○○を救う魔法。   作:黒歴史メーカー

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束の間

海鳴中央病院――深夜。

冷たい白の光が灯る集中治療室の前、守護騎士たちは静かに佇んでいた。

 

「……はやての様態、どうなんだ」

 

ヴィータの声は、いつになく低く沈んでいた。

 

「先生が言うには、上半身にも麻痺が進行しているって。今は人工呼吸器で心臓の活動をなんとか補助している状態よ」

 

シャマルが震える声で答える。

その目元は赤く腫れており、何度も涙を拭った跡が残っていた。

「……魔力が、不安定に暴走していたわ。まるで、彼女の体が“何か”に逆らってるみたいだった……」

 

「なにか…とは」

 

ザフィーラが、控えめに問う。

 

「原因はやっぱり闇の書よ。……はやてちゃんの身体を今も蝕んでいたの」

 

「……そんなの、ずっと前からわかってたことだろ」

 

ヴィータが歯を食いしばりながら言う。拳は硬く握られ、爪が掌に食い込んでいた。

「だから、はなてには内緒で…ずっと戦ってきたんだろ!あいつ、絶対、自分を犠牲にしようとするって……だから、全部隠して、こっそり蒐集して……!」

 

「それが間違っていたなんて、私は思わない」

 

シグナムが静かに口を開いた。

「…シグナム!あなた、体の傷は!?」

「我らは所詮プログラム…私のことはいい…」

 

「それより、主はやてにとっての“日常”を守るために、私たちは最善を尽くしてきた。だが――それでも、この結果だ」

 

「……っ」

 

ヴィータは何も言えず、ただ小さく肩を震わせた。

 

誰もが、同じ思いを抱えていた。

 

“彼女を救いたい”――それだけだった

沈黙。

 

そのとき――

 

「八神はやてちゃんのの意識、回復しました…」

 

看護師の一言に、全員の視線が弾かれるように扉へと向けられた。

 

「はやて……!」

 

ヴィータが最初に扉へ駆け出し、三人もそれに続く。

 

まだ細く浅い呼吸の中、ベッドの上でゆっくりと目を開けた少女――八神はやては、守護騎士たちの声を聞くと、微笑んだ。

 

「……みんな、おかえり……な。

なんや…随分と部屋真っ暗やんな…みんなどこおるん…?」

 

「…はやて…目が…!」

 

「それ以上言うな…ヴィータ。」

 

はやてのその微笑みは、優しく、そしてとても弱々しかった。

 

騎士たちは言葉を失った。

 

守りたいと願った命が、今にも壊れそうに揺れている。

 

それでも――その笑顔のために、彼女たちはまた、立ち上がらなければならなかった。

 

――あれから、一週間。

 

病室で目を覚ましたはやては、再び深い眠りに落ちていた。

 

守護騎士たちは、主を苦しませる闇の書を完成させ、現状を打破するため、彼女には何も告げず、無断で蒐集を再開していた。

 

夜の闇に紛れ、次元世界を移動しながら、彼らはひとり、またひとりと、己の身を削りながらもリンカーコアを収集し続ける。

 

「こんなこと……本当は、したくない。でも―はやてを救うには、もう、これしかないんだ」

 

ヴィータは、傷だらけの自らの腕を押さえながら、誰にも届かない声でつぶやいた。

 

その目には、覚悟が宿っていた。

 

その時ーシグナム、守護騎士の将から連絡が入る

 

ーー次の標的は敢えて、自分たちの拠点たる海鳴に滞在している高ランク魔導師ーー休暇を取り、フェイトと住んでいたリンディ・ハウラオン。

 

主を救うために、遂に今まで以上のリスクを取る選択が下ったーー

 

 

 

 

 

一方――アースラ船内。

 

「……守護騎士たちの転移反応や気配は断続的に出てるけど、追跡はぜんぜん追いつけてない。彼等は、まるで管理局の網をかいくぐって動いてるみたいだ…」

 

クロノが報告を重ねる中、ベットの上でユウトは無言で拳を握りしめていた。

 

「ま、なのは達のデバイス改修も完成したし…習熟訓練も、あと少しで仕上がるらしいし。今のアイツらなら、次に会った時、守護騎士達と本気でぶつかれるはずだ…俺も動けたら良かったんだが…」

 

「君はとにかく休め…その体でできることなど、あるまい。」

 

カートリッジを握り、魔力を込めながら、ユウトは空を見上げた。

その様子をみながら、クロノはつぶやく

 

「…さて、僕もそろそろ、動くとするか」

 

「クロノ、どこ行くんだ?」

 

「君と違って僕は働き詰め中なんだ。気にしないでくれ」

 

「……はあ、嫌味か?」

 

「まさか、ゆっくりと休んでくれって意味だよ」

 

「アリシア…ユウトのデバイスは?」

 

「あ、クロノ君……もうすぐ終わるよ…。よし換装、完了っと…ごめんね、ディジター……レイジングハートやバルディッシュの調整で後回しにしちゃってて…」

 

アリシアは工具を片付けながら、改修を終えたディジターをそっと台座に戻した。

 

「カートリッジシステム“アンブレイカブル”、プロトタイプパーツはこれで最終調整パーツに換装完了。ユウト専用仕様に再構築も済んだし、次の戦いでは“本気モード”で戦えるよ、ディジター!」

 

『感謝いたします、アリシア。これで、マスターの戦術幅がさらに拡がります』

 

ディジターの声も、わずかに前よりクリアで、力強い。

 

アリシアはその輝くボディを見つめながら、小さくつぶやく。

 

「良い腕だな、技術部によく足を運んでいることはあるな…」

 

「それでクロノくん、わざわざここに来て何か用?」

 

