日が落ちかけた夕暮れの演習場に、特務行動隊の面々が再び集められていた。
毎日のように響いていた模擬戦の掛け声も今はなく、ひんやりとした風だけがグラウンドを吹き抜ける。
それぞれが任務や訓練を終え、戦いの余韻と厳しい鍛錬からの解放という安堵を胸に抱えながら――その表情にはどこか寂しさが滲んでいた。
中心に立つのは、部隊長・シグナム。
普段よりも少し柔らかい表情で、静かに皆を見渡す。
「……短い期間だったが、特務行動隊は本日をもって解散する。まずは、全員、本当にご苦労だった」
その声に、自然と全員の背筋が伸びる。
「本来、私のように本局の事情に疎い者が隊を預かるなど、本来なら無謀に近い行為だ。だが……」
シグナムはひとりひとりの顔を確かめるように視線を送った。
「お前たちがいてくれたからこそ、ここまでやってこられた。多くを背負わせてしまったが……礼を言う」
「……隊長。」
誰かが小さく名を呼ぶ。その気持ちは、全員が共有していた。
シグナムは軽く頷き、しかし次の言葉では凛とした声へ戻る。
「本局との模擬戦――正直、私は勝てないと判断していた」
短いざわめきが走る。
「ヴィータは違ったようだが……それはさておき、お前たちは知恵を重ね、情報を活かし、格上の相手に勝利した。これは奇跡でも偶然でもない」
彼女の言葉には、確かな誇りが宿っていた。
「結果で証明したのだ。我らが築いてきた物が、今の管理局に必要な力であることを」
その瞬間、仲間たちは自然と拳を握りしめた。
「この成果をもって、我ら特務行動隊の目的は果たされた。お前たちの努力と結果は、今後の部隊や後身たちの礎となるだろう」
一拍の沈黙。
そして、ぽつりと一つの拍手が広がり――
次の瞬間には演習場全体が暖かい拍手に包まれた。
シグナムは背筋を伸ばし、最後の言葉を告げる。
「……ありがとう。それでは――解散!」
「「「はい!!!」」」
声が重なり、空へと放たれる。
半年間だけの特別な部隊。
その終わりは、誰にとっても――確かな始まりだった。
解散式から2日後
特務行動隊の宿舎。その一室。
薄いオレンジ色の夕暮れが窓の外に広がる中、俺はスーツケースに荷物を詰め込んでいた。
制服、報告書、半年で増えた私物たち――
ここでの生活を積み重ねた痕跡が、ひとつひとつ消えていく。
今日で、この部屋ともお別れだ。
「引っ越し準備は順調か?」
入ってきたのはヴァイス。肩にジャケットを引っかけ、いつも通りの飄々とした笑みを浮かべている。
「まあな。そんなに荷物多くなかったし」
「それはなによりで」
そう言いながら、ヴァイスは勝手にベッドの端へ腰を下ろす。
「ありがとな、ヴァイス。バイクのこととか……色々面倒みてもらって」
「ああ? ああ、そういや買えたんだったな、おっさんの店のバイク」
「ボーナスのおかげで、なんとか、な。しばらくロウさんのガレージで預かってもらうから、当分はほとんど乗れないけど」
「もったいねえ。……まあ、しゃーねえか。お前、管理外世界に戻るんだったよな」
「そ。向こうじゃまだ年齢制限あって免許取れないし」
「ほーん。いつか行ってみたいなー地球だっけか」
「なんで?」
「そりゃ…お前やこの前戦った嬢ちゃんたちがこぞってその星出身って…いったいどんなやばいところか気になるだろ・」
「……なんでそういう言い方になるんだよ」
俺が肩を落とすと、ヴァイスはふっと笑った。
「で? そういうヴァイスはこれからどうすんだ?」
「俺? あー、配属とか将来的な意味か。変わらず武装隊だよ。いよいよ正式採用ってとこだな。
……実のところ、数年もしたらシグナム姐さんも入るらしいし。あの人が前張ってくれるなら心配いらねえよ」
「……そっか」
「まあ、先のことはどうでもいいけどな。今日まで楽しかったぜ、ユウト。
またこっち戻ってきたら、連絡ぐらい入れろよ? ツーリングでも行こうぜ」
「……うん」
「なんだよ。泣いてんのか? お前にも年相応なとこあんじゃねーか」
「二つしか歳変わんないだろ……馬鹿」
ヴァイスは楽しそうに笑い、つられて俺も笑った。
さよならの言葉を言うにはまだ早い。
だけど――たしかにここで、絆は生まれた。
スーツケースのジッパーを閉め、背負い直す。
そして俺はまたアースラに……特務隊宿舎を後にした。
静かな振動が足元から伝わってくる。
アースラが、ミッドチルダの軌道を離れ、次元航行に入った証だ。
エンジンの音が微かに響くブリーフィングルーム。その一角で、荷物を抱えたまま、ソファに腰を下ろしていた。
「……ようやく帰るんだな、地球に」
「ユウトくんからしたら半年ぶりだものね〜」
