ミッドチルダの南部に位置する、大聖堂を中心とした白亜の巨大施設――聖王協会。
静寂と威厳を併せ持つこの場所に、ユウトとアリシアの姿があった。
「……本当に、ここでベルカ式の研究が?」
大理石の床を歩きながらユウトがつぶやくと、隣のアリシアが小さく頷いた。
「うん、協会はもともと、ベルカ時代の王様とかを信奉していて、最近だと古代ベルカの技術を、復興させようと頑張ってるんだ。表向きは慈善団体的な扱いだけど……権力面でもすごいんだよ?」
重厚な扉の前で足を止めると、中から柔らかな声が響いた。
「どうぞお入りください、運命を越えたお二人さん?」
中から扉が開き、現れたのは、豪華な装飾をつけたシスター服のような服を着た女性――カリム・グラシア。
その背後には、無表情だが気配を鋭く張り詰めたもうひとりの女性――シャッハ・ヌエラが控えていた。
「あなたが……ユウトくん、そしてアリシアちゃんね。私はカリム。カリム・グラシア…よろしくお願いいたしますわ。」
カリムの声は静かだが、どこかすべてを見通しているような瞳でこちらを見つめていた。
ユウトは思わず目を細める。
「協会の上役さんが……なんで俺たちの名前を?」
「私…あなた達のファンなの」
「ファン?」
「実は私のレアスキル、予言にあなた達が巻き込まれた事件のことは記されていました…」
カリムは笑みを浮かべながら、祭壇の脇の椅子に腰を下ろす。
「本来、あなたたち2人はこの時代には存在していないはずだったの。それが二人して生き延びた――とてもめでたいことですわ。なので私が直接迎え入れました。こちらは私の護衛のシャッハです。」
アリシアが小さく息を呑んだ。
「……私たち、本来なら生きてなかったってことですか……?」
「ええ。とっても興味を惹かれたから、あなた達のこと調べさせてもらいました。もちろん、今日何を頼みに来たのかも知っていますよ。私個人としては、あなた方に技術供与を行うことも前向きに検討していますわ――」
「やった!案外スムーズに行きそうだねユウト!」
「カリムさん…聖王協会が総力を上げて開発しているカートリッジシステムを…なぜ俺らなんかに?」
「それは…予言があったからです。」
「予言…」
「さっきもちょっとだけ触れたけど私のレアスキル…というものです。不確かな未来の情報がわかる…そうですね、天気予報みたいなものです。」
「天気予報程度では例えられないぐらい凄いものだと思うんですけど…」
「…そうでしょうか?まぁ、そこは置いといて…その予言に近々、次元世界崩壊規模の…いえ、もっと多く次元世界全体に影響がある事件が起きるということが分かりました。」
「…!!」
ユウトの頭の中に、夢で見た書とそこから溢れる闇が過ぎる
「その脅威に対抗するため、管理局にも部隊の要請をしていますが…どうやら別世界でも大規模な事件が発生中との事で…」
「なるほど…それでおそらく事件が発生する場所にいる俺に力を託そうと…」
「ーーそうです。ですが、技術提供には条件があります」
「…条件?」
カリムの言葉と同時に、隣のシャッハが一歩前へ出る。
静かに構えたその立ち姿に、ユウトの背筋がぴんと伸びた。
「(この人…かなりできるな。恭哉さんレベルの圧がある。)」
「私の護衛――シャッハに、勝てるなら。私たちはあなたに“アンブレイカブル”を託すわ」
「……アンブレイカブル?」
「プロトタイプのカートリッジシステム。本当ならシャッハが使うために開発途中の…まだ正式採用されていない、近接型の白兵戦仕様デバイスに最適化されたカートリッジシステムの試作品よ」
シャッハの視線がユウトを捉える。
「本来は無償で提供したいのだけど……協会は一枚岩じゃなくてね。提供するためにクリアしなきゃならない協会全体の決まり事としては、カートリッジシステムを使うのは優れた騎士で無ければならないの。」
「はあ…。」
「なら、あなたが私の護衛であるシャッハよりも武を示せば、その意向も果たされましょう。さあ、武器を抜いてください。騎士ユウト。」
「騎士って柄じゃないんですけどね?」
「そこはほら、あまり気にしないの。」
それと……と、カリムは誰もが振り向くような美しい顔を微笑ませながら言葉を続ける。
「ちなみにシャッハは今のあなたでは到底勝てないと思うわよ…それでも、やりますか?」
