まもなく特務隊編終了です。
本編はいりたいな…
本局に着いてから、早くも一週間が経過。
最初は――そう、ただボーナスのため。
それだけを支えに全力で食らいついていた俺だが……
シグナムとヴィータ、時々シャッハ師匠。
三人から容赦なく攻撃を叩き込まれ続ける訓練は、冗談抜きで手加減抜き。
何度も地面に転がされ、心も体もボロボロになっていた。
「ユウト、大丈夫?」
ふと顔に影が落ちる。視線を上げると、タオルと水を差し出すアリシアの姿。
「……大丈夫そうに見えるか?」
俺は地面に突っ伏したまま呻いた。
魔力も体力も空っぽ。指一本動かすのも重い。
アリシアは俺の隣にしゃがみ込み、ケラケラ笑った。
「なんか懐かしいよねー。闇の書事件の直前もさ、こうしてシャッハさんに毎日ボコボコにされて、倒れるまでしごかれてたじゃん」
「……いまはそれにシグナムとヴィータが追加されてんだが」
「それはまあ……ユウトが強くなったってことで、いいんじゃない?」
「納得いかない……。ま、いいや。アリシアの方は進歩あったか?」
汗を拭きながら訊ねると、アリシアは肩をすくめた。
「私の方は結構順調だよ。ユウトに頼まれて開発してる例のアレここ二年で完成にだいぶ近づいてるよ。ただ、効果の確認はその時になってぶっつけ本番になっちゃいそうだから怖いけど。」
「……そっか、ありがとうな。他にもやりたいことあるはずなのに、頼んじゃって」
「ううん、気にしなくていいよ~」
アリシアは首を横に振り、水を押し付けてくる。
「アレの開発、ほかの研究と同時進行だから時間はかかっちゃったけどさ。カートリッジの応用技術になるし、私としてはすっごい楽しいんだよ? 手伝ってくれてるマリーさんや本局技術部の人たちの技術を間近で見られるのって、すっごい勉強になるし」
「…ほんと、前向きだよな。うらやましいよ。」
「ふっふ…でしょ?」
そんなやり取りをしていると、背後から声が飛んできた。
「おーす、アリシア。そいつの調子はどうだ?」
振り向くと、ヴィータが腕を組んでこちらに歩いてきていた。
「あ、ヴィータちゃん!」
「ちゃんはやめろっ!」
言うが早いか、アリシアはヴィータの頭を両手でわしゃわしゃと攻撃し始める。
ヴィータは露骨に鬱陶しそうにしながらも、払いのけない。
「だってだって〜! 妹のフェイトは私より体とかは大人だし、ヴィータちゃんは唯一のわたしと同じ小さい組だからなぁ〜」
「おいコラ! あたしのは成長とか関係ねぇんだよ! これが完全体! 単純なチビと一緒にすんな!」
「え〜?可愛いからいいじゃん?」
アリシアは悪びれもせずニコニコしている。
仲良さげにじゃれ合うアリシアとヴィータを見て、思わず口元が緩む。
……だが同時に、ついさっきまで俺を容赦なく叩きのめしていた片割れでもあることを思い出し、気を引き締め直した。
「……で、ヴィータ。なんの用だ」
「あ、そうそう……お前に頼みたいことがあったんだ」
「頼みたいこと?」
「テレビ局の放送用インタビュー」
「ああ……なんだ、そんなことか」
思わず肩の力が抜ける。訓練追加かと思ったが、ただのインタビューなら……楽勝だろ。
ボコられる心配もない、簡単な――
「……え?」
一瞬で背筋が凍る。
テレビ局? 本放送? 俺が……?
ヴィータは悪びれもなくニヤリと笑った。
「ま、せいぜい特務隊のホープらしく受け答えしてこいよ? 全国放送だからな!」
「全国っ……!?」
「いいねー、ユウトも地上波デビューかあ!!」
頭を抱える俺。
訓練という名のリンチの次は、理不尽な公開処刑。
「あの、ヴィータ……なんで俺がそんなこと……?」
おそるおそる問うと、ヴィータは意地悪く肩をすくめた。
「……この前、誰に頼まれてはやてに嘘つくことになったんだっけなぁ?」
「っ……」
脳裏に浮かぶのは、休暇前に必死でごまかしたあのやり取り。
やばい、逆らったら確実に追加のお仕置きコース……!
「……喜んでやらせてもらいます」
俺は即座に姿勢を正し、答えた。
「分かればいいんだよ」
ヴィータは満足げに俺の背中をバシッと叩く。
(完全に弱みを握られてる……。ボーナスっていう餌の次は借りか……)
心の中で頭を抱えつつも、もう逃げ道はなかった。
「…で、インタビューってのはいつやるんだ?」
「取材はショーマッチ前日。取材内容は、管理局とミッドチルダ政府との共同企画の大衆向けの次世代戦術展開の実態調査・・ショーマッチ当日も待ち時間でインタビュー流すみたいだし、試合に向けた意気込みも聞かれるだろうなー。」
「ショーマッチ前日って結構近いな……」
「ちょっと待って、ショーマッチ当日もカメラ回るの!?」
アリシアが思わず跳ねるようにして立ち上がる。
「落ち着けよ。番組はあくまで管理局の広報目的だし…ないはずだよな?」
確認もこめてヴィータに目線を配る。
ヴィータは少し考えこむ素振りをみせつつも答えた。
「…まあ当日はアリシアにも仕事あるからな。意識しといてもいいと思うぜ?」
「ふふ…放送されるなら、私の身長と胸元は少し盛っておいても…」
「無駄な努力はやめとけ、誰もそんなとこ見てないって…たぶん」
「ヴィータちゃん。妹より体の成長が遅い姉の苦しみが分かる?」
「それは…なんというか、すまん。」
「謝らないで…余計虚しくなってきた」
「強く生きろよ…アリシア。」
どんよりとした空気がアリシアの小柄な体から放たれる。
「ま、まあというわけで!ショーマッチ前日はお前らにはやってもらうことあるからその直近になったらコンディション整えろよー!」
「お前が手加減覚えたら簡単なんだけどな」
「試合負けるよりマシだろ?……軽口叩けるなら、もう一戦やるか?」
「勘弁してくれ…」
兎にも角にも、このいじめともリンチともとれる日々
そして、特務隊として過ごす最後の任務を間もなく訪れようとしていた。