巨大な魔力塔のようにそびえ立つ闇の書の中枢、その中心に立つ男――アダム・アンジェロ。
彼の背後でゆらめくのは、闇の書を核に再構成された膨大な魔力構造。
人間の姿でありながら、その存在は既に災厄に等しかった。
【――君たちだけで、私を止められると思うのかね?】
冷たい声音が空気を震わせた、その刹那――
「思ってないさ。だが、止めるしかないんだ」
鋭い光と共に現れたのは、黒いコートを翻す少年――クロノ・ハラオウン。
その背後には、今までの縁が集った仲間たちの姿があった。
「はやてを傷つけようとしたんだ……問答無用ッ!」
ヴィータが叫ぶと同時に、グラーフアイゼンが唸りを上げ、
カートリッジの音と共に紅の閃光がアダムへ向かって突っ込んだ。
「ぶっ飛べーーー!!」
その一撃を正面から迎えるように、アダムは片手を軽く上げた。
【位相障壁:展開】
ヴィータの鉄槌が炸裂した瞬間、空間が折れ曲がり、打撃が弾かれる。
「なにっ……!?」
【その程度か?】
続けて放たれたのは、シグナムの紫電一閃。
そして連続してレヴァンティンが鞭状に変形し、空中から襲いかかる。
だが、アダムは地面から闇の刃を生成し、それを受け止める。
「貴様のような外道が好き勝手するなッ!!」
はやての姿をした影を作り、はやてと戦わせる…その所業にシグナムの怒りが爆発していた。
だが――
【怒りの感情は理解するが、力が伴わなければ意味はない…それに君たちは先ほどで攻略済みだ】
アダムが指を鳴らすと、魔法陣が空間に展開される。
その刹那――
「甘いッ!」
空間の隙間を縫って現れたのは、狼の獣影――ザフィーラ。
地を蹴って跳躍し、アダムの背後へ肉薄。
「“砕牙撃”ッ!!」
【読めている】
アダムの背後から伸びた影が槍状に変化し、ザフィーラの一撃を正確に弾いた。
「くっ……!」
その攻防の間に、別方向から緑の光が駆け抜けた。
「捕捉したわ、魔力リンク解析完了――!」
シャマルの戒めが展開され、アダムの周囲に細密な封印陣が出現する。
「捕まえた――!」
空間が収縮し、アダムの動きを一瞬封じる――かに見えたその時。
【解析完了――封印パターン解除】
「まさか……!?」
シャマルの目の前で、封印陣が逆転し、アダムの手によって“解除”されてしまった。
【次は――こちらの番だ】
アダムの両手が広がり、天と地に同時に展開される魔法陣。
その間隙に割って入ったのは、ユーノ・スクライア。
ユーノの展開する多層シールドがアダムの魔法の干渉を中和し、瞬間的な隙を作り出す。
「今だ! アルフ!」
「まっかせろっ!!」
突進する獣のような姿、アルフの拳が燃えるような赤い光を放ちながら、アダムに襲いかかる!
「このっ、ユウトとフェイトにしたこと、タダじゃ済まさないからぁッ!!」
ドゴォォン!!
