○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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企み

「フェイトの母さん……」

 

ポッドから出たばかりの傷だらけの身体で、ユウトはプレシアを真っ直ぐに見据えた。

 

「とりあえず、今必要なのはジュエルシードが10個ってことだろ?

だったら、俺の分をやる。

……だから、フェイトには手を出すな」

 

プレシアの目が、冷たく細められる。

 

「……あら。

目覚めたら拷問して奪い取るつもりだったのに、ずいぶん素直じゃないの。

使い魔ーーアルフとは戦闘までして抵抗したって聞いてるけど?」

 

「状況が変わっただけだ…」

 

「ユウト、いいの……?」

 

傍らに立つフェイトの声が、かすかに震えていた。

 

「気にすんな、フェイト。

お前がここに俺を連れてきてくれなかったら、俺はもう死んでた」

 

「ユウト……」

 

フェイトの目が潤む。

 

そんな彼女に、ユウトはやや硬い声で言う。

 

「……とりあえずフェイト。

俺は、お前の母さんと話したいことがある。

ちょっと席を外してくれるか?」

 

「でも……ユウト……」

 

そこに、プレシアが口を挟む。

 

「フェイト。

あなたはジュエルシードを探すために、地上へ降りなさい」

 

「……母さん。……分かりました。

失礼します……」

 

名残惜しそうにユウトの顔を見つめながらも、フェイトは静かに部屋を後にした。

 

扉が閉まり、室内にはユウトとプレシアの2人だけが残る。

 

重く沈黙した空気。

 

魔力の余韻すら感じさせない静けさが、密室を包んだ。

 

プレシアは椅子に腰を下ろし、ユウトに視線を向ける。

 

「それで……わざわざ“殺される姿”をあの子に見せたくなくて、二人きりになった……というわけかしら?」

 

プレシアの口調は冷たく、しかしその声と同時に——

彼女の体から電撃のような魔力が放たれ、室内の計器が一斉にノイズを発しはじめる。

 

「……そういうわけじゃない」

 

ユウトは一歩も退かず、静かに応じる。

 

「あら。でも、ジュエルシードを奪われたら殺されるくらい、想像できたでしょう?」

 

「……ああ、わかってる」

 

「それなのに。

助けてくれたかもしれないフェイトを外へ出し、

あなたは自分の持つほぼすべてのジュエルシードを渡すと言った……なぜかしら?」

 

ユウトは、ほんの僅か口元を歪めて笑う。

 

「ジュエルシードを渡すには——条件がある」

 

プレシアの目が細くなる。

 

「……条件? それを聞く前にあなたを殺すか、デバイスから抜き取れば済む話でしょう?」

 

「それはダメだな」

 

ユウトはあっさりと切り返す。

 

「俺は今持ってる4個のジュエルシードとは別に、

封印前のジュエルシードの位置を5つ把握してる」

 

「……なるほど。

殺せば、その情報は失われると。

いいでしょう、話を聞いてあげる。条件は?」

 

「4つある」

 

ユウトは目を細めて言った。

 

「1つ目は、可能な限り人的被害を避けること。

2つ目は、計画の手順の一部を変更すること。

そして——」

 

「……はぁ、最初の2つの時点で、ほとんど無理な話ね。

というより、あなた……私の計画をどこまで——」

 

「ああ、聞かせてもらったぜ」

 

ユウトはプレシアの言葉を遮った。

 

「……あのポッドの中でな。意識はちゃんとあったんだよ。

あんたの独り言、フェイトのことも、アリシアのことも、しっかり聞かせてもらった」

 

プレシアの表情が微かに揺れる。

 

「そして、3つ目の条件だ」

 

ユウトは一歩、彼女に近づく。

 

「——俺を、お前の計画の仲間に加えろ」

 

「…………へえ?」

 

プレシアの瞳が、じわじわと興味を含んだ色に染まっていく。

 

「計画を進める前に……まず俺のことについて、話しておくべきだな」

 

「……知っているわよ」

 

プレシアは、まるで既に用意していたかのように言った。

 

「ユート・ソウマ。

かの《クロスフィア調査団》の最年少記録を持ちそして——“あの事故”の死んだはずの少年」

 

「……ああ。どうやら、俺より俺のことを知ってるみたいだな」

 

「ふふ……それはどういう意味かしら?」

 

「簡単なことだよ」

 

ユウトは静かに、しかしどこか吹っ切れたように言い放つ。

 

「俺、記憶喪失なんだ。」

 

「ふぅん……」

 

プレシアは小さく息をつき、微かに口元を歪める。

 

「まぁ、あなたの事情なんてどうでもいいわ。

計画の仲間にすること——それは裏切らないことを誓う"契約魔法”を結ぶなら、了承してあげる。

……それで? “計画の変更”って、どういうことかしら?」

 

そう言いながらも、その横顔には一瞬、

“同情”とも、“諦め”ともつかぬ、一人の大人としての静かな表情が宿った。

 

(……どうでもいい、か)

 

その言葉の裏に一瞬だけ垣間見えた“誰かを気遣う顔”を、ユウトは見逃さなかった。

 

それを確認した上で——彼は口を開いた。

 

「単刀直入に言う。まず、アルハザードに行くことを諦めてもらう」

 

プレシアの目が細まる。

 

「……やっぱり、ただの自殺志願者かしら?」

 

「早まるなって。

諦めるってのは、“今の手段で”って意味だ。

手順を変えるだけで、アリシアの蘇生というゴールは変えない」

 

「……へぇ。

言うだけ言ってみなさい。

あなたの“計画”とやらを」

 

プレシアの声には、わずかに興味が混じり始めていた。

 

ユウトは頷くと、深く息を吸いう。

 

 

