フェイトは静かに浜辺を歩いていた。
ユウトに抱きしめられ、必死に説得されて——ようやく、ほんの少しだけ。
「自分は、生きていてもいいのかもしれない」と思えるようになっていた。
浜辺に戻った二人を見て、真っ先になのはが駆け寄ってくる。
「フェイトちゃん!!」
「……なのは……」
その瞬間、ぎゅっと抱きしめられた。
小さな体から伝わる温もり。
震える声と一緒に、フェイトの胸にも熱いものが込み上げてくる。
「よかった……本当によかった……!」
「……ごめん……」
「謝らなくていいよ。ただ……もう、いなくならないで……」
「……うん」
小さく頷いたその時、アルフも走ってきて、いきなりフェイトの肩をバシッと抱いた。
「よかったよ、フェイト! 全くもう、あたしを置いてくなんて……許さないんだから!」
「……アルフ……」
「……ま、それはそれとして——」
にやりと口元を歪めるアルフ。
「ユウト、あんたもしかして……フェイトに告白でもした?」
「えっ……!?」
「いやー、あんな暗い顔してたお姫様が、こんな幸せそうな顔して帰ってくるんだもん。どう見ても“そういうこと”でしょ?」
「ち、違う!!」
慌てて否定したのはユウトだった。
「俺とフェイトは……そういうんじゃなくて……! いや、まあ、隣にいてほしいとか、そういうことは言った気が……しなくもないけど……!」
「ほらね、言ってるじゃん」
「ちがっ、あれは……違うんだってば!」
「ふふっ、素直じゃないねぇ〜」
「だから素直とかの問題じゃないって!!」
――そのやり取りを聞きながら、フェイトの心はぐらぐらと揺れていた。
(……そっか。あれは……告白なんかじゃ、なかったんだ……)
ユウトは、ただ純粋に、仲間として、自分を止めてくれた。
隣にいてほしいと言ってくれたのは、優しさであって、特別な意味じゃなかった。
そう気づいた瞬間、フェイトの顔がじわりと熱くなる。
(私……何、勘違いしてたの……?)
アルフに茶化され、ユウトが否定して——
その言葉を聞いて、ホッとしたような、寂しいような、自分の気持ちに気づく。
(……ちがう。そんなはずない。だって、私は……)
けれど、胸の鼓動はさっきよりも早くなっていた。
「フェイト?」
「な、なんでもないっ!!」
慌てて顔を背けると、ユウトが首をかしげる。
「お前、顔赤いけど……本当に大丈夫か?」
「だ、大丈夫!! だから気にしないで!!」
「……?」
怪訝そうに見つめられ、さらに顔が熱くなる。
自分の鼓動の音が、耳の奥で反響していた。
(……これ、どうしたらいいの……)
フェイトは小さく胸を押さえ、羞恥と戸惑いに震えていた。
その時——
「……ねえ、フェイトちゃん」
「………っ!? な、なに……?」
後ろから、静かな声がかかる。なのはだった。
「……ちょっと、私とも二人で……お話、しよ?」
その笑顔は、優しくて。
でも、どこか——ちょっとだけ、悩んだ顔をしていた。
時空管理局の施設内、夜の休憩室。
転送ポートの微かな光がゆらめき、機械の静かな駆動音だけが空間を満たしている。
なのはは、フェイトの前に立ち、真剣な眼差しを向けた。
「……フェイトちゃん、少し……話がしたいの」
フェイトは、その真っ直ぐな視線を見つめ返し、小さく頷く。
「……うん。なに?」
なのはは、ほんの少し視線を逸らすと、唇を結び、それから意を決したように口を開いた。
「……フェイトちゃんは……本当に、ユウトくんと……付き合ってないの?」
唐突な問いに、フェイトは一瞬だけ目を丸くする。
「……え?」
「……私、ユウトくんがずっと大好きだったんだ。最初は友達、家族として…でも、今回の事件で敵として向かい合って思ったんだ。私は、ずっと…ユウトくんの隣に立って、一緒に笑いたいって…」
