○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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幕間の章ー地球滞在編
一時帰郷


地球、大気圏。青い星を背景に、アースラは静かに停泊していた。

 

 その日――ユウト、フェイト、アリシア、リニス、アルフは許可を受けて、地上での短期滞在を開始した。

 

 港近くの公園。海風がやさしく吹き抜ける広場に、ユウトたちは先に到着していた。

 

「地球の空気って……やっぱ、ちょっと懐かしいな」

 

 ユウトは深く息を吸い込みながらつぶやいた。

 

「うん。少し湿気があるけど、優しい感じ。……ね、お姉ちゃん?」

 

「うん!私は来るの初めてだけど、風も心地よいし、歩くだけで気持ちいいね!」

 

 アリシアがぴょんと跳ねると、スカートがふわりと舞った。

 

 その時。

 

 遠くから、何かを呼ぶ声が聞こえた。

 

「ユウトくーん! フェイトちゃーん!!」

 

 その声に振り向いた瞬間、ユウトの目に、走ってくる3人の少女が飛び込んできた。

 

 先頭を走るのは、栗色のツインテール――高町なのは。

 その後ろに続くのは、金髪を揺らすアリサ・バニングスと、おっとりとした微笑みを浮かべる月村すずか。

 

「……!」

 

 フェイトは一歩前に出て、小さく息を飲んだ。

 

 その瞬間、なのはが彼女に向かってまっすぐに飛びついた。

 

「フェイトちゃーんっ!」

 

「……なのはっ!」

 

 強く抱き合うふたり。その姿は、まるで時間が巻き戻ったかのようだった。

 

「元気だった? ずっと会いたかったよ、フェイトちゃん……!」

 

「私も……私も、なのはに……会いたかった……」

 

 言葉の途中から、フェイトの声が少し震えていた。

 アリシアはその様子を、そっと微笑みながら見つめている。

 

 一方、ユウトの前には、アリサとすずかが立っていた。

 

「ちょっとあんた、急にいなくなるとか、どんだけ心配したと思ってんのよ!」

 

「……ごめん。でも、元気そうでよかった」

 

「まあね。でも今度いなくなるときは絶対報告して。…いきなり留学なんて…あんた、顔に出さないけど、意外とバカなことするタイプだった?」

 

「否定は……できねないな」

 

 苦笑するユウトに、すずかが優しく声をかける。

 

「でも……ユウトくん無事に帰ってきてくれて、本当によかった」

 

「……ただいま、なのかな」

 

「うん。“おかえり”、ユウトくん」

 

 その言葉に、ユウトは少しだけ顔を上げた。

 

 公園の風がそっと吹き抜ける。

 

それぞれの再会が交差するその場所には、柔らかくて、あたたかな空気が流れていた。

 

 

そのあとフェイトの提案で翠屋に行き、それぞれ話した後、それぞれの帰る場所に解散することになった。

 

アリシアたちはアースラに戻り、ユウトのみで高町家に帰省することになった。 

 

日が傾き始めた夕暮れの道を、ユウトはなのはとふたり並んで歩いていた。

 

 左にユウト、右になのは。

 少しの沈黙と、少しの風。なんてことのない道なのに、不思議と落ち着く空気が流れていた。

 

「……この道、懐かしいでしょ?」

 

 なのはが先に口を開いた。

 ユウトは、少し歩を緩めながらうなずいた。

 

「ああ。何回も通った道だ。翠屋から家までの、帰り道」

 

「ユウトくん、いつも荷物重いのに手伝ってくれてたよね。お父さんもお母さんも“助かるなぁ”って言ってた」

 

「……あの頃、俺……なんも覚えてない俺を、高町家の人たちは、本当に“家族”みたいに扱ってくれてたな」

 

 ぽつりと零すように、ユウトは言った。

 なのははその横顔を見ながら、静かに笑う。

 

「家族みたいじゃなくて家族だよ」

 

「……でも、俺はこの世界の人間じゃ…」

 

「……もう、そんなこと言わないの!まったく…」

 

 その言葉に、なのははそっとユウトの腕に視線を落とした。

 

