BanG Dream! Ave Mujica 9話 if   作:a0o

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忘却を恐れる勿れ。

 

 日が完全に暮れた。

 

 若葉邸の地下スタジオに集まる祥子を除くAve MujicaとMyGOのメンバー。

 

「で、シナリオはもう出来てんの?」

 

「大まかな流れは考えてある--尤も肝心な所は燈次第だけど」

 

 にゃむの問いに若葉睦は冊子を見せる--内容は確かに出だしだけで、イベントに一番大事な部分は空白同然。

 普通なら文句が出るし、それを他人任せなどもってのほか--しかしセッションで考えが軟化したのもあるが、大雑把に描きたい舞台はイメージ出来る。

 

「ま、それもそうだけど」

 

 故にあっさりと流し、その肝心要の燈に目を向けた。

 

「くどい様だけど、本当にいいの?下手したら、そっちのバンド、豪いことになるよ」

 

 心配なのか、配慮のポーズなのか--どちらにしても飛び出した台詞にMujicaの面々は冷めた視線を投げる。

 

「えー、それ、にゃむちゃんが言っちゃう」

「同感ですね」

「最初に仮面外して引っ掻き回した」

 

 そもそも纏まり切ってなかったのが、あれで一気に加速した--豊川祥子の描きたかった舞台はご破算になり、予期せぬ(望まぬ)注目により睦の人格は崩れ、初華と海鈴にしてもバンド内で対立することにも。

 

 当のにゃむにしても睦のミス--世間的にはモーティスのパフォーマンスで一気に何もかもを持って行かれた。

 

 尤も過程が違うだけで長続きしたかどうかは疑問--かつての睦の失言の通り。

 

「え、あれって演出じゃなかったの?」

「ま、何か変だとは思ったけど」

 

 正体暴露の舞台を観ていた愛音とそよからの感想--直接見ていなかった立希は入って行けず、それ以上に大役を押し付けられた燈が心配でそれどころじゃない。

 

「言っとくけど、どんなことになったって燈はあげないから」

 

「いや、アタシもそこまで図々しくないし」

 

「は、どうだか--売れるなら何でもするタイプじゃないの?」

 

「あー、それはまぁ、そうだけど」

 

 シンプルに的を射た指摘にぼんやりと肯定するも嘘はついていない--駆け上がる為なら何でもする覚悟は今も有るが、それでも正面から挑むのが祐天寺にゃむだ。

 

 やるならば堂々と行く。

 

 ただ文字通りの初対面である立希に通じる訳もなく、肯定されたことで猜疑心と敵対心が増す--やっぱり反対を貫き通すべきだったかと、早速後悔が。

 

 そよの方は動画のファンでもある為に複雑な気分--勿論、タレントとしてのキャラと本人の本音が別物だと言う分別はある。何より自分だって外面を使い分けていた身--だからこそ信じていいのか迷う。

 

「燈ちゃんの歌に動かされたんですよね--本当にしないって約束できます?」

 

「なに~。そんな約束しなきゃ取られちゃうような関係なの?」

 

「質問を質問で返さないで、ちゃんと答えて」

 

 その静かなるも怒り声に殆ど(・・)の面子が静まり返り、恐る恐るな顔に--ただ正面からみていたにゃむは面白うそうだ。

 

「惚れ込んでるねぇ」

 

「ちょっと」

 

「アタシ、嘘つく気は無い--ってか、当人だって離れる気無いんでしょ」

 

「うん!一生バンドするって約束した!」

 

 燈が勢いよく入って来る--その真剣で力の入った表情に張り詰めていた空気が一気に抜けた。

 

「ハハ。心配無用じゃん--アタシが入る余地なし」

「同感ですね。羨ましい限りです」

「燈はそういう娘」

「うん。そうだね」

 

 Mujica(がいや)から称賛の嵐--気恥ずかしさにいたたまれなくなり顔をそむける。

 

 同時に考えてしまう。もしこれがCRYCHICの時だったら……とちょっと前の自分なら思っていたなと。

 

(うん。もう未練はない--だからこそ先を見なくちゃ)

 

