ユウトが家を出て、一人での生活を始めてから——一週間。
市街地 PM11:40
side:フェイト
「……広域サーチ、第4区画終了。あとは……」
夜の街を淡く照らす魔法の光の中、アルフは静かに呟いた。
そのすぐ後、透き通った髪の少女——フェイトが舞い降りる。
「フェイト、お疲れさま♪ ジュエルシードの方はどうだった?」
「少し邪魔が入ったけど……大丈夫だったよ。そっちは?」
「発動前のを1個見つけたよ。今夜中にはこの辺りのサーチ、終わりそうかな」
「ありがと……私は、前に見つけたのと、昼間に封印したの、それに未発動で回収できた3つだけ」
「うーん、やっぱり発動前のは反応が微弱だから、見つけるのもひと苦労だよね」
「……いくつかは、昼間に戦った“白い子”が持ってるかもしれない」
「フェイトと戦ったあの子か……多分、私と同じタイプの使い魔“チビネズミ”がいたし厄介だねあ、それと……」
「それと?」
「フェイトがこっちに来る前に戦った、フードの子供の魔導師。あいつも、1つ持ってる」
「フードの魔導師……? ここ数日は、白い子以外見てないけど……」
「この前であった時は、魔法の力に目覚めた現地民って感じだった……管理局じゃないっぽいけど」
「そっか……白い子の方も魔力量や才能はすごかったけど、魔法は練習中って感じ。荒削りだった」
フェイトは先日戦った白い魔導師の少女を思い浮かべる
荒削りでも必死に食らいついてきた少女……
(あまり、圧倒できたわけじゃない…次戦うときは……勝てるかな)
「それなら、私たちの敵じゃないね! 早く全部集めちゃおっか!」
「うん……ありがと、アルフ」
「……ところで、フェイト。その手に持ってるの、何?」
「……これ? この前買ってきたケーキと同じ店の商品。アルフと一緒に食べようと思って、拠点の冷蔵庫に入れてたんだけど……いなかったから、こっちに持ってきた」
「え? ケーキ1個しかないじゃん。フェイトの分は?」
「わたしは今日、シュークリーム2個食べたから大丈夫」
「シュークリーム……最近フェイトが毎日食べてる小さいおやつか。でもそれ、1日分の食事にはならないでしょ! 魔法使うのだって体力使うんだからさ。……最後にまともにご飯たべたって聞いたのだって、この前ユウトってやつとご飯食べに行ったっきりじゃないか」
(ユウト……)
頭をよぎる、1週間前の記憶。
――ユウトと並んで歩き、翠屋でシュークリームを食べた。
そして、一緒に笑って、優しい目でこちらを見る彼の表情……。
(……変だな。私、何を考えてるんだろう……?)
ふと顔を上げると——
「ねぇフェイト、さっきからニヤニヤしてるけど……何か楽しいことでもあった?」
「っ!?」
突然のツッコミに、フェイトはビクリと肩を跳ね上げる。
アルフがニヤニヤと笑いながら、確信を込めた視線を向けていた。
「な、なにも……」
フェイトは目をそらし、そっけなく返す。
「ふーん? でも、顔赤いよ?」
「そ、そんなこと……!」
「もしかして、そのシュークリームってやつも、ユウトと食べたのかい?」
「~~っ!!」
図星だった。フェイトの顔が一気に真っ赤になる。
「ち、違うっ! ただ、ジュエルシードを探してる途中で会って……それで、ご飯を食べただけで……!」
「そーなの? でもさ、今のフェイトちゃん、完全に“恋する乙女”の顔だったぞ?」
「っっ!!!」
「よーし、じゃあケーキ食べ終わったら、さっき見つけたジュエルシード取りに行こうか!」
「……う、うんっ!」
フェイトは勢いよく踵を返し、ケーキを拠点に戻しに向かう。
(……ここ1週間、ユウトと会ってないな……散歩道もたまに様子見てるけど……。
普段どこで何してるか、ちゃんと聞いとけばよかった……)
その背中を見送りながら、使い魔は軽くため息をついた。
「はぁ……フェイトも、そういう年頃なんだよねぇ……」
耳を赤くしたままの主を見つめ、アルフは心の中で呟く。
あのパワハラ気質のヒステリックな母親のために、幼い身体で戦い続けるフェイト。