「ああ、君にはユウトが無茶しないように見張っていてほしくてな。もし怪我が治らないまま病室抜け出すようなら止めてくれる人を探しててな、…頼めるか?」

 

「あんなけがでできることないでしょ?ま、デバイスはわたしが持ってるし大丈夫だと思うよ!」

 

「そうか、まあよろしく頼む」

 

立ち去るクロノの背を見送りながら、アリシアはそっとつぶやく。

 

「もしユウトが抜けだそうとしたら誰にも止められないよ…だから。」

 

手に握った腕輪にアリシアは、そっと力を籠める

 

「――お願いね、ディジター。ユウトを……ちゃんと、守ってあげて」

 

『もちろんです』

 

 

 

 

立ち去ったクロノはその後、時空管理局艦アースラ・司令室で通信を取っていた。

 

静かに響いていた通信音の中、クロノは母親の顔を映すホログラムを見つめていた。

 

『……クロノ。あなたが気にしていた“魔導師連続転移”の波形だけど…やはり中心点は全てこの街から出ているわ』

 

「やはり……闇の書の主は、なのは達の街に潜んでいる可能性が高いですね。」

 

クロノの表情が険しさを増す。

そのときだった。

 

ズン――と空間が重たく揺れ、リンディの周囲に紫がかった魔力の膜が突如展開され、通信が遮断される。

 

「これは…結界!? 母さん!!」

通信越しのクロノの叫びを最後に、ホログラムが霧のように消える。

 

「海鳴市方面に結界現れました!管制、全チャンネル遮断……魔力障壁、外部との遮断を確認。これは――!」

 

「やられた…地球ではもう活動しないとばかり…直ぐになのは達を転送する準備を!」

 

 

 

結界を張ったのは緑と白の衣装をまとった女性――シャマル。

 

「……申し訳ありません、主の命を救うため――ご協力いただきます」

 

結界の内部では、騎士服に身を包んだシグナムが、剣を下げたままゆっくりと姿を現した。

 

リンディは爆風から立ち上がり、真正面からその視線を受け止める。

 

「……あなたが、来たのね。もうユウトくんにつけられた怪我はないのかしら、剣士さん?」

 

「……戦う意思がないなら、無駄な怪我はさせません」

 

「私にだって……守るべきものがある。覚悟はできてるわ」

 

リンディの視線は、穏やかで、それでいて強い。

 

「けれど、一つだけ、聞かせて」

 

「……?」

 

「あなたたちが誰かを助けようとしている気持ちは何となく伝わってました。でも、なぜこんな方法を?」

 

「……他に、手段がないからだ」

 

「そう……本当にそうだと思っているの?」

 

問いかけに、シグナムの足が止まる。

 

リンディは静かに続けた。

 

「11年前、私は“闇の書の暴走”で夫を失った。闇の書の完成は…ただひたすらに命を奪うのではないですか…?あの時、どれだけの命が無意味に奪われたか……あなたは知らないでしょう」

 

その言葉に、シグナムの目がわずかに揺れる。己に一対一で意志を見せた少年を思い出しながら…言葉を繋ぐ。

 

「我々も、罪は自覚している。だが………」

 

その時――

 

「なにやってんだよ、シグナム!」

 

結界の上部から声が響いた。

ヴィータが結界の淵に魔力で浮かび、睨みつけていた。

 

「今さら迷ってんじゃねえよ! お前の剣は、誰のためにあるんだ!」

 

「……!」

 

シグナムの瞳から、わずかに決意が戻る。

 

「……申し訳ありません。これも、主のため」

 

次の瞬間、シグナムが踏み込み、レヴァンティンが紫電を帯びる。

 

「……リンディ・ハラオウン、あなたの“リンカーコア”を、いただく!」

刹那――リンディが展開した防御障壁を、シグナムの一撃が貫いた。

 

「……っ!」

 

息を詰まらせたリンディの身体から、淡い光が引き抜かれる。

それは魔導師の中核、“リンカーコア”。

 

リンディの身体が崩れるように床へ倒れ、結界内の魔力が一気に鎮まった。

 

「……すまない」

 

シグナムはその場に立ち尽くした。

勝利してなお、剣を携えた姿が痛々しく見えるほどに、彼女の中にある“誇り”は、深く傷ついていた。

「シグナム!上空に転移反応!結界内に直接乗り込んでくるわ!」

 

 

――ズズンッ!!

 

頭上の空間が、突如として揺れた。

まばゆい転移光が閃光のように走り、紫の結界を切り裂くようにして、二つの影が空から降り立つ。

 

「……!」

 

ヴィータとシグナムが見上げた先、そこにいたのは――

 

「あいつら…この前の!!」

 

「……!」

 

光に身を包み、空中で並び立つ二人の少女。

 

その手には、見慣れた――しかし新たな姿をしたデバイスが握られていた。

 

「ごめんね、レイジングハート。まだ最終調整も終わってないのに習熟訓練の途中いきなり実戦なんて…」

 

『問題ありません。そのための私です』

 

なのはが優しく微笑む。その目には、迷いのない意志が宿っていた。

 

フェイトも同じように、手にした新型デバイスを見つめて言う。

 

「バルディッシュも……」

 

『No problem.』

 

その声に、バルディッシュが低く応える。

 

『新システムの初起動です――新たな名で、起動コールを』

 

静かな空気の中――

 

 

「……うん。レイジングハート・エクセリオン!」

 

「バルディッシュ・アサルト!」

 

二人が同時に、叫ぶ。

 

「「――セットアップ!!」」

 

魔力が炸裂する。

 

眩い光と雷が結界内を照らし、白と黒のバリアジャケットが具現化される。

 

光の翼が広がり、足元に魔法陣が展開される。

 

二人の少女は――“新たな姿”を携えて今、戦場に降り立った。

 

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