○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

48 / 114
闇の書と過去

――赤子の自分

 

逃げる両親・迫る何か。

 

そして、倒れる二人。

 

 

 母の最後の言葉。

 

そして、迫る手と、怪しげな書

 

 

 

 

――っは!」

 

 ユウトは荒い息を吐きながら、現実へと戻ってきた。

 

 額には汗がにじみ、心臓が早鐘のように打ち続けている。

 

 目を開けると、そこには誰かがいた。

 

 温かい手。

 自分の手を、しっかりと握ってくれている細い指――

 

「……フェイト……?」

 

 彼女は隣で寝息を立てながら、ユウトの手を離そうとはしなかった。

 

 彼女の寝息は穏やかで、頬はどこか安心したように赤らんでいる。

 手は、自分の手を包むように握ったまま――まるで、悪夢から守るように。

 

「……ありがとな、フェイト」

 

 小さく呟いて、ユウトはそっとその手を解いた。

 できるだけ音を立てないように、布団から身を起こす。

 

 昨晩見た、あの夢。

 

 (あれは……記憶、なんだろうか)

 

 胸の奥が重くなる。

 そして、ふと思い出す――あの本だ。

 

 はやての家で見た、本棚の中。

 奇妙な模様と装丁を持った魔導書のような本。

 昨日はただの“直感”だったが、今ならわかる。

 

 ――あれは夢に出てきた“それ”と同じものだ。

 

「……確認しないと」

 

 ユウトは音を立てずに身支度を整え、扉を開けて静かに部屋を出た。

 背後では、まだフェイトが小さく寝返りを打っていた。

 

 

 

 

 

クロノは艦内の執務室で資料に目を通していた。

 扉が開き、ユウトが真剣な表情で中へ入ってくる。

 

「ユウトか。こんな朝からどうしたんだ?」

 

「外出許可ほしくて…行きたいところがあるんだ。」

 

「……どこに?」

 

 クロノが資料を置き、真正面からユウトを見つめる。

 

 ユウトは少しだけ間を置いて、静かに言った。

 

「無限書庫……ロストロギア…特に魔導書型について調べたいことがある」

 

 その言葉に、クロノの目がわずかに揺れる。

 けれど、表情は変えずに続きを促した。

 

「理由を聞こうか」

 

 ユウトは夢の内容を語った。

 おそらく自身の記憶の断片であると添えて。

 

「“にげろ”って言ってた。たぶん夢に出てきたあの人たちは俺の母さんと、父さんだと思う」

 

 クロノはしばらく何も言わなかった。

 静かな沈黙の後、目を細めて言う。

 

「……君は事件当時は赤子だった……覚えてるはずないと思ってたんだが、違ったみたいだ」

 

「……知ってたのか」

 

「事件当時、君の両親は魔導師の行方不明者が多発していたため、管理局員として調査していた。」

 

 

「調査の過程で君の両親は行方不明になり、君の両親の遺体は発見されなかったが…後に発見された二人の子供…つまり君自身にリンカーコアを蒐集された形跡があった。そして…そこから管理局は一連の事件を闇の書といわれるロストロギアがかかわってるとして正式に調査が行われた。」

 

「……闇の書……」

 

 ユウトはぎゅっと拳を握る。

 

「それを確かめたい。……夢に出てきた“それ”について知りたいんだ。俺……もう、逃げたくない」

 

 数秒後、クロノはふっと息を吐き、やわらかく頷いた。

 

「……わかった。僕が許可を出す。無限書庫への同行もする。……そうだ、ユーノにも協力を仰ごう」

 

「……ありがとう、クロノ」

 

 そんなやりとりの中、ユウトの心には決意の光が宿っていた。

 自分の過去と向き合うために――

 

 

転送魔法陣が淡い光を収めると同時に、ユウトとクロノの前には静寂に包まれた巨大な空間が広がっていた。

 

 無限書庫。

 時空管理局が誇る最大規模の知識集積施設。

 書架の列が幾重にも並び、天井の見えないほど高く積まれた本の山が、静かに聳え立っていた。

 

「……僕も、来るのは久しぶりだな、ユウトは初めてだったな」

 

 クロノの呟きに、ユウトは無言で頷いた。

 目に映るすべてが、圧倒的な情報と歴史の重みに満ちている。

 

 すると、その足音に気づいたのか、ひとりの青年が本の山の向こうから現れた。

 

「久しぶり、ユウト。ある程度はロストロギア関連の資料、集めてあるよ」

 

「よ、ユーノ。ごめんな、急に手伝ってもらって」

 

 緑の瞳を持つその少年――ユーノ・スクライアは、管理局公認の考古学者であり、無限書庫における次期司書長候補でもある。

 

 クロノがすっと視線をユウトに向け、言葉を譲る。

 

