地球滞在2日目の昼前。
夏の陽射しがアスファルトに反射する中、ユウトたちは市内の大型ショッピングモールにやってきていた。
「すっごーい! おっきい! 地球のモールって、テーマパークみたい!」
アリシアが目を輝かせながら、ぐるぐる回って建物を見上げる。
「アリシア、あんまりはしゃいじゃダメですよ。」
リニスがくすっと笑いながらも、しっかりと手綱を握るように注意を飛ばす。
「だって、地球のお店ってこんなにいっぱい並んでるんだよ? わたしの行きつけの魔導具専門店よりテンション上がるよ!」
「魔導具と比較するのやめろ」
ユウトのツッコミに軽く微笑みながらなのはは、やや後ろを歩くフェイトをちらりと振り返る。
「フェイトちゃん。なんか表情かたいよ?体調とか大丈夫?」
「ありがとう、なのは。私は平気。……初めてだから、ちょっと緊張してるだけ」
そう言いながらも、フェイトはどこか所在なさげに視線を泳がせていた。
はじめての友達と思い人とのお出かけ。それだけでも彼女には慣れないことだ。
「そうだ、せっかくだし浴衣以外にもいろいろ見てまわろっか!」
「浴衣に時間かけなくて大丈夫かな……」
「だいじょーぶだって! フェイトは絶対浴衣とかなんでも似合うんだから!」
アリシアが後ろからフェイトの肩に抱きつくようにしがみつく。
「そ、そうかな……」
「そうだよ! ていうか私も選ぶから、2人で一緒に選ぼ!」
「はあ、アリシアが暴走しないように見張ってるだけでも来た甲斐がありますね……」
リニスが小さくため息をつきながらも微笑むと、なのははフェイトに並んで歩きながら声をかけた。
「……私も毎年も着てたけど、浴衣って動きづらいけど結構見た目は映えるんだよ。それに、ユウト君の浴衣姿も、興味あるでしょ…?」
「……!」
フェイトの顔が一瞬で真っ赤になった。
「な、なのは……そ、そういうのここでは……!」
「まあまあ、ほら行くよ!フェイトちゃん!」
そう言ってさっさと先を歩いていくなのはに、フェイトは胸の奥がじんわり熱くなるのを感じながら、そっとついていった。
「浴衣を探しに来た」という名目のはずが、初めての地球での買い物でモールに入った瞬間からそれぞれの好奇心がバラバラに動き出すのは当然だった。
ユウトは、そんな“自由すぎる行動”を黙って受け入れる係になっていた。
「じゃあ、一時間後にフードコートで集合ね!」
アリシアの声に全員が頷き、それぞれの“目的”に向かって散っていった。
【リニスの場合】
落ち着いた色味の布張りのソファと、木製の棚に並ぶ整然とした生活雑貨。
そこは、どこかホテルのロビーのような静けさを持ったインテリアショップだった。
「……あれ、リニス?」
ユウトが声をかけると、リニスは振り向いて、穏やかに微笑んだ。
「ふふ、こんにちは。ユウト、ちょっと気分転換ですか?」
「いや、俺はもう見慣れてるから、みんなの様子伺って回ろうかな感じ。アリシアと一緒じゃないのか?」
「さすがにずっと見張っているわけじゃないですよ。それにいまは、ぬいぐるみに夢中みたいでしたし。」
彼女が手にしていたのは、濃紺のシンプルなカップセットと、薄い麻のキッチンタオル。
「そのカップ……自分用?」
「ううん、フェイト用と、あとアルフ達の分も。とくにアリシアとアルフ、使い方雑だから、耐久性も重視して」
「……あー、なんか納得。アリシア、皿すぐ割ってそう」
リニスはくすっと笑いながら、ふと手に取ったタオルの色を見比べる。
「でもね、こういうのって“選ぶ時間”も楽しいですよ。誰かの顔を思い浮かべながら、何が合うか、どれが似合うか……そういうの考えるだけで、少しだけ毎日が優しくなるんです」
「……アースラでの生活、慣れてきた?」
「まだまだですけど。でも、こういう静かな時間が持てる場所は好きです」
ユウトは、並んだ商品を一緒に眺めながら、静かに頷いた。
「リニスって、いつも保護者役って感じだけど、たまには自分のために買い物していいんじゃないか?」
「ふふ、そうでね……じゃあこれ、自分用にしてみようかな」
リニスがそっと手に取ったのは、小さな琥珀色のアロマキャンドルだった。
“役に立つ”というより、“心を癒す”ためのもの。
その選択に、ユウトはどこか安心したように微笑んだ。
【アリシアの場合】
