暗い夜空に雷鳴が轟き、波が荒れ狂う。
空に浮かぶ二つの影――高町なのはとフェイト・テスタロッサ。
その周囲には、これまで二人が集めたジュエルシードが、淡く揺れる光を放ちながら浮かんでいた。
「……ここで、決着だね。フェイトちゃん」
なのはがレイジングハートを静かに構える。
対するフェイトも、バルディッシュを力強く握りしめた。
「……うん。負けるわけにはいかないの」
視線がぶつかり合い、次の瞬間――
「ディバインシューター、シュート!」
《Divine Shooter》
なのはの号令とともに、無数の光弾が放たれる。
「フォトンランサー、ファイア!」
《Photon Lancer》
フェイトの雷の矢がそれに応じ、二人の攻撃が空中で激突する。爆発が連鎖し、夜空を鮮烈に照らした。
だが、交差の中でも二人の動きは止まらない。
「バルディッシュ!」
《Blitz Action》
「レイジングハート!」
《Flash Move》
光の残像を残しながら、二人の魔導師は空中を縦横無尽に駆ける。稲妻と星光が交錯し、激突のたびに軌跡の輝きが揺らいでいく。
(今日のフェイトちゃん……いつもより、ずっと強い……!)
《やはり、実力は彼女の方が上です。簡単には勝てません》
(前に話した知恵も、戦術も全部使ってる。切り札だって、ちゃんと考えてある……)
「でも、負けないって気持ちは――誰にも、負けない!!」
《All right, my master》
「私は……母さんのために。そして、ユウトの代わりに、あなたに勝つ!」
「もう、迷わない!!」
「フォトンランサー・マルチシフト!」
フェイトのバルディッシュが光を放ち、無数の雷槍が宙に展開される。
一瞬の沈黙――そして、全方位からなのはを包囲するように魔力の槍が解き放たれる。
「レイジングハート!」
《Protection》
魔法障壁が瞬時に展開され、雷撃を受け止める。
なのはは強く歯を食いしばり、炎のように揺れる視線でフェイトを見据える。
なのはは防御魔法を展開し、迫る衝撃をなんとか受け止めた。
しかし――
「はぁぁっ!」
《Scythe Form》
フェイトのバルディッシュが稲妻のように変形し、巨大な雷刃が振り下ろされる。
「くっ……!」
バリアを貫いた雷刃が、なのはの体を吹き飛ばす。地面を滑るようにして転がり、彼女は痛みに顔をしかめた。
さらに――
「……ライトニングバインド」
あらかじめ設置されていた拘束魔法が発動。雷の鎖がなのはの手足を縛り、彼女の動きを封じ込める。
「しまった……!」
動けない――。
その一瞬の隙を見逃さず、フェイトは静かに詠唱を始める。
――アルカス・クルタス・エイギアス
――疾風なりし天神、今導きのもと打ちかかれ
――バルエル・ザルエル・プラウゼル
「フォトンランサー・ファランクスシフト……打ち砕け、ファイア!」
《Photon Lancer Phalanx Shift》
空中に無数の雷槍が展開され、閃光の網のようになのはを取り囲む。
(逃げ場がない……!)
なのはは歯を食いしばり、瞬時に魔力を集中させた。
「……耐えきってみせる!!」
《Round Shield》
防御魔法が展開され、何重にも重なる魔力の盾が、目前に迫る雷撃へと構えられる。
嵐のような雷光が迫る。
(お願い……これで――落ちて!)
爆発の余韻に包まれた空に、フェイトは祈るように視線を向けていた。
土煙が舞い、視界が遮られる中――
だが、そこから聞こえてきたのは、あまりにも力強い声だった。
『Can you move, master?』
「うん……いけるよ!」
「そんな……耐えきった……っこれは、バインド……いつの間に!?」
驚愕するフェイトの身体に、今度は光の輪が絡みつき、その動きを封じる。
「いくよ、レイジングハート……今度は、こっちの――」
『Divine』
「番だよ!」
『Buster』
咆哮のような音と共に、レイジングハートが紅く輝き、巨大な砲撃魔法が放たれる。
その奔流はフェイトの体を真正面から押し返すほどの威力――!
「くっ……やられた……っ、直撃コース!」
フェイトは必死に拘束を振りほどき、両手でバルディッシュを構えてバリアを展開する。
(……あの子が耐えたんだ。私だって――!)
フェイトの魔力が爆発的に噴き上がり、なのはの砲撃と真っ向からぶつかり合う。
激しい光の閃き―― その中で、フェイトはぎりぎりの力で耐えきってみせた。
だが――
「っ……まだ……!?」
レイジングハートが深紅の輝きをさらに増す。
なのはの周囲に広がる魔法陣。それは、より大規模な魔力を収束させていた。
地鳴りのような魔力のうねりが空間を満たす。
これは――決着をつけるための、最後の一撃。
「フェイトちゃん……!」
なのはの瞳に浮かぶのは、悲しみと、決意。
そして放たれる――最大魔力の解放。
「受けてみて……ディバインバスターのバリエーション!」
『Star Light Breaker』
ばらまかれた魔力を、再び収束させて一点に凝縮する――
レイジングハートと共に編み出した、知恵と戦術の結晶。
これが、なのはの――最後の切り札!
「…………。」
対するフェイトは、表情一つ変えず、言葉ひとつ発さず、多重の防壁を静かに展開する。
その沈黙に違和感を覚えるも、なのはは魔力の収束を止めない。
「――受けてみてよ、これが私の――全力全開!!」
魔力が一気に爆発する。
「スターライト・ブレイカーッ!!」
咆哮と共に、星の光が放たれた。
轟く魔力の奔流が、フェイトの張った四重の防壁を次々と貫いていく。
光が空を焼き、大地を揺らし――
そして、フェイトの姿を完全に包み込んだ。
「……なんつー、バカ魔力……!」
観戦していたクロノが思わず目を見開く。
「フェイトちゃん……生きてるかな……?」
エイミィも息を飲んだ。
星の輝きが収まり、静寂が戻る。
なのはは肩で息をしながら、浮かぶ。
「……はぁ、はぁ……」
『How are you feeling, master?』
「……大丈夫だよ、ありがとね、レイジングハート……」
――だが。
「なのはっ、後ろだ!!」
ユーノの悲鳴のような声が飛んだ。
「え――?」
振り返る。
そこには。
黒き雷の魔力を纏い、大鎌を手にしたフェイトが――
その切先を、なのはの首元にそっと添えていた。
沈黙のまま、闘志も感情も抑えたその瞳。
決着の一手は、既にそこにあった――