なのはの新しい装備やバリアジャケットしゅごい……
クロノたちとの模擬戦を終え…
アースラの一室――保護観察中のユウトとフェイトが使っている2人部屋では、仄かに灯るスタンドライトの下、静かな時間が流れていた。
ユウトは自分のベッドに腰掛けながら、ディジターのメンテナンスを終えていた。隣のベッドでは、フェイトがパジャマ姿で座り、リボンの結び目を整えている。
「……今日は、すごく動いたね」
「まぁな。新しい戦い方、まだ慣れてないけど、手応えはあるかも」
「うん。ユウトと一緒に戦うのすごいやりやすかった。」
小さく笑うフェイトに、ユウトも少しだけ柔らかな表情を返す。
ふと、ユウトの視線が部屋の隅に置かれた棚へと移った。そこには高町家から持ち込んだぬいぐるみや文具、なのはと二人で作った木彫りの飾りなど、小さな思い出が詰まっている。
対してフェイトの私物は、机の上に置かれたリボンと、小さく畳まれた数着の服だけだった。
「……フェイト、お前、持ち物少ないよな」
「うん。もともと、地球に行ったとき何も持ってなかったから。……今あるのは、なのはがくれたリボンと、あと服ぐらいだね」
そう言って、フェイトはリボンに視線を落とした。
その横顔が、少しだけ震えているように見えた。
ユウトは言葉を選びながら、静かに口を開く。
「だったらさ、今度2人で……フェイトの“好きなもの”探しに行こうぜ」
「……え?」
「インテリアとか、雑貨とか。お前のベッド周り、まっさらすぎて味気ないし。俺もいるとはいえ、せっかくの自分の部屋なんだし、“お前らしさ”も欲しいじゃん」
「……うん。でも、私……好きなものって、うまく思いつかないかも」
「いいじゃん、それで。探しながら見つけりゃいい。とりあえず、“なんか落ち着くクッション”とか、“この色かわいいかも”とか、そんなのからでいいんだよ」
フェイトは少しだけ目を見開いて――やがて、静かに笑った。
「……ありがとう、ユウト。私、自分の“好き”って言葉、これからいっぱい探してみる」
「おう。俺も手伝う。部屋を、お前らしくするの、俺もちょっと楽しみだしな」
2人の間に、自然と穏やかな空気が流れる。
同じ部屋での生活。はじまったばかりの“新しい日常”。
まだぎこちなくても、こうして少しずつ、2人だけの空間が育っていく。
少しだけ話が落ち着いたあと、ユウトはふと天井を見上げてつぶやいた。
「なあ……今さらだけどさ、ルールとか決めなくて大丈夫か?」
「ルール?」
「だって、これから当分、2人でこの部屋使うんだろ? なんか、お互いに気まずくなんないようにさ」
「……そうだね。確かに、そういうの、あった方が安心かも」
フェイトは真剣な顔でこくんと頷いた。その反応にユウトは思わず笑う。
「そんなに真面目になんなって。じゃ、試しにひとつ目。“私物には勝手に触らない”」
「……う」
フェイトが視線をそらす。
「お前、なんか触ったのか?」
「ユウトがいない時に、机の上に置いてた手作りのお守りとか……ちょっとだけ。どんなのか気になって……」
「……今度からは聞けよな」
「……うん、ごめん。でも、触ったのはほんのちょっとだけだから……」
「あれなのはにもらったやつだからなくすと怒られそうで怖いんだよな……」
苦笑しながら、ユウトは指を折って数え始めた。
「フェイトは決めておきたいルールとかある?」
「うーん……“お風呂・シャワーは交代制”とか、“夜中に起きたときは物音立てない”とか?」
「“寝るときは、それぞれのベッドで”っていうのも入れるか?」
「わ、わたしだって……いつも寝ぼけてるわけじゃないもん……!」
「はいはい、一応ルールに入れとくな」
「……守れないかも」
「…お前なあ」
フェイトが小さくつぶやくのを聞いて、ユウトは少しだけ頬を搔きながら、メモパッドに「必須:寝ぼけ対策」と書き加えた。
気がつけば、時間が流れていた。
「こうして“ルール”作るのって、なんか……本当に“一緒に暮らしてる”って感じだね」
