side-ヴァイス
──撃ち落とした。
【はやて:DAMAGE 800 → LIFE 700】
間違いない。今の一撃は、八神を確実に地上へ叩き落としたはずだ。
にもかかわらず、胸の奥に湧き上がるのは――焦り。
確信のはずだった。けど、身体が警鐘を鳴らしている。
「このままじゃやばい」と。
不安を引きずったまま、ビルの屋上から身を乗り出す。
狙撃形態のスコープ越しに、崩れた瓦礫の中へ視線を落とす。
見えたのは、魔力バリアの残骸と、火花が弾けた焦げ跡、そして――
「……あれは……なんだ?」
不安を引きずったまま、ビルの屋上から身を乗り出す。
狙撃形態のスコープ越しに、崩れた瓦礫の中へ視線を落とす。
見えたのは、魔力バリアの残骸と、火花が弾けた焦げ跡、そして――
――変化が起きた。
八神の髪は銀白に染まり、瞳は透き通る蒼へと変わる。
バリアジャケットから展開された魔力の翼が背に広げ、地上を眺めている俺に向かって飛び立つ。
その顔にはもう、さっきまでの緩い笑みはない。
──蒼き瞳が、こっちを真っすぐ睨み据えていた。
「……おいおい、マジかよ」
(ここにきて第二形態とか、どんなラスボスだよ!?)
呟いた瞬間、思考より先に体が動く。
舌打ちしつつも、思考より先に体が動いた。
腰のホルスターからカートリッジを一本引き抜き、空中に放り投げる。
「初見殺しには――初見殺しで応えるッ!」
放ったカートリッジを即座に撃ち抜き、炸裂。
込められた魔力が閃光となって炸裂し、辺りを白く染める。
「っ、あかん、目くらましやな!?」
煙幕と閃光が広がる一瞬の隙――
ビルの高所をあえて捨てた。
その代わり、落下とともに背後を取る。
八神は閃光で目を閉じている……このタイミングしかない!
(新形態だろうが関係ねぇ! 撃たせなきゃ、ただの的だ!)
自由落下で彼女の背後に抜けると、即座にデバイスを構える。
トリガーに指をかけ、念を込める。
(正面からじゃ見えなくても防御魔法を張られたら防がれる……けど、背後からなら!)
この高度から撃って外したら俺もタダじゃすまない。
けど――
「喰らいやがれ!!」
……だが。
『させないのですっ!!』
甲高く、凛とした少女の声が裂いた。
蒼の結界が、八神の背後に突如として展開。
弾丸は、寸分違わぬ正確さで防がれた。
「後ろに目でもついてんのかよッ!?」
歯噛みしながら地上に着地すると、俺の目の前に――天使のような姿が、ゆっくり舞い降りる。
「助かったで。ありがとな…リイン。」
『はいっ、マイスターはやて!リイン、張り切ってお守りするのですっ!』
「ストームレイダー、あれは?」
『
(ここにきてユニゾンデバイス……しかも自立して魔法発動もできるって、弱点なしかよ!?)
さっきまでの八神はやてじゃない。
ユウトから聞いていた――八神の弱点。それは魔法制御の不安定さ。たしかにこれまでどこか荒削りだった。しかし
圧倒的に広がった全魔力が……すべて、俺に向かって集中してきている。
(ここで俺が落ちたら……ユウトたちが、広域攻撃でまとめてやられる)
そんなのは絶対にさせられない。幸いお互い鎧袖一触の局面。
(……正面戦闘じゃ確実に負ける。でも、やりようはある!)
俺はすぐさま、隠し持っていた煙幕を地面に叩きつけた。
だが――一歩、遅かった。
足を踏み出そうとした瞬間、異変に気づく。
「……動けねぇ……?」
足元に広がったのは、薄い氷の膜。
いつの間にか、靴底ごと地面に凍りついている。
「もう、遅いで?」
『広域凍結魔法、起動完了なのです!』
「まじか…いつから!?」
『
(あの時の魔法で積もった氷を操作したってか!?)
