我が名はちんちん!アクセルの街の守護神父! 作:ひつまぶし太郎
『うんこみたいな魔法』の時と同じく、下ネタが言いたくなっただけです。
もし奇跡的に誰かがこの小説を発掘したなら、暇つぶし以上の価値はありませんのでよろしくお願いします。
ちんちん。
これは下ネタではない。
れっきとした名前である。
そんなことを言ったところで、誰もが何いってんだこいつと呆れるのだろう。
僕はそれが許せない。
妹が「私のお兄ちゃんはすごいんだよ!有名人だし、かっこよくて可愛いし、強いし!」と自慢したら、「へー、で。名前は何ていうんですか?言えるもんなら言ってみてくださいよ。ほら、ほらほら。そもそもあなたに兄がいた事自体初耳ですが?」とライバルに煽られ、羞恥から名前を言えずに嘘つき呼ばわれされたときよりも許せない。
許せ妹よ。
でも兄ちゃん、別にお前の兄ちゃんじゃないから(クズ)。
そもそも従姉妹なんで…。
「ああ神よ、なぜ僕の親はこんな名前を与え給うたのか」
(───いやいや、そんなこと私に聞かれても困りますよ!?)
当然返事はない。
まぁ、神様に祈るのはいいが救いを期待するのはよくない。
なにせ神様は人を救わない。
神様に力を借りて人が自分で助かるだけなのだから。
朝の習慣である祈りを終え、僕は街に出る前に掃除をしている同僚にひと声かける。
「いってきまーす。いつも掃除ありがとね」
「ああはい。いってらっしゃい神父様。そう言えば今日ダスティネス卿の娘さんが祈りに来られるそうですが…」
振り返った彼女は、どこか世を儚んだような目というかジト目をしているが、それでも仕事ぶりもその信仰心もかなりのものだ。
あと、時々真顔で変なことを口走ることもあるが、この街じゃよくあることだ。
「…そっかぁ。まぁ、どうせ街の巡回だけだからすぐに戻って来れるし、お茶でも出しといて。なんかあって僕の帰りが遅くなったら…たしか講壇の引き出しにカステラ入ってたでしょ、あれ食べてていいよ」
「わかりました。…お気をつけて」
アクセルの街。
駆け出し冒険者が訪れ、いずれは巣立っていくそんな場所。
住民たちはやけに図太くてたくましく賑やかだが、大きな事件なんてそうそう起きない平和な街だ。
故に、半ば趣味のような街の巡回程度で予定が狂うこともないだろう。
それでも、同僚のその気遣いがくすぐったくて僕は思わずほっぺをかく。
「ん、そっちこそ気をつけてね。なんか最近あっちの教会も元気だし」
「安心してください。防衛用に要塞化しておきました」
「なにしてんの!?ていうかいつの間に!」
「一晩で、ですが?」
「近所迷惑!ていうか嘘でしょよく起きなかったな僕…」
「ええ、とても可愛らしい寝顔で…」
「今なんか言った?」
「言ってません」
「?」
街に出ると、視線が一気に集まるのを感じる。
黒髪赤目。
とある一族の特徴故にそれだけでも目立つわけだが、僕の場合は輪をかけてひどい。
すごい、ではない。
ひどいのだ。
まぁ仕方がない。
名前が名前だ。
しかもそんな名前のやつが神父をやってるので、それはもう目立ちまくりなのもやむなしと言えるだろう。
「八百屋のおじさん、おはようございます!野菜なんか良いの入ってます?」
「おー神父様!お陰様で…」
「お陰様?」
「こないだ神父様が街道を襲うモンスターを撃退してくれたとかで…」
依頼。
街道。
その単語で一つ思い当たったものがある。
そう言えば先日、ジャイアント・アースウォームの掃除をしたのだったか。
「あー…あのときの依頼。いいんですよ、僕が頑張れば美味しい野菜が食べれるならこんなに嬉しいことはないですから」
「おお…さすが神父様!どうぞこのトマト、持っていってください!ささやかなお礼です!」
「わーい、ありがとうございます!」
「…ちなみにどういった感じで倒されたんですか?」
「え、僕が大きくなって聖剣を抜いて…ぶっ倒したみたいな」
「
「…別に下ネタじゃないですよ?」
「はっはっは、ええもちろん。わかってますとも…」
「ほんとにわかってます?」
【聖剣ちんちん】。
なんの因果か僕に与えられた、特別な力。
正直街の人から変な目で見られるのでこんな力いらなかったな、とは思う。
とはいえ、敬遠されていたとしても僕はこの街が大好きだった。
いつも貧乏な魔道具店に、貴族相手にも物怖じしない魚屋、強面の機織り職人のいる服屋、婚期に悩む受付嬢のいるギルド。
年の離れたガキ大将におもちゃを取られ、即座に報復にうつる幼児。
詐欺師の若者を逆に騙して金をむしり取る道端でホームレスのふりをした老人。
みんなが笑っている。
それだけで僕は満足だった。
(可憐だ…)
(神父様今日も可愛いー)
(今日も神父様の可愛さに感謝)
(我らの光…)
美少女と言っても過言ではない美貌。
小柄な体躯に天真爛漫な笑顔。
