○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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やりたいこと

フェイトを救出したユウトは、彼女を廃墟と化した古いビルの一室へと連れて行った。

 

埃と静寂に満ちた空間。

ガラスの割れた窓から夜風が差し込み、空気はどこか乾いていた。

 

フェイトは壁際に静かに座り込み、

その隣でユウトも小さく息を吐いた。

 

周囲ではアルフが警戒を続けており、

ふたりきりの時間が訪れる。

 

「……それで、どうして私を助けたの?」

 

ふと、フェイトが問いかけた。

 

ユウトは目を閉じ、静かに呼吸を整える。

 

「……俺は、プレシアの計画に協力することにした。

これからは、俺もジュエルシードを集める」

 

フェイトの目が揺れる。

 

「……それは、何のために?」

 

ユウトは少しだけ目を伏せる。

 

「……あいつの“事情”を、知った。

別に、同情したわけじゃない。けど——」

 

言葉を切って、真っすぐフェイトを見つめる。

 

「——なあ、フェイト」

 

その真剣な視線に、フェイトは反射的に身を強張らせる。

 

「逆に、俺からも聞く。

お前は何のために戦ってる?

何のためにジュエルシードを集めてる?

……“お前自身の気持ち”は、どこにある?」

 

フェイトは、少しだけ目を伏せて答える。

 

「私は……母さんのために……」

 

「それって、母親に言われたことをやってるだけだろ。

それは“お前の願い”じゃない」

 

「……分かってる。でも……でも、母さんの期待を裏切ることは……できない……」

 

その言葉に、ユウトは静かに首を振る。

 

「別に“裏切れ”なんて言ってねぇよ。

ただ——“自分の意思”でやりたいことをやれってこと。」

 

その言葉は、フェイトの胸に小さく突き刺さる。

 

ゆっくりと顔を上げたフェイトが、まっすぐユウトを見た。

 

「……私自身の意思……。

そんなこと、考えたこともなかった……」

 

彼女はそれ以上、何も言わなかった。

だがその瞳の奥で、何かが少しずつ動き始めていた。

 

——そしてしばらくの沈黙のあと。

フェイトは、ほんのりと頬を染めながら、ぽつりと呟いた。

 

「……ユウト」

 

「ん?」

 

「……私、いま——シュークリームが食べたい」

 

「……は?」

 

ユウトは思わず目を瞬かせる。

 

「ユウトが……作った、シュークリームが食べたいの」

 

それはどこか拗ねたようで、だけど甘えるような小さな願いだった。

 

「お、おい……お前に“やりたいことをやれ”って言ったけど……そういう意味じゃな……」

 

「……だめ?」

 

視線を逸らしながら、フェイトがそっと問いかける。

 

それは、彼女が初めて見せた、“戦い”と無縁な願い。

 

しばらくの間、静かな夜風が吹き抜けたあと——

 

ユウトは、肩の力を抜き、苦笑しながら立ち上がった。

 

「……しゃーねぇな。材料買ってこないと」

 

フェイトの顔が、ふっと嬉しそうに緩む。

 

そして——

ほんの少しだけ、彼女の世界が変わりはじめていた。

 

 

 

 

 

 

一方、その頃——次元航行艦アースラ・作戦司令室。

 

高町なのはは、アースラのクルーたちと向き合っていた。

その瞳に宿るのは、ただの子どもではない、決意の光だった。

 

「……君たちの事情は分かった。

それで、君はフェイト・テスタロッサやユウトと……戦う覚悟があると?」

 

クロノ・ハラオウンの問いは、あくまで冷静だった。

だが、その奥には彼なりの迷いと不安があった。

 

なのはは、小さく息を吸い、そして力強く頷く。

 

「はい。私は……ジュエルシードをこのまま放っておけません。

それに、ユウトくんたちと——ちゃんと話がしたいんです。

だから……私に、協力させてください」

 

室内の空気が、ほんの一瞬止まる。

 

周囲のクルーたちは、どこか困惑した表情を浮かべていた。

その中で、レティ提督が腕を組んだまま、穏やかに言葉を紡ぐ。

 