ユウトは一瞬だけ驚いた表情を見せ――やがて、静かに笑った。
「俺、1回負けたぐらいじゃ諦めませんよ?勝つまで付き合ってもらいます…俺には力が必要なんです。」
「では、模擬戦のルールは両者のデバイスなどの武器の差を無くすため、両者訓練用のデバイスで行います。いいですね?」
「はい!」
「…では、アリシアさん、ユウトさんのデバイス預かってあげてください。プロトカートリッジを取り付けるための調整をしてあげて?」」
「わ、私がですか?…わかりました!」
「アリシア、頼んだ…絶対勝つから待っててくれよ」
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
フェイトやなのはと肩を並べて戦うために。
そして、いつか来る“闇”を振り払う力を得るために――
「――それでは、始め!」
カリムの掛け声で、模擬戦が始まった
木製の訓練場に、乾いた音が響いた。
一戦目。
掛け声と同時にかまえたユウトだったが、シャッハの姿が霞んだと思った瞬間、ユウトの視界が回転する。
脇腹に一撃、そして倒れるまでの動作…ほんのわずか一瞬だった。
「少し気が緩んでいますね。常在戦場を心掛けなさい。」
「…ッもう1回お願いします!」
二戦目。
こんどは互いの武器が激しく打ち合う。だが、徐々にテンポを上げるシャッハに追いつけず、ユウトはリズムを崩した瞬間、膝裏に一発。ユウトはよろめき、そこへ上段からの打ち下ろしが決まる。
「…まだっ…まだ、やれます…!」
「……。」
三戦目。
今度は距離を取って慎重に。だが、シャッハは波のように穏やかに接近し、ユウトの懐に滑り込む。
あまりの近さに思わず攻撃をふるうユウトに、カウンターが胸に突き刺さるように入った。
四戦目、五戦目。
どんなに立ち上がっても、どんなに立ち向かっても、ユウトにとってシャッハの動きは“予測不能”の連続だった。
どの攻撃も理にかなっていて、無駄が一切ない。
「…まだ…」
六戦目。
ユウトは動体視力と反射を活かしてカウンターに賭けた。
だが、シャッハはそれを上回る“読み”でカウンターを捌き、真正面から打ち勝ってみせた。
「…ッ」
七戦目からは、シャッハの表情に少しずつ迷いが見えていた。
なぜなら――ユウトは毎回、ボロボロになりながらも立ち上がり、対策を重ねてきていたからだ。
(少しずつ確実に成長していますね。ですがまだ…)
足払いでユウトを転倒させ、喉元にデバイスを突き立てる。
八戦目。
ユウトは得意な魔力制御による瞬間加速で一撃を狙うが、シャッハは半歩の身を引く事間合いをずらし、簡単に避け、肩に重い打撃を叩き込む。
九戦目。
今までと違い、気合のこもった長い打ち合いの末、ユウトのトンファーがシャッハの頬をかすめた――が、そこまで。直後に後ろ回し蹴りが入り、ユウトの意識が飛びかける。
「…ユウト、もうやめようよ…」
様子を見に来たアリシアがボロボロのユウトを見つめ、駈け寄ろうとするが、カリムによって止められる。
「カリムさん…」
「ユウトさんの目はまだ折れていません。少し待ってあげてください。」
そして迎える十戦目。
最初の構えから、もう互いに手の内は割れていた。
いままで以上に長い攻防を続けるが……
だがそれでも、ユウトは超えられなかった。
「…まだ、終われないッ!」
「気が逸りましたねユウト。」
最後の一撃は、シャッハのカウンターだった。
ユウトが踏み込んだ瞬間、その先をすでに読んでいたシャッハの膝がユウトの腹部に直撃し、膝をつく。
「……はい、十戦目も、こちらの勝ちですね。」
シャッハは息を乱さず、静かに告げた。
ユウトは悔しさに唇を噛み、床を見つめながら拳を握りしめた。
「くそっ……こんなにも、届かないものなのかよ……っ」
そして、そのまま立つことすらままならなくなる。
シャッハはため息をつきながらユウトを支えアリシアに託す。
「…いくら模擬戦といえど、痛みや疲れは簡単には無くなりません。今日のところはお引き取りください。アリシアさん…彼をお願いします」
「…はい。」
ーーーーーーーーーーー
シャッハとの十戦を終え、ユウトとアリシアは設置した転送ポートを使ってアースラへ帰還した。
その顔には傷はほとんどなかったものの、動きに疲労がにじんでいた。
背筋はまっすぐだったが、心の奥に重くのしかかる悔しさが滲んでいる。
