○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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すれ違い・擦れチガウ

翌朝、ユウトは再び聖王協会の訓練場へ足を運んでいた。

 

 眠りは浅く、体の節々は鈍く痛む。それでも、足取りは迷いがなかった。

 すでに訓練服に着替え、訓練用デバイスを右手に装着している。

 

 「……来ましたか、ユウト」

 

 待っていたのは、昨日と同じシャッハ・ヌエラだった。

 

 聖堂の朝陽が差し込む中、シャッハは無駄のない姿勢で立っていた。

 手にはユウトと同じく訓練用デバイス――その佇まいは静かでありながら、隙がまるでない。

 

 「今日も、やるつもりですか?」

 

 「……ああ」

 

 短い言葉だけで、ユウトは構える。

 目に宿る光は、昨日よりも強く、鋭かった。

 

 再び始まった模擬戦。

 昨日と合わせて20戦を超えてなお、ユウトは敗れ続けた。だが、一つずつ確実に動きは洗練されていく。

 

 デバイスから光刃が振るわれ、シャッハのデバイスと交差するたび、甲高い音が訓練場に響く。

 互いの呼吸が詰まり、空気が張り詰める。

 

 そして、再び床に叩きつけられたユウトの体。

 

 「っ、くそ……っ」

 

 肩で息をしながら、それでも彼は立ち上がる。

 

 シャッハはその姿を見つめ、ふと問いかけた。

 

 「……どうして、そこまでして私に勝とうとするのですか?あなたがそんなに執念をみせる理由は…なんですか」

 

 ユウトはしばらく黙ったままだったが、やがて、ゆっくりと口を開いた。

 

 「最近夢を……見たんです。赤ん坊のころの、俺が……両親と一緒に、何かから逃げてる夢」

 

 シャッハの目がわずかに動く。

 

 「その何かが、たぶんカリムさんの予言とつながってることだったと気づいた。俺の両親は…来る脅威とやらに襲われて……死んだらしいぜ。」

 

 静かな声だった。

 怒りよりも、喪失と後悔の影がにじんでいた。

 

 「俺は……俺自身も“蒐集”されてたらしい。今思えば俺の魔力量が少ないのも、昔体が弱かったのも、全部そのせいだったのかもなぁ…」

 

 シャッハは何も言わずに聞いていた。

 ユウトの拳がわずかに震える。

 

 「……だから、せめてその脅威とやらに勝てる力が欲しい。いつか、また同じようなことが起きた時、俺みたいなやつを増やさないためにも……今度は……誰も奪わせないために」

 

 その言葉には、一切の嘘がなく ただの勝利への渇望や強さを求めるだけではなく、“守る”ための願いがあった。

 

 やがて、シャッハはゆっくりと息を吐いた。

 

 「――なら、これ以上は試験は必要ないですね」

 

 「試験?」

 

 彼女は構えを解き、ユウトの前にまっすぐ立った。

 

 「あなたは心技体の、心を示した。ここからはあなたが私に勝つまでの間…あなたを弟子として鍛えましょう。ベルカ式の動き、しっかり学ぶといいですよ。」

 

 その言葉に、ユウトは目を見開いた。

 だがすぐに、真っすぐな眼差しで頷く。

 

 「……お願いします、シャッハ師匠」

 

 「師と言えるほど大層な身ではありませんが……遠慮なく技を叩き込みます。体で覚えるまで、です」

 

 ユウトは微笑みながら、再び構え直した。

 

 「上等ですッ!」

 

 こうして――ユウトの修行兼模擬戦は続いていく。

 

  時に夜遅くまで。

 

  時に訓練場の床で気絶するように眠ってシャッハの怒られたりすることも。

 

  こうしてユウトとシャッハと戦闘訓練は一週間を過ぎていった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 アースラの通信室。

 フェイトは少し緊張した面持ちで、スクリーンの前に座っていた。

 

 「……はい、映りましたー!」

 

 スクリーン越しに、笑顔で手を振るのは――高町なのは。

 地球での日常の風景を背景に、どこか懐かしい空気が漂っていた。

 

 「フェイトちゃん、久しぶり!…っていってもこの間話したばっかりだけど… 元気してた?」

 

 「うん……元気、だよ。なのはこそ、学校忙しくない?」

 

