BanG Dream! Ave Mujica 9話 if   作:a0o

6 / 6
迷うことを恐れる勿れ。(下)

 

 

「ここは何処?」

 

 通りのいい声で観客に向かい訴える--その姿は本当に不安になっている迷子。

 

 妙に味のある趣はしっくりき過ぎて皆の思考を正常な状態に戻していく--続きを待つ態勢が整い話は進む。

 

「私は誰?どうしてここに居るの?ねぇ?」

 

 心細さ全開に『モーティス』にそしてティモリス、アモーリス、ドロリスに語り掛けていき、再び正面に立って大空を見上げる様に腕を開いた。

 

「神様!どうか教えてください!これはなんなんですか!?」

 

 真に迫った叫び--とても劇の台本とは思えない。

 

 誰もが(・・・)そう思うには十分な切実さがあった--それは人形たちを哀れんでいるようであり、こんなものは見たくないと言う身勝手な押し付け。

 

 そして自分の望んでいる姿はもっと尊くて素晴らしいものじゃなきゃ嫌だと言う我儘な願望。

 

 一人の人間として思い抱いた内実を曝け出す姿は自然な共感を生む。

 

 その思いは届いた--動かずに座っていた『モーティス』の右手の指が僅か動く。

 

 注視しなければ見逃してしまう小さな動きだが、誰もが注目を余儀なくされている現状--また誰もが間近で見れる小さな箱を活かした演出は見事に嵌った。

 

 再び注目が『モーティス』に集約していく。

 

 虚ろだった目に光が戻って行くのが分かる--少しずつ変化する表情は人形から別の物へ。

 

 しかしそれは人間とは言い難い‶何か〟--もしかしたら本当に神様が降りて来たのかと錯覚を覚えさせる不気味さと高揚感を掻き立てて、背筋が凍るような冷気と心臓が燃え上がるような熱気を同時に感じさせた。

 

 顔を上げ、上体を起こし、ゆっくりと立ち上がる--過程のひとつずつに従いティモリス、アモーリス、ドロリスも立ち上がり、少女が振り返り向かい合う。

 

 これから何が始まるのか?

 

 期待と緊張でワクワクが止まらない--客たちの興奮が頂点に達する寸前を見計らったように『モーティス』の口が開く。

 

「ここは捨てられた人形が来る場所--貴女も捨てられてのね?」

 

「え?」

 

「ボクの後輩--なんだか嬉しくも複雑な気分だ」

「って言うか、ドロリスよりもオドオドしてて驚き」

「捨てられた自覚がないと言うレベルではありませんね」

 

 つまりは新しいメンバーのお披露目か--それとも、此処には居ない人形の代わりか?

 どちらにしても今までのAve Mujicaの劇とは何かが違う--もっと言えば似つかわしくない。

 自分たちはこんなのを見に来た訳じゃない--些か不満と困惑が広がる中で大きな叫びが響いた。

 

「違う!」

 

 麗しい人形たちの言葉を大きく否定--面が無ければ涙を流している姿が容易に想像できる姿は演技とは思えない。

 

「私は人形じゃない。捨てられても居ない--私は無くした物を取り戻してここに来た…………え?」

 

 少女はハッとした仕種で両手を面に当てる--自分でも何を言って居るんだ?無くした物とはなんだ?面など無くても顔に書いてある。

 

 と、無粋なツッコミを入れたい奇妙な間が出来た。

 

「貴女は……そう……私たちとは違うものなのね」

 

 悲しそうに目を逸らす『モーティス』--視線の先に居たティモリスが引き継ぐ。

 

「無自覚な意思……それでも忘れられない思い…………ああ、確かに何かが違う」

 

 胸を押さえ悩むように顔を曇らせる--その肩にそっとアモーリスが手を添えた。

 

「無くしたくないものの為にこんな所まで……それは愛なの?」

 

 問われても少女は答えられない--それでも話は止まらずドロリスが周囲を見渡す。

 

「私たちも何かを忘れている?いえ、忘れていた何かが蘇って来る……何故?」

 

 この問いは誰に対してものだったか?

 

 答えは出ない--何故ならば、

 

忘却(オブリビオニス)は何処?」

 

 忘却を司る存在が居ない--大切なものが欠けてしまったことを何故思い出せなかったのか?

 

 誰もが混沌の中で迷い、辺りを見渡して不安をまき散らす--当のオブリビオニスは舞台裏で拘束されて、訳も分からないまま見ているだけしか出来ない。

 

(一体これはどういうことですの?何が起こっているんですの?)

