○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

19 / 114
乱入×乱入

時空管理局・次元空間航行艦船『アースラ』

 

「……それで、クロノ執務官、エイミィ執務官補佐」

 

艦橋に響く、落ち着いた女性の声。

緑髪を美しく束ねた女性——リンディ・ハラオウン艦長は、真正面から二人を見据えていた。

 

「あなたたちが“次元震の余波”らしきエネルギーを探知した次元世界へ向かいたいということは、理解しました。

ただし……確認できたのはあくまで小規模な余波。

しかも、管理外世界。

……それだけで動くには、正直理由が弱いわ。説明をお願いできるかしら?」

 

その静かな圧に、エイミィが姿勢を正す。

 

「はい、リンディ艦長!」

 

彼女はデータパネルを手にしながら、力強く続けた。

 

「その管理外世界を観測した結果、ロストロギア級の危険物の存在と、それを巡って二組の捜索者が衝突していることが判明しました!

再び次元震が起きる可能性は非常に高いと判断しています!」

 

リンディはしばし沈黙し、パネルを見つめる。

 

「……たしかに、理由にはなるわね。でも正直、現時点で明確な被害報告がない中で行動を起こすのは、私たちの立場上、難しいのよ……」

 

その時——

 

「母さん」

 

割って入ったのはクロノだった。

 

「……あら?

仕事中は“艦長”って呼ぶって言ったのは、あなたでしょ?」

 

「それはそうだけど……これを見てほしい」

 

クロノは自身の端末を操作し、一つの映像データを再生した。

 

画面に映ったのは——

激しい魔力の爆発の中、1人の少年魔導師が己の体を盾に、暴走するジュエルシードを封印する姿。

 

その映像に、リンディの目が大きく見開かれる。

 

「……これは……」

 

「お願いします、艦長。

事態の迅速な収拾、そして——彼の保護を」

 

クロノの声はいつになく真剣だった。

 

リンディは映像からクロノ、そしてエイミィに視線を移し、ふっとため息をつく。

 

「……そうね。

あの事件の“生き証人”にもなり得るわけだし……。

それに、彼のこと、赤の他人でもない…」

 

そして、ゆっくりと口元を緩める。

 

「——分かったわ。

これよりアースラは第三船速にて、目標・第97管理外世界《通称:地球》へ向かいます!」

 

「「了解!!」」

 

エイミィとクロノの声が重なる。

 

次元を越え、物語の核心へと向かう新たな航路が、今、開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーアースラが地球へ向けて進路を変更してから2日後。

海鳴市・市街地付近

 

フェイトは、手元のデバイスを見つめていた。

バルディッシュが小さく光を放つ。

 

「……バルディッシュ、どう……?」

 

『Recovery complete』

 

魔力反応が安定し、完全修復を告げる声が響く。

 

「……うん。頑張ったね。偉いよ、バルディッシュ……」

 

フェイトは静かに微笑み、トン、とデバイスを軽く撫でた。

 

その様子を見ていたアルフが、腕を組みながら口を開く。

 

「ふぅ……フェイトの相棒も無事治ったし、そろそろ行くかね」

 

「……うん。

もうすぐ、この近くでジュエルシードが発動しそう。

それも、今までとは比べものにならないくらい強い反応がある……」

 

「きっと、向こうの“白いの”も来るだろうね。

……それに——」

 

「……うん。ユウトもきっと来るはず……」

 

フェイトの表情がわずかに陰る。

 

「……敵なのか味方なのか……正直、わからないけど」

 

アルフがニッと笑う。

 

「ま、もし敵対してきたら——あたしがぶっ飛ばしてやる!」

 

その声に、フェイトが目を見開く。

 

「だからフェイトは、あの白い魔導師に集中しな!」

 

「……アルフ」

 

「悩むのは戦いが終わってからでいい。

今は、やるべきことをやろう」

 

フェイトはその言葉に、ぎゅっとバルディッシュを握り直す。

 

「……うん。ありがとう、アルフ。」

 