生傷の絶えない日々の中で、あの子が初めて見せた——あんなに幸せそうな笑顔。
……でも、分かっている。
ユウトという少年と、ずっと一緒にいることはできない。
自分たちはジュエルシードを回収するためにこの世界に来た“異邦の者”。
いずれこの世界を去る日が来る。
だからこそ——せめて、今だけでも。
ほんの少しの間だけでも、どうか……
主に、幸せを。
アルフは、顔も知らない少年に密かに祈りながら、
ケーキを素早く食べ終え、先に進んだ主の後を追って駆け出した。
side:なのは
「それじゃ……お願い。ユーノくん、レイジングハート」
『All right』
「よし、それじゃあ、なのは! イメージトレーニング、始めるよ!」
次の瞬間、私の視界は——夜のはずなのに、不思議と明るい空へと浮かび上がっていた。
「すごい……これ、全部魔法で再現したものなの?」
「うん。レイジングハートが、今まで収集したデータをもとに仮想空間を作り出してるんだ。
そして、その空間になのはの意識をリンクさせてる。仮想空間だからこそ……」
その言葉と同時に、周囲にいくつものターゲットが出現した。
今まで戦ったジュエルシードの暴走体たち、そして——
「……黒い魔法使いちゃん」
「これは、昼間に戦った時のデータをレイジングハートが再現した仮想敵だよ。本物はもっと複雑な魔法を使ってきて強いはずだけどね」
「……魔法って、こんなこともできるんだね。すごい……」
『マスター。始める前に、ひとつ質問してもよろしいでしょうか?』
「質問?」
『戦闘において、パワーや速度ももちろん重要ですが、それよりも必要なものがあります。それが何か、お分かりになりますか?』
「うーん……“負けないって気持ち”とか?」
『好ましい回答ですが、それ以外に』
「う〜ん……わかんないや」
「それは、“知性”と“戦術”だね」
『はい、その通りです。飛行、射撃、空戦機動の基本と応用……このシミュレーションで、それらをぜひ学んでいただきたいのです』
「……わかった。いくよ、レイジングハート!」
『Standby ready!』
◇ ◇ ◇
「よし……今日はここまでにしようか」
「うん。仮想空間とはいえ、ちょっと疲れちゃったな」
『お疲れ様でした、マスター』
「ありがと、レイジングハート」
「それで、なのは……これからのことなんだけど——」
「っ……!」
「レイジングハート、今の……感じた?」
『Yes. 強い魔力の波動を検知』
(この感じ……ジュエルシードが……!?)
それはまるで、強制的に発動させられたかのような、乱れた魔力のうねり。
自然発動とは明らかに異なる、異様な魔力の膨張だった。
『魔力波の発生源は、市街地方面です』
「そんな……誰かが、ジュエルシードを……!」
焦る気持ちを抑え、私はすぐにベッドから飛び起きる。
魔導服に変身し、窓を開けて——
「行こう、レイジングハート!」
『Yes, my master』
夜の空へと、私は飛び立った。
『マスター、ジュエルシードの強制発動を確認しました』
その報告に、胸がざわめく。
「誰が……?」
次の瞬間、光の中に立つ影を見つけ、私は息をのんだ。
——長い金髪。
黒と紫の衣装に身を包んだ少女。
そして、その前に浮かぶのは、今まさに暴走しかけている青いジュエルシード。
「あの子……!」
呼びかけると、少女——フェイトはわずかにこちらへ目線を向ける。
だが、返事はなく、静かに魔法の詠唱を始めた。
その瞳には、迷いの色はなかった。
「なのは、まずは封印だ!」
「……うん、わかった! レイジングハート!」
「バルディッシュ、いくよ……!」
「ディバインバスター!」
「サンダースマッシャー……!」
「「ジュエルシード、封印!!」」
二人の魔導師の魔法が青い宝石に同時に放たれ、強い光に包まれたジュエルシードは沈静化する。
「やった……なのは、早く確保を——」
「させないよ!」
結界を展開していたユーノに、空からアルフが襲いかかる!
