ユウトが海へと沈み、フェイトはジュエルシードの融合体と対峙していた。
それは、巨大な蛇のような形をした、嵐の塊。
咆哮のように轟く風と魔力。光の刃が何度も嵐を切り裂くたび、爆ぜるような閃光が夜を照らす。
「くっ……!」
フェイトは息を切らしながらバルディッシュを構え直した。
(この魔力……ジュエルシードが三つも融合した影響で、強さが桁違い……!)
彼女は雷刃を放つが、魔力の塊である敵の前では、攻撃は霧のように分解されてしまう。
――魔法が、ほとんど通じない。
「……厄介すぎる」
冷静を装いながらも、フェイトの胸の奥には焦燥が募っていた。
(このままじゃジリ貧……。戦いが長引けば長引くほど、ユウトの救出が遅れてしまう……)
(この怪物を止めるには、もっと強力な魔法が必要。でも私たちだけじゃ……!)
そんな時――
「フェイトちゃん!!」
遠くから、聞き慣れた声が響いた。
「なのは……!」
フェイトが振り向くと、夜空を走る光の軌跡と共に、白い魔導師の少女――なのはが飛来していた。
その背後には、ユーノとアルフの姿もある。
「ユウトくんは!?」
なのはが周囲を見渡し、フェイトの視線の先――沈みゆく海へと視線を移して、息を呑んだ。
「……まずはジュエルシードを封印しないと救助はできない。手伝ってくれる?」
「……うん! まずは、これを止めよう!」
なのはがレイジングハートを構える。
「アルフ、動きを止めて!」
「まかせな!」
アルフが地面を蹴り、魔法陣を展開。
「チェーンバインド!!」
無数の鎖が解き放たれ、巨大な蛇の胴体に絡みつく。
「ユーノくんも!」
「ああ……ストラグルバインド!」
ユーノも魔法を重ねるが――
「ぐっ……!?」
蛇の巨体が暴れ、鎖を引きちぎろうとする。
「力が強すぎる……このままじゃ押し切られる……!」
「任せて――フォトンランサー・マルチ…シフト!」
フェイトが雷撃を放ち、蛇の体を貫いた。
ビリビリと雷が走り、一瞬だけその動きが止まる。
「今だ……チェーンバインド!!」
鎖をさらに重ね、動きを封じる。
「フェイトちゃん、いくよ!」
なのはが高く飛翔し、魔力を最大まで高める。
「ディバイン――」
「サンダー――」
「「バスター!!」「レイジ!!」」
ピンクの光と青白い雷が、一斉に蛇の本体へと炸裂する。
「ギャァァァァァァァァ!!」
魔力の咆哮とともに、巨大な蛇は断末魔の悲鳴を上げ、霧散していった。
そこに残されたのは――
封印を待つ、融合解除された3つのジュエルシード。
フェイトとなのははすかさず詠唱を重ねる。
「「ジュエルシード、封印!!」」
光が重なり、すべてのジュエルシードが静かに光を失っていった――。
二人の魔力がジュエルシードを包み込み、光は静かに収束していく。
「はぁっ……!」
息を整えるなのはとフェイト。レイジングハートとバルディッシュが、封印の成功を静かに告げた。
「よし……! あとは、ユウトくんを助けないと!」
なのははすぐに海へと飛び込もうと、魔力をまとい駆け出す。
だが――
「……待って。」
その声が静かに、けれど確かに彼女を止めた。
「えっ……?」
振り返ると、フェイトが手を伸ばして、なのはの腕をそっと制した。
「アルフ……ユウトの救出は任せる。」
「……あいよ。」
アルフは真剣な眼差しで頷き、すぐに海の方へ駆け出していく。
「えっ? フェイトちゃん、私たちも――」
「あなたは……ここで、私と戦って。」
フェイトはバルディッシュを構えた。まっすぐに、なのはを見つめる。
「ジュエルシード――そのすべてを、賭けて。」
「――高町なのは、決闘しよう。」
静かに対峙する二人。その言葉に、なのはの表情が驚きと戸惑いに染まる。
「な、なんで……? ユウトくんが今も海に沈んでいるこんな状況で、どうして……!?」
「だからこそだよ。」
フェイトの瞳に、迷いは一切なかった。
「本当は、ユウトがあなたと戦うはずだった。だけど……私を庇って、ユウトはあんな目にあった。」
言葉を紡ぐフェイトの声は震えていない。ただ静かに、確かな決意を携えていた。
「私たちは、ジュエルシードを求めて戦ってきた。それが終わらない限り、誰かを助けても、また誰かが傷つく……!」
なのはは強く唇を噛みしめた。
「そんなの……そんなの、嫌だよ……! 欲しいもののために、みんな……傷つくのが当たり前だなんて、そんなの間違ってるよ!」
フェイトは目を閉じ、小さく息を吐いてから、再び瞳を開いた。
「私も……あなたと、戦いたくなんてない。でも、それでもやらなきゃいけない。」
周囲の魔力が静かに高まる。
「なのは、お願い。私と戦って。」
「……私が勝ったら、ジュエルシードはもらう。」
「……もし私が勝ったら?」
なのはが問う。
フェイトはほんの一瞬だけ目を伏せ、それから、はっきりとした声で言った。
「……そっちに投降する。もちろん、ユウトも。」
なのはの心臓が強く締めつけられた。
フェイトがどれだけの覚悟を持ってこの場に立っているか――痛いほど伝わってくる。
(フェイトちゃん……)
なのはは目を閉じ、ゆっくりと深く、呼吸を整える。
【ねえ、クロノくん。この勝負、受けてもいいかな……?】
すでに覚悟は決まっていた。なのはは、ただ形式的に念話でクロノへ問いかける。
【……却下しても、君はどうせ聞かないだろう。勝負の結果に関係なく、僕たちは相手の“親玉”――ジュエルシードの転送先の追跡を行う。それでもいいなら、許可する】
【……うん。ありがとう】
短いやりとりを終え、なのはは目を開いた。
その瞳にはもう迷いはなかった。
「……わかった」
ゆっくりと前を見据える。風が頬を撫で、静かな緊張感が空気を包む。
「全力でいくよ、フェイトちゃん」
フェイトもまた、静かに頷く。
「うん……私も」
二人は同時に武器を構えた。
レイジングハートとバルディッシュが共鳴し、魔力が空間を震わせるように高まっていく。
ふたりの少女が選んだ決着の形。
それは――想いと想いがぶつかり合う、たった一度の真剣勝負だった。