神父服に汚れ一つつけないその清潔感。
世のため人のために戦うことを苦としない聖職者として完璧な性格。
親しみやすい距離感。
ギルドの塩漬けクエストでも緊急クエストでも片っ端から解決できるその実力。
彼は、嫌われる理由が一つもない。
それでもどことなく街の人達がよそよそしい理由。
((((でも名前がなぁ……))))
それは、彼の名前が『ちんちん』なこと。
ちんちん。
男性の陰部を連想させるというかもうそのまんまじゃん、みたいな。
どっかの国の小学生が「チンは国家なりw」とか言ってるレベルじゃない。
もはやコナンがちいさくなっても新一を名乗ってるようなものだ。
隠すまでもない。
隠れてない。
皮も被ってない。
ドストレートTINTIN。
それだけが彼の唯一の欠点であり、改善性のないその絶望はあるいは神ですらも覆せないもの。
誰も悪くない。
このショタにしか見えない16歳が卑猥な名前をしているのも、その名前のせいでどんなに真面目な話をしていても周りの人間の表情筋が死ぬことも、全ては仕方がないことなのだ。
というか誰が悪いかで言えば普通に名付け親が悪い。
●
「ただいまぁ」
「思ったより遅かったですね?少し、ですが」
「うーん、なんかこの街に新しく来た人が随分元気みたいで…」
朝からやけに胸を強調してるギルドのルナさんに話を聞いてみたところ、どうやら期待の超大型新人がこの街に来たらしい。
なんでも一部のステータス(知力と運)を除いて全てが飛び抜けて高くて、更には全てのスキルを習得している超優秀なアークプリーストなのだそうで。
「すごいじゃないですか」
僕の話を聞いた同僚が目を期待で見開くが、僕は疲れたようなため息を付くしかできない情報を追加する。
「でもその人アクシズ教徒で」
「ぐっ」
「女神を自称してて…」
「おごっ」
「連れの男はなんか馬小屋で騒ぎ立ててたらしくて、それに便乗して金もないのに宿に泊まろうとしてたらしくて…」
「ぐうぅぅぅ…なんでこの街ってまともなやつこないんだよクソが」
期待がへし折れたのか、同僚がやさぐれたように落ち込む。
可哀想に。
なんかちょっとでも僕の負担を軽くしたいとかで、才能のあるプリースト探してたのを知っている僕としては、申し訳なくなる。
僕は悪くないんだけども。
そのしょぼくれた肩を叩くと、僕は努めて明るい声で笑った。
「ほらほら、落ち込むのはわかるけどその人は何も悪気はないんだから。会っても普通にしたげてくださいね」
「はい…」
その話はそこで終わり、その後友だちが欲しいと祈るダスティネス卿の娘さんに簡単な説教をこなしながら、ぶっちゃけほとんどのんびりをお茶しながら、平和に1日は過ぎっていた。
…次の日。
農家の栗の木が根こそぎ消し飛んだ。
やったのは妹分のライバルだった。
同じ日。
八百屋でトラブルがあった。
売り子が芸したらバナナが消え、簡単なお使いを頼んだバイトが逆ギレしたらしい。
さらに同日。
ダスティネス卿の娘さんが家出をした。
金一封を用意した執事が街中を駆け回っていた。
さらにさらに。
なんか妹分が自称13歳のおじさんに絡まれていて、魔剣の勇者と呼ばれる新人に街の名物になってるチンピラが返り討ちにあい…。
そんな感じで、新進気鋭の問題児たちに感化されたのかそこかしこで騒ぎを起こす冒険者たちの多かった一日。
その締めくくりに、やけに薄着な貴族令嬢から夜這いされていた。
潤んだ瞳。
どこぞの貴族が必死に手に入れようとしている抜群のプロポーションと美貌を持つその人は、頬を赤らめながら僕の前に立っている。
「家出したって聞いたんですけど…」
「どうか私を泊めて欲しい!この通りだ!何でもする!神の前でほらほら、お前の信じる神から目をそらすなよ、その卑猥な体を弄ばれて漏れ出る情けない声をちゃんと届けないとなぁげへへ、なんてプレイだって構わない!むしろばっちこいだ!」
「……間に合ってます」
流石に眠気が限界だ。
僕はあくびを噛み殺し、教会に隣接するこじんまりとした司祭館…というかほぼ馬小屋よりましなくらいのサイズの建物の扉を締める。
「ま、まさか放置プレイ!?それともこの扉を開けてほしければ差し出すものがまだあるだろう…という展開か!?」
「だぁぁくねぇえええす!年下の子に迷惑かけないでよ!泊まるとこないなら私の借りてる宿にくればいいから!」
「くそっ、クリス!邪魔をしてくれるな!私は普段滅私奉公してる神父様の秘めた欲望の餌食になるという使命が───」
「女神パンチ!」
その後、どうなったのか僕は知らない。
なにか気絶した人を必死に引きずるような声と音がした気がするけど、しらないったら知らないのだ。
これが、アクセルの日常。
騒がしくて、休む暇もない、楽しい毎日を僕は過ごしている。
はい、終わりです。
タイトルが出落ちの続きなんてない作品です。