「……だな。俺、あんま人とこういうこと話すことなかったし」
「ふふ。じゃあ、私もだよ。一緒に勉強していこう。……2人で暮らすってこと」
ベッドサイドのライトがやわらかく2人を照らしている。
静かな艦の中、ユウトとフェイトの関係性は、こうして少しずつ形を持ちはじめていた。
ーーー翌朝 艦内時間、午前6時過ぎ。アースラの照明はまだ落ち着いたままで、訓練開始にはまだ少し早い時間。
ユウトは、まどろみの中で目を覚ました。
視界に映るのは、見慣れた自室の天井――そして、自分の右腕に寄り添う、あたたかい重み。
「……あー……また、か」
少し頭を起こして隣を見ると、そこにはフェイトがいた。
自分のベッドに、昨日決めたばかりの“ルール”をしれっと破って、潜り込んでいる。
小さく丸まったその姿は、戦闘時の凛としたフェイトとはまるで別人のようだった。
「……ったく、ルールはなんだったんだよ……」
呆れたように呟きながらも、ユウトの声はどこか優しい。
そっと彼女を起こそうと手を伸ばした瞬間――フェイトが、微かに寝言を漏らした。
「……やだ……置いてかないで……私を……ひとりに、しないで……」
その声は、掠れていて。どこか子供のように頼りなくて。
ユウトの動きが止まる。
フェイトの額には、うっすらと汗が滲んでいた。悪い夢でも見ているのだろう。眉根を寄せ、不安そうな顔をしている。
「……そっか」
きっと新しい生活はフェイトにとって不安だらけだっただろう。
自分の行動指針を決めてくれた母親のもとを離れ、見知らぬ人間だらけの環境で過ごすことになったのだ。無理もない。
ユウトは小さく息をついて、苦笑した。
「……こりゃあ、しばらくルールは守れなさそうだな」
そっと、フェイトの頭を撫でる。細い金色の髪が指に絡む。
撫でるうちに、フェイトの表情が少しだけ安らかになった。
ユウトはそのまま目を閉じた。
――今は、そばにいてやろう。起きてなにかあったら、言い訳なんて、あとで考えればいい。
彼の呼吸は穏やかに落ち着き、フェイトの寝息と重なっていく。
こうして、ふたりの朝は、もう一度静かな眠りへと戻っていった。
30分後ーー
ほんのり温かい空気に包まれて、フェイトはゆっくりと意識を取り戻した。
寝起きのぼんやりとした視界に映るのは、少し見慣れた白い天井――のはずだった。
けれど、すぐに気づく。自分の体が、いつものベッドではなく、誰かの胸に寄り添うように横たわっていることに。
(……え?)
腕。
頬に触れる柔らかな布地。
ゆっくりと上下する呼吸。
そして、すぐそばで静かに響く心臓の鼓動。
近い。
温かい。
そして――すごく、安心する。
(……でも……どうしよう……)
目の前のユウトは、静かに眠っている。昨日ルールを決めた手前、ユウトが起きる前に離れなきゃいけないのに…
――それなのに。
(……だめ……こんな、心臓が、変になっちゃう……)
少しでも動けば、目覚めてしまいそうで。
でも、このままずっといたいと思ってしまう自分がいて。
フェイトはそっと、彼の胸元に顔をうずめた。
この鼓動が、自分のものじゃないってことが、なんだか不思議だった。
(本当は、ずっとこのままでもいいって思っちゃうの、……だめだよね)
でも。
(……でも、やっぱり“好き”なんだ)
ほんの少しだけ、ユウトのシャツの裾をぎゅっと握る。
たったそれだけのことで、また胸が痛いくらい熱くなる。
フェイトは、何も言わずにそのまま目を閉じた。
彼の腕の中、誰にも見られない小さな世界で――彼への想いを、静かに確かめるように。
(ーーーーやっぱり、こんな状況で寝れないよぉ!?)
そして、遅くまで起きて来ない2人を起こしに来たアリシアが部屋に突撃してくるまで、その状況は続いた。
アースラのブリーフィングルームに集められたフェイト、アリシア、ユウト、アルフの4人。
リンディ・ハラオウン艦長は、変わらぬ穏やかな微笑みで彼らを見渡した。
「皆、おはよう。フェイトさんとユウト君は珍しくお寝坊だったわね?