風が、二人の間をすり抜けていく。

 

決戦の幕が、いま静かに上がろうとしていた——。

 

 

 

 

PM18:24 海鳴市・工場地帯——

 

朽ちかけた鉄骨、冷たいコンクリートの地面。

夕暮れの赤に染まるその場所で、2人の少女が向き合っていた。

 

周囲では、それぞれの“守護者”たち——ユーノとアルフが、互いに牽制し合うように周囲を警戒している。

 

「……あの、フェイトちゃん……?」

 

なのはが、おそるおそる声をかける。

 

「……ユウトなら、命に別状はない」

 

その一言に、なのはの顔がぱっと明るくなる。

 

「ほんと!?よかった……あ、あのね、今日はフェイトちゃんとちゃんと話がしたくて——」

 

だが、その言葉を、フェイトは冷たく遮った。

 

「悪いけど……話すことはない。

ジュエルシードは、いただくよ。バルディッシュ」

 

『Set up.』

 

魔力の光がフェイトの身体を包み、漆黒の魔導服が姿を現す。

 

「……この前は譲ったけど、やっぱり私も——譲れないよ!」

 

なのはも同時にレイジングハートを構え、光に包まれる。

 

『Set up.』

 

空気が一変する。

静かな空間に、ふたりの少女の魔力が交差する。

 

「私は……知りたいの。

フェイトちゃんが、どうしてジュエルシードを集めてるのか……

どうして、そんな寂しそうな目をしてるのか……そして——」

 

「寂しそうな目なんて、してない!!」

 

フェイトの声が鋭く裂けた瞬間、バルディッシュが光をまとい変形する。

 

『Scythe Form』

 

だが、襲いかかるフェイトの動きに目もくれず、なのはは言葉を続ける。

 

「……それに!ユウトくんと、どんな関係なのか!!!」

 

心に深く渦巻く“嫉妬”のような想いを秘めた視線で、なのはが一直線にフェイトへと突っ込んでいく。

 

「……ッ!?」

 

わずかに虚を突かれたフェイト。

 

その一瞬を逃さず、今回の先手を取ったのは、なのはだった。

 

「レイジングハート!」

 

『Divine Shooter』

 

「——シュートッ!!」

 

放たれた魔力弾が、鋭くフェイトに向かって迫る。

夕焼けに染まる工場地帯に、少女たちの戦火が、今、解き放たれた——。

 

 

 

淡いピンク色の魔力弾が、いくつも夜空に弧を描きながら生み出され、

一直線にフェイトを狙って放たれる。

 

「っ……!」

 

フェイトは即座に判断し、バルディッシュを使わずに片手で魔力障壁を展開。

弾幕の一部を強引に受け止め、爆ぜる衝撃に顔をしかめる。

 

「バルディッシュ!」

 

『Arc Saber』

 

応じる声と共に、光の刃が展開される。

フェイトはそのまま、牽制するように投げ放つ。

 

両者とも、大規模な砲撃魔法を使わず、衝撃を抑えた形での接近戦と射撃戦を続けていた。

 

「……ジュエルシードに強い衝撃を与えたら、いけないみたい、だ……!」

 

「うん……。あの時みたいな暴走が起きたら、レイジングハートも、バルディッシュも……可哀想だもんね!」

 

小さく、それでも真剣ななのはの言葉。

 

だが、フェイトは一歩も引かず、視線をまっすぐに向けた。

 

「……だけど、ジュエルシードは譲れない」

 

「私は……私はフェイトちゃんと話をしたいだけなんだよ……!」

 

その言葉と共に、再び魔力がぶつかり合う。

 

光の刃と魔力弾が交錯し、夜空が魔力の煌めきに染まっていく。

 

何度も衝突を繰り返すふたり。

 

だが——

 

互角に見えたはずの攻防の中で、徐々にフェイトの体に傷が増えていく。

 

(この子……この前は、私の方が優勢だったはず……!?)