「計画は、こうだ」

 

ーーー

 

「なるほど……。確かに、その方法なら——」

 

プレシアは眉をひそめながらも、淡々と呟く。

 

「理論上は、可能。

でも、それを実行するには……」

 

「ああ」

 

ユウトは頷く。

 

「必要とされるジュエルシードは、俺の願いを叶えたことで出力が落ちた一個を除いて20個。

それさえあれば、安全に実現できるはずだ」

 

「……結局、全部必要ってことね」

 

プレシアの視線が鋭くなる。

 

「でも、次元震の発生自体は抑えられる。

構造的にも現行の魔法技術の延長線上で収まってるし

足りない理論部分をジュエルシードで“埋める”だけ。

……失敗する確率は、かなり低い。だが問題は——実行役だ。」

 

「……そう。私も、誰がやるのかと思ってたけど……あなた、まさか」

 

「ああ」

 

ユウトははっきりと言う。

 

「俺が行くしかないだろ」

 

プレシアは静かに目を細めた。

 

「……たしかにあなたでも、アリシアを蘇らせるには十分かもしれない。

でも、その代償として——あなた自身が生き残れる保障はないわ」

 

「それでもいいさ」

 

ユウトは笑った。

 

「お前ら家族がハッピーエンドを迎えられるんなら、それで充分だ」

 

「……なぜ。

なぜそこまで、私たちのために?」

 

その問いに、ユウトは少し視線を落とす。

 

「……俺、記憶喪失って言ったけどさ。

さっきの、ジュエルシードの爆発を見て……少しだけ、昔の記憶を思い出したんだ。

それが呼び水になったのか、時々フラッシュバックが起きる」

 

プレシアは何も言わず、ただ続きを促す。

 

ユウトは、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「俺……小さい頃に、家族を全部失ったらしい。

両親は、赤ん坊だった俺を残してロストロギアの事故に巻き込まれて死んだ。

育ててくれたガーメル……“叔父さん”も、目の前で殺された」

 

そして、プレシアの目をまっすぐに見つめて言う。

 

「だからこそ、俺は——

家族を取り戻したいと願う“あんたの気持ち”が、よくわかる」

 

プレシアの視線が微かに揺れた。

 

「……そう。でも、あなたが私たちの仲間になるということは……

今のあなたの“家族”——白い魔導師たちと、敵対することになるのよ?」

 

それを聞いたユウトは、ふっと苦笑した。

 

「やっぱ、あんた……本当は優しい人なんだな」

 

「……は?」

 

「もし本当に冷酷で非道なだけの魔導師だったら、

俺の気持ちなんか踏み潰して、黙って利用して、捨てるだけだっただろ」

 

ユウトは言い切る。

 

「たく……その優しさ、少しはフェイトにも向けてやれよ」

 

「……何を言ってるの」

 

「……俺には、本当の家族なんていない。

だからこそ、はっきり言えるんだ。

子どもってのは、家族の愛に、すごく飢えてるんだよ」

 

言葉に、静かな重みが乗る。

 

「……あいつ、フェイトは、あんたのために何だってやってる。

それなのに、あんたが一度も笑わないままじゃ……

“娘”としての彼女の心は、ずっと満たされないままだ」

 

プレシアは沈黙した。

 

ユウトは最後に一つだけ、言葉を添える。

 

「……これが俺が計画に加わる、最後の条件だ。

フェイトに、少しでいい。

“母親”としての優しさを向けてやってくれ」

 

密室に沈黙が落ちる。

 

そして——

 

プレシア・テスタロッサの瞳が、ゆっくりとユウトを見つめ返した。

 

「……無理よ」

 

プレシアの言葉は、どこか遠くを見ていた。

 

「アリシアを死なせた私は……その罪のすべてを、あの子のために捧げなければならないの。

愛情なんて……注ぐ時間すら、もう私には残されていないのよ。

一秒だって……そんな余裕はない」

 

その声に、怒りも苛立ちもなかった。

ただ、深く沈んだような、冷たい諦めの響きだけが残った。

 

そう言い残すと、プレシアは背を向け、無言で部屋を後にした。

扉が静かに閉まり、ユウトはその音の余韻に、そっとため息を落とした。

 

「……はぁ」

 

目を閉じ、ぽつりと呟く。

 

「愛情がない、ね……」

 

でも、本当に1ミリも愛情がなかったら、フェイトが失敗しようと、何も感じないはずだ。

あんな冷酷で完璧主義の魔導師が、フェイトの名前を口にしたときだけ、あれほど辛そうな顔をするなんてことはない。

 

(アリシアを死なせた自分への、強い自責の念。

そして、フェイトに少しずつ“娘”としての情を感じてしまっている自分への……自己嫌悪)

 

「……可愛さ余って憎さ百倍、ってやつか。

……なんていうか、そういう不器用なところは親子揃ってか……」

 

自分で言って、思わず小さく笑う。

 

けれど、その目は真剣だった。

 

ユウトはディジターと意識を重ね、頭の中で計画の細部を再構築しはじめる。

 

「さて……ディジター。計画のための準備、念入りにやるぞ。

それが終わったら……魔力が戻り次第、フェイトと合流だな」

 

『善は急げ、ですね。計画のためにいろいろと覚えておきたい魔法もありますし』

 

その声に頷き、ユウトは静かにベッドの端に腰を下ろした。

 

——この時、彼の心にはひとつの想いが浮かんでいた。

 

(……フェイトに、ほんの少しでいい。

プレシアが“おかえり”と“ありがとう”を言ってやれる日が来れば、フェイトもきっと悲しそうな顔しなくなるよな)

 

そう願いながら、ユウトは遠く、再び地上に戻る時を見据えていた。

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