 ユウトは一歩前に出て、小さく息を整えた。

 

「……“闇の書”に関する資料をみせてくれ。できるだけ詳しいものを」

 

 ユーノの表情が、一瞬だけ固まった。

 

「……闇の書、って。……もしかして、クロノのお父さんが亡くなったあの……ユウトもなにか関係が?」

 

「直接の関係は、まだ分からない。けど……俺の記憶と夢に、それらしいのが出てきた」

 

 ユーノはしばらく沈黙し、それから静かに頷いた。

 

「……分かった。保管室D-13、封印指定解除済みの旧資料群に、闇の書関連の記録があるはず。ついてきて」

 

 

 

 ユーノの先導で歩く三人の足音が、書架の間を静かに反響する。

 無限書庫の奥深く、薄暗い保管室。

 厳重な魔力ロックが解除され、扉が音もなく開く。

 

「ここは一部閲覧制限があるけど……クロノがいれば問題ない」

 

「助かるよ、ユーノ。すまないな」

 

 書庫の奥、薄い埃をかぶった棚から、ユーノが慎重に数冊の本を抜き出す。

 その中のひとつ。黒い装丁に金の文様が施された、分厚い一冊にユウトの目が留まる。

 

「(はやての家で見たやつと同じものデザインか)ユーノ……これは?」

 

 ユウトは無意識に、指先を震わせながら表紙に触れる。

 また、胸の奥に冷たい何かが這い寄ってくる感覚。――あの夢と、同じ。

 

 それを見ていたユーノが、ぽつりとつぶやいた。

 

「これは……闇の書のレプリカ。実物の魔導書じゃなく、研究用に写し取られたもの。」

 

「……これに……俺の家族が…」

 

 ユウトの声は低く、静かだった。

 けれどその手には、はっきりと力が込められていた。

 

 クロノが隣で、静かに言葉を添える。

 

「無限書庫にある記録は膨大だ。だからこそ、きっと君の知りたいことの手がかりがあるはずだ。……一緒に探そう」

 

 ユウトは頷き、椅子に腰を下ろした。

 

「ありがとう……ふたりとも」

 

 書架に囲まれた静寂の中、ページをめくる音が響き始めた。

 過去の記録と、今の真実が、少しずつ重なり始める――。

 

 

 

無限書庫――時空管理局最大の記録保管区。

 ユウトはクロノ、ユーノと共に闇の書事件の過去をひとつずつたぐっていた。

 

「……見つけた」

 

 ユーノの手が止まり、当時の事件報告書を開く。

 ページには、美しい筆記体で名前が記されていた。

 

 アダム・アンジェロ

 【所属】ミッドチルダ中央魔導学院 研究部門

 【専門】高次元魔力構造理論

 

「アダム……アンジェロ?」

 

 ユウトが小さく声に出すと、クロノが眉をひそめた。

 

「彼は表向き、数々の魔法研究に功績を残した学者のようだな。当時、管理局内でも尊敬されていたとか。」

 

 だが――と、クロノは静かに続ける。

 

「……その裏で、彼は闇の書を操っていたようだな。資料には自分にとって都合の悪い人間を“蒐集”させ、闇に葬っていた記録がある。物的証拠が残っていなかったから、事件当時なかなか疑われることなかった……今なら分かる。間違いなく、極悪人だな。」

 

 ユウトは唇を噛む。

 胸の奥で何かが、黒く渦を巻く。

 

(こいつが……親を殺した――)

 

 ページをめくると、次に出てきたのは、闇の書の機構に関する記述だった。

 

 ー闇の書

 魔導師の魔力の源「リンカーコア」を吸収・蒐集することでページが埋められ、666ページ全てが完成すると『覚醒』する。

 一度破壊されても、“断片”や魔力の残滓があれば再構築される可能性がある。完全破壊は非常に困難

 

 ―ヴォルケンリッター

 ベルカ式の古代魔術を扱い、闇の書の防衛・蒐集を担う自律型の守護騎士群体(プログラム)。

 剣の騎士、鉄槌の騎士、湖の騎士、盾の守護獣の四機が確認され当時、アダムの命により多数の魔導師を襲撃、蒐集の任に当たったと推定される。

 

 ーベルカ式魔法

 かつてミッドチルダ式と魔法勢力を二分した「ベルカ式」の魔法。

  ベルカ式の特徴は「アームドデバイス」と呼ばれる強固な武装で、武器や徒手での接触から直接魔力を打ち込むことを主とし、対人戦に特化しており

 優れた使い手を騎士と呼ぶ

 

「……みろ、アダムの蒐集対象をまとめたリストーーここに、当時の蒐集対象として記された“マコト・ソウマ”“ユーベル・ソウマ”の名がある。」

 

 クロノがそっと指でなぞるように読み上げた。

 

