaの祥はずっと苦しそうで…………」
「そんなことない!!」
「分かるよ--祥ちゃん、CRYCHICの時は暖かくて眩しくて、私の歌詞は心の叫びだって自分たちの歌だって」
初華は思わず出そうになった言葉を呑み込む--同時に燈から出た言葉は、ついさっき思ったことそのもの。
なにより込められた思い、語られる内実はこれ以上ない程に祥子を理解していると思い知らされるようで、胸どころか頭まで締め付けられるような苦しさが襲う。
必然的に焦りと危機感で冷や汗が出る。
「けどAve Mujicaの曲は知らない叫びで」
「だったら!」
「やろう!Ave Mujica!!」
またCRYCHICをと訴えようとして、気が付くと
「これで分かったでしょ。CRYCHICはもう無いの」
「違う。祥はCRYCHICをやってくれるって」
「燈ちゃんもやらないって言ったじゃん!」
「祥はAve Mujicaじゃ幸せには――――」
「だからなるんだよ!それが祥子ちゃんの為でしょ!」
「燈の真似しないで!」
二人(?)の喧嘩はエスカレートしていく、かに思えたが、
「だから、苦しいままで終わって欲しくない--バンドした事、後悔して欲しくない!」
燈は叫びによって現実に引きもされて中断--その勢いと迫力には言い表せられない切実さが込められていた。
静まり返る睦と初華に燈の魂の叫びは続いていく。
「私もMyGOがバラバラになった時、苦しかった--こんな思いするなら、しなきゃよかったって」
そよが居なくなり、愛音が去り、楽奈も行ってしまい、立希ともどうすればいいか分からず途方に暮れた。
なにがいけなかったのか--どうすればよかったのか。
なにをすればいいのか--迷いの中で探し続けた。
「でも初華ちゃんが歌は伝わるからって--私には必死に叫び続けるしか出来ないって分かったら……叫び続けて…………取り戻せた」
ステージに立ち、歌とも言えない朗読をし続けた--傍から見れば馬鹿な行いでも、それしか伝える手段がない。自分の気持ちを訴える術はこれしかないと、心細くなっていく寂しさと怖さに耐えてやり続けた。
大切だから、放したくないから、終わらせたくないから。
楽奈が『面白れぇ女』と笑って応えてくれた--そのまま立希を引っ張って来て、『燈の歌を聞いて分かった』と向き合い取り戻せた。
愛音ともどれだけ拒絶されようが『一緒にやろうって言った。バンド、私に!』『一緒に迷子になろう』--訴え続けて彼女の
そよもステージに無理矢理引っ張り上げて、全員に向かい自分の全てをぶつけて叫び、歌った--歌い続ける中で終わった瞬間に自分たちは本当にバンドになったと言う実感と嬉しさに涙が溢れるのを止められなかった。
そよが『放さないでくれて、ありがとう』と--あの時『MyGO!!!!!』が誕生した。
そして祥子とも歌を通して仲直り出来た--だから再び初華にノートを差し出す。
「祥ちゃんもバンドが苦しいって思い出、残して欲しくない--だからこの歌は初華ちゃんが完成させて。Ave Mujicaで祥ちゃん幸せにして」
涙ながらに震えた声で託された歌と想い--どこまでもひた向きな燈の不器用な素敵さを目の当たりにして初華の目にも涙が溢れてしまう。
(ズルいなぁ…………これじゃ恨めないし、嫌いにもなれないよ)
三角初華の中で何かが負けた--そう悟らされて再びノートを手に取る。
こんなつもりで言った訳ではない--ただ悔しくて、取られたくなくて、離れたくなくて。
みっともない嫉妬と横恋慕--打算でしかない気持ちを丸ごと美しく昇華されて返されてしまった。
(祥ちゃんが惹かれるのも分かるなぁ--素敵過ぎるよ。燈ちゃん)
いい感じに見つめあう二人--いつの間にか蚊帳の外になってしまった睦は思い出す。燈の朗読を立希が戻ってきた瞬間を。
あの時は『そよをどうするの?』『そよは解らなくなってる』と発破を掛けた--今はどうだろうか?
