○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

46 / 114
最終日・花火と祭りと家族

地球滞在も、気づけば五日目と六日目を過ぎ。

 祭り当日、そしてユウトたちの地球滞在最終日になっていた。

 

ユウトたちは、祭りまでの穏やかな時間を、それぞれのペースで過ごしていた。

 

 午前中はアースラでの報告を終え、午後からは自由行動。

 

 ユウトは再び近所のスーパーを訪れた。

 あの日と同じ時間、同じ通路。

 そしてやはり、そこにははやての姿があった。

 

「また会ったな」

 

「ふふ、ほんまやね。……今日も買いもん付き合ってくれる?」

 

「任せとけ。」

 

 そんな他愛もない会話を交わしながら、ふたりは静かに交流を深める。

 

 帰り道、はやての家の近くで少しだけ立ち止まり、空を見上げたふたり。

 

「夜、花火大会あるんやろ?」

 

「うん。……はやては行くのか?」

 

 はやては少しだけ考えたあと、やわらかく微笑んだ。

 

「うん、行けたら行こうと思ってる。ありがとうな」

 

「そしたら、またあとで会おうぜ」

 

「うん、またな。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

夕暮れが始まり、地平線の向こうに少しずつ街の灯が灯り始めたころ――

 はやてと別れたユウトは待ち合わせ場所である公園の入り口で、風鈴の音と人々の笑い声に耳を澄ませていた。

 

「……あ、いたいた!」

 

 最初に駆け寄ってきたのは、黄色の金魚柄の浴衣を着たアリシアだった。

 髪には小さな飾りが揺れており、いつもよりもほんの少し“お姉さん”に見えた。

 

「どーよ? 似合ってるでしょ!」

 

「おう、元気な感じで……らしいな。似合ってるよ」

 

「えへへ、やった♪」

 

 次に現れたのは、少し照れた様子のなのは。

 白地に撫子柄の落ち着いた浴衣が、彼女の柔らかな雰囲気をさらに引き立てていた。

 

「ユウトくん……待たせちゃった?」

 

「いや、ちょうど。……その浴衣、やっぱ似合うな」

 

「うん、ありがと……!」

 

 そして最後に、フェイトが少し距離を置いて歩いてきた。

 紺地に花火の模様があしらわれた浴衣に、先日ユウトから贈られた簪を髪に挿している。

 

 普段の姿からは想像もつかないほど、しっとりとした雰囲気に包まれていた。

 

「……フェイト、お前も、似合ってるよ。簪も、ちゃんと使ってくれてありがとな」

 

「……うん。今日のために、つけてきたから。……ユウトに、見てもらいたかった」

 

 小さく、でも確かに笑うフェイトに、ユウトもどこか照れたように目をそらした。

 

「さ、そろそろ行こうぜ。はやくいかないと、混むかもだしな」

 

 

 会場へと向かう道中、人の波は次第に増えていく。

 屋台の灯りが続く通りには、リンゴ飴やたこ焼き、かき氷、ヨーヨー釣りなど、色とりどりの屋台が立ち並んでいた。

 

「おっ、たこ焼きあるぞ。……フェイト、食うか?」

 

「う、うん。食べてみたい。アリシア、半分こしよ?」

 

「はーい♪」

 

「……じゃあ俺、買ってくる」

 

 ユウトが手慣れた様子で屋台の列に並び、持ってきたたこ焼きをみんなに渡すと、

 それぞれがわいわいと顔をほころばせながら串を持った。

 

「……熱っ、でもおいしい!」

 

「お祭りの味だね~」

 

「ん……すごく、おいしい」

 

 その様子を見ながら、ユウトもひと口。

 

「……あー、これぞ夏って感じだな」

 

 空にはまだ微かに明るさが残っているけれど、どこかすでに、胸の奥が高鳴っていた。

 

屋台の明かりが灯り、空に星が瞬き始める頃――

 ユウトたちはちょうど小さな広場の一角に腰を下ろしていた。

 