 ユウトは拳をぎゅっと握りしめた。

 

 視界がじわりと滲む。

 

「やっぱり、俺の両親は……殺されたんだな」

 

 それは事実だった。容赦ない記録の文字が、それを証明していた。

 

 やがて静寂を破って、クロノがぽつりと呟いた。

 

「……闇の書は、完全には滅んでいない。前回はアルカンシェルで消滅したが…あれには転生し再生する機能がある…どこかで、また復活している可能性は高い」

 

 その言葉に、ユウトは微かに目を見開いた。

 

 (――はやて)

 

 あのとき、彼女の家で見た魔導書。

 ただの写本では説明がつかない、あの“圧”と“魔力のうねり”。

 

 今なら確信できる。――あれは、本物の闇の書…

 

 けれど。

 

「……ユウト、何か心当たりでも?」

 

 クロノが静かに尋ねた。

 

 ユウトは、一瞬だけ何かを言いかけて、しかし首を横に振った。

 

「……いや。ただ、注意しておいた方がいいって思っただけだよ」

 

 ――言えなかった。

 

 今、名前を出せば、きっとはやてに“調査”の目が向くだろう。

 誰より優しい彼女が、ただ“本”を持っているだけで、なにか被害にあうかもしれない。

 

だから、今は見て見ぬふりをした。

 

 両親を奪った闇の書は、まだこの世にある。

 

 そして、その運命が再び誰かの未来を狂わせるのだとしたら――

 自分が、必ず止める。

 

 ユウトは静かに、記録を閉じた。

 

 

過去と向き合う決心がついたユウトは、そのまま本局の開発部に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開発部、整備ブロックの一角。

 

 

 魔導機器の作業台に背の低い少女が立ち、デバイスの調整に夢中になっていた。

 

 小柄な体に大きめの保護ゴーグル。

 金色の髪を一つにまとめた――アリシア・テスタロッサの姿があった。

 

「……ん。ここの共鳴率、ちょっとずれてるなー……リニス、工具取ってくれる?」

 

「はいはい。これですね」

 

 工具を受け取ったアリシアが真剣な表情で部品に向き合っていると、背後から静かな足音が近づいてきた。

 

「アリシア、今いいか?」

 

「ん? あ、ユウト! もうすぐ終るとこだよー。どしたの?」

 

 作業を終えたアリシアがゴーグルを持ち上げ、ぱっと笑顔を見せる。

 

 ユウトは、少しだけ周囲を気にしてから声を落とした。

 

「ちょっと……ディジターのことで、相談したいんだけどさ」

 

「ディジター? 強化とか?」

 

「うん。前アリシアが話してた、俺の新しい戦術に合わせたデバイスの改修案について要望があるんだけど……。なんというか、白兵戦に特化した魔法体型とかに合わせたいんだけど…」

 

「……!」

 

 アリシアの表情が一瞬だけ真剣になる。

 

 そして、ぽつりと呟く。

 

「――ユウトのイメージって古代ベルカ式魔法のこと、だよね?」

 

 ユウトは頷く。

 無限書庫で得た古い記録。失われた戦術体系。近接戦闘と高効率な魔力使用を前提とした魔法の在り方。

 

「ディジターの構造、現代のデバイスの中では確かに近接重視してるし、対応できたら大幅強化……だけどベルカ式のカートリッジシステムはそもそも出力制御の技術が違うし、そもそもの互換性や技術がないから普通にやったらまず不可能なんだけど……」

 

「だけど?」

 

「うん。ただ……最近のデバイス事情について調べる中で興味深い物もあってね」

 

 アリシアは工具を置いて、真剣な表情でユウトを見た。

 

「実はね、聖王協会が、失われたベルカ式魔法を再興しようって動きがあるの。一部の研究は、管理局の技術局と協力してるって噂」

 

「……聖王協会」

 

 ユウトは聞き覚えのない名に眉をひそめる。

 

「そこの研究部門の人と話ができれば、かなり手っ取り早く構造の参考になるし、もしかしたら試作段階の部品も手に入る。……もしよかったら、一緒に行ってみない? 」

 

 ユウトは一瞬だけ黙り――それから、静かに頷いた。

 

「……ああ。頼むよ、アリシア」

 

 ユウトの胸の奥には、誰にも言っていない小さな秘密がある。

 

 ――闇の書の居場所。

いつ闇の書の主として覚醒するかわからない少女。

 

 けれど今は、それを話す時じゃない。

 

 

いつか、はやてが望まぬ形で闇の書を目覚めさせたとき、救うため…

 そのために力が欲しい。

 

 その決意が、ユウトの瞳に静かに宿っていた。




遂にユウト以外のオリキャラ…アダムくんの名前出せた。
まあ、物語にそんな関わらないんですけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。