「ねぇ、ユウトくん。私、あの時――フェイトちゃんのこと、助けてくれてありがとう、ずっと誇らしかったんだ」

 

「……フェイトのこと、俺……助けられたのかな」

 

「助けたよ。だってフェイトちゃん、今すごく優しくて、でもちゃんと自分の意思で動いてる。“ユウトくんと一緒にいる”って、すごく自然に話してくれるの。きっとそれって、ユウトくんが隣にいてくれたからだよ」

 

 ユウトは黙っていた。けれど、その言葉が胸に染み込むのを、止められなかった。

 

「私ね……ちょっぴり、うらやましかったんだよ」

 

「なのは?」

 

「ユウトくんがいてくれた日々が、今はフェイトちゃんの隣にあるって思うと……少し、さびしい」

 

 なのはの声は穏やかだった。でも、その中にほんの少し、寂しさが混じっていた。

 

「……でも、ユウトくんが笑ってるなら、それでいいって思える。変かな?」

 

「……変じゃない。俺、今でも感謝してるよ。初めて会った時助けてくれたことも、今もこうして迎えてくれたことも、ずっと」

 

 小さな沈黙。

 

 やがて、高町家の門が見えてきた。

 

「……ただいま、って言っていいのかな」

 

 ユウトが立ち止まり、ぼそっとつぶやく。

 その隣で、なのはが微笑む。

 

「うん。“おかえりなさい”、ユウトくん」

 

 玄関の灯りが、ふたりをやわらかく照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 玄関の引き戸を開けて、ユウトが小さく声を発すると、すぐに奥から元気な声が返ってきた。

 

「おかえりーっ、なのはーっ! あっ、ユウトくんも!」

 

 出迎えてくれたのは、なのはの母――高町桃子だった。エプロン姿のまま、笑顔で駆け寄ってくる。

 

 その後ろからは、なのはの父・士郎と兄の恭也も顔を覗かせる。

 

「ユウト。少し見ない間に、ずいぶん背が伸びたな…というか数か月で伸びすぎじゃないか?」

 

「……師匠…いえ、恭哉さん…ただいま、です」

 

 ユウトは少し照れくさそうに頭を下げた。

 けれど、その顔には、どこか懐かしい安心感があった。

 

「お帰りなさい、ユウトくん。元気そうでよかったよ」

 

 士郎の静かな声に、ユウトはほんのわずかに肩の力を抜いた。

 

 桃子が手を叩いて言う。

 

「さあ、もうすぐ夕飯できるから、荷物置いたらすぐ食べましょ! 今日はユウトくんが好きだったアジの南蛮漬け作ったのよ」

 

「……覚えててくれたんですね」

 

「もちろん。ユウトくんが『これ、また食べたい』って言ったの、何回も聞いたもの」

 

 その言葉に、ユウトはぽつりと笑った。

 

 やがて、食卓に家族全員がそろう。

 

「いっただきまーす!」

 

 なのはの声にあわせて、みんなが手を合わせる。

 

「……うまっ」

 

 ユウトが南蛮漬けを一口食べて、小さく声を漏らすと、桃子がうれしそうに笑った。

 

「でしょ? 今日はちょっと甘めに味付けしたの。なのはの好みだけど、ユウトくんにも合うかなって思って」

 

「……ありがとうございます」

 

 その言葉には、ただの礼だけじゃなくて、帰ってきた場所への感謝が滲んでいた。

 

 士郎が箸を動かしながら口を開いた。

 

「しばらくはこっちに滞在できるって聞いたが、どうする? 俺たちも翠屋休みにしてみんなで過ごす日も作れるぞ」

 

「一週間はこっちにいますが……学校にも顔出したいですし普段と同じでいいですよ」

 

「寂しくなったらいつでも帰っておいで。ユウトくんは、うちの家族なんだから」

 

 桃子のその言葉に、ユウトの胸がぎゅっとなった。

 どこかで遠慮していた気持ちが、すっとほどけていくのがわかる。

 

 そして――気づけば、箸を止めずに、夢中で食べていた。

 

 家族の笑い声、湯気の立つ食卓、どこか優しく灯る照明。

 