 

 この短い間に何度もした疑問で頭が一杯になる--気持ちを落ち着けて冷静に事態を把握しなければと理性を働かせようとするが、

 

「オブリビオニス……忘却…………そう、私は忘れたくない思い出を探しにここに来た」

 

 面の少女の台詞に心が向いてとても出来ない--寸劇の台本だと分かり切っているが、それは真に迫っている処か、本音をぶちまけている様にしか見えない。

 

 そう受け取る事しか出来ない--嫌でも耳を傾けざるえない光景に混乱は収まり、代わりに切なさが込み上げて来た。

 

「忘れたくない思い出……」

 

 『モーティス』が近づきながら少女の面に手を当てる--その目には深い悲しみに瞳孔が揺れており、今にも消えてしまいそうな『死』を感じさせた。

 

「なら忘れたままの方がいい--思い出したら呪い殺してしまうから」

 

 凄絶なる殺意と言う身の毛もよだつ呪い--観客たちの背筋が再び凍り付いた。

 

 そして真正面から受けた少女は固まって動けない--そこに更に追い打ちをかける様に『死の呪い(モーティス)』は続く。

 

「かつてオブリビオニスは言った。人形にとっての死とは忘却--そしてもうひとつは愛されないことだと」

 

 ひと区切りして歩き出し観客に向け両腕を広げながら上を見る--それは神に向けての訴えにしか見えないポーズ。

 

「それはとても悲しくて恐ろしい。だから今直ぐにでも忘れたい。彼女が忘却を与えくれれば解放される--貴女もそうしてもいいんだよ」

 

 台詞は明らかに少女個人に向けてのもの--しかし演出は誰でもない全てに向けて。

 

 誰もが呑まれる中で少女は叫ぶ。

 

「ダメ!!」

 

 揺るぐことのない否定--全てを吹き飛ばし静寂が訪れる。

 

「忘れるなんて出来ない……辛くても悲しくても、無かったことなんかにしたくない!」

 

 それは魂の叫び--誰もがそう思わせる絶叫。

 

「暖かくて眩しくて、歌は心の叫び--知らない叫びで搔き消すなんて駄目」

 

 傍から見れば前半は意味不明、後半はMujica解散時の演出の否定--ただ舞台袖で聞いていた祥子には自分がしたきた咎を突き尽きられた気分。

 

 誰にも言えない事情を抱え、悪者になる事で綺麗な思い出を壊し、忘れる為に結成した箱庭も瞬く間に壊れ…………最後に残ったのは責任感だけ。

 

 後ろ向きであることは自分がよく解っている--そんなのは彼女が望んでいないのも解かる。

 

(わたくしにどうしろと?)

 

 全く知らない所での騙し討ち--何を聴かせ、何を求めているのか?

 

 綺麗事を並べて改心や前向きになれと言うなら、寧ろ白けてしまう。

 

 そんな想定を描きながらも妙な期待感が灯り、聞く姿勢を取る--それを見たMyGOたちは体の拘束と口を開放し一緒に舞台を観る。

 

「私は忘れたくない、失いたくない--失うとしても、否定したくても、嫌いになりたくない!」

 

 少女はMujicaを否定する為にあるようだ--当然、そんなものは認められない。

 

「なにその一方通行な愛?すっごい我儘--で、チョー退屈」

 

 アモーリスの皮肉たっぷりの感想--引く継ぐように、

 

「ですね。恐ろしさを抱えたままで生きて行ける程、現実は甘くない」

 

 ティモリスのドライな意見--同調するように、

 

「僕は忘れたいよ--怯えて暮らし、彷徨い続ける心細さや悲しみを」

 

 ドロリスが胸に手を当て切実に--トドメは、

 

「死んだ方がマシ。そんな思いは毒でしかない--無い方がいい」

 

 『モーティス』がばっさりと否定を否定--Mujicaたちは少女の味方ではないのがハッキリと描かれた。

 

 それでも、エゴは止まらない。

 

「それじゃ、聴けない--私が聴きたい音が!!」

 

 そう。ただ聴きたい--少女はその為だけにここに来たのだ。

 

 ナレーションでもあれば、そんな説明がなされそうであり、Mujicaを何度でも真っ向から否定する魂の叫びは続く。

 

「何も知らないまま、知らない音を奏でて、苦しくて、心が壊れそうで……そんな知らない音が愛おしい。かつての楽しくて幸せな音も全部--あの娘の叫びだから」

 

 心配だった。解らなかった。幸せなのか、知りたかった。

 

