BanG Dream! Ave Mujica 9話 if   作:a0o

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・・・このサブタイトルはひょっとしたら後で変えるかもしれません。


恐れることを恐れる勿れ。

 

 翌朝、月ノ森学園--眠い目を擦りながら登校した長崎そよは、いつも通り廊下を歩いていて後ろから肩を叩かれた。

 

(なぁによ。まだ眠いのに)

 

 内心で悪態をつきながら振り向くと、

 

「!!?」

 

 Ave Mujicaのモーティスの仮面を付けた若葉睦が--お陰で眠気が完全に吹き飛んだ。

 

「おひさ--元気そうで何より」

 

「朝っぱらから驚かせないでよ!」

 

「ごめん。サプライズが過ぎた」

 

 仮面を取る若葉睦--その口調や仕草は睦だが、やっている行動は、

 

「もしかしてモーティスちゃん?」

 

「違うよ。私は若葉睦」

 

「本当に?睦ちゃんの振りしてるだけじゃないの?」

 

 至極真っ当な結論--されど若葉睦は小さく首を振って否定。

 

「モーティスはもう居ない--‶死を恐れる勿れ〟だったのに壮絶な最後だった」

 

「……今さらっと凄いこと言った?」

 

「そよがそう感じるなら、そうなんじゃない」

 

 返しや仕草は睦--しかし語る内容やみなぎるオーラは睦ともモーティスとも違う。

 

(もしかして別の病気に?)

 

 ならば今度は本当に医者に連れてかなければ--折角一難去ったと思ったのに。

 

「大丈夫だよ--それより、そよに話があるの」

 

「なに?」

 

「ゆっくり話したいから、お昼時間空けといて。じゃ」

 

「あ、ちょっと」

 

 一方的に宣言して去って行く若葉睦--歩いて行く中で他の学生と挨拶をかわし、復学を喜ばれ囲まれていく。

 

 流石に割って入るのは難しい。

 

(って言うか。なんなの、本当に?)

 

 

 

 

 ***

 

 

 同じ頃、花咲川女子学園--椎名立希は登校し席に着いて早々、見えない所から机に『とろけるミルクチョコ』を置かれた。

 

 また八幡海鈴かと振り向きながら、

 

「あのさ、朝っぱらから――――え?」

 

「あ、好きなの違った?」

 

 そこに居たのは三角初華--予想外の展開に固まってしまう。

 

「あの、ちょっと、大事なお願いがあって--後で時間貰えないかな?」

 

「え、お願い?」

 

 予想外の連続に飲み込み切れない--これがお話ならタイミングの善し悪しに限らず、八幡海鈴が登場となるのだが、生憎とその気配はなかった。

 

 だから初華はそのまま普通に会話を続ける。

 

「うん。Ave Mujicaと--燈ちゃんについて」

 

「ちょ!なんで、Mujicaと燈が?!」

 

 一瞬で激昂--普通なら引くが、初華は驚いた様子は無い。寧ろ、

 

「昨日の夜、ちょっと話す機会があって--MyGOのみんなにも聴いて貰わなきゃいけないことなの」

 

 スラスラと対応--明らかにこうなることを見越していたか、そうなると知らされていたか。

 

 どうにも‶してやられた感〟に普段からの固い表情が更に硬くなる--そしてそれも想定内のようで、

 

「この話は海鈴ちゃんにも聴いて欲しいから、お昼一緒にしよう--海鈴ちゃんの方にも声掛けとくから」

 

 とんとん拍子にお膳立てされてしまい(言葉は適切じゃないかもだが)取り付く島もなく話はまとめられてしまった。

 

 席に戻って行く初華--しかし燈の話が出て、そのまま大人しくしている立希ではない。

 

 立ち上がり初華の席に。

 

「あ、これ、お昼のお弁当--奮発したから味は保証するよ」

 

 しかしそれすらも予想してたようで、笑顔で丁寧に包装されたお弁当を手渡された--これは一体どう言う状況なのか、何が起きているか?