「ユーノくん!?」
「僕は大丈夫! それより、ジュエルシードを!」
「うん!」
だが——私の前に立ち塞がる影。
「……通さない」
「……こないだは自己紹介できなかったけど、私、高町なのはっていうの」
「……」
『Scythe Form』
無言のまま、フェイトはバルディッシュを構える。
「……ジュエルシードは諦めてって言ったよね。次は、本気でいくつもりだって」
「それなら、なんで集めてるのか教えてっていう……私の質問にも、答えてもらってないよ」
「答えたって、何も変わらない」
「変わるよ! お話しないと、伝わらないことだってある。
それに——」
「まだ、あなたの名前も……聞いてない!」
その言葉が、再び始まる戦いの幕を開けた——。
side:ユウト
プチ家出生活、7日目。
ジュエルシードを求めて過ごす日々は、あっという間に一週間が過ぎていた。
あまり成果が出なかったものの、それでも何個かは手に入れることができ、現在の所持数は5個を超えている。
今夜も、木陰で仮眠を取っていたユウトだったが——
『この反応は……緊急案件ですね、マスター!』
耳元で鳴るディジターの声に、ユウトは目を開けた。
「……ん。もう、すっかり深夜か。俺、どんだけ寝てたんだ?」
夜空には星が輝いている。時間は、0時をとっくに回っていた。
『それよりも、緊急事態です。ジュエルシードの強い魔力反応を感知……しかも、誰かによる強制発動です』
「なにっ……!? もしかして、あの獣耳の女か?」
『確証はありません。しかし、反応の出所には複数の魔力波が確認されており、ジュエルシード以外にも敵対勢力の存在が予測されます』
「……それでも、放ってはおけない。行くぞ、ディジター!」
『Yes, Master』
ユウトは地を蹴り、闇夜の中へと駆け出した——。
side:なのは
「名前も……まだ聞いてないの! だから、せめて話を……!」
なのはの言葉に、フェイトは揺らぐことなく答える。
「話すことなんて……ない!」
『Arc Saber』
フェイトのバルディッシュから放たれた光の刃が、唸りを上げてなのはへと向かって飛んでくる!
「これは……もう見たよ!」
『Flash Move』
なのはの姿が一瞬で消えた。
「なっ……!」
刹那、フェイトの横に立つ影。
「そこだっ!」
なのははすでに杖を振り下ろす—!
「っ!」
フェイトはギリギリのところでなのはの攻撃を回避し、空中で距離を取った。
『ロングレンジに持ち込みました……今です、マスター!』
「うん……ディバイン・バスター!!」
閃光が、夜空を貫くように走る。
「しまったっ……くッ!!」
《Defender》
フェイトはバルディッシュの防御魔法で攻撃を受け止めた。だが、強烈な衝撃に身体ごと吹き飛ばされてしまう。
(この子……前と全然違う……! 成長が……早すぎる……!)
「フェイトーーー!!」
上空からアルフの叫び声が響いた。
その声に応じるように、なのはは静かに口を開く。
「……フェイト、っていうんだね。名前」
「ッ……」
フェイトは再びバルディッシュを構えた。だが、なのはは杖を下ろしたまま、目を逸らすことなく続ける。
「もし、何か目的があるなら……ぶつかり合うのも仕方ないかもしれない。
でも——何も分からないまま、ぶつかり合うのは嫌だ!」
その声は真っ直ぐで、強かった。
「だから、言うよ。私がどうしてジュエルシードを集めてるのか。
……それは、ユーノくんの大事な探し物だから。
元々ユーノくんのもので、私はそのお手伝いだった」
「……」
「でも今は違う。
私の住んでいる街が、大切な人たちが……危ない目にあうのが、嫌だから。
自分の意思で、ジュエルシードを集めてるの。
……あなたは? フェイトちゃんは、どうして集めてるの?」
「私は……」
フェイトが答えかけた、そのとき——
カラン……
封印されたジュエルシードが、地面に転がる音が静かに響いた。
「ッ……!」
「ッ……!」
ジュエルシードの確保を優先した二人は、互いに譲らず、激しくぶつかり合う。
その戦いの中心——