 「うん、まぁそれなりに。あっアリサちゃんとすずかちゃんがフェイトちゃんにまた遊ぼうって言ってたよ!」

 

 互いに笑い合いながらも、フェイトの瞳には、どこか曇りがあった。

 

 「……フェイトちゃん?」

 

 なのはが、その違和感に気づいたように問いかける。

 フェイトは少し目を伏せ、スクリーンの向こうの親友に小さく呟いた。

 

 「……ユウトのこと、なんだけど」

 

 「ユウトくん?」

 

 「ここ1週間……ずっと、私とほとんど話してくれなくて。朝はもういないし、夜は遅く帰ってきて、毎日魘されてるし…」

 

 フェイトの声が、かすかに揺れる。

 

 「最初は、私が何か悪いことしたのかなって思って……でも、きっと違うってわかってるけど。だけど……近づこうとするたび、どこか遠くに行っちゃう気がして」

 

 なのはは黙って聞いていたが、やがて、ゆっくりと口を開く。

 

 「……フェイトちゃん、それはきっと、ユウトくんが“誰かのために”頑張ってるってことなんじゃないかな」

 

 「……誰かの?」

 

 「プレシアさんの事件の時に、フェイトちゃんのために動いてたユウトくんを見て、私も同じように感じたんだ。」

 

 「……うん」

 

 「ユウトくんってば、誰かを助けようとするために動くくせに、抱え込んで自分ひとりでなんとかしようとして無茶しちゃうんだよね。きっと、今は話せない理由があるんだよ」

 

 フェイトは黙って頷いた。

 

 「……そうだよね。でも、ずっと待ってても……何も言ってくれないの、ちょっと、寂しいな……」

 

 「……フェイトちゃん」

 

 スクリーン越し、なのはの表情が優しくなる。

 

 「ちゃんと“そばにいるよ”って、伝えてあげて。ユウトくん、きっとそれだけで…すごく助かると思うんだ。」

 

 その言葉に、フェイトは小さく微笑んだ。

 

 「……うん、ありがと、なのは」

 

 通話の終わり際、フェイトの表情は少しだけ晴れていた。

 だけど――胸の奥の不安は、まだ、ユウトに届いていない。

 

 

その晩、夜のアースラは艦内が静まり返り、寝静まった乗員たちの気配だけが微かに残っていた。

 

 フェイトは、自室――ユウトと共に使っているその部屋で、読書のふりをしながらベッドの隅に腰掛けていた。

 本の文字はほとんど頭に入っていない。ただ、彼の帰りを待っていた。

 

 時計の針が、深夜に差しかかろうとしていた時――

 

 「……起きてたんだ、ただいま」

 

 ようやく、ドアが静かに開いた。

 

 ユウトは、いつも通り無言で部屋に入り、重い足取りでベッドに荷物を置いた。

 トレーニングウェアは埃と汗でくたびれ、肌には薄く傷や痣が見える。

 

「……うん、おかえり」

 

 小さな声で、フェイトが言った。

 

 ユウトは、一瞬だけ彼女の方を見た。

 でも、その目はすぐに逸れた。声を返すこともなく、黙ってバスルームへと向かう。

 

 扉が閉まるまで、フェイトは本を閉じたまま動けなかった。

 

 (……どうして、何も言ってくれないの?)

 

 シャワーの音が聞こえる中、胸の中に不安が膨らんでいく。

 きっと、話したくないことがある。言えないことがある。そう、なのはにも言われた。

 

 それでも――フェイトの心は揺れていた。

 

 (……私は、ただ……そばにいたいだけなのに)

 

やがて、ユウトが戻ってきた。髪を濡らし、肩を落としたまま、無言でベッドに潜り込む。

 

 フェイトは、勇気を振り絞って口を開いた。

 

 「……ねえ、ユウト。もし、何かあったなら……言ってほしい。力になれなくても、せめて……」

 

 ユウトは、掛け布団の下から小さく、息をついた。

 

 「……ごめん。いまは、何も話せないかな。」

 

 その一言に、フェイトの胸がきゅっと締め付けられる。

 

 「……そっか。……うん、わかった」

 

 静かにそう返すと、フェイトはベッドの反対側に背を向けて、そっと電気を消した。

 

――ただ、少しだけ。背中が寂しそうに震えていた。

 

 

そんな日々が続いていく。

 

 