 どんな音を、叫びを聴いても、それが彼女を表しているなら受け止めたい--そして、

 

「私は知りたい。同じじゃなくても、一緒じゃなくても、私の全てを込めて叫び返したい!!」

 

 これまでで一番大きな声で叫ぶ。

 

「最初の時から……思ってた…………音だけじゃない……全部欲しいって。あの時(・・・)終わっても、狂おしい叫びにまた立つことになっても満足できない………………何もかも丸ごと全てが欲しくて愛おしい!」

 

 正に一方通行で我儘--自分が欲しいからと言う究極のエゴ。

 

「聴きたいから、聴いて欲しいから--どんなに遠回りしても、迷子になっても、それでもここに来るのを、来たいのを止められなかった。今でも迷子、これからも迷子、一生迷子でもあの娘の音が欲しい--私の叫びを届けたい!」

 

 いや最早、これはラブレターならぬラブコール--愛の告白か?

 

(な、え、え――――え?)

 

 聞いていた祥子は口に手を当てて頬が徐々に赤くなっていく--横目で見ていたMyGOたち、特に立希は鋭い横目で見ながら言いたいことを我慢してる様子。

 

 豊川祥子の為にライブしに来た--その為にソロで介入しに来た。

 

 そう言っている演出はどうにも面白くない--そして彼女の才能と実力と魅力を知っているからこそ、この場だけで済むのかは甚だ疑問であり不安も拭えない。

 

 それを象徴すると言える場面が直ぐそこに来てるなら尚更--

 

「そう。だったら聴かせて--貴女の叫びを、音を、歌を」

 

 若葉睦(『モーティス』)が少女の面に手を当てて、直ぐに舞台全体をなでる様に回したことで人形たちと少女は、それぞれの立ち位置に。

 

「貴女に今宵限り、今この時だけの名を」

 

 その台詞と同時にガウンワンピースがゆったりと背後に落ち、赤紫を基調としたゴシック様式のドレスが--そして、

 

「エラーレス--我、迷うことを恐れる勿れ」

 

 人形たちと一緒に歌う為の名乗りを終えて、優しくも穏やかやリズムに乗った音が。

 

 ♪♫♪♫~~~~

 

 それは今までのAve Mujicaとは一線を画すような音色--クラシックやオペラに近い美しさを彷彿とさせる。

 

 ギターの二重奏が場の全てを包み込み、ベースとドラムがリズムを上げていく--四つの人形たちが形作った透明な檻。

 

 誰もが囚われて心臓を掴まれた。

 

 ……そこにエラーレスの叫びがこだまする。

 

 

 

 --色鉛筆で描いた世界 雲霞む青空の下で滅びた町

 それでも陽光が刺して 草木は茂 

 茶色や灰色のビル 朽ちたベンチから見上げながら

 あなたを想う あなたが来るのを待ち続ける--

 

 

 それは初華のイメージそのまま--そして作詞者の気持ちを混ぜ合わせた出だし。

 要は二人の合作--いったいどれだけ大好きなんだ?

 と他が呆れるほどの思いが赤裸々に押し出していた。

 

 

――照らされた世界 チカチカまぶしくて

 広すぎる青の その絶対にみつからない

 どこかで咲いているはずなのに

 

 でも、ぐるぐるまるまって

 見ようとしなかったのは――

 

 

 エラーレスの叫び--それは今この場に居ない忘れている誰かの為のもの。

 そして一人での叫びは終わった--ドロリスが遠慮も容赦もなく張り合うように叫ぶ。

 

 

 ――恋と音に溺れ、この小さな箱庭に

 人形たちが迷い来る 人に愛され、捨てられ

 涙も流すことも出来ず ただ忘れられ

 悲しみに狂い 死が集まる--

 

 

 Ave Mujicaの存在意義を込めて、ただ一人に語り掛ける--そして否定される。

 

 

 ――そんなの知らない 響き続ける音は

 残り続ける歌は もう魂に絡みついてる

 まだ消えてない 僕たちは死んでない

 光ある世界への渇望 この鼓動は命の証――

 

 

 エラーレスの目一杯の叫び--鼓動、命、それは人間であることの示唆。

 ついこの前に聴かされた『人間になりたい』が再生された--まるでその続きを、もっと先に至るまで全て絞りつくしても足りないと言わんばかりに。

 そして全てが全力で眩しさを感じるエラーレスの声と、甲高く美しく荒々しさすら感じるドロリスの声が重なる--絶対的な二重奏が始まった。

 同時にAve Mujicaらしい荒々しいメロディが駆け抜ける。

 

 

 ――生命の花はまだ枯れてない だから届けたい

 心の叫びを聴かせて 貴女の想いも受け止めたい 

 あの暖かくて眩しい日々も 知らない分からない悲しみも 

 ぼくたちの今だから あなたの全部が欲しい!――

 

 

 ただ一人の為のラブソングなのか?