 

 そう思ったのは立希だけじゃない。

 

「朝から見せつけてくれますね--そう言うのはもっと人前じゃない所でやるべきでは」

 

 海鈴の怪訝な声に顔向けると顔も同じであり、妙な誤解(もしくは皮肉)に立希は反発しようとするも、

 

「あ、海鈴ちゃんの分もあるよ」

 

 初華は笑顔のまま、もうひとつお弁当を差し出した--唐突な展開に思わず受け取ってしまう海鈴は包装のロゴを見て、

 

「これってあの一流店の」

 

「うん。大事な事を話すから奮発したんだ--流石に朝から並んでて大変だったよ」

 

「すみません。話が見えないんですが」

 

 海鈴が来たのはたった今、それまでの話など知る由もない--登校して直ぐに突然お弁当を手渡され話など、どんな脈絡なのか?

 

「Ave Mujica--私やるから。その為に重要な件を話し合いたいの」

 

「それは……朗報と言うか喜ばしいですが…………椎名さんまで何故?」

 

「それ、あたしが訊きたいんだけど。なんでMujicaのことで燈が出て来る訳?」

 

「え、それは一体どう言う?」

 

 益々訳が分からない--確かにMujica復活を言い出したのは自分だが、何がどうなって他所のバンドの面子が出て来るのか?

 

 知らない所で何かあったのか?

 

 初華の思い付きによる独断なのか?

 

 余りに説明が足りない……どころか一切ない状態で混乱するなと言うのは無理な話。

 

「全部お昼に話す--みんな(・・・)の言いたいこともその時にね」

 

 出来るなら今直ぐにだが、初華は構わず弁当を入れていた袋を小さく畳んで片付けていき--気が付くとホームルームの時間で二人も席に戻るしかない。

 

 ホームルームが終わり、一時間目が始まってからも立希と海鈴は釈然としないものが心にあり、上手く乗せられた感に初華に目をいきそうになるのを堪えるのに苦労した。

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 お昼休み--羽丘女子学園、天文部部室。

 

「ねぇねぇ、話ってやっぱりこれの事だよね?」

 

 千早愛音は呼びだした相手である高松燈にスマホを見せる。

 

 そこには昨夜の出来事--若葉睦(モーティス)の一人芝居二弾と銘打った動画が流れていく。

 側には初華と何故か燈の姿も--コメントには燈がMujica復活を促したのかと言う旨から盛り上がり、頑張れ自分たちも同じだと言うものに溢れかえっている。

 

「うん。昨日の夜、睦ちゃんが来て、またCRYCHICやりたいって」

 

「そう。睦は本気なのですね」

 

 同席していた豊川祥子が複雑な表情で言う--睦の為ならと頭下げてお願いした直後にこの騒ぎ。出来るならもっと静かに穏やかにして欲しかった--ともあれ全ては自分で蒔いた種。

 

文句は言えない。

 

「それは分かったけど、なんで初華まで?」

 

「そっちはただの偶然--初華ちゃんはMujicaしたいって」

 

「!?」

 

 祥子の顔に複雑さが増す--Mujica復活を希望する海鈴の誘いとメールを思い出し、何も不思議な事でないと分かっていても、

 

「わたくしは睦を苦しめる選択は、Mujicaだけは選べませんわ」

 

 絞り出すように拒絶を口に--しかしそれを当事者でもない愛音や燈に言われたところで困るだけ。

 

 重い雰囲気になるのは嫌だから、強引に話題を変える。

 

「そう言えば、ともりん--いつそんなの入ったの?」

 

 愛音が指した先に一台のノートパソコンが、知っている限り部室にはなかったし必要もない品--となると私物かとも思ったが学校に持って来る意図が分からない。

 

「あ、これは睦ちゃんから」

 

「睦から、なんでまた?」

 

「詳しい話は本人からって――あ、電源入れとかなきゃ」

 