「なのは……あなたの気持ちは分かる。

でも、あなたはまだ子どもよ。

戦うことの危険を、ちゃんと理解しているの?」

 

「……分かっています」

 

なのはの声には、一切の迷いがなかった。

 

「私だって、怖いです。戦うことも、傷つくことも。

でも……フェイトちゃんやユウトくんを止められるのは、きっと私しかいないんです」

 

その言葉に、クロノが小さくため息を吐く。

 

「……君の戦闘能力は確かに高い。

けど、“戦う”っていうのは、ただ強ければいいってもんじゃない。

覚悟と、責任が必要だ」

 

なのはは、それでも一歩も引かずに言い切った。

 

「絶対に……フェイトちゃんも、ユウトくんも、助けたいんです。

だから……私を戦わせてください!」

 

再び訪れる静寂。

その中で、艦長——リンディ・ハラオウンが静かに口を開いた。

 

「……あなたの気持ちは、ちゃんと伝わったわ。

でも、これは危険な任務。

軽い気持ちで戦場に立つのではないってこと、分かっているわね?」

 

「はい!」

 

なのはの瞳は真っ直ぐだった。

その光を見て、リンディはわずかに微笑む。

 

「いいわ。アースラの正式な支援戦力として、あなたを迎えるわ」

 

クロノが肩をすくめながら、呟いた。

 

「……仕方ないな。

ただし、無茶は絶対にするなよ?」

 

「はい! ありがとうございます、クロノくん!」

 

安堵の笑みを浮かべるなのは。

その笑顔の奥に、強い覚悟が確かにあった。

 

——こうして、高町なのははアースラの一員として正式に戦場に立つこととなった。

その想いは、ただ戦うためではない。

 

アースラ・客室の一室

 

高町なのはは、ひとりベッドに腰を下ろしていた。

 

視線は天井に向いたまま、何も映さない。

 

あの日、初めて魔法と出会ってから——

ユウトとは、一度も言葉を交わしていない。

 

それどころか今では、完全に敵対関係になってしまった。

 

「……ユウトくん」

 

その名前を口にしただけで、胸の奥がきゅっと締めつけられる。

 

なのはにとってユウトは、ただの”少年”じゃなかった。

家族が忙しくて、ひとりぼっちの時間が多かったあの頃、

同じように寂しさを抱えていた彼と一緒に過ごしたあたたかな日々。

 

ご飯を作って、学校に行って、夜はテレビを一緒に見て——

そんな、普通で幸せな時間を、確かに一緒に過ごしてきた。

 

それなのに。

 

「……どうして?」

 

ぽつりと漏れた声は、虚しく天井へと消えていった。

 

なのはは、自分の感情がうまく言葉にできなかった。

 

ユウトくんがフェイトちゃんと…一緒にいること。

彼女が必死に何かを背負って戦っていることも、知っている。

 

でも。

 

「なのはのこと、どうでもよくなっちゃったのかな……」

 

自分には何も言わず、フェイトの側にいるユウト。

ふたりで一緒に戦って、同じ場所を見て、同じ方向へ歩いている。

 

——なんでそこにいるのは、どうして私じゃなかったの?

 

ユーノくんが言ってた。

ユウトは“別の世界の人間”だって。

 

じゃあ、きっとあのふたりは、この事件が終わったら、この世界から去るかもしれない。

私の知らないどこかへ。

 

 

「そんなの、ずるいよ……」

 

なのははシーツをぎゅっと握りしめた。

 

言葉にできない気持ちが、胸の奥でぐちゃぐちゃに渦巻く。

 

最初はただ寂しかっただけ。

でも今はもう、よくわからない。

 

悲しみなのか、悔しさなのか、それとも——

名前のつけられない感情が、ゆっくりと形を変えていく。

 

それは、ただの“寂しさ”ではなかった。

 

「……会いたいな」

 

小さく吐き出した言葉が、

静まり返った室内の空気に吸い込まれていった。

 

夜のアースラは、静かだった。

なのはの心の中だけが、嵐のように揺れていた。

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