ちなみにB賞ヴィヴィオが3つ出ました。
夜の海は冷たかった。
黒く沈んだ水面は、底のない闇のように広がっていた。
フェイトは波打ち際を静かに歩き、徐々に海へと足を進める。
膝まで浸かった水は、思っていたよりも重く、冷たく、体の動きを鈍らせる。
それでも彼女は進んだ。
もう、何も考えたくなかった。
誰の声も、感情も、何もいらない。
母に捨てられ、愛を求めた相手には裏切られた。
そんな自分に、生きる理由なんてあるはずがなかった。
「……これでいい……」
海の底に沈めば、全てが終わる。
苦しみも、悲しみも、存在そのものも——
「フェイトちゃん!!」
突如、背後から声が響いた。
「フェイト! もうやめて!」
波音にかき消されぬよう、必死に叫ぶ声。
振り向かなくても分かる。——アルフと、なのは。
「……来ないで……」
かすかに首を振るフェイト。
その声は小さく、届かないはずだったのに。
「フェイトちゃんを放ってなんておけないよ!」
なのはが水の中に飛び込む。
靴を濡らし、迷いなくフェイトへ向かってくる。
「やめて……」
「やめない! フェイトちゃんは——」
「うるさい!!!」
フェイトの叫びに、なのはは動きを止めた。
「どうして邪魔するの……? どうして止めるの……」
震える声。押し殺していた感情が、堰を切ったように溢れ出す。
「私がいなくなっても、誰も困らない! みんな、ただ同情してるだけ……!」
「そんなことない!!」
なのはは涙を滲ませ、力強く言い返した。
「フェイトちゃんがいなくなったら、私は……私は……!」
「関係ないでしょ!!」
フェイトの叫びが夜の海に響く。
「私は、ただの代わりだったの……! アリシアの代用品! それ以上でも、それ以下でもない……!」
波が足元に打ち寄せる。
肩を震わせながら、フェイトは続ける。
「母さんは……私を愛してなんていなかった。
私は、死んでたはずのアリシアのクローン……。
アリシアが生きてる今、私に……生きる価値なんて……!」
なのはが言葉をかけようとした、その時——
「……ユウトだって、私を裏切った……。
信じてたのに……何も言ってくれなかった……!」
涙が頬を伝い落ちる。
なのはが近づこうとすると、フェイトはそれを手で制した。
「もうやめて……私に構わないで……!」
アルフが静かに口を開く。
「フェイト、ユウトはあんたのために——」
「黙って!!」
感情が爆発する。
「私はもう……何もいらない……!」
その瞬間だった。
フェイトがさらに海へと踏み込もうとした、まさにその時——
「っ……!」
背後から、強い力で抱きしめられる。
冷え切った体を包む、温かなぬくもり。
「……ユウト……?」
驚いて振り返ろうとするが、ユウトの腕がそれを許さず、さらに強くフェイトを引き寄せる。
震える息遣いが耳元に届くほどの距離。
「バカ……そんなこと、するなよ……」
その声は掠れ、どこか泣きそうだった。
「……なんで……なんで来るの……?」
「もう……私は、もう誰からも必要となんて……」
「いるよ」
迷いのない、まっすぐな言葉。
「お前がいなくなったら、なのはは泣くし、プレシアは絶対に後悔する。
ユーノも、アルフも、アリシアも、リニスも……みんな、お前を想ってる。……俺だって」
「……っ」
フェイトは拳を握る。
「……でも……私は……」
ユウトは息をつき、仲間たちに言う。
「……少し、二人きりにしてくれ」
それを聞いたなのはやクロノは、一瞬躊躇したものの、ユウトの意図を察したのか、黙ってその場を離れていった。
波の音だけが響く静かな夜の海。
「……お前が何を思ってるのか全部、わかってるなんて言わない。でも、一つだけ言える」
肩に手を置き、真剣な眼差しを向ける。
「お前がどう思っても……俺は、お前を守りたい」
「……っ……でも……!」
フェイトの瞳から、涙が溢れた。
「……私は、普通の人間じゃないんだよ……?」
その問いに、ユウトはそっと笑う。
「そんなの、関係ないだろ」
そして、フェイトの手を握る。
「お前はアリシアの代わりじゃない。お前は——フェイト・テスタロッサだ」
フェイトの涙が、ぽつりと海へ落ちる。
「……私は……どうすれば……」
「決まってるだろ」
その手をさらに強く握って、ユウトは言った。
「俺と……俺たちと一緒に、生きていよう。フェイト」
その言葉に驚いた表情をした後、フェイトは泣きながら、微かに笑った。
「……私、けっこう重いと思うよ……?」
「……あ? ああ」
(重いって、なんのことだ……?)
