「はあっ――!」
魔力の翼を閃かせ、なのはが展開した魔力弾を次々と撃ち出す。
それを鉄槌で弾きながらも、ヴィータの動きは徐々に鈍りはじめていた。
「っ……ちょこまかと……!」
「もうやめて、ヴィータちゃん……っ!」
その声と同時に、なのはの手元でレイジングハートが紅く脈動する。
『Restrict Lock activated.』
魔法陣がヴィータの周囲に展開され、瞬間――手足を拘束する
「こっ……のぉっ!!」
ヴィータは叫びながら力任せに暴れるが、複数の封鎖が彼女の動きを止める。
『Divine Buster Extension.』
レイジングハートの音声と共に、なのはの前方に広がる巨大な砲撃陣。
カートリッジが2発排出され、その中心に、光の輝きが収束し始める。
なのはは構えを取りながら、力強く叫ぶーー
「シュート――!!」
放たれたのは、従来のディバインバスターとは比較にならないほどの出力。
その光は空間を揺らがせ、拘束されたヴィータを貫こうと真っ直ぐに迫る――!
――その瞬間。
「――っ!?」
砲撃が命中する寸前、闇の帳のような防壁がヴィータの前に展開される。
ゴォォォォォッ!!!
巨大な衝撃音と共に、砲撃は途中で打ち消された。
砲撃の爆光が消え、ゆらぐ煙の向こうから現れたのは――
銀の仮面をつけた仮面の男。
その腕の中には、赤黒く脈動する『闇の書』が抱えられていた。
「なっ……誰!?」
なのはが叫ぶ。
フェイトやシグナム、シャマルもそのイレギュラーに驚愕する。
仮面の男はなのはに目もくれず、拘束されたヴィータを眺める
「……こいつはまだ、役目を果たしていない」
低く抑えられた声。
だがその中には、冷たく研ぎ澄まされた意思があった。
「…お前、なんで闇の書を持ってんだ!はやては…はやてはどうした!?」
「あぁ…闇の書の主なら無事だ…ほら」
仮面の男は静かに手を上げ、乾いた音で指を鳴らした。
パチン――
次の瞬間、空間が歪む。
病院の屋上に不自然な転移が起こり、歪んだ光の中から、誰かの姿が現れる。
「っ……!」
フェイトが息を飲む。
なのはが、目を見開く。
そこに現れたのは――
両腕と足を拘束され、まるで十字に磔にされた状態の、八神はやてだった。
「はやてちゃん……っ!?」
苦しそうな顔をしている。
意識はあるのか、それすらもわからない。
『さぁ…闇の書を完成させよう。』
仮面の男は、誰の言葉にも反応せず、再び指を鳴らした。
パチン――
その瞬間、バチィィィィッ!!
「……ッあ、あああああああああああああああッッ!!」
空気が焼け付く音と共に、はやての身体に激しい電撃が走る。
その叫びが空に響き渡る。なのはも、フェイトも、思わずその場に立ちすくむ。
「やめてっ……! やめてよッ!!」
なのはが叫ぶも、男は止まらない。
三度目の指鳴らし。
パチン――
「やめろぉおおおおおッ!!」
ヴィータが絶叫しながら突撃しようとするが、男の周囲には防御結界が展開されており、誰も近づけない。
苦痛に顔を歪め、痙攣するはやて。
そのとき――
黒い魔導書――《闇の書》が、異音を発した。
ヴィィィン……ヴィィィィン……
コアが不安定に光り、魔力の奔流が渦を巻き始める。
【――主の危険を検知
防衛プログラム起動のため闇の書完成を最優先。致命的負荷検出。緊急システム起動】
淡々とした、しかし何処か人の声にも似た音声が空間に響く。
「あれは…ナハトヴァール!?まて、我らはまだ戦える…!」
「そうだ…思い出した…こいつが…こいつのせいではやては…!?」
黒い魔導書が開かれ、空中に無数の魔法陣が展開される。
その全てが、ただ一つの歪んだ命令――“主の守護”のために動き始める。
次の瞬間――
「う、うわぁぁっ……!?」
「こっ、これは……シグナム達を吸収してる……っ!?」
なのは達を含めたその場にいる全員が黒い魔法陣に捕えられ…そして
シグナム、シャマル、ヴィータの守護騎士たちの身体が、強制的にリンカーコアを吸い出される。
【闇の書完成のため…守護騎士システムを解除…コアモードで魔力を還元します】
「うそ……!?」
なのはの目の前で、守護騎士たちの身体が黒い魔力に包まれ、徐々に《闇の書》の中へと取り込まれていく。
「いや、やめてっ!! ヴィータちゃんっ!! シグナムさんっ!!」
必死の声も届かず、守護騎士たちの姿は次第に霧散し、黒い書の中へと溶け込んでいった。
しばらくして――
「……ぅ……」
磔にされていたはやてが、うっすらと目を開く。
焦点の合わない視界の中で、唯一はっきりと見えたもの。
それは、宙に浮かぶ《闇の書》。
そして、その表紙に取り込まれるように消えていく、守護騎士たちの姿だった。