 そよは心にケジメが着いたのを再認識して、(とも)の意思を尊重しようと思い直した。

 

(燈は何も恨んで無い--ならあたしがやるのは決まってる)

 

 立希は大好きな人の思いを無碍にすることはしたくない--バンドが壊れる、燈が行ってしまう心配などないのだから信じて見守ろうと決意を新たにする。

 

 愛音は元より何も心配してないし、そもそも含むものもない--そして楽奈は。

 

「ギター弾く」

 

 ♩♪♫~~~ 

 

 いつの間にかギターを調整して演奏を始めた。

 

 その曲は『人間になりたいうた』--CRYCHICでやった、豊川祥子の為に作ったもの。

 

 それをギターだけで完璧に演奏しきっている--それどころかCRYCHICとは違う趣を感じさせた。

 

「会話してる」

 

 若葉睦が呟く。

 

「ん」

 

 楽奈が小さく反応し、嬉しそうにテンポを変えて来る--それに燈が目を見開き、両手を胸に当てて聞き入った。

 

 人間になりたい--その叫びに‶面白れぇ〟と笑って返された気分に。

 

 そんな燈も視界に入れて若葉睦は楽しそうにギターを歌わせる楽奈を見る--睦に出来なかったこと、それは若葉睦にも出来ない。

 

 ただ、いつまでもなつもりもない--楽奈の様に、じゃない若葉睦の演奏でギターを歌わせる。

 

 それには何が必要なのかをしっかりと心に刻む--否、睦が楽しめなかったのは若葉睦(じぶん)の所為だ。楽しみにのめり込むことへの恐れ--その正体を分からせなかったから。

 

 だから今度はやれる--恐れを上回り、塗り替える光を見出したから。

 

 そして演奏は終わった--パチパチと小さな拍手を送る。

 

 色々と満足した楽奈はギターを仕舞い、出されていた抹茶サブレに手を付け美味しそうに頬張った--若葉睦は笑顔で紅茶を注いてそれとなく差し出す。

 

「ん?」

 

「あ、日本茶がいいなら用意するけど」

 

「抹茶」

 

「本当に好きだね」

 

 愛音が絶妙に入り、そのまま思ったことを口にする。

 

「ともりんもそう思わない?」

 

「え、うん」

 

「だよね~。ホントに最初に会った時からずっと変わらないもんね」

 

 最初に会った時--それはRiNGのステージで独り演奏して居た時か、それとも初めての練習にいつの間にか入って来た時か?

 

 あの時は訳が分からず、おまけに余りの上手さに危機感を覚える、全く持って苦い記憶――しかしだからこそ直ぐ後に全てを打ち明けることが出来た。

 MyGO!!!!!(このバンド)でやって行こうと覚悟も決まり……初ライブ後の騒動での解散騒ぎ…………苦い思い出を連続で思い出し、愛音も抹茶を所望した気分。

 

 祥子の方はどうだったのか、今はどんな心境なのかと、フと思いMujicaのメンバーを見る。

 

「何か?」

 

「いや、そっちはどんな風に始まったのかなって?」

 

「私は……祥ちゃんがやりたいって言うから」

「私は単純に腕を見込まれ誘われただけです」

「アタシは動画見て‶顔と人気〟でって」

 

「睦は祥が壊れない為にね」

 

 メンバーそれぞれがあっさりと言うが、主体となっているのは豊川祥子でありバンド自体に思いれは感じない。

 あの唐突な解散も無理もないと聞いていた面々は思い、同時に再結成も上手く行くのか?と疑わしくなる。

 

(ホントにバンドなの、こいつら?)