アルフの渾身の一撃が、アダムの胸元に命中した――ように見えた。
だが次の瞬間、アダムの体は黒い霧のように掻き消える。
「……幻影、か!?」
「本体は――上ッ!!」
クロノが叫び、空間を切り裂くように飛び上がる。
「エターナルコフィン、限定解除!!」
瞬間移動した上空にいるアダムに、すべてを凍らせる青白い閃光が直撃する―
氷の結晶に反射した光が戦場を照らし、空に煙が舞う。
……が、そこに現れたアダムは、氷像と化したと思えば、次の瞬間に内側から魔力を暴走させ氷を溶かし、微笑を浮かべていた。
【ほう……この私に、ここまで抗うとは…ならば、私も少し“本気”を出すとしようか】
彼の手元から、闇の書の魔力の頁が展開されていく。
しかしーーー開かれた闇の書から光がきらめき、光は人型と化して、アダムの体を貫く。
光が爆ぜ、風がうねる。
アダムの胸元を貫いた白の輝きが、周囲の闇を押し返すように拡がり、空間に煌めきを散らした。
【……これは……!?】
咄嗟に退いたアダムの胸には、わずかに焦げついたような魔力損傷の痕が残っていた。
彼の瞳に驚きの色が浮かぶのは、これが初めてだった。
そして、光が集束する中――その中心に立っていたのは、
白銀の髪を揺らし、紅の瞳に鋭い意志を灯した、ひとりの少年の姿。
トンファー型のデバイス――ディジターを翼のように両腕に纏い、
白き魔力をまとって空に立つその姿は、まるで“闇に対抗する光の天使”だった。
「……遅くなったな」
その少年――ユウトは、静かに呟いた。
クロノやヴィータ、守護騎士たちが驚きの目を向ける中、
フェイトは、ほとんど息を呑んでその姿を見つめていた。
「ユウト……? 本当に、ユウト……?」
「ちょっとオリジナル……どこいくのさあー!」
フェイトの声に、ユウトは振り返ることなく答えた。
「ああ。ちゃんと戻ってきた。……もう、誰も奪わせない」
その言葉には、過去の痛みも、今の覚悟も、未来への決意もすべて込められていた。
アダムはその姿を見つめながら、ふっと皮肉げに笑った。
【まさか、君が“内側”から戻ってくるとはね。それにその姿…ナハトが蒐集していた魔力を引き出している……なるほど、過去に蒐集した幼き体のリンカーコアと今の体のリンカーコアが共鳴して覚醒を引き起こしたか……興味深い、君はよき実験材料になれる!!】
「……もう、アンタのそのうざったい上から目線もうんざりだ」
ユウトが右手のディジターを軽く振るうと、その先端から白い光の刃が展開された。
対するアダムも、背後の闇から幾つもの刃を呼び出し、構えを取る。
【なら、見せてみるがいい。君という“可能性”を】
ディジターが音を立てた。
『……マスター。ともに参りましょう!!』
「……ああ。相棒。一緒に父さんの敵、とるぞ!!」
戦場に、新たなる光が走る。
すべてを終わらせるために――ユウトが、闇を裂く。
◇
――暗闇の中。
まるで、世界そのものが息を潜めているかのような、深い沈黙に包まれた空間。
足元には何の感触もなく、空気は重たく湿って、肌にまとわりつく。
霧のように白く、でも温もりすら感じさせるその霞が、まるで優しく抱くようにユウトを包んでいた。
だが――その温もりの裏に、ひどく寂しい冷たさがあった。
ユウトは、ぽつりとその中心に立ち尽くしていた。
見上げた先に空はなく、足元に地もない。音もなければ、風もない。
ただ、胸の奥で脈打つ焦りと、ゆっくりと満ちてくる空虚さだけが、確かに彼の「存在」を示していた。
「……ここは、どこだ……?」
ぽつりと零した声が、霧の海に吸い込まれていく――はずだった。
だが、次の瞬間。
濃密な霧が、まるで風が吹いたかのようにふわりと流れた。
まるで、それは誰かが「答えた」かのように。
そして――
「ひさしぶり……いや、はじめましてかな。高町、ユウト。」
不意に、耳を打ったのは、柔らかく、それでいて力のある声だった。
それはどこか懐かしく、まるで深い湖の底から響くような安定感と、優しさに満ちていた。
ユウトは反射的に振り返る。
そこに立っていたのは――
何度も夢で見た、大人の男。
スーツの襟を正し、背筋を真っすぐに伸ばした立ち姿。柔和な目元と、少年の面影を宿した口元。