祥子が壊れない為に味方であろうと参加したAve Mujica--苦しくて、助けたくても、どうにも出来なくて。
「だから私が居るんじゃん」
モーティスが主張するが睦は意に介さず思考を続ける--独白と言う形で。
「あの時、燈は苦しそうだった--でも目一杯叫んでバンドを取り戻した」
「だからAve Mujicaでやろうよ。燈ちゃんもそうしろって言うんだし、それが正解だよ」
モーティスの理想とする展開をアピールし、使えるものは何でも使い持って行こうとする--しかし睦は何も聞いていないし見てもいない。
ただ一人、過去と現在、そして未来を吟味していく--本当はどうありたいのか?どうすれば望む未来に辿り着けるのか?
「それは燈だから--燈の歌が、詩が、燈自身が魅力的だったから、みんなの心も動いた。祥だって」
「私を無視しないで!ちゃんとこっちを見て!」
もう形振り構わず睦の肩を掴み揺らす--それでも睦の目にモーティスは映らない。
得体の知れない危機感に冷や汗が滝のように流れ--死にたくない、消えたくない、役を失いたくないと負の感情が込み上がるのが止められない。
睦が何を考えているのか分からない--それでも自分が歓迎できるものでないのは分かる。
「あ、あ、あ…………」
絶望的なシチュエーションにAve Mujicaが解散した時の演出が想起され、今度は演技ではなく本物の感情としてモーティスを支配した。
「あの睦ちゃん……それともモーティスちゃん?」
燈の戸惑う声にハッと意識が戻ると現実世界に戻っていた。初華も同じく戸惑っている。
「えー、あのー、取り敢えず一人ずつ話して貰っていいかな。じゃ、まずは睦ちゃんから」
「なんで私じゃなくて睦ちゃんなの!?」
今、表に居るのはモーティスであることが確定--取っ掛かりを掴んだことで透かさず返す。
「じゃ、モーティスちゃんからで」
「超ついで感半端ない!」
もうどうしろと言うのか--わがままでいて、コロコロと変わる為に相手するにも難儀な事この上ない。
初華も燈も困った顔で固まり、これがお話なら都合よく誰かが来て上手く纏めてくれるところ--例えば千早愛音のような、或いは八幡海鈴でも構わない、とそれとなく辺りを見るが、当然そんな事など起こる筈もない。
「えっと……」
戸惑っている燈を細目で見ながら、
「燈ちゃん、Ave Mujica応援してくれるんだよね。私の味方で居てくれるんだよね」
「モーティスちゃん……私たちのでしょ」
「なんだっていいよ!Ave Mujicaがないと私消えちゃうの!それじゃ睦ちゃんだって困るでしょ!!だからやるの!!祥子ちゃんにもそう言って!!」
弾丸のように捲し立てて迫って来る--内容は実に自分本位で勝手なものだが、一々のみ込んで吟味することも勢いだけでなく生来の性格も相俟って不可能。
何よりモーティスに余裕が全くない--この一瞬に何があったのか?
Ave Mujicaが無いと、と言う割には先程までとニュアンスが異なって聴こえるのは気の所為?
初華も助け舟を出そうと割って入ろうとしたが、
「違う。もうモーティスなんて要らない」
また一瞬で切り替わった--今度は睦が表に出た様だが、その声は今まで聞いたことのないドスの利いた迫力があり、心なしか黒い負のオーラを漂わせる錯覚も覚えさせる。
「「!!?」」
自分が見ているものは何なのかと目を疑う観客二人--気付かぬうちに引き込まれて目を離せなくなる。
「燈はあくまで祥の味方--私と同じ、祥の幸せを願ってくれる大事な仲間」
「------」
さっきまでの初華なら反射的に怒りが湧いたが、今は圧倒されて声も出ない。
「でも私も間違っていた--祥はCRYCHICじゃなきゃ幸せになれないんじゃない。燈の歌がなきゃ幸せになれない。だから――――」
「ちょっと!何言おうとしてんの!?それじゃ私の出番無くなっちゃうじゃん!!」
「だから、要らないっていってるの--消えて」
「いや―――――!!!!!」
精神世界を通り越して現実で互いを攻撃しあう姿は事情を知っている身としては恐ろしく、憐れでもある--しかし事情を全く知らない者からすれば、面白い見世物以外の何物でもない。
「ねぇねぇ、これってなんのパフォーマンス」
「その練習とかかな?」
いつの間にか居た野次馬たち--この前の『RiNG』前を彷彿とさせる迫力と生々しさに釘付けは必定。
しかも今度は、
「初華も居るし、やっぱりAve Mujica復活かな?」
「あ、さっきちらっとそんな聴こえたかな」
「え、マジで!」
メンバーが一緒だったことが拍車をかけて話の膨らみ方が半端ない--その熱気に当てられ写真や動画を撮る輩も前の比ではなく、人波はどんどん大きくなっていきそうだ。
「!!?」
流石に不味いと正気を取り戻した初華は睦(?)の手を取って去ろうとして、
「う……え……」
巻き込まれて注目され同じく撮られて竦んでいる燈に思考が固まる。
このまま連れて行くのがいいのだろうか?