 そう言ってスイッチを押して起動させるが、自分の物でない為かパスワードの打ち込みやその先の作業もメモを見ながらで、たどたどしい。

 

「はぁ。ちょっと代わって」

 

 愛音が出てメモを見せて貰うとビデオチャットの開き方が記載されており、アプリを起動し手際よく進めて行く。

 

 内容からして相手は二組あるようだ--相手は大方の想像は付くが、その中にひょっとしたらという期待が混じり連絡が来るのを待つ。

 

「でもどうして睦がパソコンなんか?」

 

「昨日の晩、電気屋で買った--閉店間際だったけど、なんとかアプリとかも入れて貰って」

 

 燈が律義に説明--ただそうなると睦も使いこなせるとは思えず、素直にスマホのグループチャットか直接会うなりすれば。

 

 とは言え、ここまで準備してるのだから待つしかない--その間に渡されたお弁当に手を付ける。

 

「ああ、なかなか行けますわね」

 

「そうなんだ。じゃ、私も」

 

「いただきます」

 

 三者三様で豪勢なお昼としゃれ込んでいた最中--パソコンから音が鳴り、愛音が操作すると予想通り『月ノ森』と『花咲川』からの映像が。

 

『ごきげんよう。いいお昼になった?』

 

『睦ちゃん。やっぱりちょっと早かったみたいだよ』

 

 そよを前にして若葉睦が後ろ隣から映り込む--花咲川の方は海鈴を真ん中に左に立希、右に初華、画面の後ろ端に寝てる楽奈の姿が見て取れた。

 

「ごきげんよう。おっしゃる通りまだ食事中ですの--それにしても、ここまで凝った真似するなんて、どういう風の向き回しですの?」

 

 

『あのさ。食べ終わってからにした方が』

 

 立希が呆れる様に言うが祥子は蓋を閉じて向き直る。

 

「後で温め直しますわ--それよりも用件は?」

 

「ま、当然、CRYCHICのことだよね」

 

『ううん。Ave Mujicaのこと』

 

 若葉睦があっさりと言った--しかし口調とは反対にチャットに参加してる殆どは重い空気に包まれた。

 

『祥ちゃん。Ave Mujicaやろう--ずっと一緒に』

 

『既にメンバーの殆どは了解を貰ってます--あとは豊川さんだけ』

 

『で、なんであたしらまでMujicaの問題に?いい加減説明して欲しいんだけど』

 

 花咲川の面子が要点を纏めた--これに祥子は懐疑的な目で若葉睦を見る。

 

「モーティス……貴女の願いは睦を苦しめるものですわ」

 

「なにそれ?」

 

「モーティスは苦しむ睦を助ける為の存在――だから睦が苦しみ続けるAve Mujicaの復活を望んでいるのです。自分が消えない為に」

 

『違うよ』

 

 祥子の言を若葉睦は即答で否定--ただそれだけなのに妙な圧が。しかし祥子とて引く訳にはいかない。

 

「何が違うのです?何度でも言いますが、わたくしは睦を苦しみ続ける選択など選べませんわ」

 

『だから私はモーティスじゃない--若葉睦なの』

 

 シンプルな宣言--再び、ただそれだけな筈なのに奇妙な説得力が広がった。

 

 画面越しは勿論のこと、直に聞いていた長崎そよは諸にその影響を受け固まってしまう。

 

 必然的に早く立ち直ったのは既に知っている者だけ--初華が口を開いた。

 

『祥ちゃん。睦ちゃんもモーティスちゃんももう居ない--今の彼女が本当の若葉睦ちゃんなの』

 

「どういうことですの。何が起こったんですの?説明しなさい、初華」

 

 そして話し出す--昨晩、CRYCHIC復活を望む睦、それを燈が拒否、そしてAve Mujicaの復活を望むことに結論を出して睦が……若葉睦が賛同したこと。

 

「本当ですの。燈?」

 

「……うん。祥ちゃんにはAve Mujicaで幸せになって欲しい」

 