そしていよいよ、フェイトとユウトそれぞれの保護観察処分が終わりを迎えた。

 

アースラのブリーフィングルーム。

 円卓を囲むようにして、数人の管理局員と関係者が集まっていた。

 

 ユウトとフェイト、そしてアリシア達。

 その向かいには、制服姿のクロノ・ハラオウンと、管理局本部の担当官が立っていた。

 

 「――というわけで、ユウト・タカマチ、フェイト・テスタロッサ両名の保護観察期間は、ここで正式に終了といたします」

 

 静かに告げられた言葉に、フェイトは小さく息を呑み、ユウトは無言で頷いた。

 

 「ふたりとも、よくここまで頑張ったわね。アースラでの生活お疲れ様。」

 

 穏やかな声で、リンディ・ハラオウンも席の奥から言葉をかけた。

 

 「これで、あなたたちは自由に生きることが許されます。地球でなのはちゃん達と暮らすもよし、ミッドチルダで暮らすもよし…とにかく自由です。けれど、あなたたちは自分たちでそれを決める責任があることも…充分わかってるでしょう。もちろん、今後の事は私たちは責任もってサポートしていくわよ!地球で暮らすならお家とか…お金の方はやっぱり管理局員として臨時に嘱託魔導師としてお仕事してもらうことになるかもだけどね…。」

クロノが、腕を組みながらユウトとフェイトに視線を向ける。

 

 「……これからも“嘱託魔導師”として行動してもらうなら自分の判断で任務を選び、果たす立場になる。フェイト、君はどうする?」

 

 フェイトは静かに頷き、小さく手を握る。

 

 「……はい。私は、地球に戻ります。なのは達のそばで、嘱託魔導師として過ごしたいと思います。」

その言葉に、クロノも少しだけ笑った。

 

 「なのはも、きっと喜ばしく思うだろうな。嘱託魔導師“フェイト・テスタロッサ”、正式に任命する」

 

「私たちアースラ組もしばらく任務はおしまいだし…そうだ、フェイトさん、しばらくは向こうで一緒に暮らすのはどう?プレシアさんの出所までの短い間だけど。」

 

 リンディも満足そうに頷いた。

 

「…!いいんですか、ありがとうございます!リンディさん。」

 

 そして、視線がユウトへと向けられる。

 

 「ユウトくん、あなたは?」

 

 少しの沈黙ののち、ユウトは静かに言った。

 

 「俺も……嘱託魔導師として登録を受けます。でも……地球には、まだ帰れません」

フェイトが、はっと彼を見た。

 

 「ユウト……?」

 

 「――ごめんフェイト。中途半端なまま、帰れない」

 

 その眼差しは真っすぐで、迷いはなかった。

 フェイトは、何か言いかけて――口をつぐんだ。

 

 そして、小さくうつむいて笑った。

 

 「……うん、分かった。ユウトらしいね」

 

 「悪いな、フェイト。一緒に行けなくて」

 

 「なのはと……向こうで待ってるよ。ずっとそばに居るって約束したんだから…あんまり待たせたらダメだよ?」

 

「ああ…すぐにそっちに行けるよう頑張るよ…」

 2人の間に流れる空気が、しんと静まり返る。

そのやり取りを聞いていたアリシアが、ぱっと手を挙げた。

 

 「じゃ、あたしはユウトについていこうかな」

 

 「えっ?」

 

 フェイトが驚いた顔を見せると、アリシアは照れ隠しのように笑いながら肩をすくめた。

 

 「私も、やり残したことあるし…今のユウト1人にするの心配だし!」

 

 「アリシア……」

 

 フェイトは少し寂しそうに微笑んだが、やがて優しく頷いた。

 

 「……分かった。ユウトのこと、よろしくね」

 

 アリシアは胸を張って答えた。

アリシアは胸を張って答えた。

 

 「お姉ちゃんに任せなさいな!用事が終わったらユウトを引き摺ってでも連れてくから!…フェイトもお母さんのことよろしくね!」

 

 こうして、フェイトとユウトは、それぞれの道を歩み始めた。

 

 新たな始まりと、それぞれの選択。

 

 

 再び二人の道が交わるとき、どんな困難が待っていたとしてもその選択に後悔のないように進み続ける…

 




修正して再投稿です
次回からA's原作スタートぐらいまでいけそう
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