「……おつかれ、ユウト」
無言のまま歩く彼に、隣のアリシアがそっと声をかける。
「10連敗しちゃったけど、わたしならたぶん一回で心折れてるよ? なのに……何度も食らいついててすごいよ」
「……褒められるようなもんじゃないよ」
低く返すその声に、アリシアは口をとがらせた。
「そーかな? あたしはカッコよかったと思うけど」
軽く笑いながら言ってみせるアリシアに、ユウトはわずかに視線を向けたが、すぐに前を見直す。
「……俺は、こんなとこでつまずいていられないんだ。」
ぽつりと呟くような声。その中には、明確な焦りと――苛立ちがあった。
「なのはも、フェイトも、クロノも、みんな強い。俺だけ、いつも一歩届かないんだ。……それに、俺には力がいる理由が」
アリシアはその言葉にすぐ返さず、しばらく黙って隣を歩いた。
そして、ふっと笑って言った。
「じゃあ、届くまでやるしかないね。……今までだってそうだったんでしょ?」
その言葉に、ユウトは少しだけ目を見開き――小さく、息を吐いた。
「……ああ、分かってるよ」
アースラの廊下を曲がったその時だった。
背後から、聞き慣れた声が呼び止めた。
「ユウト?」
フェイトだった。
アースラの制服姿のまま、手には小さな買い物袋。たまたま通りがかったのだろう。
「おかえり……アリシアと、どこ行ってたの?」
その言葉に、ユウトは一瞬だけ足を止めたが、すぐに歩き出す。
「ちょっと用があっただけ。別に、フェイトには関係ないよ」
「えっ……」
「ちょっと、ユウト!その言い方は…」
不意に浴びせられた冷たい声に、フェイトが立ち尽くす。
アリシアが言いかけた言葉も、ユウトは聞かず、そのまま自室へと歩き去っていった。
部屋に戻ったユウトは、無言のままベッドに倒れ込んだ。
顔を枕にうずめると、視界にあの闘いがよみがえる。
何度も挑んで、何度も倒されて、それでも届かない差。
(まだ……ぜんぜん足りない。戦術から見直さないと。)
そう思うと同時に――フェイトの困った顔が、頭をよぎる。
(……悪かったな。フェイトに弱い姿見られたくなくて…あんな言い方してしまった…)
でも、謝る気力もない。全身が鉛のように重かった。
布団の中で目を閉じながら、ユウトは小さく呟いた。
「……次こそ、勝たなきゃ…」
悔しさと、焦りと、少しの決意を胸に――ユウトは静かに眠りに落ちていった。
ーーーーー
フェイトは静かに自室のドアの前に立っていた。
アリシアから、今日のユウトのことを少しだけ聞いた。
でも、それよりも気になっているのは――
『……別に、フェイトには関係ないよ』
あの言葉。
フェイトにとってユウトは優しくて、時に強がりで大事な人。
今回のように突き放されたのは初めてだった。
フェイトはそっとドアに手をかける。
(この部屋、私の部屋でもあるけど…今はユウト1人にした方がいいかな…)
そう悩みながらゆっくりとドアを開けると、部屋の中は暗く、わずかな読書灯の光だけが点いていた。
ベッドでは、ユウトが深く眠っていた。
疲れ果てたように、顔を少ししかめて、眉間にしわを寄せている。
また、悪夢でも見たのだろうか、今朝と同じように魘されている。
「……無理、してるんだよね」
小さくつぶやいて、フェイトはそっと椅子を引き寄せ、ユウトの隣に座った。
眠る彼の髪が、わずかに乱れている。
いつもなら、軽く手を伸ばして整えてあげたくなる。でも今は、それも躊躇われる。
(私……何か、嫌われるようなこと……したかな)
胸が、きゅっと締めつけられる。
でも――それ以上に、ユウトの顔があまりにも苦しそうで。
「……ユウト、無理しすぎないで。私、ちゃんと……そばにいるよ」
届かなくても、伝わらなくても。
それでも、自分がそばにいたいと思ってしまう。
ほんの一瞬だけ、指先がユウトの手の甲に触れた。
あたたかくて、でもどこか遠くに感じる体温。
「……おやすみ、ユウト」
そのまま自分のベットに寝転び、フェイトは静かに目を閉じた。
彼が夢の中で少しでも穏やかに眠れるようにと、ただ、それだけを願いながら――。
ちなみにアンブレイカブルはG.O.Dのラスボス、システムU-D(アンブレイカブル・ダーク)ことユーリちゃんから拝借しました。
中古ショップでGOD見つけて初プレイしたんですけど、CPU強すぎないか??
あとスト6よりコンボ難しい…