あのあと、フェイトと名乗る少女を送った後。家に帰り目を逸らしていた現実と向き合うことにした。
「それで、お前がそのデバイス?ってやつで記憶を無くす前の俺がお前のマスターだったと…」
『はい。私達は、とある事故に巻き込まれて別の世界からここにやって来ました。その事故の時に、私は損壊しマスターは記憶をなくしてしまったのです。』
「それで、今になって損壊したお前が稼働できるようになった訳は?」
『損壊前に計算した自動修復機能を用いた場合はあと5年ぐらいしたら復旧できる予定でした。このタイミングでの復旧となると…ハッキリとした理由はわかりませんが…恐らくはジュエルシードによるものかと…』
「ジュエルシードって言うと…あの宝石か」
『はい、あれは強大な魔力の結晶体で、周囲の生物の願望を叶える特性をもっています。ですが、正しい使い方を知らないとオーバーロード状態となり、基本的に暴走、最悪の場合は臨界反応を起こし周囲を崩壊させる程の次元震を起こす危険なものなのですが…
恐らくは、マスターがあの獣耳の使い魔に襲われた際に戦う力を強く望み、ジュエルシードは私の修復という形でその願いを叶えたのでは無いでしょうか…』
「俺、ジュエルシードを制御する力とか身に覚えないんだけど…?」
『もしかしたら、マスターの頭の中に魔法の事が記憶されていなくても…体の方は無意識に覚えているのかもしれませんね。昔のマスターはそれはもう寝る間も惜しんで知識を学んだり、魔導師としての修行を積んでいました。』
「確かに、この前戦った時も結構考えるより先に体が動いてる感じはあったな…」
『まぁ、色々なことはまた後で詳しく詰めていくとして…次はあなたのことを教えてください。』
「俺のこと…?」
『はい…私が復旧するまでの間何があったのか。そして…あなたがこれから何をしたいかを。私の役目は、あなたをサポートすることですから。』
何をしたいか…か…
記憶のない俺にとって魔法なんて、架空のものだと思ってたけど…
襲ってきた獣の使い魔。
そして、暴走するかもしれないジュエルシードのこと…。
それら全部忘れてのうのうと生きていくなんて俺には出来ない。だから…
「なぁ、デバイスさん。お前の名前は?」
『私はインテリジェントデバイス。個体名:ディジターです。』
「なぁ、ディジター。これまでの俺の事教えるから、俺に魔法での戦い方を教えてくれ。ジュエルシードなんて危険なもの、なのは達が住むこの街にあるなんてほっとけない。」
『…ジュエルシードを求めれば、またあの使い魔に襲われる可能性がありますよ?それに使い魔がいる、ということはそれよりも強い主もいます。それでも…魔法の力を求めますか?』
「ああ…男に二言はないよ。これからよろしく、ディジター。」
『ええ、よろしくお願いします。マスター』
ディジターといままでどんな生活をしてきたのかなど二人で話しながら夜もすごした。
そしてディジターに魔法を習いながらジュエルシードを探す日々が始まった。
数日後ーーー
早朝 人気のない公園に、ユウトはひとり立っていた。
日光が降り注ぎ、静かな風が草木を揺らしている。
「……さて、やるか」
ユウトは深呼吸をし、手を広げた。
魔法の練習
ディジターと話し合い、魔法について話を聞き、基礎トレーニングを終え
今の自分自身のレベルを確かめることとなった。
——セットアップとつぶやくと、服が変化し、フードがつき、それから籠手や胸当てなどを装備した軽装の鎧のような姿となる。
「……発動の仕方は、ちゃんと覚えてる」
ユウトは右腕を持ち上げ、そこにある腕輪に意識を集中する。
「……まずはデバイスモード」
瞬間、腕輪が淡く光を放つ。
まるでそれに応えるかのように、金属が展開し、手元に重みが生まれる。
鈍い銀色のトンファーのような形状をしたデバイスが、彼の腕に装着された。
月光に照らされ、鈍く光るデバイスを見つめる。
「……これが俺の武器」
軽く振ると、空気を切る鋭い音がする。
握りやすく、しっくりと手に馴染む。まるで前から使っていたかのように、違和感がない。
『それでは、まずは教えた中から簡単な魔法を使ってみてください。』
ディジターと、どうすれば俺が強くなれるかを昨晩ずっと話し合っていた。
ディジターの話によれば、魔法にはそれぞれ三つの要素を組み合わせて作るプログラミングをデバイスに保管しておくことで、術者はその魔法を強いイメージと魔力制御によって再現し、発動させるらしい。
なので、ディジター の内部に保存されている記憶を無くす前の俺が作った魔法を俺が再現する形で魔法を使うことで、強くなるための手順をひとつ飛ばす、抜け穴のような方法をとることにした。
ユウトはトンファーを構え、呼吸を整える。
「……魔力を流す……」
目を閉じ、意識を集中する。
——すると、体の内側から、何かが巡る感覚があった。
それはまるで、血液とは違う、熱を帯びたエネルギー。
自分の中に、確かに何かが流れている。…これが魔力…
「……いけるか?」
ユウトはトンファーを振るい、魔力に指向性を与える。。
「魔力スフィア…展開」
『Force Bullet』
トンファーの先端から光が弾け、紫色のエネルギーが迸った。
エネルギーはちいさなボールの様に収束し、その場で浮かびだす。
『ふむ…展開できたスフィアは2つ
…ちょっと想定より少ないですが…発動は無事成功です。では、魔力コントロールについて練習しましょう。そのスフィアをまずは自分の周りにぐるぐる動かし、その後はあそこの木にぶつけてください。』
「わかったっ……!」
予想以上に制御が難しい…
こんな簡単な魔法に苦戦してるようじゃ先が思いやられるな…
そう思いながらも無事制御しきって木にぶつけることに成功する…
と同時に光が弾け紫色のエネルギーが迸った。
木の幹が、抉れさらにはその後ろにあった大岩まで穴が空いている。
——これが、自分の魔法。
『なんと…威力の方は十分すぎますね…いや魔力を収束してスフィアの数を減らした代わりに威力が…?