 たこ焼きや焼きそばの香りが辺りを漂い、アリシアがリンゴ飴を頬張りながら、楽しげに笑う。

 

「ふふっ、地球のお祭りってほんとすごいね! こんなににぎやかなんて」

 

 フェイトも微笑みながら、横で静かにその景色を眺めていた。

 そのすぐ隣で、ユウトは持っていたかき氷を口に運ぶ。ふと、遠くから聞こえる声に目を向ける。

 

「――あれ? ユウトくん、あそこ……」

 

 なのはが指差した先。

 屋台の明かりを背に、少し目立つ姿が見えた。

 

 クロノとリンディ。

 そしてその間に、深い青の羽織をまとった女性が、ゆっくりと歩いていた。

 

「……プレシア……?」

 

 ユウトが立ち上がると同時に、アリシアも振り返った。

 

「え……? ――お母さん……!?」

 

 アリシアが駆け出す。

 

 まるで時間が止まったかのように、周囲の音が遠のいた。

 

 プレシアは歩みを止め、口元に手をあてて、震える声を漏らす。

 

「……アリシア……ひさしぶり、浴衣きれいね……」

 

「お母さんっ!」

 

 アリシアがその胸に飛び込み、プレシアがゆっくりと彼女を抱きしめる。

 

「本当に……生きて……あなたが、こうして……」

 

「うん、わたし、生きてるよ。リニスがいてくれて、フェイトもいて、みんな…」

 

「そう……そうなのね……よかった……よかった……」

 

 涙がぽろぽろとプレシアの頬を伝う。

 アリシアの背を撫でるその手は、確かに母の温もりだった。

 

 少し離れて見つめていたフェイトが、そっと歩み寄る。

 

 プレシアはアリシアからゆっくり顔を上げ、もうひとりの娘と目を合わせる。

 

「……フェイト……」

 

「……お母さん」

 

 プレシアは一歩、二歩と近づき、そしてぎゅっとフェイトを抱きしめた。

 

「ごめんなさい………あなたを、ちゃんと見てあげられなくて……」

 

「……いいの。いま、こうして会えて……アリシアと、また一緒にいられて……それで、十分だよ」

 

 その言葉に、プレシアは喉の奥で小さく嗚咽を漏らした。

 

 そっとそばに立っていたユウトに、リンディが静かに声をかける。

 

「どうして、プレシアがここに?」

 

「上層部にかけあって、今日一日だけ外出の許可を得られたの。正式にはほんの数時間だけど……フェイトさんたちと、花火を一緒に見られたらと思って」

 

「そうですか。ありがとうございます……」

 

 ユウトの言葉に、リンディはやわらかく微笑んだ。

 

「家族の時間は、今だけじゃない。これから少しずつ、取り戻していけるわ」

 

「プレシアは、有罪では?」

 

「過去の実験の証拠がでてきてね、プレシアにも情状酌量の余地があったのではないかって風向きが変わってきたのよ。

もしかしたら…あの家族はみんなで暮らせるようになるかもしれない」

 

「……!そうですか!」

 

「プレシア・テスタロッサは将来的には魔力の使用制限と管理局への技術協力を条件に拘留を解かれる形になる…タイミング的には君たちの保護観察処分が終わると同時になるように努力している。」

 

「クロノ…助かる。」

 

「それより、ユウト。君は彼女たちのもとに行かなくてよいのか?もうすぐ花火の時間だが。」

 

「ちょっと知り合いさがしてて……ちょっと俺離れるわ!」

 

 夜空が、一発の大きな音とともに、光で彩られる。

 

 最初の花火が空に開いたその瞬間――

 プレシアはアリシアとフェイトの両手をとり、そっと肩を寄せ合った。

 

 

花火が夜空に大輪の花を咲かせる中、ユウトはそっとその場を離れた。

 フェイトとプレシア、アリシアの再会。大切な家族の時間だからこそ、そこに居続けることに拒否感があった。

 

それに、

 