「仰りたいことは理解しますが、それは無理な相談ですわ」

 

 そもそもにおいて後ろ向きな--過去を断ち切りたいと言う動機で始めたバンド。

 

 初ライブでも楽しむことを否定し、我が身を焼き尽くす勢いで(無自覚に)突き進み、結局は失敗した……全ては発起人である自分の咎。

 メンバーを碌に見ず、志をひとつにどころか同じ方向に向けることすら出来ないかった故--豊川祥子を含め、独りよがりが集まっただけの必然的解散。

 

 皆の人生を背負うと言う大口ももう叩く気概もない--更に言えば大切な幼馴染(わかばむつみ)を苦しめて壊してしまった。

 

 同じ過ちを繰り返すような真似は出来ない--幸せにしなくては。

 

 ……そう思い、己自身にも誓ったのに。

 

『あー、すみません。Mujicaを応援知れくれるのは嬉しいですが、それとこの場にどのような意味が?』

 

 海鈴が事務的に話を否定的流れから軌道修正する--そこには思わぬ援軍の登場による自分の野心の実現と言う期待感が。

 

 そもそも知らない所でモーティスを篭絡し、そこからAve Mujica復活を画策してた身--予期せぬ人格の登場は計画を狂わせるが、目的を早く達成できるなら大歓迎。故に若葉睦には全面的に賛成に回る--余計な茶々は入れて欲しくない。

 

『ちっ、海鈴』

 

 立希が舌打ちし全くブレない彼女にキツイ目を向ける--それを海鈴はまた責任逃れしていると受け取り透かさず反論。

 

『豊川さんと同じく含むところがあるのは私も同じです--ですが今回は私が言い出しっぺですから、この問題の結論に辿り着くなら早く聞きたいんです。文句や異議はその後でちゃんと聞きますから』

 

『だから――――』

 

『じゃ、結論を先に言う--Ave Mujica復活ライブ、燈たちMyGOに観に来て欲しい。一番近くで』

 

 立希を遮り若葉睦が言う--バンド復活を見届ける立会人になって欲しいと。

 

「それは…………誰の意思ですの?」

 

『私、若葉睦だよ』

 

「貴女……わたくしの知ってる睦では無いんですわよね?」

 

『モーティスが言ってたでしょ。そもそも祥子の知ってる睦なんて最初から居ない、モーティスも--全ては私、私の中に色んな役を演じる人形()が居ると信じていただけ。でも人形遊びはもうお終い』

 

 それは豊川祥子が幸せにすると誓った睦が消えてしまったと言う残酷な告知--簡単に認められる訳が無い。

 

 しかしだからと言って何が出来る訳もなく暗い表情で若葉睦を見る--そして数秒後、自分の荷を持って立ち上がる。

 

「帰ります」

 

 そのまま行ってしまった。

 

「えー…………」

「あ、」

 

 愛音と燈はただ見送るしか出来ない--当然、この場に居ない面子にはどうすることも出来ず、海鈴は失敗したかと内心で狼狽えた。

 

 それは初華も同じかと立希がそれとなく見るが、全くそんな素振りもなく驚いた目で画面の若葉睦を見ている--朝から感じていた予定通り展開、その黒幕は若葉睦だと直感。

 

 いつにもまして辛辣になる口調が止められない。

 

『あんたさ、一体何な訳?』

 

『なにって?』

 

『全員引っ掻き回して、祥子を傷つけて……本当の睦ってそんな奴だった訳?』

 

『ひどい言われよう。でも確かにこうなるのは分かってた--初華と燈には昨日、予測してたの話してたし』

 

 全て読み切っていた--初華と燈の反応を見るにそれは本当のようだ。

 

 その二人を含めて化け物を見る目が集まる中、若葉睦は話を進める。

 

『祥子については大丈夫--Mujica発起人の責任を突き続けたら、その内折れて‶やる〟って言うから』

 

 言い切った--本当に自分たちの知っている睦じゃないと確信を与えるには十二分をも通り越して圧倒すら感じさせる。

 