 “帰ってきた”という言葉が、ようやく胸の中で響きはじめていた。

 

夕食を終えて、ユウトはひとり、自室のベットに座っていた。

 

 虫の声が聞こえる。

 軒先には風鈴が揺れ、微かに、ちりんと音を立てた。

 

 高町家に来て、何度も見たはずの風景。けれど今、こうして改めて座ってみると――あまりに心地よすぎて、逆に落ち着かなかった。

 

 誰もいない時間。誰も見ていない場所。

 

 だから、ふと、心の奥から湧いてきた感情に、どうしても逆らえなかった。

 

「……ただいま、なんて……」

 

 ぼそっと、呟いた自分の声が、やけに遠くに聞こえた。

 

 あの戦いのこと。記憶のない自分を受け入れてくれたなのはのこと。

 ずっと無理して、強くあろうとして。

 失うのが怖くて、何も感じないふりをしていた。

 

「……あんなに優しくされたら、さ……ズルいだろ……」

 

 声が震えた。

 

 拳を握る。爪が手のひらに食い込む。

 

 でも、涙は止まらなかった。

 

「……俺なんか、本当の家族じゃないのに…“おかえり”って……言われていい人間じゃ……ないのに……」

 

 ぽた、と。膝の上に、しずくが落ちた。

 

 口を噤んで、ただ、肩を揺らす。

 

 静かな夜風が吹いても、あたたかい家の灯りがあっても。

 胸の奥にあった孤独は、そう簡単には消えなかった。

 

 ――けれど。

 

 そんな涙を、誰かが責めることも、笑うことも、もうなかった。

 

 「帰ってきていい」と言ってくれる人がいる。

 

 「おかえり」と迎えてくれる家がある。

 

 そのことが、ただ、ただうれしくて。

 だけど、どうしても苦しくて――

 

 ユウトは声も出さず、ただ静かに泣いた。

 

 

ユウトが一人泣いていると、部屋の扉が開く。

 

扉を開けた人物は何も言わずユウトの隣に腰掛ける。

 

「……見んなよ、今の俺、変な顔してるから……」

 

「見てないよ。ただ、隣にいるだけ」

 

 なのはは、そっと座った。

 言葉もなく、寄りかかりもせず、ただそこに“いる”ことを選んだ。

 

 しばらくして――ユウトの声が、かすかに届いた。

 

「……なんで、そんなに優しいんだよ……」

 

「……理由なんてないよ。家族でしょ」

 

 ユウトは、まだ顔を見せなかった。

 

 でも、涙の音は、いつの間にか止まっていた。

 

「……もう一回行ってあげる。おかえりなさい、ユウトくん」

 

「ただいま…なのは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なのはside

 

 

 

なのはは、静かにユウトの部屋の前に立っていた。

 

 昼間、翠屋にてアリシアが何気なく言った一言が、なのはの胸をずっとざわつかせていた。

 

「ねー、フェイトったら何回もユウトのベッドに潜り込んでさ、しかも離れないの。

お姉ちゃんには全然なのに、フェイトったらユウトに甘えん坊でさ!」

 

「……え?フェイトちゃんとユウトくんって同部屋なの?」

 

「あれ?ふたりから聞いてないの?あちゃー、私から聞いたこと内緒にしてね!」

 

 アリシアは冗談っぽく笑っていたけれど、なのはの心には小さな棘のように残っていた。

 

(……同じ部屋…同じベット…!?)

 

 別に、どうこう言える立場じゃない。

 私だってフェイトちゃんの前でユウトくんに……別れるときいろいろしちゃったけど

 

ずっと一緒に暮らしてたけど同じ部屋で二人っきりで寝たことないのに!