 

フェイトの心に、戸惑いが走る。

 

攻撃の切れ、魔力操作の精度、そしてなにより——気迫。

今のなのはには、以前とは違う何かが宿っていた。

 

冷たい夜風が吹き抜ける中、少女たちの魔力が激しくうねる。

 

「フェイトちゃん! もうやめよう!

これ以上続けたら、お互いに傷つくだけだよ!!」

 

叫ぶように放った、なのはの声が戦場に響く。

 

フェイトの動きが、ほんのわずかに止まる。

 

「……君には、関係ない……!」

 

その言葉とは裏腹に、その瞳には確かな迷いが浮かんでいた。

 

「私には……やらなきゃいけないことがあるの……!」

 

その迷いを振り払うように、フェイトは再びバルディッシュを構え、魔力を高めていく——。

 

 

 

 

少女たちの魔力が、激しくぶつかり合おうとしたその瞬間——

 

「——そこまでだ」

 

鋭く、張り詰めた声が戦場に響き渡る。

 

「な……なに!?」

 

「……ッ!」

 

突然現れた黒い装束の少年が、二人の間に飛び込むように着地。

手にした杖が魔力を帯びて光り、二人の魔導師を一瞬でバインドする。

 

「時空管理局・執務官、クロノ・ハラオウンだ。

これ以上の戦闘行動は次元震を引き起こす恐れがある。……ここでの戦闘、止めてもらおうか」

 

「フェイト!!」

 

「なのは!?」

 

それぞれの仲間たち、アルフとユーノが声を上げるが、身動きが取れない。

 

(マズいよ、フェイト!)

 

(ごめん、アルフ……私、……動けそうにない……)

 

(くっそ……! あたしが……あたしが何とかする!ちょっとだけ、我慢しててよ!)

 

アルフはクロノの背後から魔力を集中させ、雷の弾丸を生成し、背後から放つ。

 

——だが、

 

「……ふん」

 

クロノは振り向くことすらせず、ノールックで杖を振るう。

 

雷弾を弾き返す。

 

「そ、そんなバカな……!?」

 

「執務官を甘く見ない方がいい」

 

そう呟いた彼が、静かに杖を掲げる。

 

「——バインド」

 

返ってきた雷弾を回避しようと動いたアルフ。

しかし足元には、既に設置されていた拘束魔法が展開されていた。

 

「しまった……!?」

 

「アルフっ!!」

 

アルフの動きが止まり、フェイトの顔が青ざめる。

 

だが、クロノの表情は余裕を崩さないまま続ける。

 

「このように、こちらも武力制圧は厭わない。

……だが、望んでいるのは戦いではない。

——両者とも、事情を話してもらおうか」

 

静寂を破るように——

轟音が夜空を裂いた。

 

「ッ……!? 新手だと!」

 

クロノが振り返る間もなく、背後から巨大な魔力砲撃が迫っていた。

 

(……くっ、避ければ……!)

 

後方には、未だ動けないなのはとフェイトが拘束されている。

 

(動けない彼女たちに直撃する……!

——防ぐしかない!!)

 

『Round Shield』

 

クロノが即座に防御魔法を展開。

魔力弾が炸裂し、眩い閃光が辺りを照らす。

 

「っ……まぶしっ……!」

 

その瞬間——

 

フェイトとアルフの足元に、魔法陣が展開された。

 

「……!?」「なんだ、これ……!」

 

鮮やかな転移魔法陣。

だが、その発動主は明らかではなかった。

 

「転移魔法……!? 一体誰が……!」

 

そこへ、声が響いた。

 

「——悪いな、管理局さんよ。

そいつらは……返してもらう」

 

クロノの表情が鋭くなる。

 

「……君は……!」

 

その問いに答えることもなく、

フェイト、アルフ、そしてジュエルシードが、光に包まれて一瞬で消え去る。

 

残されたなのはが、呆然と呟く。

 

「……ユウトくん……?」

 

光の余韻が消え、静まり返る工場跡。

夜風が、戦場の“結末”だけを冷たくなぞっていく——。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。