 そして今からが本題--若葉睦の望みを話した。

 

 

 

 

『そんなのダメに決まってるでしょ!!』

 

 立希が真っ先に反対--これは若葉睦じゃなくても既定路線。驚くことも宥めることも無く他の面子は比較的冷静に話を進める。

 

 そよがまず立希に同意する立場から。

 

『企画としては面白いのは認めるけど。個人的には面白くない--って言うか無茶苦茶気に入らないな』

 

 同席している為、面と向かってはっきりと--にも関わらず若葉睦は動じておらず、そよの方が寧ろ押され気味に感じる。

 

 それはある種の頼もしさすら感じさせ、Mujica復活を望む海鈴と初華は必然的に流れに乗った。

 

『お二人の言い分もご尤も--ですが私は全力で若葉さんに味方します。復活劇としてはこれ以上ない程に面白そうですし、確かにこれなら豊川さんの心を動かすこと間違いなしです』

 

『悔しいけど、海鈴ちゃんに同意だね--祥ちゃんの心はいつだって』

 

 更に言えば若葉睦と違う場所に居ると言うのも手伝い、そよ程のプレッシャーが掛からず僅かに余裕すらある様子--ただそれは彼女たちだけではない。

 

「あー、ともりんはどう思うの?」

 

 愛音が燈に話を振った。

 

「私は祥ちゃんにバンドして欲しい……出来ることあるなら、協力したい」

 

「ともりん、らしいけど…………」

 

 続く言葉が見つからない--もしかして既に言いくるめられてるのか、と邪推も働かせるが、だからと言ってどうするのがいいかまで思い至らず歯切れが悪くなる。

 

 だから一旦考えを整理--若葉睦の提案はMyGOのメンバーとしては気にいる様なものじゃない。寧ろ大反対すべき……下手をすれば今後のMyGOの進退にも関わるリスクもあるのだから。

 ただ千早愛音としては見てみたいと言う気持ちもある--それをやった程度で壊れる様な関係じゃない自負もある。

 

『面白れぇ女』

 

 そうこう考えていると、いつからか楽奈が画面を覗き込み若葉睦を見る--対して若葉睦は満面の笑みを浮かべた。

 

『モーティス、もう居ない?』

 

 首をかしげる楽奈に若葉睦は笑みを消す--モーティスをトレースした演技もやはり楽奈には通じない。

 

『モーティスは貴女の事、大好きだったよ』

 

 少し寂しいとも言えるニュアンスに最後まで消えたくないと叫んだ人形(モーティス)の気持ちをせめて伝える。

 

『ふ~ん』

 

 楽奈の表情に変化はなく感情を推し測れない--その一方で非常に分かり易い不満を見せるのも居た。

 

『あ、勿論、そよのことも--良くしてくれたのは()も感謝してる』

 

『んーーーー』

 

 心の内をストレートに打ち明けられるも、取って付けたような感じに素直に受け取れない。

 

 そうこうしているうちに、若葉睦のペースに乗せられる--ただ一人を除いて。

 

『ちょっと乗せられてるんじゃないわよ!わたしは認めないからね!!』

 

 立希が声を大にして反対を固持--それを横目で見ていた海鈴はチッと内心で舌打ち。

 

 これまでの海鈴なら他を巻き込んで任せる様に持って行くが、今は『責任を全うし信用を得る』と言うことに憑りつかれており黙ってることなど論外。

 

『当人は既に前向きになってます--意思を尊重すべきでは』

 

『どうだか--考えさせないで言いくるめたんじゃないの?』

 

 今の若葉睦を見ているとありえない話ではない--どう返すのが適切なのか?出来るなら事前に知らせてくれればと内心で愚痴るが、タラレバを並べても無意味。

 

 何より自分の言葉で対応する場面--と気合を入れ直す。

 

『豊川さんをAve Mujicaで幸せに、と言うのもその結果だと?』

 

『!?……それは』

 