後々に面倒が巻き起こるのは想像に難くなく、かと言ってこの場で別れようとしても今の調子では切り抜けられるかは怪しい。
ただ悩んでる時間はない--野次馬はどんどん集まって来ており、様子からは動画を見て近くから来たと言うのも居た。
つまりもう拡散は起っている--ならば腹を括るしかないと、初華は睦と燈の手を取って歩き出す。
「すみません。守秘義務や版権があるから何も答えられないんです」
マニュアル解答しながら人ごみをかき分けて大通りで止まっていたタクシーに乗り込む--最低限、運に見放されてはいなかったと僅かに安堵しながら自宅まで向かう。
走ってる最中も野次馬の当てられた熱気から回復しようとする燈と人形のように固まっている睦を見る--燈はなんとか落ち着きを取り戻して来たが、睦はどういう状態になっているのか?
専門家でもない初華に判断が付く訳もなく、行き先は若葉邸か何処かの病院にでもすればよかったかと悩みが尽きない。
それでも時間は進む--現実ではない、若葉睦の
再び洋館の廊下を思わせる場に向かい合う睦とモーティス--先程よりも暗く、あちらこちらひび割れて今にも崩れそうになっていたが、二人は意に返すことなく硬い表情でお互いの主張をぶつけ合う。
「睦ちゃんも祥子ちゃんも何も分かってない!私が居ないと困るの睦ちゃんなんだよ!!」
「違う。居ないといけないのは燈--他に代わりなんかいない」
「でも燈ちゃんはMujicaじゃないじゃん!CRYCHICもやらない言ったじゃん!何考えてんのよ!!」
「そう。CRYCHICじゃなきゃって私も思ってた--出来るなら今もそうしたい」
「何度も同じ事-----」
「けどさっきの燈を見て思い出した--CRYCHICを作る初め、まだ歌えなかった燈。私が先陣を切ったカラオケ」
練習と言う名目で初めてカラオケに行った--どうしても歌に前向きになれなかった燈に対して歌うことの楽しさを知って貰う為に。
場所が古いテレビが並ぶ暗い部屋に変わり、テレビにはマイクを持って歌う睦、マラカスを持ってはしゃぐ祥子、そして吹いた燈が代わる代わる映る。
そう。自分が最初に歌ったのだ--先陣を切り、盛り上がり、祥子もノリノリで初めて見せる姿に笑いが漏れ、つられたかどうか燈も笑い皆も笑顔に。
あれで一気に進み、バンドとなった、CRYCHICは完成した。
「ぷっふふ」
手を口に当て、あの時の笑いを再現--それは幸せな時間の始まり。そもそも笑ったのは、いつ以来だったか?
思い出したら前向きに考えられて来た--燈の言ったことも含めて最良の方法が閃く。
「Ave Mujicaでも幸せに--燈も祥の幸せを願ってくれるなら」
「やめて!私の役、無くさないで!!」
モーティスの役は睦を助けること--それがもう必要ない。例えAve Mujicaが復活したとしても。
「役なんて、もう要らない--私はみなみちゃんの……ママの七光りじゃない」
睦の腕の中にはピンクのギターが、
「それ、私の!」
『違うよ』
「へ?」
ギターからの高音質な声--訳が分からず固まるモーティス。そして睦に抱かれてるギターがお喋りを始めた。
『私は
テレビ画面にステージで演奏する楽奈が。
『私もこんな風に歌いたい--モーティスにも睦ちゃんにも出来ないなら要らない』
「な、なんなのよ!?ギターの分際で!!?」
「分からないの?」
取り乱すモーティスに対して睦はすまし顔のまま、黒いオーラが立ち上がっていく--これまでとは比じゃないほどに。
「いやーーーー!!!!」
迫って来る黒いオーラに後ずさる--その最中、睦の後ろから薄くなっていく黒いオーラの中に祥子が出て来た。
「な、なんで?」
祥子だけじゃない、これまで演じて来た役の
「え?」
出て来たのは若葉睦--ただギターを弾く役の睦はしっかりと前に居る。
ならば新しい役か?
