ギャアアアアア!!
獣のような魔物が咆哮し、ユウトへと飛びかかる。
「くっ……!」
ユウトは即座に横へ跳び、地面を蹴って後退した。
その直後——
ズドォォン!!
魔物の爪が振り下ろされ、地面が大きく抉れる。
破片と砂煙が舞う中、ユウトはすぐに体勢を立て直す。
(動きが速い……けど目で追えないわけじゃない!)
ユウトは焦らなかった。
これまでの経験がある。初めて戦った使い魔の時より、今の自分は確実に成長しているはずだ。
「——やるぞ!」
『はい、マスター!』
ユウトはデバイスを構え、魔力を集中させる。
バシュッ!
振り抜いた切っ先の先端から紫光の魔力弾が発射され、一直線に魔物へと向かう。
だが—魔物は前足を振り上げ、魔力弾を弾き飛ばした。
「チッ……威力が足りないと牽制のもならないな」
その隙に、魔物が再び突進してくる。
速い。だが——
「……ここ!」
ユウトはギリギリのタイミングで地面を蹴り、魔物の横をすり抜けるように回避した。
——そして、すれ違いざまにディジターを逆手に構え、魔力を込める。
「砕けろ!!」
『force impact!!』
ゴォォン!!
ディジターが魔物の脇腹に直撃。
衝撃で魔物の身体が歪み、周囲に黒い霧が散る。
だが、致命傷には至らない。
「……まだまだか」
魔物はすぐに体勢を立て直し、ユウトを睨む。
その赤い瞳には、確かな敵意が宿っていた。
——このままじゃ、埒が明かない。あいつを倒すより先に魔力切れしそうだ…
ユウトは息を整えながら、ジュエルシードの位置を探った。
魔物の体のどこかに、ジュエルシードが埋め込まれているはずだ。
(……あれか)
魔物の胸部、黒い霧の奥に青白く光るものが見えた。
ジュエルシードのコア。
あそこを直接狙えば、封印だって——!
「……決めるか」
ユウトは深く息を吸い、デバイスを握る手に力を籠める。
魔力を限界まで高め、収束させる。
「——終わらせる!!」
ユウトが地面を蹴った瞬間——
魔物もまた、一撃を繰り出すために突進してきた。
一瞬の攻防——!
魔物の鋭い爪が肩を切り裂く。
「ハァァァァァッ!!!」
それに合わせてユウトはディジターを振り抜く。
ゴォォォン!!
魔物の胸部、ジュエルシードのコアに直撃ーー
光が弾け、魔物の身体が砕けるように霧散する。
ドォォォン……!
そして、ユウトの手には、青白く光るジュエルシードが残されていた。
「……終わった、か」
戦闘の余韻に浸る間もなく——
ドサッ……
「……っ」
ユウトはその場に膝をついた。
体中に痛みが走る。
さっきの攻撃を無理に受け止めたのが予想以上にダメージを負ってしまった。
意識が遠のきそうになるのを堪える。
「……はぁ、やっぱり……無茶しすぎたか……」
ジュエルシードを握りしめながら、封印する。
「ディジター、頼む」
『Receipt No.15』
「……なんとか、終わったのか」
自分の体を確認すると、所々に擦り傷や打撲の痛みを感じる。
「……帰るか」
ゆっくりと立ち上がり、体をほぐす。痛みはあるが、動けないほどではない。
ユウトはジュエルシードをポケットにしまい、森を後にした。
朝の冷たい空気が肌を刺す。
静まり返った住宅街を抜け、街灯の光がぽつぽつと灯る歩道を歩いていく。
すると——
「……ユウト?」
声を掛けられユウトが顔を上げると、そこには——
先日出会った少女ーフェイトが立っていた。
彼女はユウトをじっと見つめている。
「フェイト……?」
ユウトは驚きながらも、なんとか立ち上がる。
フェイトは少し警戒するような目をしていたが、すぐに視線を和らげた。
「……どうしたの? こんな時間に」
「そっちこそ……」
フェイトは少し口ごもるが、やがて小さくため息をついた。
「……わたしは探し物とお使い、かな。
ユートは?さっきここらへんで大きな音したけど何かなかった?」
ユウトはドキリとしたが、とりあえず誤魔化すことにした。
「あー俺は日課のランニングでさっきここきたばっかなんだ。なんもわかんないわ。」
「……そう」
フェイトは納得したのか、それ以上は追及しなかった。
「それより……ユート、怪我してる」
「ああ……ちょっと派手に転んでな」
「……本当?」
フェイトはジッとユウトを見つめる。
まるで、「何か隠してる」と言わんばかりの目だった。
(……さすがに肩の傷は誤魔化しきれないか?)