 燈に目を向けるが彼女自身から聞くまでもなく、それは本心からの物だと顔に書いてある--燈の事を考えても不思議な事でもないが、それとこれとは話が別。

 

『でもそれだったら、そっちだけでするのが筋でしょ--さっきの提案じゃ、なんかズルいよ』

 

『そうだね。それに燈ちゃんの性分を思えば、やっぱり賛成できない』 

 

 そよが気を取り直して改めて反対表明--それとなく愛音と楽奈にも目を向けるが、パソコン越しで視線が届き辛く反応がない。

 

 この事も見越してたのか?--若葉睦に非難を向けたいが、どうにも目を向けるのが躊躇われる。

 

『高松さんは、RiNGで朗読してましたよね--かつての仲間の為なら、何よりそれを望んでるなら苦と言う訳では無いのでは?』

 

 だからと言う訳では無いだろうが海鈴の勢いは削がれず、負けじと言い返した。

 

『!!分かったような事言うな!』

 

 立希が本気で怒鳴る--興奮し掴みかかりそうな勢いだが、初華が間に入り制止。

 

『駄目だよ。そう言うことしちゃ』

 

 努めて冷静に--まだ興奮が収まりきらない相手に静かに続けていく。

 

『いきなりこんな提案されて納得できないのも分かるよ--だからこっちも納得いくまで、とことん話し合う覚悟だから』

 

『納得なんて絶対にしないっての!!』

 

 更なる大声で怒鳴った--流石に今度は自制心を動員してそれだけに留めたが。

 

「……えっと、立希ちゃん――――」

 

『ごめん、燈。例え燈がそのつもりでも流石に譲れない--断固、反対する』

 

 どうやら完全に意思が固まってしまったようだ--ただそれはMujicaのメンバーも同じ。お互いに譲れない思いを抱き、もし直接顔を合わせてたら取っ組み合いの喧嘩になっても不思議じゃない--そんな恐ろしさを感じさせる場面に呑気な声が。

 

『やっぱり面白れぇ女』

 

『……野良猫』

 

 楽奈が画面を覗き込んだまま、今度はたじろいでる燈を見ていた--思わぬ形で緊迫した空気が霧散し、それを見逃すことなく愛音が前に出た。

 

「あのさ、話し合うなら全員(・・)でしない--勿論、祥子ちゃんには内緒だけど」

 

『だからこういう形にした--幸い、あっちもパソコンあるから、いつでも――――』

 

『いやいや、私たち学生だし、あっちにも都合有るから』

 

『そよ……そう言うツッコミは面白くない』

 

『真面目に言ってんの。そもそも勝手が過ぎるよ…………睦さん(・・)

 

 長崎そよの中で今の若葉睦とこれまでの睦とモーティスが完全に決別--気持ちの整理を付け、賛同できない提案をして来た相手を敵認定し、正面から見据える。

 

『そうだよ--これは私のワガママ。私が幸せになりたいから、祥子と幸せになりたいから--それはギターの睦の願いでもある』

 

『…………やっぱりズルいよ。睦ちゃんを出すなんて』

 

『あの娘の遺言でもある--ここに居るのも居ないのも含めて聴いて貰う義務はあるでしょ』

 

 遺言と来た--それも睦の願いでもあると含みを持たせて。

 

 なんとも(したた)かな姿はモーティスをも超える凄みが……いや最早、比ではない。

 

 ただ主張する姿や内容は決して理解できないものではない--何故なら人間だから。欲しいものの為なら、どんな労や困難も苦ともせず突き進むのは今居る全員が通った道だから。

 

 始めて見せた若葉睦の欲望--その為なら己の中の人格すら犠牲にする姿は実に人間らしい。

 

「あー、睦ちゃんもやっぱり人間なんだね」

 

『当たり前』

 

 愛音のツッコミに即答--ただそれで黙る女ではない。

 

「いやいや、つい此間‶人間になりたい〟って騒いでたじゃん--ま、今思うと‶人間に戻りたい〟ってのが正しかったのかな?」

 