「ほな、とどめやな?」
『えぇっ!?リイン、こんな早く出番終わっちゃうのです!?』
「心配せんでも、回復済ませたらクロノくんやなのはちゃんの救援いくからまだまだ出番あるよ。」
カツン……カツン……
凍てついたアスファルトに響く、靴音。
やがて煙が晴れ。俺の目の前に現れるはやての姿。
魔力の羽根をたなびかせ、銀の髪が揺れている。
絶望的な状況だが、でも、まだ諦めてねぇ。
「…なあ、八神ちゃん?」
「どうしたん、ヴァイスさん。悪いけど、命乞いなら聞かへんで?」
「そっちがユニゾンっていう切り札があって、こっちには何もないと……本気で思ってるのか?」
はやてが、わずかに目を細める。
「……その状態から逆転できる何かがあるとでもいうんか?」
『不意打ちは、リインが全部防ぐのですっ!!』
向こうは油断していない。俺の一挙手一投足に全神経を集中させている。
だからこそ――引っかかる。
この状況の“正解”は、問答無用でとどめを刺すこと。
だが彼女は、それをしなかった。
残りライフが少ない状況で必ず勝ちたいという欲と、万が一に備えた警戒心が、それを許さなかった。
「……仕方ねぇな」
あえて、口角をゆがめてみせた。
警戒心をあおるために、わざと不敵な笑みを浮かべながら、懐に手を伸ばす。
思い返すのは、特務隊設立直後の依頼。
あの時の記憶が蘇る――
ヴィータ教導に頼まれて撮り続けた“ある写真”たち。
苦虫を噛み潰したようなヴィータさんの顔。
目を逸らすシグナム隊長。
あの様子から察するに……どうせあんたの指示だろ、八神ちゃん。
「悪く思うなよ、ユウト!!」
ぱらり、ペンダントが開きそれらはゆっくりと、空中に舞う―
ユウトの寝顔。笑顔。トレーニング中の姿。疲れ切って放心してる顔。
食事中の隙を突いた顔。屋上で黄昏てる横顔。
──ヴィータさんたちの命令で撮り溜めた半年分の“ユウトの成長記録”。
風に舞う写真。光に反射してキラリと輝く。
◇ ◇ ◇ ◇
「……え?」
はやての瞳が、ゆっくりと写真へと吸い寄せられる。
パラパラと舞い落ちる写真。
その一枚一枚に映るのは、何気ない日常の断片――
ユウトの寝顔。笑顔。食事の途中。
訓練中の真剣な顔。疲れ切ってぐったりしている姿。
はやての中で、何かが静かに弾けた。
彼女はかつて、孤独だった。
ベッドの上で、ただ静かに誰かを待ち続けていた子供。
魔法と出会い、ようやく得られた“家族”と“仲間”は、彼女の宝物だ。
もともと、幼少期を孤独に過ごし成長したはやては、愛情に対して強い羨望を持っていた。
家族、親友たち。そしてーー意中の相手。
本人に自覚があるかどうかはともかく、幼少期の頃の羨望は…相手のすべてを知っておきたい独占気質へと変貌していた。
けれど――今目の前に突きつけられたのは、
その“宝物”の半年分の記録。
自分の知らない、手の届かない時間のすべて。
──それは、愛に飢えた少女にとって劇薬だった。
『ーーーターはやて!』
(……知らへん、ユウトの顔……こんな顔、見たことない……)
『マイスターはやて!しっかりしてください!回避しないと!』
リインの声に、ようやく意識が戻る。
「………………………………………………………はっ!?」
リインの声に、ようやく意識が戻る。
視界が戻った時、すでにそこには――
狙撃形態へ戻したデバイスを構え、カートリッジを装填したヴァイスの姿があった。
『Cartridge Load――Boost.』
「この距離で、避けれるかな!」
「ちょ……ズルいやろッ……!」
「ごめんな、嬢ちゃん。勝った方が正義って言葉もあるんだぜ!!」
『
引き金が引かれる。
閃光が閃く。
魔力が収束し、一瞬で閃光へと変わる。
「っ、あかん……!」
はやては咄嗟に防御魔法を展開する。
だが間に合わない――
ズドンッ!!
空間ごと抉り取るかのような極光の一撃。
その狙撃は、はやての魔力防御を貫通し、真正面から撃ち抜いた。
『私のお披露目が……』
衝撃で吹き飛ばされたはやての身体が光に包まれる。
【八神はやて:LIFE 700 → 0】
脱落判定により、戦闘フィールドから自動転送――
術者を失った広域結界が、音もなく消失する。
ヒュウゥ……と、冷たい風がビルの隙間を吹き抜けた。
静寂。
数秒ののち、ヴァイスはデバイスを下ろし、重く息を吐いた。
「……俺の、勝ちだ」
『
「うるせいっ!!」
ヴァイスの切り札 = ユウトの写真集という情報量の押し付けによる簡易無量空処
元々はヴィータが主であるはやてのお願いから、冗談半分で寮の部屋がユウトと同室だったヴァイスへ依頼した物だった。しかしヴァイスは本気で半年分撮り溜めており、ヴィータ達もその存在を認知していなかった。なお、この写真はこの場にフェイトやなのはがいたら同様に効果を発揮していたらしい。