 

 特に立希は以前に抱いた疑問がぶり返して目を細める--これが完全に他所の事情ならそれ以上は無いが、今回はそうはいかない。

 

「アンタたち何でまたやろうって思った訳?」

 

 故に口に出して訊く--何故なら、大事な人(ともり)が関わるのだから。

 

 中途半端な思いで振り回すのは我慢できない――若葉睦がやりたいことが終わった後でも大丈夫だと言う確信が欲しい。

 

「思い描く最高の舞台が欲しいからです」

 

 まず海鈴が答える--ただそのニュアンスには今までに感じたことのない感情、人間味があった。

 今までの事務的、機械的に作業するだけと言ったドライな様相は一切ない--そうなった理由についても直ぐに察しが付き、どうにも面白くない。

 

「大丈夫だよ、立希ちゃん。燈ちゃんを盗ったりはしない--Mujicaはもう祥ちゃんの逃げ場じゃなくて、私たち(・・・)の人生そのものだから」

 

「運命共同体--それが一番目のコンセプト。その運命を、最高を超えたものにしたい。今回の事はその切っ掛け--燈を傷つけたりはしない」

 

「アタシとしてはちょっと勿体ない気もするけど」

 

 いい感じに進んでいくのを最後に搔き乱す発言--その発生元を立希は睨みつける。

 

「ん」

 

 そこに楽奈の嬉しそうな声--お菓子の味に大満足な表情に一気に毒気は抜かれる。

 

 その時、

 

「お待たせしました」

 

 家政婦の山田さんが入って来た--お盆を持ち、そこには湯気が立ちいい匂いがする抹茶が。

 

「!」

 

 透かさず振り向き明るい顔の楽奈--その嬉しそうな顔に若葉睦も笑顔になり、

 

「ご苦労様」

 

 階段を上りお盆を受け取ろうとする。

 

「お嬢様」

 

「私にさせて。お願い」

 

 嬉しそうなままそう言われて断れる訳もなく、朗らかな表情でお盆を差し出した時、

 

「あ!」

 

 バランスを崩し、前のめりに転びそうに--必然的に正面の若葉睦を押す形での事故が。

 

「「「「「「「「!!!???」」」」」」」」

 

 山田さんはどうにか踏みとどまったが、お盆と湯吞は宙を舞い、若葉睦はゴロゴロと転がり落ちた。

 

 バン!!と大きな音を立てて止まる--その一方、放られた湯呑は楽奈があっさりと取って適当に構えると、飛び散った抹茶が中に入った。

 

 楽奈が若葉睦に目を向けると何事もなく立ち上がり、

 

「ナイスキャッチ」

 

「ん」

 

 とサムズアップをして来て同じくサムズアップを返して湯呑に口を付け、

 

「ん~」

 

 心底幸せそうな表情を作った。

 

 全く持って似つかわしくない朗らかな空気--されど事故の当事者からしたら流される訳にもいかない。

 

「お嬢様!お怪我は!?」

 

「大丈夫。ちゃんと受け身取ったから」

 

 真っ青な顔で近づいて来る山田さんに安心させるように体を動かして見せる--この一連のパフォーマンスとも思えるアクシデントに観ていた面子は目を疑う。

 

「この前といい、アンタの体、どうなってるの?」

 

 立希が最初に復活し、疑問を口にする。

 

 それは以前の『RiNG』でのモーティスと睦の喧嘩の際の事故--寧ろあの時の方が派手に転がり落ちたにも関わらず何事も無いよう動いていた。

 

 同じく目撃していたMyGOメンバーも唖然とした表情のまま注目--若葉睦は何事も無いように答える。

 

「だから、さっき言ったでしょ。受け身取ったって、以前ママが柔道家のドラマに出るからって、先生が来て習ったの--筋がいいって褒められた」

 

「え、じゃあ、睦ちゃんって結構強かったりするの?」

 

 愛音が興味本位満々に訊く。

 

「喧嘩は苦手だし嫌。でも怪我をしないようにするにはって覚えといたのは良かった--実際役に立ったし」

 

「じゃ、あの時も今の睦ちゃんが」

 

「正確には柔道家役の人格--その名残り」

 

「はぁ~~」

 

 最早、感心するしかない--ただ今はそんな事の為に集まった訳では無い。

 

 故に事の言い出しっぺたる八幡海鈴が声を上げる。

 

「その話はまたの機会で。それより本題を進めたいのですが」

 

 とこれまでの海鈴なら口にするし、彼女を知る者たちからもそう出ると思った--しかし実際に出てきたのは、

 

「念の為に精密検査を受けた方が、イベントの話は日を改めて」

 