「ようやくと言うが…帰れるときに帰らなかったのは自業自得だぞ」
「わかってるよ…シグナム」
穏やかに微笑んだのはシャマル。
カップを両手で包み込んでとなりに腰掛けた。
「そういえばシャマルたちはどこ配属になるんだ?」
「私たち守護騎士は便宜上はやてちゃんの補佐なんだけど…基本はレティ提督に指示された部署に応援要請って形で配属されるらしいわ。もちろん私は医務官として配属ね~。これまでの経験が、少しでも役に立てばいいけど。」
「私は地上部隊の航空隊の応援がメインだ。」
「シグナムは地上部隊、陸の方か……ヴァイスが配属されるなんだよね。」
「陸戦魔導師と空戦魔導師で小隊が異なるがな。まあ、直轄の部下ではないがあまりだらしないと、私の剣で叩き直すことになるかもしれん。」
「……合掌しとこ」
「んで、あたしは海の武装隊だよ。なのはが所属する部隊らしいぜ?」
「なのははまだ学生じゃ…」
「いまだって時々嘱託で任務に出てるだろ。任務先がしばらく航空隊に固定されるだけで変化はないんじゃねーの、たぶん。
ま、しばらくは精一杯遊んでやれよ。子供だからって意外と遊べる時間はそう長くはないかもしれないぜ?」
「あいあい…それにしてもなのはも正式に入局か。」
「結局学生の内は籍だけおいて今と変わらず嘱託扱いだろうけどな……。今回の件でなのはの実力もアピールできた分どこも高ランク戦力獲得に力入れたがるからな。あたしら守護騎士も長期任務以外はほとんどそろって家に帰るし…日常が変わるわけでもないぜ。」
「なおさら無理に籍おかなくてもいいのになぁ。」
ヴィータは口の端を上げる。
「なのはがそれでも入局するのは、どっかの誰かが家に帰らないから職場で会えるようにしたいって意思もあるらしいぜ」
「…ノーコメントで。ざ、ザフィーラは?」
「……我は特定の部隊の応援でなく主の護衛をメインに、特別捜査官補佐として、主の手足として任務を受ける事になるな。」
「いいなぁザフィーラは……なんというか融通の利く立場っぽいな」
「失敬な…だったらお前も特別捜査官になればよいのではないか?主も指揮官試験に合格するまでは特別捜査官の肩書で動くぞ。」
俺は苦笑いを浮かべ、肩をすくめる。ユウトは、ちょっと苦笑いしながら頷く。
「まあ……古代ベルカ絡みで立場複雑だし、自由に動ける肩書って魅力だったりするのか。
俺は…そうだなぁ。勉強再開して、冬の執務官試験目指そうかな…今の肩書、一応執務官候補生だったりするし。」
「なら……これからもっと忙しくなるね、ユウト」
不意に聞きなじみのある声が背後から響き、少しだけ驚いて振り返る。
「フェイト?…今日平日で学校あるから先に地球帰ってると思ってたぞ。」
「今日はアリサに頼んで、お休み。あの襲撃でしばらく事情聴取もあったし…せっかくならユウトと一緒に地球に帰ろうってなのは達と決めたんだ。」
「……サボりは感心しないぞ。お前ら、任務で休み多いから出席日数ギリギリなんだからな」
「嘱託の任務も、ちゃんと計算してやってます。前に休んだ時、リニスに怒られたし。」
「怒られてんじゃねえか…」
そのやり取りに、操縦席に座っていたクロノが小さく咳払いをして割って入る。
「ユウト。それにフェイト。執務官試験はかなり難しいからな。
地球に僕が滞在している間、勉強を見てやろうか?」
「えっ、クロノが、地球に……? 」
「P・T事件や闇の書事件があった舞台でもあり、そしてなのはやユウト、そしてはやてといった潜在的な素質を持った人材が眠っていた地球。管理局として、しばらく調査と治安維持のために仮だが支部を置くことになった。…今回の公開演習で君たちが注目を集めた結果だ。管理局はどこも人材不足で必死だからな…。現地民との交友関係を考慮して僕が支部長ということになった。」
「執務官って……そういうこともやるんだ。」
「イメージと違ったか?…僕の場合は艦隊勤務だがこその配置でもあるが、もともと執務官は法務・捜査・交渉など多岐にわたる。
地球は活動範囲が広いから、しばらくは君ら嘱託魔導師たちにももっと手伝ってもらうことになるだろう。地球文化の案内も含めてな」
その声に、遠くからひょこっと顔を出したなのはとはやても応える。
「武装隊士官候補生…高町なのは!頑張ります!!」
「同じく特別捜査官兼指揮官補佐八神はやてもがんばるよ~。あんまり無理せんといてや、クロノくん?」
それぞれが自分の道、次の未来へ歩き出す――
地球という“日常”に戻り、また新しい物語が始まる。
良い締め方決まらなかったけどこれにて特務隊編終わりです。
数話はやてやフェイト回やったら本編進める予定です