二人の激しい魔力にさらされたジュエルシードは、不安定な光を放ち始める。
《マスター、ジュエルシードの魔力が異常増幅中です》
レイジングハートの警告が空気を裂く。
それは、今にも爆発しかねないほどの魔力をため込み、白熱するように脈打っていた。
「フェイトちゃん、危ないよ!!」
なのはが叫ぶ。
だが、フェイトもまた必死にジュエルシードを確保しようと、バルディッシュを構えていた。
「君こそ……これ以上、近づかないで!」
魔力の奔流が、二人の間で激しく交錯する。
ジュエルシードを挟んで、真っ直ぐにぶつかり合う力と力。
その衝撃が、さらに魔力の不安定化を招いていく——
ジュエルシードが閃光のように輝き、中心から荒れ狂う魔力の渦が吹き出す。
まるで今にも爆発しそうな勢いだった。
「っ……まずい!」
二人のデバイスが激しい魔力に耐えきれず、表面に細かなヒビが入る。
なのはも、フェイトも、とっさに後退。なんとか距離を取って魔力の暴走を抑えようとするが——
——その瞬間。
空を裂くように、何かが飛来する。
その身に黒いローブをまとい、顔を隠すように深くフードを被った影。
ユウトだった。
「ユウトくん、どうしてここに……!? しかも、その姿……!」
驚きの声を上げるなのはの前で、フードを被ったユウトが猛スピードで突っ込んでくる。
彼の右手には、光を帯びたトンファー型のデバイス——ディジターが構えられていた。
「! なのは、それに……フェイト……お前ら、何やって……っ!?」
言葉を発しかけた、その瞬間——
ユウトの脳内に、見たことのない景色が閃光のように流れ込んでくる。
暴走するロストロギア
七色に濁った異次元空間
世界を呑みこむ、滅びの光——
「今のは……俺の、記憶……?」
『マスター! ジュエルシードが——!!』
「……っ! ああ!!」
その警告に、現実へと引き戻されるユウト。
暴走寸前のジュエルシードは、激しく光を脈打ち、今にも爆発せんとしていた。
「ユウトくん、待って!!」
なのはの声が届く前に、ユウトはジュエルシードの前へと身を躍らせた。
「くそっ……こんなもん……!」
全身の魔力を解放し、一気にその場に集中させる。
「ディジター、今すぐ包み込むように防護シールドを展開しろ!」
『Protection』
ディジターが反応し、展開された魔力のドームが、
ユウトとジュエルシードの両方を包み込むように広がっていく。
そして——
――ドンッ!!!!
凄まじい閃光と爆風が、夜空を引き裂く。
周囲を襲う衝撃、砂塵、風圧。
一瞬にして、あたり一帯の空間が光と音で塗り潰された。
「ユウトくん!!」
「ユウト!!」
なのはとフェイトの叫びも虚しく、爆発の光に彼の姿はかき消された——。
爆発が収まり、ドーム状に展開されていた結界が砕けるように崩れた。
その瞬間、内部に封じられていた膨大な魔力が、解き放たれた波のように辺りを押し流す。
「きゃあああッ!!」
「っ……!」
フェイトも、なのはも、その魔力の奔流に抗えず、空中で体勢を崩す。
「フェイトっ!!」
「なのはっ……!」
遅れて駆けつけていたユーノやアルフも、爆発の衝撃と光に呑まれていった——
そして、魔力の波がようやく静まり返ったとき。
その場に立っていたのは、ただ一人だけだった。
「ありがとう、バルディッシュ……戻っていて」
『Yes, sir』
かすかに微笑み、バルディッシュを収めるフェイト。
爆発の中心で倒れていたユウトのもとへ、なのはたちは自分の体を這うようにして引きずっていく。
「ユーノくん……! ユウトくんが……! なんとかならないの!?」
「……今、回復魔法をかけてるけど……傷が深すぎる。このままじゃ……!」
ユウトの身体はボロボロだった。
腕からはおびただしい血が流れ、意識は戻らない。
その手には、かろうじて暴走を止めたジュエルシードが握られていた。
(……この子、一人で……)
フェイトは静かに膝をつき、少年の姿を見下ろす。
(……あの中で、本流に飲まれながらも……必死に封印をしてくれた。
私が……あの時、引かなければ……こんなことには……)
