我が名はちんちん!アクセルの街の守護神父! 作:ひつまぶし太郎
感動のフィナーレです(大嘘)
アクセルの街の近くの森に悪魔が出た、という話をクリスさんに教えてもらった。
昨日は私の友達がごめんね、なんて微笑む彼女は僕の先輩冒険者で、先輩信者でもある。
彼女がエリス教の信者なのか、と言われるとちょっとわからないけど。
僕は彼女が教会に訪れるところは見たことがあっても、エリス様に祈っているのを見たことがない。
でも、その生き方はごく自然にエリス教の教えを実践していたりする、ちょっと不思議な人だ。
「準備はいい?よし悪魔殺そう。今すぐ殺しにいこう、それがいいよ!殺すしかないよ!」
あと、悪魔に対する殺意がたっかい。
「悪魔を殺すと言ったな。私も同行させてくれ。冒険者としてはまだ初心者だが、硬さになら自信がある」
「ララティーナさん」
「んっ、その…そっちの名前はやめてくれ。私はもう貴族ではない。ただのダクネスでいい」
「…はい、よろしくお願いしますダクネスさん」
「あと、昨日はすまなかった。家から解放された喜びで、つい…願望が漏れてしまった」
「今願望が漏れたって言いました?」
「言ってない」
「いやでも」
「言ってないぞ」
「そう…ですか」
「神父君、そういうとこだよ?」
その後、途中で出会ったゆんゆんとめぐみんに絡まれ、振り切るのに失敗した為に、本当は心の底からついてきてほしくなかったのだけど、計5人のパーティーとなって森へと突撃することになった。
●
目当ての悪魔は、あっさりと見つかった。
おそらく魔法で切り開いたのだろう。
不自然に開けたその場所で、まるで待ち構えていたかのように悪魔は丸太の上に腰掛けている。
陽の光はない。
今日は曇りだ。
つまり、悪魔の天敵たる太陽の力は借りられない。
「よう、ちょっといいか? 俺様はホーストってもんだが……。実はこの辺りで、真っ黒で巨大な魔獣を捜してる」
「「ひっ」」
金属の様な光沢を放つ漆黒の肌。
蝙蝠を思わせる巨大な羽。
オーガーですらねじ伏せそうな体軀を持ち、角と牙が禍々しさを際立たせている。
何体もの悪魔を屠ってきた自分の勘が告げている。
眼の前のニンマリと牙をむき出しにして笑うこいつは、魔王軍幹部級の上位悪魔だ。
「でもよ、もっと探してるやつもいてな」
「へぇ…聞かせてほしいな」
怯える二人を庇うように前に出る。
「そいつは紅魔族で、変な名前で。たった一人で駆け出しの街を絶対的な不可侵の守護化に置いてる化物聖剣使いなんだが、お前知らないか?」
「さぁ、知らないかな」
今の僕は、クリスさんにスキルを使用してもらってかなり聖剣の気配を抑え込んでいる。
とはいえ、僕の見た目の特徴が出回っている以上隠し通せるものでもないのだろう。
まずい。
いや、悪魔が強すぎるとかそういう話ではなく。
悪魔を前にして、僕の魂と同化している聖剣が唸りを上げているのがまずい。
…案の定、背に庇う二人の目線が厳しいものになったのを感じる。
「…お兄ちゃんどうして…」
ゆんゆんの言葉の先を僕は知っている。
それは何度も僕が浴びせられてきた言葉だから。
だけど、僕の方こそどうしてと言わせてほしい。
いやほんとに。
どうして。
「どうして、あ…あそこがおっきくなってるの!」
「最低です、最低ですよこの男!」
───どうして気がついてしまうのか。
少女たちの絶叫が森に響く。
それは悲痛な言葉で、切実な疑問だった。
だが、僕にだって言い分はある。
僕は一度、一部がそそり立った自分の下半身を見つめ、力なく首を振った。
「これはその、あれだよ。…ほら。懐刀だよ…」
「懐刀なら懐にしまってよ!」
「神父が聞いて呆れますね!私達が怯える姿に興奮でもしましたか?見損ないましたよ!」
「いや、ほんと。ほんとに嘘じゃないんだって!これが僕の聖剣で!ああもう!だから連れてきたくなかったんだよ!」
僕のことをまるで変質者かのように扱う二人の少女に僕は醜くも言い訳を繰り返すが、叫べば叫ぶほど心の距離が開くのを感じる。
ああ無情。
どうしてこうなった?