 心配の仕草と妥当な提案--全く持って海鈴らしくない展開に目を丸くする。

 

 ……ごく一部を除いて。

 

「そうだね。って言うか、こんだけ金持ちなら掛かり付けの医者とか居ないの?」

 

 にゃむが自然に応じながら若葉睦を座らせた--これに事故の当事者(やまださん)が反応し、

 

「直ぐに連絡します」

 

「だから大丈夫だって--それより話を先に」

 

 立ち上がろうとするのをにゃむ、そして愛音が制す。

 

「それはお医者さんが判断するの」

「そうだよ。まず自分を心配しなくちゃ、こっちも手が付かないって」

 

 順当な説得に固まっていた他は恥ずかしくなっていく--いくら思いがけないことの連続だとしても、取るべき態度ではない。

 

 これ以上は話を進めて行く雰囲気じゃなく、それを察して若葉睦も立ち上がらず大人しく座った。

 

 本当に思わぬ事が起こる--となんとも年寄りじみた感慨に浸りながら、

 

(でもこのままなのもなんかヤダな)

 

 と子供じみた思考が進んでいき、どうせならとある追加作戦(アドリブ)に思い至る。

 

「それじゃあさ」

 

 悪戯を思い付いた子供の様な顔で説明--聴いていながら皆はなんとも言えない表情、困り顔になっていく。

 

「これがホントに転んでもただじゃ起きないってヤツ?」

 

「あ、流石にゃむち。上手いこと言うね」

 

「ちょっと、不謹慎だよ……って言うのも変なのは、どうしてだろうね」

 

 最後にそよからの呆れながらのツッコミを最後にその日はお開きとなった。

 

 

 

 

 

 翌日、羽丘女子学園--登校した豊川祥子は教室前で待ち伏せに合った。

 

「あ、祥ちゃん」

「おはよう」

 

「ごきげんよう」

 

 燈と愛音に挨拶を返し、そのまま通り過ぎようとするも、

 

「祥ちゃん、あの、睦ちゃんが――――」

 

 その件は聴きたくない。

 

 祥子が傷つけ、幸せにすると誓った睦は消えた--正直、もう何もかもどうでもいい。

 

 例えそれでは済まないとしても、まだ心の整理が付いていない--話をする気にはなれなかった。

 

 が、

 

「階段から落ちて病院に」

 

「何処の病院ですの!?」

 

 燈の肩を掴み、鬼気迫る顔で詰め寄る--頭の中は睦への心配に埋まり、過去の確執や自身の葛藤など一切が吹き飛んだ。

 

「あ、大丈夫。検査受けたけど、入院するほどじゃないし、命に別状ないって」

 

 愛音の説明に急速に冷静さが戻り、掴んでいた力を弱め表情も整える。

 

「それは何よりですわ--燈も申し訳ありません。取り乱しましたわ」

 

「うん。私は平気--でも睦ちゃんが」

「色々複雑なのは察するけど、顔出してあげてくれないかな」

 

 はっきり言って、そんな気になれない--無事ならば別にいい。と言いたいが、今見せた態度からして睦への心配からして白けるだけなのは明白。

 

 別に取り繕う必要もないし、それでも構わないとさえ思ったが、

 

「Mujicaのメンバーも心配して集まってるよ--海鈴ちゃんも、にゃむちもね」

 

 意外な名前に目を丸くしてしまう--海鈴に関しても、他人にあれだけドライだっただけになんとも言えないギャップを感じさせた。

 

 勿論、Ave Mujicaの復活を望んでいるのだから不思議じゃないと理解している--ならば、これはこれで良い機会なのかも知れないと己の中で感情と理屈を整理した。

 

 何より事が事--この目で無事を確かめるのは必定。

 

「…………放課後、向かいますわ」

 

 それだけ言って教室に入って行く--背中を見来る形の二人は複雑な顔で自分たちの教室に。

 

 

 

 

 

 夕方、迎えの車を断り祥子は燈と愛音と共に若葉邸へ--いつも通りに山田さんに迎えられたが、その表情は暗い。

 