「……アルフ。この子を連れて帰るよ。時の庭園なら、お母さんなら……助けられるかもしれない」
「えっ!? フェイト、そいつは……!」
「お願い、アルフ。……それに、この子がジュエルシードを持ってるんでしょ?回収するついで…ってことにして。」
「…………フェイトがそう言うなら……」
アルフは戸惑いながらも、傷ついたユウトを慎重に抱きかかえる。
そのまま離脱しようとするフェイトたちを——
「……待って!!」
なのはの叫びが、静まりかけた空に響く。
フェイトは立ち止まり、振り返る。
その顔を見て、言葉を失う。
なのはの目は、涙で真っ赤に腫れていた。
「ユウトくんを……どうするの?」
「……ジュエルシードは彼のデバイスの中に収納された。私は回収しなきゃいけない。」
「……フェイトちゃん、これ」
なのはが差し出したのは、自分が確保していた3つのジュエルシードだった。
「……なんで……ジュエルシードを?」
「今日、私が持ってた分。3つだけだけど……お願い、ユウトくんの命を助けてくれるなら、これあげる。」
「なのはっ!? 何をしてるんだ!?」
驚くユーノを制して、なのははフェイトをまっすぐに見つめる。
「ごめんね、ユーノくん。
……フェイトちゃん」
「……なに?」
「その人……私の大切な“家族”なんだ。
だから……お願い、ユウトくんを助けて……!」
その言葉に、フェイトの胸が強く締めつけられる。
一瞬の沈黙のあと、彼女は静かにうなずいた。
「さっきの爆発に巻き込まれて、生きているかどうか……正直、わからない。
でも……できる限りの治療は約束する。そのための施設がある場所も……知ってるから」
そして、静かに命じた。
「アルフ、転送お願い」
「あ……ああ。わかった」
光の粒子が舞い、転送魔法が起動する。
——その光の中で、フェイトとアルフは傷ついた少年を抱え、姿を消した。
光に包まれ、消えていくフェイトとアルフ、そしてユウト。
なのはとユーノは、その光の残滓を見つめながら、静かに言葉を交わす。
「……ごめんね。ユーノくんの大切なジュエルシード、私……勝手に、向こうに渡しちゃった」
「ううん、いいんだ。……急なことだったし、ちょっと驚いたけど……
でも、なのはの“家族”の命がかかってるんだ。仕方ないよ」
ユーノは苦笑を浮かべながら続ける。
「それに……ジュエルシードを見つけて、この世界にばら撒かれることになった原因は……僕にある。
ユウトは……僕が傷つけたも同然なんだ」
「……そんなこと、ないよ」
なのはは首を振り、俯きながら呟く。
「私がもっと、ちゃんとできてたら……あんな爆発、起きなかったもん……」
「フェイトちゃん……ユウトくん……」
名前を口にしただけで、胸が締めつけられるような思いがこみ上げてくる。
——寂しそうな目をしていた少女。
——冷たくて、強くて、それでもどこか優しさを感じたあの雰囲気。
初めて戦った時、悲しげな顔で魔法を撃ってきたとき……あの子は、「ごめんね」って、確かにそう言った。
きっと、理由がある。
ジュエルシードを集めるために、戦わなくてはいけない何かが……。
今日、もっと話したかった。もっと知りたかったのに。
そして——
魔法に出会ってからずっと眠り続けていて、やっと目覚めたと思ったら、すぐにまたいなくなってしまったユウトくん。
いつの間にか魔法使いになっていて、私の知らないところで誰かと、何かと、戦っていて——
現れて、助けて、そして……消えた。
魔法に出会って、ユーノくんに出会って。
少し辛いけど、それでも毎日が楽しくて、わくわくして……そうだったはずなのに。
いま、心の中にぽっかりと穴が空いている。
自分の半身が、どこか遠くへ行ってしまったような、そんな気がしてならなかった。
「…………」
「…………」
静かな夜の中、なのはは小さな声で言った。
「ねぇ、ユーノくん。私たち……もっと強くならなきゃ、だね」
「……ああ。そうだね」
その言葉に、ユーノはまっすぐにうなずいた。
そして、空の端に、夜明けの気配が滲み始める。
冷たく澄んだ空気が、戦いの名残を静かに洗い流していった——。