 責任感だけのじゃ満足できないと言ってるのか?

 意図はどうあれ、命も魂も丸ごと全部寄こせとの要求。

 

 それとも格好良く願いや祈りと言うべきか。

 

 誰よりも先に‶彼女〟の才能を見出したのは自分--その才能の全てを自分が作った箱庭から全力でぶつけられた。

 

 Ave Mujica(このはこにわ)で、最高の音を奏でる--それを圧倒的、暴力的にこれ以上ない程の方法と結果を持って見せつけられる。

 

 何故、あの場に自分は居ない--そんなことを思わされてしまう。

 それを不覚とも思えない程にのめり込んでいる--あの劇場を掻き立てる音を奏でるのは、豊川祥子こそが相応しいと。

 

 嫉妬ではない--これは傲慢にして譲れない矜持。

 

 あの叫びに応えなくてはならない--いや、倍返しにして泣かせなきゃ気が収まらない。

 

 ここまで本気にさせたことを後悔も出来ない一生物の亀裂を心に刻む--もうこれ以上ない程に心を熱くさせたのだから。

 

 歓喜、闘争心、そして狂おしい程の愛を湧きたたせながら聞き入る--自分が認めた二人のボーカルの歌声が終わるまで。

 

 そして歌声が静かになり沈み、盛大な拍手が巻き起こる--しかしこれはまだ序盤。

 

 興奮冷めやらぬ熱気の中を堂々と舞台に上がるオブリビオニス--緊迫が増す中でエラーレスと向かい合う。

 

「まったく……こんな所まで追いかけて来るなんて…………貴女はどこまでわたくしの心を乱せば気が済むんですの?」

 

「え、あ、え」

 

 ここから先は完全な即興(アドリブ)だが、祥子ならどうにでもなる--若葉睦もフォローするとの事だったが、観客同様に興味深い視線を送るだけ。

 

 目に見えて困惑するエラーレスの面にオブリビオニスが右手を当てる--面を取ると誰もが思う中で、

 

「あ!?」

 

 見えない様に下から出した左手でエラーレスを抱き寄せた--そしてしっかりと抱きしめて言う。

 

「帰りなさい。ここは貴女の居るべき場所ではありませんわ」

 

「けど」

 

 これはただの咄嗟の台詞--だからこそ真に迫っており、便乗するには持って来い。

 

「わたくしはオブリビオニス、忘却を司るもの--故に忘れられない(・・・・・・)呪いも掛けられる。大丈夫、ここでのことは忘れませんわ」

 

 エラーレスを開放し、今度は舞台の真ん中に--さっきさせられた(・・・・・)決意を語る。

 

「忘れさせてくれない、何処までも追いかけて来るのなら受けて立ちましょう--その一生を以てしてでも消えない音を刻んであげましょう」

 

 ひと呼吸置き、再びエラーレスに向かい合う。

 

「貴女が迷いながらも離してくれないのなら、忘れられない絶対の神となりますわ」

 

「……神様?」

 

 完全に予想外で呆けている仕種--繰り返すがこれは演技でも演出でもない。全ては即興で成されてる遣り取り--だからこそ予想外なのはエラーレスだけではない。

 

 アモーリス、ティモリス、ドロリス、『モーティス』も目を丸くしていた--舞台袖で見ていたMyGOやスタッフも。

 

「ええ。だから貴女も神に届くほどに叫びなさい--その一生が迷子でも、わたくしが常に居ると、忘れることのない呪いを超えてみせなさい」

 

 これは挑戦、宣戦布告--それとも捻くれて回りくどい告白の返事か?