 事故があったのは間違いないか--と余計な詮索はせずに案内される。

 

…………ただ通されたのは睦の部屋ではなく、地下の練習場。

 

 そこにはMujicaのメンバーが揃い楽器に手を付けて音を奏でていた。

 

 勿論、若葉睦も。

 

「あ、嘘は言ってないから。検査受けても何事も無さすぎて、お医者さんも疑ってたぐらいだし」

 

 騙されたと思い至った直後に背後からの愛音の種明かし--質の悪いドッキリに嵌った気分に、

 

「……帰ります」

 

 踵返すも着いて来た二人が壁になり、それも出来ない--絶対に帰さない。と暗に言われ、どうしようかと立ち止まる。

 

(いえ、そもそもキチンとケジメを付ける為に来たんですわ)

 

 直ぐ様に考えを整理してワザとらしく溜息を付きながら振り返ると、四つの期待に満ちた眼差しが。

 

「…………お元気そうで」

 

「うん。ピンピンしてるよ。お医者さんのお墨付き--なんだったら他にも証人持って来る?」

 

 ダメ押しとばかりに今さっき聞いた話に補強を加える--決して嘘は付いていない。後ろの二人に罪はないと主張する若葉睦の姿は、やはり自分の知っている……共に居ると誓った睦ではない。

 

「てな訳で、Ave Mujicaやるよ」

 

 にゃむが強引に前に出て、それを皮切りに他のメンバーも。

 

「祥ちゃん。新しい歌も考えたの--また曲をつけて」

 

「御覧の通り、全てのお膳立ては出来てます--だから再度要請します。もう一度、Ave Mujicaしませんか?」

 

 復活の為の外堀は埋められている--これはもうやるしかない。

 

 と普通なら思うだろう--ただ、この程度で呑まれるほど祥子の抱えたものは軽くない。

 

「Ave Mujicaを続けるつもりはありませんわ」

 

「私があなたの睦じゃないから?」

 

 若葉睦が間髪入れずに言う。

 

「ええ、睦が居なくなった今、バンドをやる意味なんて」

 

 顔を逸らす祥子の表情は、何処に行けば分からない迷子のようだった--だからなのか、背後に立つ燈はその気持ちが痛いほどに良く解り、声を出そうとしたが愛音が首を振って止める。

 

「なんなのそれ。あんだけバンドに拘ってたくせに」

 

 にゃむがバカにしたようなニュアンスで責め、祥子は甘んじて受ける姿勢--それしか責任を取ることが出来ないと、悲劇に浸っている様で余計に気に喰わない。

 

「あんたさ、トモコのこと忘れたくてMujica始めたんだってね」

 

「!?」

 

 どんな言葉でも受け止めるつもりだったが、予想外の台詞に目を見開いた。

 

 情報源は若葉睦しかない--ならどこまで話したのか?

 

 全く予想してなかった展開に後ろめたさや罪悪感だけでない秘密を暴かれる恐怖が加わり、鳥肌が立ちそうな寒気に襲われた。

 

 これも自分への罰なのか--やはり人でなしなのだから仕方ないのか?

 

 かつてを超える負の感情は投げやりだった心は吹き飛び、圧し潰されそうに。

 

(あの時の睦もこんな気持ちだったの?)

 

 更に悲しみと苦しみが増して、泣きたい--しかしそんな事は許されないと歯を食いしばる。

 

「『春日影』超良かったのに勿体ない--あれを超えれなきゃなら生き急いでたのも納得」

 

 にゃむの態度は皮肉めいている--されど言葉には嫌なニュアンスは感じない。

 

 ただ聴いただけではこんな風にはならない--祥子はこれが意味するところを直観。

 

「貴女も春日影を?」

 

「アンタの事を分かって貰いたいからって無理矢理ね」

 

 振り向くと燈と愛音が肯き……またどうにも出来ない複雑な心境が増す。

 

 MyGO!!!!!での演奏を聴いたような悲しさや遣る瀬無さは流石にないが、その果てに結成したAve Mujicaの真実--やはり暴かれて気持ちのいいものじゃない。

 