「あっユウト! 見て見て、これすっごくふわふわ!」
ぬいぐるみがずらりと並ぶ雑貨屋の一角。
その中央でアリシアは、大きなうさぎのぬいぐるみを抱えたまま、目を輝かせていた。
真っ白で、ほんのりピンクがかったほっぺ。
丸い耳がくたっと垂れて、見てるだけで気持ちが緩んでしまうようなデザイン。
「……お前、ぬいぐるみとか部屋にあったっけ?」
「えー、なんで? ぬいぐるみ可愛いじゃん? ミッドチルダだと耐久性がメインで、こういうのってあんまり売ってないんだよ? しかも、この子……抱いた時の肌触りが、もう……神!」
そう言って、アリシアは両腕でぎゅうっと抱きしめ、顔を埋めた。
「おぉ……これはすごいな……」
つい触らせてもらったユウトも、思わず口元が緩むほどの柔らかさだった。
「ミッドチルダのぬいぐるみって、素材が丈夫な分ゴワゴワしてるんだよね。子供向けのものでも、魔法で壊れたりしないように耐火加工とか耐圧加工とか……」
「……なんか色々間違ってる気がするな」
「でしょ! 地球は“可愛い”に全振りしてる感じがして……ちょっと感動」
アリシアは、もう一体、小さなクマのぬいぐるみを手に取ると、その首に巻かれた赤いリボンを指で整える。
「これ、フェイトにあげてもいいかも。あの子って、見た目はお姫様みたいなくせに、あんまりこういうの持ってないんだよね」
「たしかに。なのはの部屋はぬいぐるみ山盛りだったけど、フェイトの部屋は……」
「リボンと服くらいでしょ? せっかくだから、可愛いものもあげたいな~って。私の分も買うけど!」
2体のぬいぐるみを胸に抱えながら、アリシアはどこか誇らしげだった。
その笑顔はどこか、姉としての優しさも滲んでいる。
「……そっか。プレゼントか。フェイト、喜ぶだろうな」
「えへへ。そしたら、なのはちゃんの贈り物と一緒に並べてくれるかな」
アリシアの視線の先には、小さな棚に整然と並ぶぬいぐるみたち。
【アルフの場合】
ショッピングモールの2階、スポーツブランドやアウトドア用品を扱う一角。
カラフルな機能服やシューズ、耐久性に優れたバッグ類が並ぶその中に、ひときわ目立つ赤髪の姿があった。
「お、アルフ……やっぱりここか」
ユウトが声をかけると、アルフは通路奥のラックから顔を出し、手にしていたスポーツジャケットをひらひら振って見せた。
「おー、ユウト! 見てよこれ、めっちゃ伸びるんだぜ?」
「またそういう動きやすい服ばっかみてんのな……」
「そりゃそうだろ。地球でだって何が起こるかわかんないし、備えあってなんとやらってね」
言いながら、アルフはすばやく腕を通して袖の可動域を確認する。
試着室も使わずに堂々と動いて見せる姿は、なんというか……野生感というか、自由すぎる。
「フェイトがどっかでトラブったら、真っ先に駆けつけるのは私だからさ。どこでも走れる格好じゃないと、安心できなくて」
「……ほんと、フェイトのことになるとブレねぇな、お前は」
「ふふん、使い魔だからね」
にっこり笑うその顔は、どこか誇らしげだった。
でもその表情に、少しだけ陰が差したのをユウトは見逃さなかった。
「……けどさ。最近のフェイト、ちょっと変わったよ」
「変わった?」
「うん。昔みたいに何かあったら私に頼るって感じじゃなくて、ユウトに頼ること多くなった気がするんだ。それが嬉しいんだけど……ちょっとだけ、寂しいんだよね」
アルフは苦笑しながら、手に持った服を畳み直してラックに戻した。
「……でも、支えるのが私の役目だからさ。寂しさくらい我慢しないと」
「……寂しくなったら言えよ。俺くらいなら話聞くぞ」
「なにそれ。あんた、彼氏気取り?」
「ちげぇよ!」
「ふふっ、冗談冗談。けど……ありがとね」
アルフはいつものようににこにこと笑いながら、ユウトの肩を軽く叩いた。
それは照れ隠しのようでもあり、感謝の証のようでもあった。
「さて、動きやすい服も見たし、次は可愛いお姫様のために服でも探すかね~!」
「そういやフェイトの私服お前が選んだやつだっけ……あんな可愛い系お前が選んでるのか……意外だな」
「ギャップがあるからモテるんだよ?」
「うるさいわ」
そんなやり取りが、ショッピングモールの喧騒の中に、ちょっとした彩りを添えていた。
ユウトとそれぞれが個別に会話するシーン書きたかったけどやっぱり難産