しかし、フェイトはそれ以上何も言わず、小さな包みを取り出した。
「……ハンカチ。傷の応急処置に使って」
「え、いや、そんな……」
「いいから」
フェイトの表情は真剣だった。
ユウトは少し困ったようにしながらも、ハンカチを受け取る。
「……ありがとう」
「……うん」
微妙な沈黙が流れる。
やがてユウトは「まあ、せっかく会ったんだし……」と話を切り出した。
「お使いってどこの店にいくんだ?送ってくよ」
「……いいの?」
「どうせ帰ってもは今家誰もいないしな」
フェイトは少し考えた後、小さく頷いた。
「……じゃあ、お願い。」
こうして、ユウトとフェイトは朝の街を並んで歩き始めた。
朝の街を歩きながら、ユウトとフェイトはどこかぎこちない沈黙を続けていた。
互いに会話をしようとするが、どこか踏み込みすぎてはいけないような気がして、言葉が出てこない。
「ねぇ…」「なぁ……」
「ゴメン…フェイトそっちから話してくれ」
「いや、私はそんな大したことないからいいよ。ユートこそ、なんて言おうとしたの?」
「あー、俺は普通にフェイトのお使いってなんだろうなって思って。」
「お使いっていっても今同居してるアルフって子がいるんだけど、その子がケーキ食べたいっていってて、せっかくだし私が探しもののついでに買ってくるっていったんだ。」
「じゃあ、フェイトってここら辺のケーキ屋の場所あんま知らないのか?」
「うーん、駅前とかは何個か見かけたけど、どこが美味しいとかわかんないな…」
そんなとき、ユウトがふと視線を向けた先にあった時計を眺める。
「……もう営業時間か、ちょうどいいな」
「ユート、何かあったの?」
「いや、フェイトにオススメのケーキが売ってる店あるんだよ。いくか?」
フェイトは一瞬戸惑ったようにユウトを見たが、やがて静かに頷いた。
「……うん」
こうして二人は「翠屋」に向かうこととなった
店内は温かみのある照明に包まれ、静かな音楽が流れていた。
カウンターには、エプロンをつけた青年が立っていた。
「いらっしゃいませー。あれ、ユウト今日は店長たちと旅行じゃなかった?」
青年は少し驚いた様子だったが、すぐに柔らかい笑みを浮かべる。
「いや、つい昨日まで風邪ひいてて……注文いいですか?」
「もちろん。でもちゃんとお金持ってるか……?」
ユウトとフェイトは顔を見合わせ、小さく頷いた。
「じゃあ私は、ショートケーキを二つ持ち帰りで」
「俺シュークリーム2つ、ここで食べてくよ」
「オッケー。お嬢ちゃん、ケーキのほうはどれにする?」
ユウトがショーケースを覗くと、美味しそうなケーキが並んでいた。
フェイトも隣に立ち、じっとケーキを見つめる。
「フェイト、どれがいい?」
「……私は、これ」
フェイトが指差したのは、シンプルなストロベリーショートケーキだった。
「ストロベリーショートケーキね。あとついでにシュークリーム2つ、さき渡しとくわ!」
「ああ…ありがとう」
店員の青年は手際よくケーキを箱に詰め、リボンで丁寧に包装する。
「お待たせ。それぞれ600円と1000円になります」
「はい、ちょうど」
ユウトとフェイトが支払いを済ませ、ケーキの入った袋を受け取る。
「今日はちゃんとお金持ってるんだな」
「もう、昨日はきたばっかだったから偶々なかっただけだよ…」
フェイトは困った顔でそう言うと、一人帰る準備を始めた。
「え…もう行くのか?」
「…?だってお使いは終わったし…ユウトはここでシュークリーム食べるんでしょ?」
「はぁ…何のために2つ買ったと思ってるんだよ。ほら、お前も1個食べろよ。」
「え…いいの?」
「昨日初めてファミレス行ったような奴だし、シュークリーム食べたことないと思ってな。ほら、ここのシュークリームは絶品だぞ?普段はちゃんとした店員が作る人からほんとはもっと美味しいんだけど」
「おい、ユウト…?作った本人の前で言うかそれ??」
「だって…桃子さんに俺の方がシュークリームつくるの上手いって言われてじゃん。」
「お…言うじゃねぇかユウト…配膳を頼まれたコーヒーこぼして陰でめちゃくちゃ泣いてたガキのくせに…」
「おまっ…それは2年前の話だろ!?」
「…ふふっ」
「ちょ、笑うなよフェイト…」
「だって…ユートっていっつもなんて言うか大人な感じしてたから…ユートもそういう子供っぽいとこあるんだね…?」
「あーもう、ほら早くシュークリーム食べな…?まずはこうやって手で持ってだな…」
「うん。…いただきます」
ユウトが実演しながら食べる。
「……ほら、甘くてうまいぞ?」
フェイトも少し躊躇いながら、シュークリームにかぶりつく。
ふわっとした生地の食感と、中のなめらかなカスタードクリームが口の中に広がり、フェイトの目がわずかに見開かれた。
「……おいしい」
ユウトはそんなフェイトの様子を見て、微笑んだ。
「だろ?」
「うん……すごく優しい甘さ」
フェイトは口元についたクリームを拭いながら、もう一口食べる。
どこか幸せそうな表情に、ユウトは自然と笑みを浮かべた。
「気に入ったなら、また食べに来ればいいさ」
「……今度は、ユートが作ったの食べたいな」
フェイトは微かに微笑みながら、静かにシュークリームを味わった。
食べ終わると、二人はケーキの入った袋を手に店を出た。
店を出ると、風が心地よく吹き抜けた。
ユウトは軽く伸びをしながら、隣のフェイトを見る。
「……ちょっとは気分転換になったか?なんか暗い顔してたけど」
「……うん」
フェイトは静かに頷いた。
「ありがとう、ユウト」
「別に、たいしたことじゃないさ」
そう言いながら、ユウトは袋を軽く持ち上げる。
「家に帰ってから食べるのが楽しみだな」
「……そうだね」
フェイトも小さく笑う。
しばらく歩いた後、交差点で二人の帰り道が分かれる地点に差し掛かった。
「じゃあ、ここで」
「……うん」
フェイトは少し躊躇った後、小さく微笑んだ。
「またね、ユウト」
「またな、フェイト」
そう言葉を交わし、二人はそれぞれの道へと歩き出した。