 

 それは当事者達(ふたり)にしか分からない--分かる必要もない、重要なのは片方(オブリビオニス)が思いを受け止めたと言う事実。

 

 だから、

 

「うん、分かった。神様にも届くくらいに目一杯叫ぶ!迷子でも進むって、もう決めてるから!」

 

 もう片方(エラーレス)も真正面から受けた。

 

 見つめ合う二人にもう言葉は不要--誰もがそう思う数秒の静寂の後、オブリビオニスはドロリスに目を向けると真剣な眼差しで頷き、本来の予定での演奏曲用のクラシックギターを手に取り『モーティス』が座っていた椅子に。

 

 ほぼ同時に他のメンバーも立ち位置を変える--この流れから、今からが本当の復活劇だと誰もが思ったが、エラーレスは舞台を降りて見上げる形でAve Mujicaを視界に入れた。

 

「貴女を送り出す歌を奏でます--またいつか」

 

 

 ♪♫♪♫~~~~

 

 クラシックからバラードへ--さっきの歌よりも重さ増したメロディが奏でられる。

 

――Ah Ah 

 

 ねじれた空を描いて思うの 羽根のない君

 堕ちればいい 触れてしまった神聖なもの

 今夜 私の神話になって ほら 逃げられないわ

 弱っていく 君 閉じ込めて ――

 

 この歌もまたラブレターか、ただ一人の為の--しかし今度はただ一人だけの思いが詰まった。

 

 聴いていれば狂気すら感じる歌詞--それを綺麗な音によって美しく昇華されていく。

 

 その過程でエラーレスは胸に当てていた手を広げ、全てを迎え入れる様なポーズを取る。

 

 それは一枚の絵画--神の如き曲を奏でる者達とそれを受け止め羨望する一人の少女。

 

 会場の居る誰よりも歌の意味を理解し、受け止めたパフォーマンスは文字通りに絵になっており、聴覚だけでなく視覚も鷲掴みにてしまう。

 

 完璧なまでに美しい--誰もが思い至るは中で歌は過熱していき、スポットライトの光が収束され、舞台上のドロリスに‶全て〟が集まった。

 

 ――いま 狂おしいほど――

 

 そして歌が終わった時、徐々に明かりが戻りエラーレスは消えていた--残されてたのは脱ぎ捨てられたガウンワンピースとその上に乗っている面。

 

 会場はざわめきが起こる中、ドロリスは堂々と立ち上がりクラシックギターからエレキギターに持ち替える。

 

「エラーレス、いいえ、彼女は居るべき場所に帰った--そして運命の歯車は更なる次元に上がる」

 

 ドロリスに再び注目が集まり期待感を高めた。

 

「ようこそ新たなるAve Mujicaの世界へ」

 

 それを裏切らない台詞と演出に歓声が上がり、第三曲が奏でられる--舞台袖から見ている『MyGO!!!!!』たちも役割を終えて純粋に楽しんでいた。

 

 Ave Mujicaらしいヘヴィロックな曲とそれぞれが勝手な動きをしている演出はさっきまでとは対照的。されど一人一人の音はここではない何処かに向かい放たれている--その行く先は消えた少女へのメッセージだと誰もが悟らせた。

 

 言葉だけでない、指先や手足、心臓の鼓動を体現するような狂ったパフォーマンスはもう人形から解き放たれた。

 

 音を奏で生命を表すことで、つながっている--それこそが彼女たち‶全員〟の願い。

 

 ホールどころか、会場の外まで満たしそうな熱量は……ぶつけられた少女、燈には少々キツかったようで、さっきまでの大役の疲労と相まって眩暈を起こした。

 

「「……!?……」」

 

 立希とそよが声を出さずに慌てて支える--まだ意識は飛んでない様で歌を聴きづけてるが、もう下げた方がいいとゆっくりと楽屋まで戻る。

 

「燈、大丈夫」

 

 立希が心配そうに真っ先に声を掛ける--返事をしようと振り向こうとするも冷や汗が収まっておらずまともに対応できない。

 

「無理は駄目」

 

 そよが水を差し入れて背中を摩りながら、ゆっくりと呑ませる--少し時間を置いて落ちついて来たが、

 

「「「「キャー――――!!!!」」」」

 

 歓声が響き、驚くように振り向く--どうやらアンコールも所望されているようだ。

 

「うわ~。大大成功だね」

 

 愛音の呑気な感想に複雑な気分の立希とそよ--この熱気が次に何処に向かうか簡単に想像が付き、それは歓迎できるものではない。

 

 最初から解ってはいたし舞台を観て、させなきゃよかったとは思わない--ただ、これを超えるものを創らなきゃいけないと言うプレッシャーに身震いする。

 そうしなければ、燈はMyGO!!!!!でいられない--観客たちがそれを許してくれない。

 何よりも自分たちがバンドであることを認められない--プライド以前に‶一生迷子〟の誓いに反する。

 

 それは恐れか、歓喜か?

 

 いずれにしても途方もない課題を突き付けた若葉睦(しゅぼうしゃ)と受けたいと望んだ燈には文句を言いたい気分だ。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。