 

 このモヤモヤを整理したくて、ユウトくんに少しだけ話そうと思っていた。

 

 でも――その足が扉のすぐそばに近づいたとき、ふと、音もなく立ち止まる。

 

 ユウトくんのすすり泣く声が、扉から聞こえた気がした。

 

 しゃくり上げるわけでも、声が本当に聞こえてきたわけでもなく。

 けれど、なのはには分かった。

 

 ユウトくんが、泣いていること。

 

「……」

 

 扉を何も言わず開けて、ベットの上でうつむくユウトのその姿を見て、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。

 

(……ユウトくん、ずっと頑張ってたもんね)

 

 記憶をなくして、不安の中で、それでも誰かを守ろうとして。

 強くあろうとして、何も言わずに前を向いてきた。

 

 ――きっと今、この涙は、誰にも見せたくないものなんだ。

 

 だからなのはは、声をかけなかった。

 

 ただ、そっとスリッパを脱ぎ、隣に座り、小さな声で呟いた。

 

「……おかえりなさい、ユウトくん」

 

「ただいま…なのは。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の虫の音が、まだ静かに響いていた。

 

 ユウトは深く息をつき、ようやく落ち着いた心で、なのはの隣にいる安心感を受け止めていた。

 

「……悪かったな。見られたくなかったとこ、見せちまって」

 

「ううん。だから見てないよ。ただ、隣にいただけ」

 

 なのはは穏やかに笑った。

 

 その笑顔に、ユウトはふっと肩の力を抜きながら、少し首をかしげた。

 

「そういや、なのは……なんでこんな時間に来たんだ?」

 

「……え?」

 

 急に黙るなのは。

 

 数秒後、目をぱちぱちと瞬かせて――

 

「あっ……! そうだったっ!!」

 

「な、なんだよ急に」

 

「そうだったじゃないの! アリシアちゃんから聞いたんだからね! この間フェイトちゃんと、同じベッドで寝てたって!!」

 

「……っ!」

 

 ユウトの背筋が凍る。

 

 さっきまでの静かであたたかな空気が、一瞬でピリッと張り詰めた。

 

「ち、違……いや違くはないけど、フェイトが何回か寝ぼけて入ってきただけで……!」

 

「何回かって言ってね!? 何回ってことは、一度や二度じゃないってことだよね!? ねぇ!? ユウトくんっ!」

 

「ちょ、落ち着けって! こっちは寝てたら勝手に潜り込まれてたんだってば!」

 

「ふ〜ん、そうなんだ〜? でも、追い出したりしなかったんだ〜? 優しいね〜?」

 

「いや! そりゃまぁ……寝てて気づかなかったし、起きた時にはもうフェイトも完全に寝てたし……」

 

「ふぅ〜ん……」

 

 なのはがジト目でにじり寄ってくる。

 

 ユウトは後ずさりしながら、首をぶんぶん振った。

 

「ほんとに! マジで! なんもしてねぇから!」

 

「“なんもしてない”って言い方が怪しいよね?」

 

「違うそういう意味じゃ……っ!」

 

 その光景を、家の中から桃子が戸を少し開けて眺めていた。

 

「……あらあら、青春ねぇ」

 

「……桃子さん、見てないで助けて……!」

 

「ふふっ、ごゆっくり〜」

 

 そっと戸が閉じる。

 

 夜の高町家に、小さなドタバタと、ちょっとだけあったかい追及の声が響いていた。

 

翌朝。高町家の台所には、だしの香りがほんのり漂っていた。

 

 なのはは、朝食の準備を手伝いながら、昨晩の出来事を思い返していた。

 

 ――フェイトちゃんと、同じベッドで寝てたんだ。

 ――しかも、“また”って。

 

(……今日、本人にもちゃんと聞いておかないと)

 

 なのははふわっと微笑みながら、お味噌汁をかき混ぜる。

 その笑顔の裏には、静かに煮込まれているものがあった。

 

 その頃――

 

「お、おはようございます……」

 

 玄関から少し控えめな声がして、桃子に案内されてきたのは、フェイトだった。

 

 昨日よりも少しだけ髪を整え、きちんとした服装。

 でも、その目はどこか泳いでいる。

 

 そして、台所から現れたなのはと、目が合う。

 

 ――その瞬間、空気が、ピタリと止まった。

 

「……おはよう、フェイトちゃん」

 

「お、おはよう、なのは……」

 

「昨日はゆっくり眠れた?」

 

「……う、うん。とっても……あの、その、なんというか……」

 