 しかし今更やられたところで取り繕う意地も見栄も既に剥がれている--ただの皮肉や当てつけでやった訳じゃない。

 

 どうにか冷静さと心に余裕を捻りだして結論を導く。

 

「…………Mujicaの意義を思い出せと?」

 

 絞り出すような台詞--これに初華はMujicaの始まりである電話越しの声が再生された。

 

 あの時は深入りせずに祥子の為ならとしか考えなかったが、今は違う--明確なる意思がある。

 

「祥ちゃん。切っ掛けなんてなんでもいい--私たちAve Mujicaで目指したい場所があるの」

「ええ。私もAve Mujicaで成したいものを……いいえ、ずっと求めたものを叶えたいと実感しました。高松さんのお陰で」

「ま、この前のセッションでぼろ泣きしてたもんねぇ」

「?!祐天寺さんだって笑えないでしょうが!」

「だからアタシのは貰い泣きだってえの--トモコの才能に圧倒されたのはホントだけど」

 

「いいなぁ。ともりん」

「~~~~~」

 

 褒め殺しに燈が顔を赤くして俯く。

 

 祥子は照れている燈に比べ自分はどうなのかと、羨ましさとも惨めさとも違う--強いて言えば置いてけぼり感に顔を背ける。

 

 そんな祥子を見ながら若葉睦は言う。

 

「祥子。睦はCRYCHICを願ってた--それは貴女の幸せを思えばこそ」

 

 睦の想いを丁寧に--託された願いを真摯に。

 

「だからこそ最高の舞台を今度はAve Mujicaで--皆の人生掛けて作ろう」

 

 かつて自分が言った言葉を美しく昇華させ手を差し出す--しかも睦の願いと言う人質を込みで。

 

 卑怯すら感じさせるも反論すれば悪役になるだけ--そんなしたたかさに便乗する形でにゃむも言いたいことを言う。

 

「残りの人生下さい--アンタが言ったんだよ。当時は成りあがる為に馴れ合い無しだと思ってたけど、実際は投げ出したバンド(かこ)を上書きしたかった--あれを超えるには人生懸けなきゃっても今なら分かる」

 

 にゃむはひと呼吸おき、祥子から燈に視線を移す。

 

「アンタにとってその娘がどれだけ大きかったなんて知らない--ムーコの事でどれだけショックだったのかも知る気もない。けどそれが足枷になって、やる気出ないんだったら今直ぐ捨ててくんない」

 

「相変わらず好き勝手仰いますわね」

 

 ようやく祥子の知っているにゃむらしくなり反論--更に以前に同じ場所での同じ様なやり取りに同じ怒りがぶり返して来る。

 

 何も知らない癖に勝手な事ばかりと。

 

「言うよ。共犯者だの運命共同体だの、アンタが言い出したんでしょうが--その所為でアタシたち皆Mujica無しじゃ居られなくなっちゃったんだから」

 

 にゃむは先のオーディションでやらかした不様な結果と浴びせられた言葉を思い出す--『バンド駄目になったからって、軽い気持ちで来んなよ』--その通りだ。

 それだけ自分の中でAve Mujicaが大きくなっていた--そしてこの前のセッションを持って自分の中の望みを確信した。

 

「アンタにとってバンドってなんな訳、逃げる場所?罪滅ぼしの手段?んな後ろ向きの気持ちで『春日影』は作れないよね」

 

 自分がそうだったように祥子の原点を突き詰めていく--勿論、本当の切っ掛けは知らない、それでも‶楽しい、やってみたい〟が根底に無ければあんな曲は作れないし、無かったとしても何も感じないなんてありえない(・・・・・)

 

 暴かれていく自身の心に流石に苛立ちが湧く--感情が爆発する寸前だが容赦などしない。

 

「綺麗事抜きだなんて言ってたのは、綺麗(そん)な思い出を消し去りたかったんでしょ--だったらボロボロになるまでやって貰う。じゃなきゃアタシ、許せない」

「豊川さん。かつての葛藤が解けたのは見てましたが、目指した頂は悪いものじゃない--気持ちを一新して目指してみませんか?」

「祥ちゃん。忘れる為でも傷つける為でも無い--最高を超える為に頑張らない?」

「それを燈たちにも見届けて貰う--同じ舞台じゃなくても、私たちの一生(・・・・・・)を懸けての演奏を。それが何よりも報いになるものだよ」

 