マスター、今よりも少し肩の力を抜いてリラックスした状態で魔法を使ってみてください。』
「ああ……えーと、フォースバレット」
『Force Bullet』
先程より力を抜いた状態で、同じ魔法を発動する。
すると、先程よりもサイズは一回り程小さいが6つのスフィアが展開される。
『なるほど…魔力コントロールの方はバッチリですね。先程は、無意識に魔法の威力を高めようとした結果ですね。もう少し抑え目で使わないとすぐにガス欠で戦えなくなりますよ。それでは次の魔法に移ります..』
ーーそうしてディジターと魔法の練習をして1時間過ぎた頃…
『それでは、擬似的ではありますが魔導師ランクを測定する為のテストをします。準備はよろしいですか?』
「ああ…いつでもいけるよ」
『それでは…始めてください。』
ディジターが空中にホログラムターゲットを複数表示させる
近くにいるターゲットには魔力強化した近接攻撃を振るい、そして遠くのターゲットには魔弾を発射する。
「フォースバレット…そこ!」
バシュッ! バシュッ!バシュッ!
心地よいリズムでエネルギー弾が次々と放たれ、ターゲットを削っていく。
大型のターゲットにはその分強い魔力で…大量の小物には弱い威力で撃ち漏らしなく正確に…
『残りカウント5…4…3…2…1…終了です。お疲れ様でした。』
ユウトは息を整えながら、グリップを握り直す。
「……よし、どんなもんだった?」
『はい…記憶を無くす前と比べてもそこそこ遜色ないレベルで動けています。成長速度には目を見張るものがありますよ』
「うん…俺も正直驚いてる。無意識に体が動いてくれるし、だんだん頭もそれに追いついてる感じは実感してる。」
『実際の評価ですが残念なことに魔力量は魔法使いとしては平均以下ですね。まあ記憶をなくす前も普段はそうでしたし驚きはありませんが、近接技能や魔力のコントロールはかなりの上澄みといって良いでしょう。
特に、近接戦闘は記憶を無くす前よりも動きが良くなっています。あとは実戦経験をもっと積みたいところですね』
「そっか。魔力量の方って基本的に生まれながらもったものなんだよな?」
『はい、基本的に年齢とともに少しは成長しますが先天性の才能のようなものですね。一部の人は後天的に魔力量が増えることもあるそうですが。』
「ふーん…」
ユウトは息を整えながら、構えをとる。
「……よし、もう少し練習するか」
そう思った、その時——
——カァァァァァァァァァァッ……!!
突如、空間が揺れた。
「……っ!?」
森の奥から、地面から青白い光が噴き上がる。
ユウトは反射的に身構えた。
その光は——
「まさか……」
ユウトは走り出した。
森の奥へと向かうと、そこには巨大な黒い影が蠢いていた。
現れたのは、四足の獣のような魔物。
体は黒い霧に包まれ、眼だけが光を帯びていた。
「ジュエルシードか……!」
『はい、恐らくはジュエルシードがなにかの動物に取り付いて実体を確保しています。通常の個体よりも強力であると推測されます。ご注意を…!』
ディジターの話にあった、ジュエルシードは魔力を暴走させ、周囲のものを怪物へと変質させる性質。
それがいま、目の前に立ち塞がっている。
「……やるしかないか」
ユウトはデバイスを構え、魔力を流す。
「行くぞッ!」
魔物が低く唸りを上げ、ユウトへと飛びかかってきた。