そんなこと、改めて問うまでもない。
全部聖剣のせいだ。
ほんとふざけんな。
僕の平穏な人生を返してほしい。
「言いたくないけどほんとなんだよ信じたげて?いや、私も最初は信じられなくて結構ひどいことも言ったんだけどさ!!ほんとなんだよ!信じられないけど!」
「ああ!私は信じていたとも!神父様はやはり別格だな!ビンビン来てる!ビンビン来てるというかビンビンだ!聖なる力がみなぎっているのを感じる!素晴らしいな!ズボンの上からでもわかるあの逞しさ!あんなの入れられたら壊れてしまうぞ!最高だ!」
「ダクネスは褒めてるんだよね!?褒めてるんだとしてもやめたげてね?この子だって好きでこんな体なわけじゃないんだよ!だから喜ぶのやめて!」
クリスさんが必死にフォローに回ってくれているが、僕はよく知っている。
こういう状況で言い訳したところで、弁明は不可能だ。
諦めが早い?
バカ言えこちとら股間が膨らんでんだよ。
ナニをどう説明しろってんだ(憤慨)。
勃起だよ勃起。
恥ずかしげもなくおったててんだよこっちは。
だからもう、見せるしかない。
ある時は警察に呼び止められ、ある時は裁判にかけられ、ある時はなぜかエリス様直々に天界に呼び出され。
何度も何度も誤解を解こうとしたが、結局いつだって潔白を証明するためには抜くしかないのだ。
僕はもう人生で何度繰り返したかわからない問答を終わらせるべく、股間に手をかける。
「ああくそ、いいよ見せてやるよ!証明してやる!僕の、聖剣を!!」
「ここで見せつけるというのか!?神父様の神父様を!?」
「ダクネス!ダクネスお願いだからもうやめたげてぇ!それ以上言うとその子ほんとに泣いちゃうから!」
解放の予兆を感じ取ったのか、聖剣のテンションが跳ね上がる。
同時に、僕の股間の膨らみも跳ね上がる(最低)。
「【ちんちん】解放───!!!!!!」
僕は泣きながら。
聖剣の魔力に応えるように吠え、股間のイチモツを引き抜いた。
●
眩い光が収まり、僕の手にあるのは、当然イチモツ…ではない。
聖剣だ。
ちんちんって名前の聖剣だ。
その姿を見て、ダクネスさんが震えている。
「ちんちんが…抜けた!?」
「ダクネス!」
「いや、だがクリス!あれを見ろ!なんて立派なんだ…!あれほど大きいものを私は見たことがないぞ!?さすが神父様…いや、さすがちんちん様だ!」
「ねぇなんで言い直したの!?」
あーこの、股間にある虚無感ほんと嫌い。
聖剣の名前はちんちんだ。
そして、僕の魂と同化している。
そんな魂とも呼べるちんちんが手元にあるということは、僕の体からちんちんがなくなっているというわけで。
その状態の僕の性別は、女性になる。
もう一度言おう。
───僕の性別は今、少女なのだ。
狂ってんのか、聖剣って言っとけばなんでもして良い訳ちゃうぞ。
と、僕が憤慨したところでこの不条理は変わらない。
本当にどうかしてる。
なんだコイツ。
ほんと死んでほしい。
いや、やめよう。
今は眼の前の敵を葬ることだけを考えよう。
考えれば考えるほど気が滅入る。
「な、な、なぁ───!?なんですかこのアホみたいな展開は!?」
「嘘、ほんとに聖剣だったの…!?」
呆気にとられている少女たちの視線もまた、無視だ。
もうヤケクソだ。
漲る闘気。
輝く聖剣。
天をつくように立ち昇る白い魔力。
その溢れそうな力の解放を求めて、聖剣が大きく鳴動する。
「…おいおい、ほんと紅魔族ってやつはふざけてるな…!」
「ふざけてねえよふざけんな!」
生命力に満ち溢れた退魔の権化。
太陽の写し身とも言えるほどの熱量は別になく、むしろじんわりとした熱を帯びた聖剣を、僕はしっかりと握りしめる。
なんか嫌なんだよな、この温度。
生暖かいというか。
純白の芸術品のような見た目をした西洋剣なのに、目も当てられない卑猥で低俗なものに見えるのが本当に嫌だ。
「へっ!だったらせいぜい俺を殺してみせろ