「……とう、さん……?」
記憶の断片が、波のように押し寄せる。
その隣には、白銀の髪を結い上げ、気品と慈愛に満ちた微笑を浮かべる女性――
「やっと、会えましたね。健やかに成長したようで何よりです、ユウト」
「……なんで、母さんまで……」
声が震える。喉の奥がつまって、言葉が出ない。
彼女の声は、記憶には存在しなかったはずなのに、心の奥底に、確かに届いた。
「ここは……闇の書が作り出した夢の世界。あなたは、アダムに捕らえられ、その意識を取り込まれる過程でここにたどり着いたのです」
「どうして、夢の中の人がそんなことを……それに、俺は……二人のことは知ってても、声も性格も知らない。なのに、なんで……」
――こんなにも、温かいとわかるんだ。まるで、本物みたいだ。
マコトが静かに答えた。
「闇の書に吸収された俺たちの魂は、管制ユニット……リインフォースの消失によって、一時的に束縛を解かれた。そして、君の心がそれを呼んだ。これは幻じゃない。俺たちの魂は、確かにここにいる」
ユーベルが、そっとユウトの肩に手を添える。その手のひらは、優しくもどこか透けるように淡く光り、温かかった。
「ユウト、あなたは今、運命の岐路に立っています。……逃げては、だめよ」
マコトがうなずく。
「俺たちは、夜天の書に立ち向かい、命を落とした。でも、それで終わりじゃなかった。俺たちの力と意志は、君に受け継がれた。だから……君にしかできないことがある」
「アダム……彼を、止めてくれ。同じ悲劇を繰り返させるわけにはいかない」
「でも……!」
胸が締め付けられるように苦しい。
不安と、無力感が喉をふさぐ。
「俺には……っ! 力も、何もかも……足りないんだ!」
ユウトの叫びに、二人は静かに微笑む。
「違うわ、ユウト」
マコトが、凛とした声で言った。
「君やディジターが“イレギュラー”と呼んでいた、あの白い姿……それは偶然じゃない」
「……え?」
「かつて、幼い君から奪われたリンカーコア。それが夜天の書の中で育まれ、君と繋がり続けていた。そして今、願いに応じて目覚めたの」
ユーベルが続ける。
「あなたの中にある“守りたい”という強い想いが、その半身と共鳴したのです。あの姿は、あなた自身と夜天の書の記憶が、今ここに結びついた証」
「……俺が、夜天の書と……?」
「そう。願いなさい、ユウト。みんなを救う自分の姿を、強く――」
マコトがユウトの胸に手を置く。
その瞬間、白い魔力が彼の内側から溢れ出す。眩い光が彼を包み、その身を再び熱で満たしていく。
「この力は君のものだ。与えられたものじゃない。君が、自分で掴み取った力だ」
「だから、信じてほしい。君は、誰よりも強くて、優しい――俺たちの誇りだ」
ユウトの拳が、静かに震える。
その中心から、確かな熱と光が生まれる。
「……行くよ」
その声は、もう迷っていなかった。
「俺は、俺の手で、悲しみの連鎖を終わらせる。……もう、誰も泣かせないために!」
その姿に、マコトとユーベルは誇らしげに敬礼を送った。
「ユウト……最後に、ひとつだけ頼みがある」
「なに?」
「守護騎士たちを……恨まないでやってくれ。アダムの命令に逆らえず……俺たちを……」
言葉に詰まる父の姿に、ユウトは少しだけ微笑む。
「……? 恨んでなんかないよ。俺が言ったじゃん。悲しみは、ここで終わらせるって」
「だから、安心して。天国で待っててよ、父さん、母さん!」
マコトの目に、ほんの少し涙が滲んだように見えた。
「……お前は、もう立派になったんだな」
マコト・ソウマ二等陸佐。
ユーベル・ソウマ三等空尉。
二人の魔導師が、最後に声を合わせる。
「高町ユウトに命じます――この数世紀にわたる悲しみを……終わらせて!」
「拝命しました。嘱託魔導師――ユウト・タカマチ! 必ず、お二人の任務……成し遂げてみせます!」
ユウトが、まばゆい光の中で敬礼を返す。
両親は微笑んだまま、光の粒となって霧へと溶けていった。
「ありがとう……忘れないで。俺たちは、いつだって君を……愛してる」
その声を最後に、世界は光に包まれた。
ご都合こじつけでユウトくんの暴走形態の詳細判明回でした!
ここから決戦もクライマックスにいけそうなはず……!!