 ――八神はやて。

 

 今日は来られるかもしれないと言っていた。けれど、この混雑の中、車椅子で動くのは決して簡単じゃない。

 どこかで困っているかもしれない――そう思った瞬間には、すでに足が動いていた。

 

「……はやて……来てないのかな……」

 

 屋台の灯りと、浴衣の波に紛れながら、ユウトは人の間を縫うように歩く。

 視線を上に、左右に、絶えず動かしながら。

 

 そのときだった。

 

 少し離れた灯籠の陰、木々の奥で

 

 ――誰も座っていない車椅子が、倒れているのが見えた。

 

 人々の笑い声と花火の音にかき消されそうな、小さなつぶやき。

 

「……なんで、こんなに……動かへんのよ……」

 

 はやての目にはうっすら涙が浮かび、けれど必死に堪えている。

 助けを求める声を出す代わりに、唇を噛みしめていた。

 

「はやて!」

 

 その声に、はやてが顔を上げる。

 人の波をかき分けて、ユウトが駆け寄ってきた。

 

「ユウト……くん……?」

 

 肩で息をしながらも、彼はすぐに車椅子のハンドルに手を添えた。

 

「大丈夫か? 動けなかったんだな……ごめん、もっと早く気づいてれば」

 

「ううん……ユウトくんが、来てくれてよかった……」

 

 はやての目から、一筋の涙が零れた。

 

 けれどそれは、不安でも絶望でもない。

 

 ユウトは軽く微笑み、静かに言った。

 

「さ、見晴らしのいい場所……しってるんだ。一緒に見ようぜ」

 

「……うん。ありがとう……」

 

 車椅子が、やさしく動き始める。

 

 花火が再び夜空を光で染めていく。

 

 

 

五分ほど過ぎ、祭りが終わりを告げ、最後の花火が夜空に消えたあと――

 会場を出たユウトとはやては、混雑を避けて裏通りを通って歩いていた。

 

 車椅子の軋む音と、ユウトの足音だけが静かに響く。

 さっきまでの喧騒が嘘のように、道は静まり返っていた。

 

「楽しかったな……花火」

 

「ひとりでころんでもうた時は、どうなるかと思ったけど、最後はユウトくんのおかげでちゃんと見られてよかったわ」

 

 はやては柔らかく笑いながら、小さく息をつく。

 

「でも……ちょっと、寂しいな。祭りが終わると、“また日常に戻るんや”って、気づかされる気がして」

 

「……それでも、今日は楽しかったろ。俺はお前と話せてよかったよ」

 

「わたしも。ユウトくんって、不思議やね。気を使わんで話せるっていうか……一緒におると、ちょっと安心する」

 

 やがて、はやての自宅の前に着いた。

 街灯に照らされる玄関先。ユウトはその場で止まり、荷物を軽く直した。

 

「ここでいいよな?」

 

「うん。ありがと、ほんま助かった」

 

「じゃ、また――」

 

 そう言いかけたユウトの腕を、はやてが小さく引き留めた。

 

「……あのな、ユウトくん。ちょっとだけでええから、上がってかん?」

 

「え?」

 

「ほら、今日はいっぱい助けてもろたし、なんもお礼もしてへんし……ちょっとだけ、お茶でも飲んでいかへん?」

 

 

 

 柔らかな言葉口調とは裏腹に少し寂しそうな笑顔。

 

 ユウトは一瞬迷ったが、頷いた。

 

「……わかった。ちょっとだけな」

 

「ふふっ、うれしい」

 

 

靴を脱ぎ、はやての案内でリビングに通されたユウトは、改めて家の中を見回した。

 

 木造の、静かな一軒家。

 床も壁もどこか懐かしい雰囲気があり、玄関先には手入れされた草履や傘が整然と並べられていた。

 

「なんもない家やけど……くつろいでってな」

 

「いや、なんか落ち着く雰囲気してリラックスできるわ。」

 