「そうなんだ。ちなみにだけど……」

 

 なのははお玉を持ったまま、ゆっくりと笑顔でフェイトに近づいた。

 

「“誰のベッドで”眠ったのかな?」

 

「……っ!」

 

 フェイトがびくんと肩を跳ねさせる。

 

「え、えっと……その……べ、ベッド……えーっと……」

 

「フェイトちゃん?」

 

「ご、ごめんなさいっ!!」

 

 ばっ!と頭を下げたフェイトに、ちょうど廊下から現れたユウトが盛大に驚く

 

「えっ、どういう状況だ?」

 

「な、なのはが……! 怒ってると思って……! 」

 

「違う! 謝ることじゃないから! それより、フェイトちゃん!!」

 

 なのはの声が少し鋭くなる。

 

「なんで毎回、ユウトくんのベッドに入っちゃうの? しかもユウトくん、“またか……”って言ってたの、聞こえてたんだからね?」

 

「ち、違うの! その……ね、寝ぼけてて……」

 

「それを何度も?」

 

「……っ! そ、それは……その……た、たまたま……何度か……」

 

「たまたまってそんな頻発するのかな?」

 

 完全に押され気味のフェイトがうるうるしはじめた瞬間、リビングのドアからアリサとすずかが顔を出した。

 

「……朝から修羅場?」

 

「女子会っぽくてちょっと楽しそう……」

 

「「そんなんじゃないよ!」」

 

 なのはとフェイトの声がぴったり重なって、朝の高町家がやかましく目覚めていった。

 

「そ、そもそも、なのはだって前別れる前にユウトと……その……」

 

「あれは……!」

 

 高町家の朝の空気がどんどんヒートアップしていく中、廊下から現れたユウトは、少しの間フリーズした。

 

(……ダメだ、これそろそろ、止めないと後に引くな)

 

 フェイトはしょんぼり俯き、なのははじわじわと圧をかけながら迫る。

 

 ……これはまずい。

 

「……お、おい、ちょっと落ち着けふたりとも!」

 

 ユウトが慌てて間に割って入った。

 

「確かに……フェイト、ちょいちょい俺のベッドに入ってくるのは困るけどさ! でも、それって悪気があるとかじゃなくて、寝ぼけてたり、寂しかったりしただけで……!」

 

「ユウト……」

 

 フェイトが顔を上げ、瞳がうるんでいる。

 

「それに、なのは……フェイトもさ、色んなことあったし、きっと一人が寂しいのは分かるだろ?人肌が恋しかっただけだって。そんなんで仲悪くなってほしくない」

 

 なのはは黙ったまま、ユウトを見つめていた。

 

 その視線に、ユウトは少しだけ視線を逸らして言葉を続ける。

 

「俺にとって、ふたりとも大事なんだよ。フェイトも、なのはも。だから喧嘩すんなって」

 

 それは嘘じゃない。

 どちらかを選ぶわけじゃない。

 でも、どちらも失いたくない――それが、ユウトの本音だった。

 

 少し沈黙が流れたあと、なのはがふぅっと肩の力を抜いた。

 

「……うん。わかってるよ」

 

 なのははユウトに聞こえないようにフェイトの傍に寄り、小声で話しはじめる。

 

「フェイトちゃん、ちょっと怒ってごめんね。ビデオメールでも同じ部屋とか聞いてなかったし…もう、そういう大事なこと隠すの、禁止ね!」

 

「……ごめんなさい、なのは。私……ちゃんと、話すね。今度からは」

 

 フェイトの素直な声に、なのはの頬が少しだけ緩んだ。

 

「……うん。ならいいの」

 

 和らいだ空気に、ユウトがほっと息をついた。

 

 その隣で、すずかとアリサが小声でひそひそと話していた。

 

「なんか、三角関係っぽくない?」

 

「わかる。こういうの、少女漫画で読んだ」

 

「……うるさいぞお前ら」

 

 ユウトが赤面しながら小さく睨むと、ふたりはくすくす笑って引っ込んでいった。

 

 こうして――ちょっとした朝の事件は、静かに幕を下ろしたのだった。

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