『貴女に私の何が解かるの?』

 

「分からないよ」 

 

 今度は愛音が即答--そして言いたいことをぶちまける。

 

「だから私も一人の人間として若葉睦ちゃんに訊くね」

 

 台詞は至極当たり前でありふれたもの--ただそれこそが若葉睦には最も効果的であった。

 

 人形のように生きて来て、その時々で人形を作り(やくをえんじ)、ギターに出会ってからは弾くことだけの役を前に出(ぼっとう)した--しかしAve Mujica(デビューしたバンド)で求められた役の齟齬による極めつけの失態。

 

 もう人形のままでは居られない--その果てに見出した願い(よく)

 

 欲望のまま、なりたい自分を求めて来た千早愛音からすれば、好奇心を刺激されるのは十分--寧ろ、大好物な展開。

 

 自然と笑うように、されどこれ以上ない程に真剣に。

 

「祥子ちゃんが大好きなのも、CRYCHICが大切だったのも分かった--それでともりん、高松燈ちゃんの事は好き?」

 

 かつてバンドメンバーとしてじゃなく、豊川祥子の為にでもない。

 

 高松燈--彼女自身が好きか?

 

『え、ちょっとなに訊いてんのよ!?』

 

 立希が真っ先に声を上げ、顔には訳が分からないと書いてある--似たような感想を抱くのは皆も同じ…………燈自身も。

 

「だって、りっきーや祥子ちゃんがともりん好きなのは一目瞭然だし、そよりんも結局は口説かれたのは見てたし」

 

 一人一人語っていく度に当事者たちは面映ゆくなる--立希は頬を赤く、そよは目尻が引きつり、燈も流石に困り顔だ。

 

 ……祥子が居れば…………恐らくもう何も変わらないと想像しつつ、見ていた海鈴はきっぱり言う。

 

『暴露話はまた今度にして話を先に--と言うか、何が訊きたいんですか?』

 

「睦ちゃんがともりんをどう思ってるか--私は全く知らないから、今本人の口から聴きたいの。祥子ちゃんの為に利用しようとしてる風にも見えるからね」

 

 それは流石に言い過ぎであり、言葉が悪い--と誰もが抱くのは承知の上。

 

 と言うか、ワザとそうした言い方を選んだ。

 

 単純に腹を見せる為でもあり、美辞麗句や綺麗事で誤魔化すなと言う意味を言外に込めて。

 

 千早愛音は真剣に若葉睦の本心の言葉が聴きたい。

 

『大好きだよ』

 

 それに一切の躊躇なく若葉睦は答えた。

 

「へぇ~、意外。少しは怯むか、間を置くかすると思ったのに」

 

『ごちゃごちゃ遠回しに言うのは好きじゃない--それにそっちもハッキリしたのを聴きたいんでしょ』

 

「そうだね--それで、それは――――」

 

『友達としても、()と同じバンド仲間としても--ついでに言えば、凄いボーカリストだって思ってる、熱烈なファン』

 

「ハハハハ」

「~~~~」

 

 とんでもない告白を引き出してしまった--燈など顔を真っ赤にして俯いている。

 

 そんな照れているほんわかした姿に、さっきまでの張り詰めそうな雰囲気が一気に吹き飛んだ。

 

 そして誰もが同じ思いを抱かされた--今の若葉睦なら信ずるに値する。

 

「そっか。よし、じゃ、睦ちゃんの提案に私は賛成」

 

『面白そうだから見てみたい』

 

 愛音と楽奈が言った。燈は既に話が付いている--残るは断固反対していた立希とそよは、

 

『…………ハァ。仕方ない』

『……負けたわね』

 

 渋々と言った体裁で折れた--ただその顔には一切の棘は無く、どこか嬉しそうだ。

 

『けど、その一回きりだからね』

『後でまた、なんてワガママはなしだよ』

 

 それでもしっかりと釘は刺した。

 

 

 

 

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