「ああ殺すさ、殺すとも!それが例えエゴイズムに満ちてヒーロー願望にまみれた蛮行だとしても!僕は人類に仇なす悪魔を殺すんだ!───我が名はちんちん!アクセルを守る守護神父!聖剣を握るもの!」
「我が名はホースト。でっけえゴブリンではなく上位悪魔にして、やがてはとあるガキに使役される予定の者。だが今は、神の使いをぶっ殺す者だ!」
でもしょうがない。
これが僕の聖剣で、この力で僕は人々を守ってきたのだから。
今後も僕は何度だって、この最低最悪な聖剣を振りかざすのだろう。
僕は悪魔をまっすぐ見据える。
その悪魔は、人質を取るでも逃げるでもなく。
その口元に、随分と人間臭い笑みを浮かべてただ真正面から向かってくる。
僕は、その覚悟に応えるように聖剣を振り下ろした。
白い光が迸る。
聖剣を悪魔の爪が迎え撃つ。
「───!」
拮抗は一瞬だ。
互いが弾かれたようにすぐに離れ、再び突撃する。
解放されて力を増した聖剣の加護が、僕の思考を加速させる。
剣を振るう。
蹴りが聖剣を弾き返す。
僕の陰から飛び出してきた悪魔が僕の首へと牙を剥く。
不意をついたつもりの相手を逆に袈裟斬りにする軌道で、既に聖剣が走っている。
「この化物が!」
「悪魔に言われたくない!」
剣を本気で振り下ろしたことで発生した真空に引き寄せられるようにホーストがバランスを崩し、その無防備な頸を狙って聖剣がさらに加速する。
「インフェルノ」
だが魔炎が空間を焼き払い、狙いがずれる。
「───デコイ!」
「攻撃がお望みならくれてやる…!なに!?」
「ふっ、さすが上級悪魔!素晴らしい一撃だ!もっとだ!もっと打ってこい!」
「硬すぎだろお前!がぁ!?」
「まずは一枚!悪魔が翼持つなんて生意気だよ!天に近づこうなんておこがましい!全部もいでやるッ!」
ホーストは強い。
並のパーティーなら壊滅させられるだろうし、不意を打てばチート持ちの勇者候補も戦闘不能にできるのだろう。
それでも、多勢に無勢だ。
上級悪魔の本気の爪に晒されてかすり傷で済むダクネスさんに、少しでも視線を外せば意識から完全に消えてしまう潜伏持ちでやけに念のこもった神聖なダガーを持つクリスさん。
僕とクリスさんは対悪魔のエキスパートで、ダクネスの防御力はなんでか知らないけど特化してるだけあって桁外れだ。
武器スキルを一個も取ってないって聞いた時は頭おかしいのかなって思ってたけど、死ににくくなるという意味でならこのスキル構成は初心者におすすめしていいのかもしれない。
「バインド!」
「ああクソ、だがっ!まだだ!」
「いいや、終わりだ」
クリスさんのスキルにホーストが捕まる。
麻痺の魔法ではなく、聖銀製のワイヤーによる物理的な拘束は悪魔にも有効だ。
とはいえホーストの爪と怪力があれば、すぐにでも拘束は振り払われるだろう。
だが、その一瞬があれば僕には十分だった。
「───恨み給え。憎み給え。その偽りの生命を、私は冒涜する。我は善。我は悪。悪を討つ為に悪徳を為す。その矛盾を受け入れ、光を呑む」
祈る。
これは手向けだ。
死にゆく悪魔への鎮魂歌。
「ペニス」
「カースド」
僕は祈りに合わせて、聖剣を振り上げる。
ホーストもまた本気の魔力を込めた右腕を僕に振りかぶっている。
互いの魔力が可視化できるほどに高まり、そして。
「カリバぁぁぁぁぁぁああああっ!!!」
「ライトニング───!」
決着する。
黒い稲妻を白い奔流が飲み込み、曇り空ごと押し流す。
「《残機》が一人、減っちまうなあ。ウォルバク様との契約も、強制解除で晴れてフリーか。……まいったな。この流れだと、いつか本当にあのガキんちょに喚び出されて、使役されちまいそうだ」
消える直前、悪魔がそんなことを言った気がした。
こんな作品を見つけてくださった希少な読者の皆様、最後まで読んでくださってありがとうございました。
誰にも見られませんように、という思いとこの小説がランキング乗ったらクソおもろいな、という自己顕示欲がありますが、たぶんひっそりとこの小説は風化していくんだろうなと思っています。