今日は、ちょっとした嬉しいお知らせがあるわ」
フェイトが少し首を傾げ、アリシアは椅子の上でそわそわと体を揺らす。
「今回の次期巡回ルートに関して、スケジュールの再調整が入ったの。次の目的地に向かう途中――“地球の近く”を通ることになったわ」
「えっ、地球!?」
アリシアが身を乗り出して声を上げる。隣のフェイトも驚いたように目を見開いた。
「しかも、補給と休息を兼ねて……1週間だけ地球に滞在できる予定よ。もちろん、正式な上申手続きは通す必要があるけれど自由行動も認めましょう。今までいい子で過ごしてきたご褒美、かしらね?」
「なのは……!」
フェイトは思わず口にしていた。
高町なのは――自分を受け入れてくれた、もう一人の“居場所”。
その名前を出した瞬間、胸の奥がふっと温かくなった。
「やった!やったー! 向こうで観光してみたかったんだよねー!」
アリシアがくるくると回って喜ぶ。その様子を見て、リニスは少し苦笑しながらも優しい目をしていた。
「フェイト、楽しみね」
「……うん。すごく、会いたかったから。……なのはに、直接“ありがとう”って言いたいな」
フェイトの頬が少しだけ紅く染まっていた。
今の自分を見てほしい。今の自分の気持ちを、ちゃんと伝えたい――その想いが、声の端々ににじんでいた。
ユウトは少し離れたところでそのやり取りを見ながら、口元を緩める。
「……こりゃあ、地球滞在の7日間、騒がしくなりそうだな」
「ふふっ。ユウトくんは、どこに行きたい?」
リンディの問いかけに、ユウトは少しだけ目を細めて、遠い記憶をなぞるように言った
「……うーん、とりあえずは、学校の方に顔出すくらいかな。流石に留学扱いにしてもらったとはいえ…友達にも会いたいしな。あとは……みんなの付き添いで十分かな」
その言葉に、フェイトがちらりとユウトを見る。
彼が“地球の思い出”をどう受け止めているのか、まだすべては分からない――だけど。
今は、そばにいてくれる。それだけで、十分だ。
「じゃあ、楽しみのためにも、とりあえずどこ行くか決めよー!」
「「賛成(だね!)!」」
アースラ艦内の一角。フェイトとアリシア、アルフ、ユウト、そしてリニスが集まって、地球での滞在計画について話し合っていた。
話題は「なのは達と会える!」という興奮から、「どこに行こう」「何を食べよう」といった日常的な内容へと移っていたが――
その時、ユウトがふと目を細めた。
「……ああ、今の時期って、もしかして……」
ぽつりと呟いた言葉に、フェイトとアリシアが同時に首をかしげる。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっと思い出しただけ。地球では、この時期にでっかい夏祭りがあったんだ。夜になると屋台がずらっと並んで、花火も上がってさ」
「花火……!」
アリシアの目がきらきらと輝き出す。
「屋台って、あれだよね? 食べ物売ってたり、くじ引きがあったりするやつ!」
「そうそう。綿あめ、焼きそば、金魚すくい……って言っても、地球じゃないと見ないような風景ばっかだな」
「すごい……すごい! 行ってみたい! 花火も見たいし、浴衣ってやつも着てみたい!」
勢いのままアリシアが立ち上がって手を広げると、ユウトは笑いながら肩をすくめた。
「地元の人混みはすごいけど、雰囲気は最高だぞ。にぎやかで、でもどこか騒がしいくらいだけどな」
「ユウト、なのはと毎年お祭りいってたの?」
フェイトが静かに身を乗り出してきた。
「……そうだな。いっつもなのはと夕方くらいに浴衣着て出かけて、屋台で軽く食べ歩きして……広場の端で休んで夜になったら花火がドーンって」
「ドーン……」
フェイトが小さく呟き、想像するように目を細める。
隣でアリシアが手を打つ。
「よし、決まり! 地球についたらまず浴衣探して、絶対お祭りに行こうね!」
「その前に、正式に外出許可もらっておかないとな。申請書早めに書いとこうな」
「うんっ! ありがとう、ユウト!」
こうして、“短い地球滞在”は、“かけがえのない夏の思い出”に向かって、少しずつ動き始めていた。