――現代、転移完了直後。
意識が戻ったその瞬間、ユウトの身体を襲ったのは、息が詰まるような激痛だった。
「……ぐ、はっ……!」
喉が焼けるように苦しく、呼吸ができない。肺に取り込んだ空気が重く、まるで毒を吸い込んだような感覚。全身の血が凍るような痛みとともに、体の奥底から何かが確実に蝕まれていく。
膝をつき、地面に手をつく。指先が震え、視界がにじんだ。
「ユウト! 大丈夫……!?」
駆け寄ってくるフェイトの声が遠くで響くが、その声さえも、どこか遠くのものに思えた。
「フェイト…どうしてここに……」
「今はそんなことより、体調は!?」
だが、ユウトは答えられない。
彼の体を蝕んでいたのは、過去改変の代償――ヒュードラの粒子。血中の酸素を根こそぎ奪う、それは呼吸のたびに命を削っていく死の毒だった。
「……フェイト、それにあなたたち! すぐに離れなさい!」
突然、鋭く凛とした声が響く。フェイトが振り返る。
「……母さん!?」
「まずいわ……高濃度のヒュードラ粒子を吸い込んでいる。このままじゃ……!」
「なんとかならないの!?」
「遮断結界の応用で体内の粒子を除去するわ。ただし……失った血液や酸素は戻らない……!」
プレシアは焦りを隠しきれず、呪文を唱えながらユウトの体を包むように魔法陣を展開する。その顔には、苦渋と迷いが浮かんでいた。
「嘘だよ……ユウト……嘘でしょ……?」
なのはの震える声が響く。フェイトもまた、唇を噛みしめ、必死にユウトの手を握る。
その体温が、少しずつ冷たくなっていくのを感じながら――
「…うん、そんな終わり方。私が許さないよ!」
突如、背後から聞き慣れない声が響いた。
驚きに振り返ると、そこにはフェイトと瓜二つの少女が立っていた。
「あなたは…アリシア!?」
「うん、おはようお母さん。」
彼女は微笑みながらも、その瞳には強い決意の色が宿っていた。
「あー状況はちゃんと分かってるよ。リニス! あれ持ってきて。」
「はい、アリシア。こちらに…」
「リニス…どうして生きて……!?」
プレシアの表情が驚愕のものへと変わる
「過去が少しだけ変わった結果…といえばいいでしょうか。」
そう言って、リニスが差し出したのは、澄んだ青色の光を放つ結晶——ジュエルシード。
「まさか……魔力が残ったジュエルシード!? でも、そんなもの……使い切ったはずじゃ……」
プレシアが驚愕の表情で問う。
「これは、そこのお兄さんが過去で置いていった忘れ物…」
アリシアはユウトを見つめながら、そっとジュエルシードを握りしめる。
「これの力を使えば、彼を治すことできるんじゃないかな?」
「…ユーノくん、どう…できそう?」
「うん…ユウト自身、願いの力でディジターを修復したり、過去に飛ぶことも出来たんだ。ぼくだって…やれるはずだ!…なのは、そしてフェイト…君たちに協力して欲しい。」
「私たちに…?」「何を…」
「ジュエルシードを正しい儀式で使うのに必要なのは、複雑な制御とそして、願いを叶えたい強い願い。
だから、僕が制御を担当するから、君たちはジュエルシードに強く願うんだ…ユウトを救いたいって強い気持ちを!!」
「うん…分かった!やってみるよ!行けるよね、フェイトちゃん!」
「…うん。」
2人はそれぞれジュエルシードに願いを込める…
ユーノがジュエルシードを手にし、深く息を吸い込んだ。
「…二人とも、準備はいい?」
なのははユウトの苦しそうな姿を見つめ、拳を握りしめた。フェイトも同じように視線を落としながら、静かに頷く。
(…私は、ユウトくんを助けたい。彼がどんな過去を背負っていても、どこへ行こうとしていても…それでも、私はユウトくんに生きていてほしい!……ユウトくんがとなりにいてくれるだけで…それだけで、私は…!」
ジュエルシードがかすかに淡い光を放つ。なのはは胸に手を当て、自分の願いが確かに届くように祈り続けた。
フェイトもまた、そっとジュエルシードに手を伸ばす。
「…ユウト」
フェイトが静かにつぶやく、けれどその眼には静かな炎のように燃え上がっていく。
(あなたは、強いけれど、いつも自分のことを後回しにしてばかり…もっと自分を大切にしてほしい。)
ジュエルシードがわずかに震え、周囲の魔力が波打つ。
(私は…あなたと、もっと話したい。もっと知りたい。あなたのことを、もっと…!)
フェイトの瞳が潤み、ジュエルシードがさらに輝きを増していく。
ユーノがそれを見届け、静かに呟いた。
「…いける。」
彼はそっと手をかざし、ジュエルシードに魔力を込めていく。
「なのは、フェイト、もう一度、願って…!」
二人は顔を見合わせると、再び強くジュエルシードを握りしめた。
「ユウトくんを助けたい!」
「ユウトを、救いたい!」
ジュエルシードがまばゆいほどの光を放ち、周囲の空気が震える。
まるで、その願いに応えるかのようにユウトの体を包み込んでいく——。
二人の願いが込められたジュエルシードは、ひときわ眩い光を放った。まるで意思を持つかのように宙に浮かび、淡い波紋を広げる。
「…反応してる…!」ユーノが息を呑む。
ジュエルシードが、ユウトの体を包み込むように光を降り注ぐ。
「……ぐっ……!」
苦しげに呻くユウトの体が、一瞬びくりと跳ねた。ヒュードラの粒子に蝕まれ、呼吸すらままならなかった彼の体が、光に包まれていく。
すると、ジュエルシードの光がさらに強まり、ユウトの体から黒い霧のようなものが弾かれるように拡散していく。
「ヒュードラの粒子が……!」プレシアが驚きの声を漏らす。
まるで悪しきものを浄化するように、ジュエルシードはユウトの体を蝕んでいた粒子を弾き出し、空中へと拡散させていった。その一方で、失われた酸素を補うように淡い魔力の粒子が彼の体を巡る。
「……はっ……はぁ……!」
ユウトの喉が苦しげに動き、荒い呼吸が少しずつ整い始める。
「……ユウトくん!」なのはが駆け寄る。
「……フェイト……なのは……?」
ユウトの目がゆっくりと開いた。焦点が合わず、まだぼんやりとした表情だったが、確かに意識が戻っていた。
「……よかった……!」フェイトが安堵の息をつく。
「っ……本当によかった……!」なのはは涙を滲ませながら、ユウトの手をぎゅっと握った。
「……ったく、お前ら……大げさだろ……?」
掠れた声でそう言いながらも、ユウトの表情にはわずかに柔らかさがあった。
「ユウト……!」
二人の願いが、奇跡を起こした瞬間だった。