 Ave Mujicaの心はひとつになっている--豊川祥子以外は。

 

 かつてモーティスが取り繕った薄っぺらな修復なんかじゃなく、それぞれが確固たる意志を持ってバンドに全てを懸けると腹を見せた。

 

 これに祥子の脳裏には過去が甦る。

 

『皆さんの人生を預かるのですから』『残りの人生、わたくしに下さいませんか』『ただの学生でしかない貴女に他人の人生を抱えきれますの--出来もしないことを口になさらないで』『絶対一緒に成り上がってやろうと思ってたのに--何が一生くれよ』

 

 そう。全て自分が言い出した--豊川祥子が始めたこと。

 

 中途半端に投げ出すなど格好が付かない--更に家を追い出され自堕落になった父も浮かぶ。

 

 『わたくしはわたくしが嫌いですわ』--誰に向かってでもない自分に言った言葉。

 

 そこからのやり直すチャンスが目の前にある--前よりも魅力的な形で。

 

 あとは自分の覚悟次第--腹を決められるか。

 

 Ave Mujicaが進む先は簡単に捨てられる様な安いものなのか。

 

 自問自答の中、さり気なく後ろに目を逸らし燈と愛音を見る--特に燈は胸に手を当てて心配そうに成り行きを見守っている。

 

 これもまた少し前の出来事を彷彿とさせ気分の良いものではない--あの時と同じ事を繰り返すのかと、更なる迷いが襲う。

 

 その果てに出した結論は――――

 

「貴女方の思いと人生、確かに受け取りました--復活しましょう。Ave Mujicaを」

 

「祥ちゃん」

「はい!」

「当たり前」

「うん」

 

 メンバーたちの前向きな反応を、ただ静かに受け止める祥子--ずっと見ていた愛音と燈は安堵して胸を撫で下ろした。

 

「はぁ、よかったぁ。これでひと安心だよ」

「うん。よかった」

 

 しっかりと聴いているだろう祥子の心情は分からない--ただ、この場での役割は終えた。

 

「じゃ、詳しいことが決まったら連絡してね」

「待ってる」

 

 再結成の場をしっかりと見届け、宣言された復活ライブの立ち合いも引き受ける様子--普通ならモチベーションが上がるが、

 

「初華。早速ですが新しい歌詞を見せて下さいますか」

 

「うん。分かった」

 

 初華は書き出した歌詞--『Imprisoned XII』を差し出す。

 

「曲は直ぐに作ります--出来次第、復活に向けての予定を組みます」

 

「会場の方は既に交渉に入ってますから、大体の納期を知らせてくれれば」

 

 海鈴が意気揚々と受けると、

 

「演出に関しても、ちょっとやってみたいのがあるんだよね」

「私も」

 

 にゃむと若葉睦も積極的に案を出して来る--明らかに今までとは違う。

 

 新しい『Ave Mujica』を彷彿とさせる明るい兆し--とんとん拍子に進んで、大雑把だが形が出来上がった。

 

「これなら来週にでも行けますわね--作曲に集中するにも申し分ないですわ」

 

「うん。こっちは任せて貰って大丈夫--だから最高の曲を待ってるね」

 

 初華からの激励とも期待とも思える台詞--その希望に満ちたとも言える表情は大きなプレッシャーを与え、

 

(寧ろ、望むところですわ)

 

 祥子のモチベーションを上げた--今度こそ背負わなければならない。もう逃げだすことは許されない。

 

 Ave Mujicaで運命を共に。

 

 決意を新たに祥子は立ち上がる。

 

「もうわたくしたちは忘れられ始めてるか知れません--それを大いに吹き飛ばします。いいですわね」

 

 この時、初めてAve Mujicaはひとつになった……なのかも知れない。

 

 

 




 受け身の件は私なりに捻りだしたものですので、ツッコミ等はお手柔らかに。
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