ユウトは疑問に思うが、聞き返せる投げれでもないので、フェイトの言葉を待つ。
「……ずっと一緒にいてくれなきゃ、やだよ……。置いていったら、許さないからね」
「俺はずっと隣にいるよ。俺だけじゃない。なのはも、アルフも……みんながいる場所が、お前の帰る場所だ」
「…うん!」
そのままユウトの胸に顔をうずめ、フェイトは静かに泣き続けた。
そうしてフェイトはユウトの手を取り…アースラへと帰っていく。
ーーーside フェイト
——どうして?
どうして、こんなにも温かいの?
私は、母に愛されていなかった。
私は、“本物”のフェイトじゃない。
私は、ただの——偽物。
だから、もういいはずだった。
全部、終わらせるはずだったのに。
「バカが……そんなこと、するなよ……」
ユウトの声が聞こえる。
その腕の強さが、私を包む。
——私なんかを、止めるの?
私がいなくなっても、何も変わらないはず。
誰も困らないはずなのに。
「お前がいなくなったら、みんな悲しむ」
——嘘。
私は、母にすら必要とされなかったのに。
なのに、
この人は——ユウトは——
「俺だって」
——ずるいよ。
そんなふうに言われたら、
私はもう、どうしたらいいのか分からない。
「……私は……どうすればいいの……?」
生きる意味を失った私に、
それでも生きろと言うの?
「——生きろよ、フェイト」
——どうして?
こんなに苦しいのに。
こんなに、悲しいのに。
なのに、ユウトのその言葉は、
まっすぐに、私の心の奥に染み込んでくる。
……私は、まだ……
生きていてもいいの?
「——俺と……一緒に、生きよう、フェイト」
その瞬間、私の中で時間が止まった。
泣きじゃくっていたせいで、
上手く聞き取れなかったけど……もしかして——
(……わたし、もしかして、今……告白された……?)
胸が、熱くなる。
押さえようとしても、高まる鼓動が止まらない。
……でも、ほんとに? 本当にそうなの?
確かめたくて、ユウトに問いかける。
……ちょっと、意地悪な聞き方で。
「……私、結構重いと思うよ……?
ずっと一緒にいてくれなきゃヤダよ……」
「ああ……俺はずっと隣にいるよ。俺だけじゃ——」
ユウトの言葉の続きを、私はもう聞いていなかった。
(……やっぱり、ユウトって……私のこと……好きなんだ……)
(だから、あんなにも……)
冷たいはずの海の中にいるのに、
不思議と体の芯まで、ぽかぽかと暖かい。
それは——
ユウトの体温が伝わってきたからだけじゃない。
——私の居場所は、この人の隣なんだ。
ずっと、ここにいたい。
ずっと、この温もりの中で生きていたい。
私を、プレシアの娘でも、
アリシアの代用品でもなく——
ただの、フェイト・テスタロッサとして
見てくれるこの人と、共にいたい。
……私の居場所は、ここにあった。
ここまで無理やり駆け抜けた感あるけど無事無印追われそうでよかった。
あと3話ぐらいで終わり予定です