 そう言いながら、ユウトはテーブルについた。

 はやてはキッチンへと向かい、少ししてから湯気の立つ湯呑みを持って戻ってくる。

 

「冷たいお茶もあったけど……落ち着いて話すなら、あったかい方がええかなって思って…どうぞ?」

 

「ああ、気を使ってくれてありがとう。」

 

 湯呑みを受け取り、一口飲む。

 お茶の香りが、体をゆっくりと落ち着かせてくれる。

 

「……静かやなぁ、うちの家って。来客もほとんどおらんから、余計に」

 

「ひとり暮らしだもんな」

 

「うん。でもな…こうやって誰かが来てくれるの、すごくうれしいんよ」

 

 はやては、窓の外を見つめる。

 さっきまで空に咲いていた花火の名残は、もうどこにもない。

 

「お父さんもお母さんも知らんまま育ったし、足もこうやし……誰かに頼らずに生きていくのが“普通”やと思ってた。でも……ユウトくんとおると、なんやろ……“だれかに頼っても生きてくのも悪くない”って思えてくる」

 

 はやての言葉は、どこまでも静かで、優しかった。

 

「……俺もそうだよ」

 

 ユウトはゆっくり言葉を紡ぐ。

 

「昔は、記憶も家族すらなくて……ずっと、自分一人で立ってなきゃって思ってた。でも最近は、誰かに支えられることも、誰かを支えることも、大事なんだって……やっと分かってきた気がする」

 

 ふたりの間に、沈黙が落ちる。

 だけど、それは決して気まずいものではなかった。

 

 ゆっくりと、時間が流れていく。

 

「……もうちょっとだけ、いてくれる?」

 

「……ああ。もうちょっとだけな」

 

 はやての目元に、ふっとやわらかな笑みが灯る。

 

 静かな一軒家のリビングに、蝉の鳴き声すら遠ざかった夏の夜が、優しく降りていた。

 

 

 「ちょっと着替えてくるな。ユウトくんは、そのへん適当にくつろいでて」

 

 そう言って、はやては自室と思しき奥の部屋へと車椅子のまま移動していった。

 残されたリビングは、さっきまでの柔らかな声が消えて、しんと静まり返っている。

 

「……本でも見てみるか」

 

 ユウトは軽く背伸びをしてから、部屋の隅に置かれた本棚へと向かう。

 整然と並ぶ文庫や図鑑、古びた辞典のような分厚い本たち――その一角に、少しだけ異質な存在があった。

 

 革表紙に銀の模様。文字は判別できないが、見覚えのある“魔力の匂い”がそこにあった。

 

「……これ、魔導書……?」

 

 手を伸ばしかけたその瞬間、胸の奥にひやりとした感覚が走った。

 

 ぞくりと、鳥肌が立つ。

 体が自然と警戒の構えを取る。魔力が、無意識に指先に集まりかけていた。

 

 (なんだ……この感覚……)

 

 それは、記憶にないはずの過去が体を通して叫ぶような――そんな、潜在的な“恐怖”だった。

 

「あれ…ユウトくんどうかした?」

 

「な、なあ…はやて。この本なんだけどさ……」

 けれどその直後、胸元の携帯が小さく振動する。

 

 ユウトは慌ててポケットから取り出し、画面を見る。

 

 《From:なのは》

 《ユウトくん今どこいるの? 今フェイトちゃんたちと……》

 

「……くそ、タイミング悪ぃ……」

 

 ユウトは最後に時計をちらりと見やり、そっと視線を外す。

 

気づけば、アースラが地球を離れる時間が来ていた。

 

「……ごめん、はやて。用事思い出した。」

 

「ええよ、そんなん気にせんといてな。遅くまで付き合ってくれてありがとうなぁ」

 

「……また、くるから!」

 

 

 ――扉が閉じられ、再び静かになったリビングの中。

 本棚の魔導書は、ただそこに置かれたままだった。

 




次回以降はA'sにつながる話にしようと思ってます
来週にはA's編に入る予定です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。