なのはは俯き、両手をぎゅっと握りしめながら、続ける。
「だから、フェイトちゃんとユウトくんが一緒にいるのを見るたびに……胸がぎゅってなって、すごく苦しくなって……」
「なのは……」
「……フェイトちゃんのこと、大好きだよ。でも、それと同じくらい……ユウトくんのことも大切で……」
言葉が震え、声が小さくなっていく。
そんななのはの肩に、フェイトはそっと手を添えた。
「……なのは、私は……ユウトとは、付き合ってないよ」
「……え?」
なのはは、上目遣いにフェイトを見つめる。
「確かに、ユウトには助けられたし、すごく大切な人。でも……恋人じゃない」
フェイトは少しだけ笑ってみせる。
「……でも、さっき……ユウトくんが否定した時、フェイトちゃん……悲しそうな顔、してたよ」
フェイトの目が少しだけ揺れる。
「私が……ちょっとだけ勘違いしてたんだ。勝手に舞い上がって、特別だって思っちゃって……」
ほんの少し、視線を落として。
「でも……今は、これでいいかなって。ユウトが、私のことを大事な友達だって思ってくれてるのが分かったから。それだけで……十分なんだって、自分に言い聞かせてる」
その言葉には、少しの強がりと、でも確かな優しさがあった。
なのはは、そんなフェイトの想いを静かに受け止め、ほんの少しだけ笑った。
なのはは、その表情を見つめながら、小さく笑った。
「……そっか。なんだかフェイトちゃんがちゃんと気持ちを言ってくれるの、なんだか嬉しいな。」
フェイトは驚いたように顔を上げる。
「嬉しい……?」
「うん。なんだろう、すごくホッとしたというか……私たちずっと敵同士だったから、悲しそうな顔しか見せてくれなくて心配してたんだ。」
なのはは照れくさそうに笑う。
「だから、フェイトちゃんがそういう表情しないように寄り添ってあげたい…そう思ってたんだ。ユウト君に先越されちゃったけどね、にゃはは…」
フェイトは少し視線を落とし、ぽつりと呟く。
「……なのはって、すごいな。」
「え?」
「優しくて、まっすぐで……どんなときでも、自分の気持ちを大切にできる。なのはを見ていると……私は、すごく羨ましくなるんだ。」
なのはは少し驚いた顔をしたあと、微笑んだ。
「……そうかな?」
フェイトは小さく頷く。
「……私、今まで自分で考えることなんてしなかった。お母さんに認められるためだけに戦って、誰かと話しても、ただ言われたことに従うだけだった。感情よりも、役割が優先した…お人形。」
なのはは静かに耳を傾ける。
「でも、なのはは違うよ。ちゃんと泣いて、怒って、笑って、悩んで、決心して……誰かが悲しみときは一緒に泣いて、嬉しいときは心から笑える。なのはを見てるとね……私も、そんなふうになりたいって思うの。」
フェイトはそっと手を握りしめる。
「私は……なのはみたいな“人”になりたい。」
なのははゆっくりとフェイトの手を握り返した。
「……それを言うなら、フェイトちゃんは、もうちゃんと人だよ。」
フェイトの瞳が、かすかに揺れる。
「大丈夫。フェイトちゃんは、フェイトちゃんだから。何も無理に変わらなくてもいいんだよ。」
(……ユウトと同じだ…この人たちは…ううん、違う…私が勝手に勘違いしてただけで、きっとみんな、優しいんだ)
フェイトの心が、じんわりと温かくなる。
自分をそのまま受け入れてくれる存在。
なのはの言葉は、まるで光のように彼女の胸を照らしていた。
「……ありがとう、なのは。」
「ねえ…なのは。」
「なに、フェイトちゃん?」
「私…ユウトのこと、大切に思ってる。……それが、恋愛的な感情なのか、友情的な感情なのかまだ分からない。」
「…うん。」
「でも……ユウトと同じぐらい……あなたが好きだよ。だから…私と友達になってほしい。」
「……うん!喜んで!」
なの×フェイは、あります(大本営発表)