違う。
理屈も何もない、強いて言うなら直感--魂がそう言っている。そう魂が。
「貴女たちは私の代用品--私が若葉睦の原型」
「なにそれ、若葉睦は人形の様な娘で、私たちはたくさんある役を演じて―――」
「そうママみたいに。ママの真似して、褒めて欲しくて……結局、一度も褒めてくれなくて……それどころか嫌われちゃって」
気持ちの悪い娘--そんなレッテルを貼られた。今に至るまでずっと。
「だから私は引っ込んで、
若葉睦は崩れ落ちた祥子の顔の一部を見る--それは無表情でありながら涙が流れたようにも怒りに苛まれてる様にも見えた。
「そう。だから祥に嫌われた時--悲しかった、苦しかった。一番見たくない
引き継ぐように前に居る睦が語る--何を恐れていたのか、何が自分を苦しめていたのかを。
そして再び、若葉睦が口を開く。
「でも豊川祥子は救われた--高松燈の歌で。納得だよ--最高の舞台だもん。祥子じゃなくても感動するよ--実際にそよも立希も泣いてた。関係ないギャラリーも」
「私も幸せだった」
「祥子が幸せそうだったからね--泣けなかったけど」
テレビに最高の笑顔で演奏を終える睦の姿が映る--CRYCHICが終わり涙している中で一人だけ。
「当然だよね。人形の目から水なんて出る訳ない」
見ようによっては光の当て方によっては喜びや怒りや悲しみ、無表情と言った感情を表すことは可能--しかし物理的に内から何かを出すなど不可能。
「そ、そんなのちょっと仕掛けを付ければ…………」
モーティスからのずれた反論--当然、取り合う訳もなく終了宣告は進む。
「涙を流すのは人間じゃなきゃね--何より私自身が感動したいって思っちゃった」
「うん。最高の舞台が浮かんじゃった」
前に居る睦が半透明になっていく--同時に後ろに居た若葉睦が前に出る。
「だ、だけど、そ、そ、そんなことしたって……みなみちゃんは…………」
認めてはくれない、愛してくれない、若葉睦を見てくれない--自分たちの存在意義を必死に訴える。
「そうだね。だったら
「なにそれ、茶番じゃん!」
「それがどうしたの--若葉睦の人生だって、ずっとそうだったじゃない」
そしていつかは本物に--もしならなかったとして壊れたとしても、
「お人形遊びは得意」
睦の立ち位置に若葉睦が立ち、睦は消えた--ひとつになった。
「ひっ!!」
モーティスは恐怖で声も出ない--身がすくみ、動けない、その間に黒いオーラは手足を侵食していく。
意味するのは、役の終わり--自らの終焉。
「いやーーーー!!!!」
「大丈夫。あなたの意思は私の中で
非情な宣告が終了--モーティスはもう反論することも出来ない。顔も黒く浸食され全て呑み込まれた--残ったのはAve Mujicaの仮面。
若葉睦は拾い上げて顔に付けて目を閉じる。
移動中のタクシーの中--後部座席の真ん中に座り固まっている若葉睦を両隣から心配そうに見る燈と初華。
余りの不気味さに運転手もそれとなく気に掛ける。
「事故りますよ--前見て運転してください」
「はい!」
唐突--と表現するしかない感じに若葉睦の口が開いた。
「「……………………」」
ただそれだけの事なのに車に居る全員が圧倒されてしまう--最大級の驚愕の中、燈が訊く。
「えっと、睦ちゃん?」
「どうしたの、燈。なんで疑問形?」
「えっ、あ、いや……」
今まで見たことも無い若葉睦に言葉が続かない--そんな燈に口を吊り上げた笑顔でハッキリと宣言。
「私は若葉睦だよ」