「……や、め……なんで、みんなが……!」
呻くような声が、誰にも届かぬまま空へ溶けていく。
少女の悲鳴と涙を前に、ただ機械的にページを満たしていく魔導書――
『目が覚めたようだな…最後の仕上げだ…』
仮面の男ははやての拘束を解く
「返して…私の家族を返して!!」
『それは出来ない相談だ…闇の書をよく見ろ』
言われるがままに、闇の書の方向を見ると…見知らぬ格好をした…しかし知った顔の少年が自らの守護者…意識のないザフィーラを抱えて現れる
「…ユウトくん…?なんでここに…」
「はやて…いや、闇の書の主。俺は…両親を奪った闇の書を許さない…だから…お前には死んでもらう」
「…なんやて!?」
ユウトはそう言うと…指を鳴らし、モニターを映し出す…
そこには、ユウトの面影を感じさせる赤子とその両親が、シグナム達に、襲われ…殺害される姿が映る
「…嘘や…こんなの嘘や!」
「ずっと…この時を待っていた。11年前のあの日の復讐だ…!」
そう言うとユウトはザフィーラを闇の書に放り投げ、吸収させる。
「…ザフィーラ!!」
「これでお前は…孤独になった…さぁ、絶望しろ…!」
「……なんで……なんで、や……」
かすれた声が、誰にも届かない空に落ちていく。
八神はやては倒れ込み、喉を震わせていた。
視界は揺れ、涙で霞んでいた。
それでも、はっきりと見えた――あの光景。
黒き書がページをめくるたびに、守護騎士たちが取り込まれていく姿。
「ヴィータ……シグナム……シャマル……ザフィーラ……」
力なく垂れた指先が、もがくように微かに動いた。
「それに…ユウトくんの家族も…」
その叫びは、静寂を打ち破るかのように空間に響き――
次の瞬間。
《闇の書》の表面に刻まれた古代文字が赤黒く脈動し始めた。
【頁蒐集完了 管制ユニット 融合 開始】
「うあああああああああああああああああああッ!!」
頭を抱え、泣き叫ぶはやての全身を、光と闇の稲妻が駆け抜けた。
その身体が徐々に浮かび上がり、衣服を突き破るように黒きエネルギー装甲が形成されていく。
少女の姿は、主として、そして“核”として、書に取り込まれていく。
それは、“守られる存在”から、“闇の書を統べる存在”へと変貌する儀式。
空間の中心で光り輝くその姿は、美しく、そして――あまりに、悲しかった。
やがて、すべてが終わった。
光が静まり、重く響く息づかいと共に、黒き装甲に包まれた女性がそこに立っていた。
八神はやての意思を宿しながら、融合事故を引き起こし、もはやその肉体は――闇の書の意志そのものと化す。
「また…全てが終わってしまった。」
冷たい声が、夜天の空に告げた。
「はやてちゃん…!」「はやて!」
拘束を解いたフェイト達が駆け寄るが…闇の書の意志は攻撃で答える
「我は魔導書…我が力の全ては…」
『Diabolic Emission.』
「忌まわしき全てを討ち滅ぼすため!」
「…空間攻撃!」
フェイトの前に庇うようにたち、なのはが防御魔法を展開する
『Ecthelion Shield.』
「闇に…沈め」
闇の書が起動し、夜空が黒く染まり、風が吹き荒れる中。
遠く離れた高所のビルの屋上、その縁から、一人の少年と青年が立ち尽くすように下を見下ろしていた。
片方の姿は、ユウトに酷似している。
だが、手元には黒い仮面―
フードに身を包み、無言のまま、今まさに暴走の兆しを見せる“闇の書”と、そこに立ち向かう高町なのはとフェイト・テスタロッサの姿をじっと見つめていた。
「……始まるな。彼女たちには時間を稼いでもらわなければ……」
仮面の男が低く呟く。
「もうすぐよ。闇の書の終わりが」
だが。
その言葉の最後が、吐き出されることはなかった。
「動くな――そこまでだ」
ピリッと空気を裂くように、冷静で鋭い声が響く。
突如、仮面の2人の背後――闇に溶けていた空間から、蒼い魔法陣が炸裂する。
「……!? いつの間に――!」
振り向く暇も与えず、2人の足元に魔法陣が展開された。
動きを封じる鎖のような光が、魔法陣の中にいる2人の両腕と足に絡みつく。
「時空管理局執務官クロノ・ハラオウン。
管理局への敵対行為、および危険指定魔導書に関する危険行動の容疑で、君たちを拘束する」
背後からそのまま、鋭く魔力の刃が喉元に迫る。
振り向けば、そこにはバリアジャケットを纏った少年――クロノが、躊躇いのない目で二人を見据えていた。
「なぜ…こんなことをした、ロッテ…アリア」
「気づいてたんだ…クロ助」
クロノが2人に声をかけると、ユウトと仮面の男に変装していた使い魔…リーゼロッテとリーゼアリアが変身魔法を解く
「…話は後だ…ギルグレアム提督の元に連れていく」